第21章 大家さん、ポーションで儲ける

第243話 幼女が最適って結論出すなよ!?

 覚醒の丸薬発売から1ヶ月と少しが経過した。


 覚醒の丸薬を求める冒険者の数は多く、放置しておくと立石孤児院に迷惑をかけるような事態が起こりかねない。


 そう考えて藍大は”楽園の守り人”総出で覚醒の丸薬の需要が落ち着くまでは販売し続けた。


 そのおかげで国内の大手クランに加えて中堅中小クランの上から8割までの冒険者が二次覚醒を遂げた。


 残りの2割と無所属の冒険者は200万円を支払える状態ではなかったため、購入資金が溜まるまで倹約に励んでいる。


 ちなみに、道場ダンジョンでは藍大がブラドに命じて覚醒の丸薬の入った宝箱を隠し部屋に仕掛させてある。


 金銭的に余裕のない無所属の冒険者にチャンスが全くないのもどうかと考えたからだ。


 ”ダンジョンマスター”に命令してダンジョンを改変するとはまさに魔王である。


 ちなみに、覚醒の丸薬を販売したことで稼いだお金はシャングリラの各部屋のリフォームに使われた。


 それによってシャングリラは外見こそ中庭付きの2階建てのアパートだが、内装は高級ホテル顔負けのものへと変わった。


 リフォームで特に喜んだのは奈美だったりする。


 奈美の場合、部屋の内装だけでなく薬士として使う各種器具も今回のリフォームで刷新したので薬品作りが楽しみで仕方なかった。


 それでも覚醒の丸薬の稼ぎは残っているのだから、”楽園の守り人”の資産は増える一方である。


 リフォームや資産の話とは別に、覚醒の丸薬の素材集めでリュカがLv80でライカンスロープからリカントムーノに進化した。


 元々銀灰色だった毛並みは銀色へと変わり、額には三日月マークが浮かび上がっている。


 獣人形態と人狼形態、獣形態の3形態に自由に変身できる<獣人切替ビーストマンチェンジ>の熟練度も上がり、今となってはその3形態に自在に変身している。


 リルと一緒に過ごす時は獣形態になり、リルと一緒にご飯を作る時は獣人形態、戦う時は人狼形態という風に使い分けている。


 ただし、リルがリュカを恋愛対象ではなく守るべき妹分としてしか見ていないから、リュカの恋はまだまだ実るまでに時間がかかりそうである。


 それはさておき、10月10日の金曜日に藍大達はブラドがシャングリラダンジョン地下9階を完成させたのでやって来た。


 かなり長いこと構想を練っていたため、藍大達がシャングリラダンジョンの攻略を進めるまでに2ヶ月以上間が空いていた。


 地下9階は煉獄闘技場とでも呼ぶべき場所だった。


 火山をくり抜いて建てられた闘技場とはブラドは内装にもDPを使っている模様だ。


 そんなブラドの分体がどういう訳か藍大パーティーに同行していた。


「ところで、なんでブラドも一緒に来てるんだよ?」


「吾輩もパーティーとして一緒に戦ってみたかったのだ」


「わかるですよ。独りは寂しいですからね」


「寂しいというか吾輩も見てるだけなのは退屈でな。主君達と一緒に戦ってみたくなった」


 メロは藍大達が”グリーンバレー”のクランハウスに行った時に留守番し、寂し過ぎて髪の毛の色が変わっていたことがあった。


 その経験からうんうんと首を縦に振ってブラドの気持ちがわかると言うポーズを取ったが、ブラドは寂しさよりも退屈の方が勝っていた。


 勿論寂しくないと言えば嘘になるのだが、寂しさ100%ではないと言っておく。


 わかった風な口を利いて微妙に外していたことが恥ずかしくなったらしく、メロが涙目になってプルプル震えていた。


「よしよし。メロは間違ってないぞ。ブラドは見栄を張ってるだけだからな」


「マスタ~」


 藍大がメロを慰めるように頭を撫でると、メロが我慢せずに藍大に抱き着く。


『ブラド、メロを泣かしちゃ駄目だよ』


「わ、吾輩が悪いのか?」


『あれを見て勘違いしたのはメロだからメロが悪いって言える?』


「・・・言えぬ。吾輩、もう少し気を遣えるように努力しよう」


『それが良いと思うよ』


 (リルがお兄ちゃんしてる)


 リルがブラドに優しく反省を促しているのを見て藍大はほっこりした。


 その時だった。


「「「・・・「「ウィアァァァァァ!」」」・・・」」


 闘技場の上空を覆う暗雲の中からいくつもの声が聞こえる。


 そして、次の瞬間には炎と氷と雷のブレスが暗雲の至る所から藍大達に向かって斉射された。


「主、私が防ぐ」


「頼んだ」


 サクラならば問題ないと思って任せると、藍大の期待に応えるようにサクラが深淵のレーザーを薙ぎ払って全てのブレスを打ち消した。


『ご主人、僕が反撃する!』


「やってくれ」


『そりゃっ!』


 掛け声は可愛いけれど、リルが空中に大きく跳躍してから用いたアビリティは特大サイズの<聖狼爪ホーリーネイル>だ。


 Lv100のリルの<聖狼爪ホーリーネイル>は暗雲を割り、その中に潜んでいた何体かのモンスターが切断された状態で落下して来た。


 その死体はサクラとリルがそれぞれ<透明多腕クリアアームズ>と<仙術ウィザードリィ>で回収し、落下の衝撃でグチャグチャになる事態は避けられた。


「頭が3つのワイバーン?」


 リルが仕留めたのは頭が3つあるダークグレーの翼竜だった。


 3つの頭には左から順番に炎と氷、雷のマークが額の部分に浮き出ていた。


 藍大がモンスター図鑑で調べてみると、トリニティワイバーンという鑑定結果が出た。


 その特徴として3つの属性のブレスを放てるというものがあり、個体によってどの属性のブレスを放てるか異なることが明らかになった。


 なお、トリニティワイバーンのレベルは85だった。


 能力値で言えばヘカトンケイル以上デメムート未満といったところである。


 リルが一撃で倒せた個体は暗雲の中にいるからと油断してクリティカルヒットした個体だった訳だ。


「むぅ。吾輩も戦いたくなってきた。主君、吾輩にも指示してくれ」


「しょうがないな。食べられる部位を残す前提で暴れて来い」


「心得た」


 見た目は可愛いデフォルメされたドラゴンの人形だが、その実態は”ダンジョンマスター”の分体だ。


 ブラドが<地獄炎ヘルフレア>を暗雲に放ってそれが着弾した直後、大爆発して暗雲に隠れていたトリニティワイバーン達が次々に墜落して来た。


 どれもウェルダンと呼べるぐらいには皮が焼けた状態であり、サクラとリルがそれらの死体を回収した時には香ばしいと言うよりも焼き過ぎた感が否めなかった。


「ふむ。火加減が存外難しいな」


 そう言ってのけるブラドの声の後から藍大の耳にシステムメッセージが届いた。


『ゲンがLv99になりました』


『ゴルゴンがLv97になりました』


『メロがLv93になりました』


『ブラドがLv81になりました』


『ブラドがLv82になりました』


『ゼルがLv72になりました』


『ゼルがLv73になりました』


『ゼルがLv74になりました』


『ゼルがLv75になりました』


『ゼルが進化条件を満たしました』


 (雑魚モブの群れを倒しただけでこんなに経験値が貰えるのかよ)


 怒涛のレベルアップに藍大の顔が引き攣った。


 ちゃっかりブラドまでレベルアップできるような雑魚モブを繰り出して来たあたり、ブラドは地下9階を創るのにかなり力を入れたようだ。


 それはそれとしてゼルが進化できるようになったので、トリニティワイバーンの死体の回収を素早く済ませた。


「ゼル、進化するか?」


『_|\○_オネガイシヤァァァァァス!!』


「必死だな。よろしい」


 藍大はゼルが顔文字で必死にお願いするのを見て、視界に映したモンスター図鑑にある進化可能の文字に触れた。


 その瞬間にゼルの体が光に包まれ、光の中でゼルのシルエットに変化が生じた。


 今までは背中から翼が生えた人型のちびキャラだったが、それが幼女コンビ並みのサイズの子供の姿へと変わった。


 加えて言うならば、羽衣のような服がどこからか現れた。


 光が収まると、紫色の髪を背中まで伸ばした色白の肌の幼女の姿となったゼルがいた。


『ゼルがネフィリムからフォールンに進化しました』


『ゼルのアビリティ:<収縮シュリンク>とアビリティ:<自動操縦オートパイロット>がアビリティ:<最適化デフラグ>に統合されました』


『おめでとうございます。ゼルが従魔として初めて性別なしから雌に変わりました』


『初回特典として逢魔藍大の収納リュックにプレゼントが配られました』


『ゼルがアビリティ:<瞑想メディテート>を会得しました』


『ゼルのデータが更新されました』


 藍大は聞き捨てならないメッセージがあったため、すぐにゼルのステータスを確かめた。



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名前:ゼル 種族:フォールン

性別:雌 Lv:75

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HP:2,600/2,600

MP:2,850/2,850

STR:0

VIT:2,600

DEX:2,600

AGI:2,600

INT:2,850

LUK:2,600

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称号:藍大の従魔

   ダンジョンの天敵

   融合モンスター

アビリティ:<上級回復ハイヒール><暗黒支配ダークネスイズマイン

      <全半減ディバインオール><魔力半球マジックドーム

      <最適化デフラグ><魔砲弾マジックシェル><瞑想メディテート

装備:堕天使の羽衣

備考:満足

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 (幼女が最適って結論出すなよ!?)


 藍大はゼルの性別が雌になっていること、そしてその外見を見て心の中でシャウトした。

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