第239話 ええじゃないか

 セーラはローラと視線を合わせると、ぺこりと頭を下げた。


 ローラはお辞儀されてコクリと頷く。


 マルオの従魔達も上下関係はしっかりしているらしい。


「ローラもセーラも仲良くしてくれよ?」


 マルオに声をかけられた2体はコクリと頷いた。


「後は闇属性の魔法アビリティを会得してるスケルトンメイジを見つけるだけだ」


「シャングリラダンジョンじゃあるまいしパパッと終わるはずです」


「あっ、フラグ立てた」


『ご主人、これってなかなか見つからないやつだよね?』


「マルオ・・・」


 マルオの迂闊な発言を聞き、サクラとリルがローラのテイムと同様に時間がかかるだろうと藍大の方を向いた。


 藍大も同意見だったのでマルオにジト目を向けた。


 成美はジト目の理由が気になって藍大に訊ねた。


「逢魔さん、どういうことでしょう?」


「ローラを見つける時に似たようなことがあったんだ。ルーインドがたくさん出現する階だったにもかかわらず、剣を持ったルーインドが出現するまでに時間がかかってな」


「物欲センサーですか」


「そういうこと。今日は早く終わってくれると良いんだが」


 状況を理解した成美とついでに晃がマルオにジト目を向けると、セーラがそこに割って入る。


 初仕事が主をジト目から守ることで良いのかと問い詰めたいところだが、それは時間の無駄と言えよう。


 気を取り直して藍大達は探索を再開した。


 その後すぐにスケルトンタンクとスケルトンメイジの混成集団が現れた。


 6体のスケルトンタンクが壁役として横一列に並び、その後ろに5体のスケルトンメイジが控えている。


「リル」


『任せて!』


 藍大に名前を呼ばれたリルは<仙術ウィザードリィ>で左端のスケルトンタンクが身動きを取れなくした。


 そのスケルトンタンクを右に勢いをつけてぶつけてドミノ倒しの要領でスケルトンタンク6体を片付けた。


 それに危機感を抱いたスケルトンメイジ達がそれぞれが扱える属性の魔法系アビリティを使い始めた。


 左から順番に土、闇、火、闇、土の属性だった。


「サクラ」


「は~い」


 サクラも名前を呼ばれただけで藍大の指示を察し、左から2番目と4番目以外のスケルトンメイジを深淵の弾丸で次々に撃ち抜いた。


「すげぇ」


「これが最前線の実力なのね」


「さすまお」


 マルオ達は藍大とサクラ、リルの連携に感動した。


 残すところはテイム候補の2体だけだ。


「マルオ、笛吹さん、晃、お前達だけでやってみろ」


「「「はい!」」」


 ここまでお膳立てしたのだから、後は自分達でテイムまでやるべきだと藍大は判断した。


 実際、敵には盾役タンクがいないから魔法系アビリティを撃たせる前に近づくか撃たれたそれを防いでから近づけば良い。


 セーラがいれば後衛組もテイムするために追い込むことに集中できる。


 成美のバフを受けたセーラがスケルトンメイジの攻撃を防ぎ、同じくバフを受けたローラと晃がテイムしやすくなるように誘導すればあっさりとマルオがテイムを成功させた。


 マルオは2体の名付けを終えて早速召喚した。


「【召喚サモン:ディーマ】【召喚サモン:イーマ】【フュー


 さあ融合という瞬間、藍大達の前に”掃除屋”のスケルトンダブルが現れた。


「スケルトンダブルか。こいつと戦わせんのは早いな。倒すぞ」


「待って下さい!」


「どうしたマルオ?」


「スケルトンダブルをテイムさせて下さい。ディーマとイーマと融合できるみたいです」


「・・・マジか。見落としてたわ」


 マルオに言われて藍大もモンスター図鑑でスケルトンダブルを調べてみると、確かにスケルトンメイジ2体と融合できることがわかった。


「予定変更。メロ、抑え込んで」


「はいです!」


 メロが<植物支配プラントイズマイン>でスケルトンダブルの足元からいくつもの太い蔓を生やして身動きを取れなくする。


「マルオ、テイムしてこい」


「アイアイサー!」


 ”掃除屋”をテイムできると知ってテンションが上がったらしく、マルオは軽い調子でスケルトンダブルに近づいてアンデッド図鑑をその頭に被せた。


「”掃除屋”のテイムってこんなに簡単にできるものじゃないわよね?」


「逢魔さん達だからできる。僕達だけじゃ無理」


「そうよね」


「うん」


 マルオと違って成美と晃は現実を受け止め、藍大が協力してくれたことに感謝した。


「【召喚サモン:ファーマ】」


 2人とは打って変わってご機嫌なマルオは早速ファーマと名付けたスケルトンダブルを召喚した。


「融合させるぞ。準備は良いか?」


 ディーマとイーマ、ファーマはマルオの問いかけに頷く。


「わかった。【融合フュージョン:ディーマ/イーマ/ファーマ】」


 マルオが呪文を唱えた瞬間、3体を光が包み込んだ。


 光の中でディーマとイーマ、ファーマのシルエットが重なり、ファーマがベースになる。


 それからファーマが両手にそれぞれ握っていた片手斧が杖へと変わり、襤褸布でできたローブを被ったような見た目になった。


 光が収まると、黒い襤褸布のローブを着て両手に頭蓋骨と脊髄のような見た目の杖を持った紫色の双頭のスケルトンの姿があった。


「名前はオルラにしよう」


「やっぱり雌なのね?」


「ええじゃないか」


「アンデッドハーレムだなんて今までよりもモテなくなるわよ?」


「なんですと!?」


 藍大はマルオと成美の言い合いをスルーしてモンスター図鑑を視界に映し出した。



-----------------------------------------

名前:オルラ 種族:ヴィオレマージ

性別:雌 Lv:53

-----------------------------------------

HP:840/840

MP:1,290/1,290

STR:0

VIT:620

DEX:800

AGI:710

INT:1,050(+50)

LUK:620

-----------------------------------------

称号:武臣の従魔

   融合モンスター

アビリティ:<多重思考マルチタスク><闇槍ダークランス><闇刃ダークエッジ

      <闇壁ダークウォール><闇付与ダークエンチャント

装備:フェードローブ

   スカルスタッフ×2

備考:畏敬

-----------------------------------------



 (畏敬? 誰に・・・ってそういうことか)


 藍大はオルラの備考欄に畏敬の文字が記されていた理由について考え、その対象がサクラだとすぐに理解できた。


 サクラは<深淵支配アビスイズマイン>という闇属性の魔法アビリティの中では最強のものを会得している。


 そんなサクラを前にすれば、オルラもペコペコせずにはいられなかったのだろう。


 オルラが自分を敬っていることに気づくと、サクラはドヤァと胸を張る。


 藍大はそれが可愛かったのでサクラの頭を撫でた。


 その頃にはマルオと成美の言い合いも終わっていた。


 藍大達は目的を達したので、マルオがローラとセーラ、オルラの召喚を解除したら道場ダンジョンから脱出した。


 ダンジョンから脱出した藍大達を見て、ダンジョン付近に集まっていた冒険者達がざわつき始めた。


「見ろよ、魔王様だ」


「連れの若い冒険者達は誰だ?」


「新しいクランメンバーとか?」


「いや、待て。クランメンバーは二つ名がなきゃ入れないはず。知り合いだろ」


 (”楽園の守り人”の加入条件が勝手に決められてる?)


 そんなことを思いつつ、藍大達は冒険者達の話のネタになるのを嫌がってアイテムショップ出張所へと向かった。


 道場ダンジョンがDMUの管理下に置かれることになった後、冒険者達がダンジョン素材の買い取りを希望するのを見越してDMUが道場ダンジョンの隣の家を買い取って建てた訳だ。


 元々住んでいた者は隣にダンジョンがあると冒険者達が集まって煩くなると考え、DMUとの立ち退き交渉はスムーズに進んでいったなんて裏話もある。


「意外と稼げたわね」


「6階のスケルトンだったからじゃない?」


「レベルが高いとスケルトンの素材でも普通より高いってことか」


 各種スケルトンの素材の相場を知っていたことから、成美は予想以上に買取価格が高くて驚いていた。


 晃はそれに対する自分の考えを口にして、マルオはそれに納得した。


 アイテムショップ出張所を出て他の冒険者達の姿が見えなくなるまで歩くと、藍大は成美達に向き直った。


「よし。今日はここまでだ。テコ入れして強くなったのは事実だが、それで油断して足元を掬われるなんてことはないようにな。特にマルオ」


「名指しですか!?」


「名指しだ。笛吹さんと晃は現実を見て行動できるけど、マルオはファーマをテイムした後浮かれただろ?」


「ぐぬぬ・・・。気をつけます」


 痛い所を突かれて反省できるならまだ改善の余地がある。


 痛い所を突かれても噛みつくだけで対策を講じないならば、冒険者人生はあっけなく終わる。


 全員に油断しないように念を押すと、藍大達は成美達と別れてシャングリラへと帰った。

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