第236話 大事なことだから2回言いました

 3日後の9月6日の土曜日の昼、”楽園の守り人”のメンバーは全員101号室に集合していた。


 奈美が持っている皿には7つの丸薬が乗っており、それを藍大達にお披露目した。


「ブラドさんの力と逢魔さんパーティーの協力のおかげで無事に覚醒の丸薬ができました!」


「おめでとう!」


「奈美ちゃんすごい!」


「少しは藍大達に追いつけるかな」


「これで私達も二次覚醒できるわね」


「ダンジョン探索が楽になるとええなぁ」


「そろそろ属性魔法とか欲しい頃合いだぜ」


 既に二次覚醒している藍大と舞は奈美を祝い、それ以外のメンバーは自分達も二次覚醒できると喜んだ。


「5つは二次覚醒してないメンバーが使うとして、奈美は残り2つはどうしたいんだ?」


「元々1回作る分だけの素材で7つできてしまっただけなので、2つ余らせるつもりじゃなかったんです。今後私達で販売するために1つは芹江さんにDMUで鑑定用に渡し、もう1つは逢魔さんにお渡しするので使い道はお任せするのはどうでしょう?」


「茂に鑑定してもらえば量産した時のお墨付きが貰えるな。もう1つについても了解」


「わかりました」


 覚醒の丸薬の素材はオークインの心臓の他にシージャイアントの体液とマッドクラウンの舌だった。


 シージャイアントは客船ダンジョンに現れ、マッドクラウンは”ブルースカイ”が縄張りとする大阪の新世界ダンジョンに現れた記録がある。


 しかし、どちらも一度しか目撃されていなかったので藍大達が現地に出向くのを止め、ブラドにシャングリラダンジョンの地下5階に雑魚モブとして出してもらった。


 ”ダンジョンマスター”をテイムした藍大にしかできない手法である。


 司達は1つずつ覚醒の丸薬を手に取ってそれを一息で飲み込んだ。


 その直後、覚醒の丸薬は司達の口の中で瞬時に溶けてなくなった。


 そして、彼等の頭の中に新たにできるようになったことが浮かび上がった。


「へぇ・・・。そんなことまでできるようになったんだね」


「フッフッフ。姉さんに勝つる」


「向付後狼さんに差をつけたんちゃうやろか」


「俺は・・・スーパー健太だ!!」


「エヘヘ。作れる薬品の種類がググっと増えました」


「よし、みんな二次覚醒したっぽいな。何ができるようになったか順番に教えてくれ」


 1人ボケに走ったのにスルーされた健太は藍大に待ったをかける。


「ちょいちょいちょいちょい! 藍大、俺のボケをスルーしないでくれよ!」


「・・・サクラ」


「笑えよゴミ虫」


「す、すみませんでした」


 健太が調子に乗るものだから、藍大はサクラに<透明多腕クリアアームズ>で健太の身動きを封じ込めてもらった。


 サクラは渋々健太のボケに合わせた発言をするも、<透明多腕クリアアームズ>による拘束はガッチガチで優しさなんてそこにはなかった。


 これには健太も謝るしかない。


 その後、気持ちをリセットして司達は順番に二次覚醒によって新たにできるようになったことを共有した。


 槍士の司はMPを消費して槍を使った乱舞を放てるようになった。


 拳闘士の麗奈はMPを消費して身体強化ができるようになった。


 弓士の未亜はMPで形成した矢を弓から飛ばせるようになった。


 魔術士の健太はMPを消費して火の球を飛ばせるようになった。


 薬士の奈美は調合の熟練度が大幅に上がって下級素材を処理して中級素材の代替品にできるようになった。


 この変化は間違いなく他に同じ職業技能ジョブスキルを持つ冒険者達に対するアドバンテージとなるだろう。


「じゃあみんなの二次覚醒を祝してバーベキューやるか」


「『BBQ!』」


「それは良い知らせだ」


「ウチらやのーて食いしん坊ズが喜ぶんかい」


 藍大のバーベキュー発言に真っ先に反応したのは舞とリル、ブラドだった。


 それには未亜も苦笑いしてやんわりとツッコんだ。


 バーベキューをやるとなれば、それぞれが準備に動き始めた。


 今日は立石孤児院の子供達も一緒に食事する日だったので、人数が大幅に増えても問題ないように準備に時間がかかるのだ。


 手分けをして準備を済ませた頃にはすっかり夕方になっており、裕太院長とスタッフが子供達を連れて孤児院からやって来た。


「バーベキューだー!」


「おにくー!」


「BBQ!」


 (今日はハンバーグって叫ぶ子はいないんだな)


 藍大はそんなことを思いつつ、裕太やスタッフ達にどこに座ってもらうか指示を出した。


 その直後に茂がシャングリラに到着した。


「よっ。来たぞ」


「あれ、千春さんは?」


「先に職人班の飲み会が決まってたらしい。こっちに来れないって血の涙を流してた」


「お、おう。また今度一緒に料理を作りに来てもらうとしよう」


「そうしてくれると助かる」


 珍しい食材を見られるという点で茂よりもシャングリラでの食事を楽しみにしているため、千春を気の毒に思う藍大だった。


「芹江さん、ちょっと良いですか?」


「薬師寺さん? あっ、例の件ですね」


「はい」


 茂を見つけた奈美は覚醒の丸薬を早いところ渡してしまおうと手招きした。


 茂は藍大から電話で覚醒の丸薬ができたと事前に知らされてテンションが上がっていたが、その状態で奈美に会えば最近慣れて来たと言ってもやはり怯えられてしまうと注意されて今は努めて冷静にしている。


 しばらくしてから覚醒の丸薬を受け取った茂が早歩きで藍大のいる場所へ戻って来た。


「マジで本物だった! マジで本物だった!」


「大事なことだから2回言いました」


「マジで本物だった!」


「3回言っちゃったよ」


 奈美の前で興奮を押し殺していた反動なのか、茂は藍大の肩をバンバンと叩く。


 藍大が茶化しても効果が薄いのはそれだけ興奮しているからだと言えよう。


「グ腐腐」


「茂! 落ち着け! 腐女子がこっちを見てるぞ!」


「とうとい!」


「しげ×らん?」


「おい腐女子そこに直れ!」


 藍大は未亜だけならば困った奴だと思うだけに留まったが、女児2名が悪影響を受けていたと知って未亜にキレた。


 ところが、未亜がやらかしたことを察してパンドラが<睡眠吐息スリープブレス>で未亜を強制的に眠らせた。


 続けて手加減して<悪夢空間ナイトメアスペース>を発動して未亜を悪夢に誘う。


「うぅ、トラペゾヘドロンはアカンて・・・」


「未亜がごめんなさい」


 魘される未亜を他所にパンドラがペコリと藍大に謝る。


 今日も今日とてパンドラは未亜の保護者らしい。


「パンドラは悪くないぞ。そこで魘されてる腐女子が悪いんだ」


 手のかかるパーティーメンバーの代わりに頭を下げるパンドラの頭を撫で、藍大はパンドラが苦労していることに苦笑した。


 ちなみに、未亜や健太がやらかしてパンドラにお仕置きされる光景は”楽園の守り人”内では珍しくないので誰も止めたりしない。


「みあねーちゃんがうめいてるー」


「あっち見ちゃ駄目だよ~」


 何にでも興味津々な子供がいたようだが、近くにいた舞が目隠しして未亜を見ないように誘導した。


 その後、全員が揃ったことでバーベキューが始まった。


「これがBBQ!」


「やきにくさいこう!」


「にっくにく~!」


 子供達は大変ご機嫌だった。


「奈美、覚醒の丸薬の完成おめでとう」


「ありがとう」


 司と奈美は仲良くひっそり食べていた。


「健太ぁ! 私の注いだ酒が飲めないっての!?」


「俺が飲まなきゃ誰が飲む!」


 麗奈は健太相手に絡み酒をしており、健太はそれにノリノリで応じていた。


「はっ、出遅れてもうた!」


「ちゃんとよそってあるよ」


「オカンありがとう!」


「オカンじゃない」


 パンドラは悪夢から目覚めた未亜のために肉と野菜をバランス良く取り分けていた。


 本当に保護者としか言いようがない。


「リル君とブラド、リュカちゃんもちゃんと食べてる~?」


『勿論!』


「無論だ!」


「食べてる!」


 食いしん坊ズにリュカが合流していた。


 リュカは少しでもリルと喋るチャンスがあれば食らいつくハンターだった。


「ゲンは左の皿、ゴルゴンは真ん中の皿、メロは右の皿だぞ」


「感謝」


「感謝するわっ」


「ありがとです」


「主、あ~ん」


「あ~ん」


 藍大がゲンと幼女コンビの肉を取り分けていると、サクラがそんな藍大にチャンスとばかりにあ~んを実行する。


「くっ、美味いのに糖度が高い! 千春さんがいないと辛いぞこれ!」


 千春がいれば対抗できるのだが、今日は1人で来ている茂にとっていとも容易く展開される激甘空間は目の毒のようだ。


 とはいえ、藍大も茂にわざわざ見せつけるような真似をするつもりはないから、真面目に情報交換を行っていた。


 余談だが、酔っぱらった麗奈と健太がその場に乱入してサクラの<透明多腕クリアアームズ>で取り押さえられ、パンドラに眠らされる一幕があった。


 楽しい宴席でも羽目を外してはいけないとだけ言っておこう。

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