第237話 俺が考えた最強のアンデッドが現実になるかもしれないんすね?

 翌日の日曜日の午後、ブラドを抜いた藍大パーティーは道場ダンジョンに来ていた。


 今日は成美と武臣マルオ、晃の後輩パーティーの育成の日である。


 今日までの間に成美達は4階まで無傷で攻略できるようになったが、5階のゴーレム達を相手に苦戦していた。


「ローラが進化してルーインドからカムバッカーになったんですがねぇ」


「純粋な前衛がローラだけじゃ厳しいか」


「そうなんです。あっ、ローラが悪いんじゃないぞ!? ローラはマジでよくやってくれてるからな!」


 藍大にマルオが現状を説明するとローラがしょんぼりした感じになったので、彼は慌ててローラをフォローする。


 ローラはLv50になってグール派生種のカムバッカーに進化した。


 骨しかないルーインドから肉のついたカムバッカーになったことで、ローラは全体的に能力値が伸びたものの飛び抜けて上等な武器を持っている訳ではないから武器の力でゴーレムを倒すことは難しい。


 藍大はマルオがローラを慰めている間にローラのステータスをモンスター図鑑で確認した。



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名前:ローラ 種族:カムバッカー

性別:雌 Lv:55

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HP:910/910

MP:860/860

STR:1,140(+50)

VIT:720(+30)

DEX:870

AGI:870

INT:0

LUK:610

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称号:武臣の従魔

   掃除屋殺し

   ノーガード

アビリティ:<怪力斬撃パワースラッシュ><貫通撃ピアースショット><飛乱刃ヘクティックエッジ

      <二刀流ツーウェイプレイヤー><吸血サックブラッド

装備:リザードレザーアーマー

   グラッジソード×2

備考:落胆

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 (マルオがテイムした当初と比べて強くなってるんだがなぁ)


 斬撃を放ったり刺突を飛ばしたりするだけでなく、2本の剣を扱ったり血を吸ってHPを回復させたりできるようになったがストーンゴーレム相手では分が悪い。


 グラッジソードは鉄製の剣だが斬り捨てた者の怨念によって切れ味を増す剣であり、普通の鉄剣と比べて良い武器ではある。


 だが、ミスリルやアダマンタイト等の特殊金属性の剣と比べれば切れ味は劣るため、ストーンゴーレムを斬りつければ切れ味がどんどん悪くなっていく。


 ローラが前衛としての役割を果たせなければ、頼りになるのは晃が持ち込む飛び道具のみとなる。


 晃もこれまでの探索で1枚のトランプに650gの物まで入れられるようになったから、ただの石ころ以外にも入れられるようになった。


 そうだとしても、ストーンゴーレムに対して有効な飛び道具は容易できるお金もないのでどうしようもない。


 成美のバフがあっても劇的にパワーアップできる訳でもないから、現状を打開することは厳しかった。


 (しょうがないからテコ入れするか)


 藍大はそのように結論付けて成美達に提案することにした。


「このまま5階に挑み続けろってのも酷な話だから、6階で戦力を補充するか?」


「逢魔さん、それってまさか!?」


 藍大の提案を聞いてマルオは期待に満ちた表情で振り返った。


「察しが良いなマルオ。その通り。6階は各種スケルトンが出て来る」


「キタコレ!」


「あの、ちょっと良いですか?」


 マルオが戦力を補充できると喜んでいる中、成美はちょっと待ったと手を挙げた。


「何かな?」


「私もマルオの従魔を増やすことは賛成です。しかし、ただのスケルトンをいくら増やしてもストーンゴーレムに勝つのは難しくありませんか?」


「成美! 数は力だぞ!」


「それはそうだけど、ストーンゴーレムにのしかかられたらまとめて砕けちゃうんじゃない?」


「それは・・・」


 成美の言いたいことを理解してマルオの勢いが弱まった。


 スケルトンが強くても重くて硬いストーンゴーレムの体を傷つけるのは容易ではなく、ボディプレスを受ければ一気に5,6体は潰されるとなるとスケルトンを何体テイムしても効果が薄いのではないかと思ったからである。


 そこに晃が助け舟を出す。


「スケルトンメイジをテイムすれば?」


「それだ! スケルトンメイジをたくさんテイムすれば良い!」


 晃の言葉にマルオの勢いが復活する。


 スケルトンメイジは個体によって火属性か土属性、闇属性の魔法系アビリティを会得している。


 物理攻撃でストーンゴーレムを傷つけるのは厳しくとも、魔法攻撃ならば傷つけられるのではないかと晃とマルオは期待した訳だ。


 しかし、そんなことは成美だって当然考える。


「それは私も考えたわ。でも、ダメージ覚悟でストーンゴーレムがスケルトンメイジにのしかかったらどう? VITって点じゃスケルトンだろうがスケルトンメイジだろうが等しく骨でしょ?」


「そっか」


「Oh・・・」


 晃とマルオは成美の反論に打ちのめされた。


 そんな2人と言った後に良案が浮かばずに黙り込む成美を見て藍大が口を開いた。


「これは1つの賭けになるし、マルオにはある時払いで少しずつ対価を払ってもらうことになるが、俺に現状を打破する考えがある」


「マジすか!?」


「さすまお!」


「そんな手段があるんですか!?」


 自分達の知恵ではここが限界と思っていたところに藍大が現状を打破できるアイディアがあると聞けば、3人のテンションが上がらないはずがない。


 藍大は収納リュックからケースに入った覚醒の丸薬を取り出した。


「マルオ、これ飲んでみるか? 覚醒の丸薬」


「「「覚醒の丸薬!?」」」


 名前は知っていても実物を知らなかったため、3人は現物を見て目を丸くした。


 この覚醒の丸薬は奈美から好きに使って良いと言われた物であり、藍大はマルオにある時払いで構わないから譲ることにしたのだ。


 藍大がこの案を考え付いたのは自分の二次覚醒を思い出したからである。


 藍大は二次覚醒した時、従魔を融合する力を手に入れた。


 それが死霊術士の職業技能ジョブスキルでも従魔士と同様の二次覚醒に至れるならば、マルオは強力なスケルトンを融合にてゲットできるかもしれない。


「俺は二次覚醒時に従魔同士を融合できるようになった。ゴルゴンとドライザー、ゼルは融合モンスターが進化した姿だ」


「私が史上初の融合モンスターよっ」


『((`・∀・´))ドヤヤヤャャャャ』


「俺が考えた最強のアンデッドが現実になるかもしれないんすね?」


「Exactly」


「ヒャア、たまんねえ!」


 夢広がる提案にマルオの発言がおかしくなった。


 それとは対照的に成美は額に汗を浮かべていた。


「お、逢魔さん、ある時払いとはいえ覚醒の丸薬ってお高いんじゃ・・・」


「茂に鑑定してもらった結果も考慮して、今頃シャングリラでは200万円で数量を限定して販売中だ」


「「200万!?」」


 成美と晃の反応がシンクロした。


 なお、マルオはすっかりテンションがハイになってしまって金額が耳に入っていない模様だ。


 藍大は2人が驚くのも想定内だったから落ち着けと手で制する。


「まあ待て。現金一括で払う訳じゃないし、後輩だから利子までつける気はない。ある時に少しずつ支払ってくれれば良い。流石にこの丸薬をタダで譲れないのは理解してくれ」


「それは勿論です! ただでさえこんなに良くして下さってるんですから・・・」


「成美、僕はこの話をありがたく受けるべきだと思う。まだ結果は確定してないけど、マルオが新たな力を身に着ければ僕や成美が強くなるよりもストーンゴーレムを倒せる可能性が高い」


「そうね。逢魔さん、絶対に払いますので覚醒の丸薬を下さい。お願いします」


「お願いします」


 成美と晃が頭を下げていると、ようやくマルオが落ち着きを取り戻した。


「成美も晃も何やってんんだ?」


「マルオも頭を下げなさい!」


いてえっ!?」


 マルオは成美の拳骨によって頭を下げさせられたので涙目になった。


 成美はマルオのために頭を下げているのだから、マルオが殴られるのは自業自得だろう。


「頭を上げてくれ。繰り返しになるけど無理に支払いを急がせるつもりはないから安心してくれ。さあ、マルオ。覚醒の丸薬を飲んでみろ」


「うっす! ありがとうございます!」


 マルオは覚醒の丸薬を藍大から受け取って一息で飲み込んだ。


 その直後、覚醒の丸薬はマルオの口の中で瞬時に溶けてなくなった。


 そして、彼の頭の中に新たにできるようになったことが浮かび上がった。


「俺は・・・スーパーマルオだ!!」


「主、やっぱりマルオってゴミ虫に似てる」


「否定できねえ」


 昨日の健太のボケと同じことを言うものだから、サクラの指摘に藍大は首を横に振ることができなかった。

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