第20章 大家さん、冒険者を次のステージに導く

第231話 備考欄ってそんなことできんの!?

 第二次スタンピードから1ヶ月と少しが経過した。


 この間に藍大は2つのイベントをこなしていた。


 1つ目はDMU主催のパーティーだ。


 招待されたのは第一次スタンピードのメンバーに加え、”楽園の守り人”の未亜パーティーである。


 三原色クランは縄張りとしているダンジョンの最前線で手に入れた素材を使って戦力を強化していたから、第一次スタンピードよりも第二次スタンピードの方が終わるまでにかかる時間は短く済んだ。


 その一方、”楽園の守り人”は少数精鋭で秋田県と石川県の2県を救っただけでなく、大罪を冠する称号を持つ”災厄”も倒したため、完全に三原色クランよりも扱いが上だった。


 これには三原色クランのクランマスター3人も納得している。


 クラン総出で1ヶ所のスタンピードを終わらせるのがやっとだった自分達と比べ、1パーティーだけで拠点から遠い場所まで移動して被害を最小限に抑えたのだから否定しようがなかったのだ。


 自分のクランでそんなことができるかと問われれば、3人ともNOとしか答えられらない。


 それゆえ、”楽園の守り人”は日本一のクランだと暗黙の了解が得られた。


 勿論、資金面では三原色クランそれぞれの方が”楽園の守り人”よりも上だが、資金があっても実力が足りないのだから資金面は考慮されていない。


 2つ目は立石孤児院の移転である。


 秋田にあった立石孤児院はシャングリラの隣に移転した。


 新しい立石孤児院は土曜日のシャングリラダンジョン地下4階の”掃除屋”であるキメライトキーパーの素材を使って建設された。


 そのおまけにシャングリラを囲う壁もその石材で立て直された。


 シャングリラの隣にあるだけでなく、建物自体もキメライトキーパーの素材を使われれば安全面では日本トップレベルだと言えよう。


 立石孤児院がシャングリラの隣にできてからは、週に1回は”楽園の守り人”と合同で食事を取るようになった。


 週に1回と決めたのは子供達がいつもシャングリラ産の食材を食べられるとは思わせないためだ。


 時には我慢することも大切であるとは裕太院長の判断である。


 それはさておき、9月1日月曜日の朝、藍大パーティーは客船ダンジョン12階に来ていた。


 今日は”レッドスター”の赤星兄妹からの依頼でダゴンとの戦いに同行している。


 舞は妊娠しているからシャングリラで奈美の手伝いをしており、舞の代わりにゼルがパーティーに加わった。


 ゼルは未亜パーティーと司パーティーにヘルプで入って経験を積み、今はLv70まで成長していた。


 その過程でゼルは先輩従魔達に指導してもらい、アビリティもネフィリムに進化した時からかなり変わった。


 <中級回復ミドルヒール>は<上級回復ハイヒール>へ上書きされた。


 <暗黒砲弾ダークネスシェル>と<暗黒刃ダークネスエッジ>は<暗黒支配ダークネスイズマイン>に統合され、<魔砲弾マジックシェル>と<自動操縦オートパイロット>を会得した。


 <暗黒ダークネス○○>というアビリティが<深淵アビス○○>にならずに<暗黒支配ダークネスイズマイン>になったのはゼルが先輩従魔達の教えを詰め込み過ぎたことが原因だった。


 モンスターは使える属性が限られており、ゼルがゲンの要素をカバーしようとした結果がこれだ。


 器用貧乏と呼ぶには上等なアビリティ構成だが、あと一歩足りない感じは否めない。


 もっとも、ゼルは今Lv70なので伸びしろはまだ残っているのだが。


「逢魔さん、これから”ダンジョンマスター”の部屋に入りますがよろしいですか?」


「こちらは問題ないです。誠也さん達がダゴンを倒したらブラドが客船ダンジョンを乗っ取る手はずで良いですね?」


「ええ。お願いします」


「ブラド、頼んだぞ」


「任されよう」


 1つだけ訂正しよう。


 今日は藍大のパーティーにブラドの分体が加入している。


 ”レッドスター”は客船ダンジョンの存続を望んでいるが、藍大がダゴンのテイムは丁重にお断りしたからだ。


 藍大もクトゥルフ神話に登場する存在をテイムする展開は避けたかった。


 そうなれば、誰かを犠牲にせずに客船ダンジョンの存続させるためにブラドの力が必要になる。


 ブラドが客船ダンジョンを乗っ取るにあたり、分体でも良いからその場にいた方が乗っ取るのが楽らしい。


 ブラドの分体はぬいぐるみのような見た目をしており、サイズも藍大が抱えられる程度だ。


 その見た目が舞の琴線に触れたらしく、シャングリラでは気づくと舞に抱き締められている姿が度々目撃される。


 話は戻って覚悟を決めた誠也達がダゴンの待ち受ける部屋の扉を開け、その中に侵入する。


 藍大達パーティーもその後ろからついていくと、部屋の中には深海を彷彿とさせる体表の3m超えの半魚人が待ち構えていた。


 (ああ! 窓に! 窓に! とか言ってないで鑑定しよう)


 藍大はやっておくべきボケを心の中に抑え込んでモンスター図鑑でダゴンを鑑定した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ダゴン

性別:雄 Lv:80

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:2,000/2,000

STR:0

VIT:1,400

DEX:1,000

AGI:1,000

INT:1,700

LUK:1,000

-----------------------------------------

称号:ダンジョンマスター(客船)

   旧支配者の従者

アビリティ:<水弾乱射ウォーターガトリング><水線ウォータージェット><重雨ヘビーレイン

      <螺旋水鞭スパイラルウィップ><水牢ウォータージェイル

      <物理耐性レジストフィジカル><異形グロテスク

装備:なし

備考:貴様は見てはいけないものを見た

-----------------------------------------



 (備考欄ってそんなことできんの!?)


 備考欄をいじってメッセージを送るモンスターなんて今までにいなかったから、藍大は冷や汗をかいていた。


「主、大丈夫? 酷い汗だよ?」


「すまん。ありがとう」


 サクラが<浄化クリーン>をかけて藍大をスッキリさせると、藍大がサクラに礼を言った。


 レヴィアローブに<全半減ディバインオール>と同様の効果が付与されていたこともあり、藍大はダゴンのステータスを調べても発狂しなかった。


 もしもレヴィアローブがなかったら、藍大も発狂していたに違いない。


「念には念を入れるべきねっ」


 ゴルゴンは藍大に<超級治癒エクストラキュア>をかけた。


 ゴルゴンのおかげで藍大は我慢すればなんとかなるぐらいの悪寒を感じなくなった。


「ありがとな、ゴルゴン」


「マ、マスターが無事じゃないと困るんだからねっ」


 藍大に頭を撫でられてゴルゴンは照れながら応じた。


 その一方で”レッドスター”の1番隊はダゴンとの戦闘を始めていた。


「おら! こっち見ろ!」


 盾士が2枚の盾同士を叩いてダゴンを挑発した。


 ダゴンが豪に視線を向けたところで、死角に移動していた真奈が矢を3連続で放つ。


 矢が刺さった瞬間、ダゴンの体に電流が走った。


「ギョォォォ!?」


「3ヒット」


 真奈はリルをモフろうとする駄モフラーの時とは違い、クールに決める仕事人のようだった。


 真奈の矢の鏃には薬士が作った薬が塗られており、命中すると同時に電流が走るように細工してある。


 それを3連続で当てられれば、ダゴンもそのショックで怯んでしまった。


「でかした!」


 リベンジに燃える誠也がダゴンと距離を詰めてその右膝に槍を突き刺す。


 誠也の槍はアダマンタイト製であり、ダゴンの肌に弾かれることなく突き刺さった。


 このアダマンタイトはシャングリラのダマエッグの殻を素材としている。


 ついでに言えば、真奈の矢や豪の盾もこのアダマンタイトでできている。


 今日のために金に糸目を付けず、”楽園の守り人”がDMUに売った素材を買って準備したのだ。


「ギョアァァァァァ!」


「妨害する!」


 痛みに叫んだダゴンの反撃を妨害するべく、華が試験管を4本ダゴンにめがけて投げる。


 誠也は前回の過ちを活かしてヒット&アウェイ戦法に磨きをかけ、華が試験管を投げた時には既にダゴンと距離を取っていた。


 ダゴンは<水弾乱射ウォーターガトリング>で4本の試験管を撃ち落とし、それでは足りぬとそのままヘイトを最も稼いだ豪に水の弾丸をひたすら飛ばす。


「ぐっ、重い」


 豪は2枚の盾でその攻撃を防ぐ。


 そうしている間に華が投げた試験管の効果がダゴンに出て動きが止まった。


 割られた試験管が地面に落ちてその中の液体が気化したが、その気化した液体をダゴンが吸い込んでしまったことで効果が発揮されたのだ。


「ギョギョォォォォォッ♡」


 ダゴンは目にハートマークを浮かべて<水牢ウォータージェイル>を豪に向けて発動した。


「危ねっ!?」


 豪はそれを大きく左に飛んで回避した。


「喰らいなさい」


 豪を狙った隙に真奈が矢を放ち、それがダゴンの後頭部に刺さってから電流を発した。


「ギャギャギャギャギャァァァァァ!」


 クリーンヒットしたらしく、ダゴンは今日一番の声量で喚いた。


 そして、キツい一撃をくれた真奈を見てダゴンの目のハートマークが一際大きくなった。


「ギョギョ」


 渋い声で短く鳴くと、ダゴンは真奈だけを集中して狙うようになった。


「あー、真奈がタイプみたいね」


「ダゴンに惚れられるとは流石だな」


「呑気にコメントしてないで攻撃しなさい馬鹿兄妹!」


 華と豪が顔を引き攣らせてそんなことを言っていると、ダゴンから次々に繰り出される攻撃を躱しながら真奈がキレた。


 そんな真奈を見て藍大はリルに話しかけた。


「リル、真奈さんすごくね? 当たる気配がしないんだが」


『あの人は先読みがすごい。僕も読まれないように気をつけないと』


 Lv100のリルすら警戒させるあたり、真奈はやはり只者ではなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る