第235話 ワタシオマエマルカジリ
オークインが瞬殺されて落ち込む大輝はさておき、リルが異変をいち早く察知した。
『ご主人、ここにモンスターが集まって来てる!』
「迎撃態勢!」
「こっちも迎撃態勢よ!」
藍大がサクラ達に迎撃準備を整えるように指示を出し、麗華もワンテンポ遅れて迎撃態勢を取った。
その後すぐにボムビーアーミーとボクサーベア、ウッドサーペントがこの場に集まって来た。
「行くわよ!」
「うぃっす!」
藍大達の前方では麗華と楽が正面からボムビーアーミーを迎え撃ち、その2人を援護するように大輝と結衣が援護し始めた。
藍大は自分達が大輝達の視界の外に出た瞬間を逃さず、サクラとリルを壁にしてオークインの死体を速やかに収納リュックに回収した。
収納リュックが見つかるリスクを負ってでもオークインの死体を回収したい理由があったので、オークインの死体がモンスターを引き寄せる匂いを放つ特徴は藍大達にとって良い方向に働いた。
その理由とは、オークインの心臓が覚醒の丸薬の素材だということだ。
現在、藍大達が把握しているだけで二次覚醒、三次覚醒を済ませているのは藍大と舞だけだ。
しかし、オークインの心臓とその他の素材があれば覚醒の丸薬が作れるのならば、奈美にそれを預けて研究してもらうことで”楽園の守り人”全員が二次覚醒できるかもしれない。
これは是非とも回収したいところだろう。
藍大がオークインの死体を回収している間に、ボクサーベアとウッドサーペントは幼女コンビが瞬殺した。
ゼルは先輩達に一瞬で獲物を狩られて目を丸くするしかなかった。
ボムビーアーミーの方は大輝が投げた爆弾で誘爆して大勢を決した。
残党は麗華と楽、結衣がテキパキと倒して戦闘は終わった。
「リル君は本当に優秀ね」
『えっへん』
麗華がリルを褒めていると、大輝はオークインの死体が消えていることに気づいて藍大に訊ねた。
「あれ? オークインの死体はどうしたんですか?」
(さっきの戦闘で忘れてくれれば良かったのに)
藍大はそう思ったが一部嘘を交えて話すことにした。
「従魔のアビリティで保管しました」
「どこに?」
「それはお教えできません」
「・・・そうですね。なんでもかんでも手の内は明かせないのはお互い様です。倒したのは逢魔さんですから所有権も当然そちらのものです」
「ご理解いただき助かります」
「いえいえ」
大輝は根掘り葉掘り訊かなかった。
今回の太宰府ダンジョン攻略には藍大達の協力が必要不可欠だからだ。
自分の好奇心で藍大達との関係を悪化させる訳にはいかないと判断し、クランマスターの視点ですぐに身を引いた。
ボクサーベアとウッドサーペント、ボムビーアーミーの死体については、倒した者がその死体の所有権を得ることで話がまとまった。
倒したモンスターの死体を全て二等分するのは手間がかかるし、オークインと違って5階では珍しくないからである。
その後、藍大達も大輝達も死体を回収できる範囲で済ませてから先へと進んだ。
それから5分とかかることなく事態は動いた。
森の中にできた天然の闘技場とも呼べる場所に到着すると、樹上から大輝を睨む者がいた。
『ご主人、あの樹の枝に腕が翼のモンスターがいるよ』
「ハーピーか」
「逢魔さん、気をつけて! あのハーピーが”ダンジョンマスター”よ!」
麗華はリルと藍大の会話を聞いて藍大に注意を促した。
藍大はその注意に頷いてモンスター図鑑でハーピーのステータスを確認し始めた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:ハーピー
性別:雌 Lv:80
-----------------------------------------
HP:1,000/1,000
MP:1,500/1,500
STR:1,000
VIT:1,000
DEX:1,000
AGI:2,500
INT:1,000
LUK:700
-----------------------------------------
称号:ダンジョンマスター(太宰府)
アビリティ:<
<
<
装備:なし
備考:空腹
-----------------------------------------
(ハーピーはAGI特化なのか)
全能力値を見た時、AGIの数値だけ突き抜けているのを見て藍大はそのように判断した。
ハーピーはバレてしまっては仕方がないと樹上から大輝ににっこりと笑いかけた。
「ワタシオマエマルカジリ」
「私の大輝に手は出させないわ」
(あれ、なんだか見覚えがある・・・)
ハーピーに狙われた大輝を庇うように麗華が間に割って入るのを見て、藍大はそれがどこかで見たような光景だと思った。
いや、どこかなんて濁す必要はない。
それは自分が女型モンスターに狙われた時の舞やサクラの対応にそっくりだったのだ。
藍大も大輝も貧弱枠として狙われやすいのは共通している。
「やっさんモテモテっすねー」
「言語を話す”ダンジョンマスター”は研究所で研究したいけど、流石の僕だって噛まれるのは嫌だよ」
「あれぐらいの身長ほしい」
「・・・背が高くなる薬の作り方はまだわからないんだ。気長に待ってて」
「3人共気を引き締めなさい。引っ叩くわよ?」
「「「Yes Ma'am!」」」
麗華が額に血管を浮かべて言えば、大輝達は姿勢を正して返事をする。
おふざけはここまでにして大輝と楽、結衣が真剣な表情になった。
「フットベ!」
ハーピーは樹上から大きく跳躍すると、大輝達に向かって<
「私に任せて」
結衣がエネルギー壁を展開して竜巻に乗った怒涛の羽根の攻撃を防ぐ。
さあ反撃だと思った瞬間にはハーピーの姿は元の場所にはない。
「このパターンはもう慣れたっすよ」
楽が大輝の背後に素早く移動し、<
大輝達はこれまでにハーピーと何度も戦って戦闘パターンをしっかり把握できているから、楽は今のようにハーピーの反撃に対処して迎撃できた訳だ。
ハーピーが楽の攻撃を躱した先に大輝が爆弾を投げ込む。
しかし、ハーピーは持ち前の素早さを活かして大輝の反撃も避けた。
<
十分躱すことができるのにわざわざMPを消費して<
樹上に戻ったハーピーは今更になってこの場に藍大達がいることに気づいた。
今日に至るまでの何度かの戦闘で大輝が一番美味しそうと思っていたが、藍大を見てその考えを訂正した。
「コッチノホウガウマソウ」
その瞬間、サクラが指先から放った深淵の細いレーザーがハーピーの頬を掠る。
「次はないわ」
「ピギャアァァァァァ!?」
掠っただけでHPの半分以上を持っていかれたため、ハーピーはその痛みに喚いた。
無論、頬を掠る程度に留めたのはサクラの配慮である。
太宰府ダンジョンの攻略は”グリーンバレー”がやるべきなので、藍大が”ダンジョンマスター”戦は大輝達に助けを求められるか自衛以外では手を出さないと前もって決めていた。
それゆえ、サクラはハーピーを倒さずに頬を掠らせる攻撃をした。
『スッスゴィ...(゚Д゚ノ)ノ』
ゼルはサクラの飛び抜けた実力に感動している。
ハーピーは頬の痛みから実力差をはっきりと理解し、これ以上藍大達を敵に回してはいけないと判断して大輝達との戦いに集中し直した。
「狙って」
それだけ言って結衣がエネルギー弾を乱射してハーピーを誘導する。
「キャハハ」
ハーピーは誰がそんな鈍い攻撃なんて当たるかと嘲笑いながら樹々の合間を飛ぶ。
「加勢するっす」
そこに楽も斬撃を飛ばす形で加わり、ハーピーの躱せる範囲が狭まった。
「僕もとっておきを出そう」
大輝はキュポンという音を立ててフラスコの栓を抜く。
「ウマソウ・・・」
そのフラスコから漂う匂いに誘われたらしく、ハーピーの回避行動が単調に変わりながら大輝との距離を狭めていく。
「貰ったぁ!」
ハーピーと大輝の距離が狭まって射程圏内に入った瞬間、絶好の機会を狙ってじっと静かに構えていた麗華の拳がハーピーの胴体にクリティカルヒットした。
レベルの割にVITは大して高くなく、サクラの攻撃を受けて弱っていたハーピーは仰向けに倒れた。
『ゼルがLv71になりました』
サクラが戦闘に関与した結果、ハーピーを倒した際に発生した経験値が藍大達にも分配されたらしい。
ゼルのレベルアップがシステムメッセージで告げられたことにより、ハーピーが力尽きたことが確定した。
「吾輩も掌握完了したぞ」
「よし。俺達の仕事も無事に済んだな」
「うむ。太宰府ダンジョンも道場ダンジョンと同じく崩壊せずスタンピードも起きぬぞ」
「逢魔さん、ありがとうございました」
「結果的に倒すことにも力を借りちゃったわね」
「自衛とはいえダメージの大半は稼ぎましたからね」
「その点も含めて報酬は払うわ。そうよね、大輝?」
「勿論だとも。では、一旦クランハウスに行きましょうか」
その後、藍大達は”グリーンバレー”のクランハウスで報酬を受領してからシャングリラへと帰還した。
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