第228話 お前美味そうだな

 時は藍大が未亜パーティーと別れて秋田県に向かった所まで遡る。


 健太が遥のために石川県に行きたかったのと同様に、舞も秋田県に行きたいと思っていた。


 何故なら、秋田県には舞が育った立石孤児院があるからだ。


 父親代わりだった院長立石裕太と孤児達が危険な目に遭っていると知れば、舞の心中はとても穏やかではいられなかった。


 舞の家族ならば藍大やサクラ達にとっても家族だから、藍大達はリルの背に乗ってすぐに秋田県までやって来た。


 秋田県に着いた藍大達が真っ先に向かったのは立石孤児院である。


 立石孤児院は地下にシェルターがあることを知っていたため、舞の案内で藍大達は立石孤児院の地下に向かった。


 重厚な扉の前まで辿り着くと、舞はその扉を壊さないように加減してノックする。


「父さん、私よ! 舞よ! 無事!?」


 舞の問いかけから少し時間を置いて扉が開き、その中から裕太が現れた。


 裕太の奥には孤児院で働くスタッフと孤児達も避難していた。


「落ち着きなさい。僕達は無事だ。こういう時に備えて避難の準備はしてきたからね」


「良かった~」


 舞がホッとしたのを見てその頭を撫でると、裕太は藍大の方を向いた。


「逢魔さん、わざわざ僕達の安否を確認しに来てくれてありがとうございます」


「いえいえ。舞が悲しむ顔は見たくありませんでしたので。こちらの状況はどうですか?」


「幸い、この付近はまだモンスターがほとんど現れてないと聞いてます。しかし、それも時間の問題でしょう」


「わかりました。ここにモンスター除けをしつつ、”災厄”を潰しに行ってきます」


「ありがとうございます。僕が言える立場ではありませんが、くれぐれも気をつけて下さい」


「勿論です」


 藍大達が地上に行こうとすると、シェルターの中にいた子供達が中から藍大達に駆け寄る。


「おにいちゃんいっちゃうの?」


「モフモフも?」


「ハンバーグ!」


 (まだハンバーグショック抜けてない子がいる!?)


 ハンバーグと叫んだ子には驚いたが、藍大はその驚きを顔に出さないように子供達の頭を順番に撫でた。


「大丈夫。ササッと倒してくるから心配しないで。倒して来たらまたご飯作ってあげるからね」


「「「・・・「「うん!」」・・・」」」


「リル君、こうしちゃいられないよ!」


『そだね! 頑張ろう!』


 ここでも藍大の食事パワーは発揮された。


 子供達だけではなく食いしん坊ズにまで影響が出ているのはご愛敬である。


 地上に出たら舞が光のドームを孤児院に施し、藍大達はリルに乗ってモンスターの気配がする方へと移動した。


 少し移動したところで藍大達を狙って蜻蛉と百足、ダンゴムシに似たモンスターの大群が向かって来た。


「虫即斬!」


 サクラは少しでも早く息の根を止めたかったらしく、<深淵支配アビスイズマイン>で創った深淵の刃で現れたそれらを瞬殺した。


「ドライドラゴンフライにキラーセンチピード、メタルピルバグ。レベルは30~40か」


「昆虫型モンスターのダンジョンがスタンピードとか嫌だ~」


「秋田の冒険者は精進すべき。真っ先に潰すべきダンジョンを見つけられないなんて何してたんだか」


「燃やしちゃえば良いのよっ」


「虫はしぶといですからちゃんと息の根を止めるですよ」


 藍大が戦力分析をしている間、女性陣は昆虫型モンスターがメインのダンジョンでスタンピードが起きたと察して機嫌が悪くなっていた。


 そんなこと知る由もないと言わんばかりに今度は蜘蛛と蟷螂、甲虫に似たモンスターの大群がやって来る。


「燃え尽きれば良いわっ」


 今度はゴルゴンが<火炎支配フレイムイズマイン>で元の姿になった自分を炎で創り出し、それに現れたモンスター達を丸呑みさせて焼き殺していった。


「ヴェノムタランチュラとマーダーマンティスにランスビートル。レベルは40~50だ。さっきよりも強いから奥に進めば”災厄”がいるかもな」


 藍大はモンスター図鑑で調べた結果からスタンピード終結の糸口を見つけた。


「早く倒そう。子供達が藍大のご飯を待ってるよ」


『確かに! 子供たちが待ってる!』


 (舞とリルが食べたいだけって気もするけどツッコまないでおこう)


 ゴルゴンに燃やされて魔石しか残らなかったから、藍大達は周囲に散らばった魔石を回収して先を急いだ。


 すると、リルがピクッと反応した。


『ご主人、この先に強めのモンスターがいるよ』


「どれぐらい強そう?」


『ベルフェゴールぐらいだと思う』


「それじゃ現地の冒険者達には荷が重いな」


 そんな話をしていたら、藍大達に向かって虫の翅を生やした人型モンスターが猛スピードでやって来た。


 手には金属製のストローのような物を持っているが、髪型は金髪のリーゼントで虫の目を模ったサングラスをかけており、白い長ランを着ていることから不良のようだ。


「お前美味そうだな」


「藍大は食べ物じゃねえぞゴラァ!」


『そうだよ! ご主人はご飯を作ってくれるんだよ!』


「主を美味そうとか不敬」


「燃やしてほしいのかしらっ」


っちゃうですよ?」


 そのモンスターが藍大を美味そうと言った瞬間、食いしん坊ズを筆頭にサクラとゴルゴン、メロも不快感を露わにした。


 その一方、美味そうと言われた藍大はモンスター図鑑で目の前の敵について調べていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ベルゼブブ

性別:雄 Lv:65

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:2,000/2,000

STR:2,000

VIT:1,500

DEX:1,500

AGI:1,500

INT:2,000

LUK:0

-----------------------------------------

称号:災厄

   暴食の王

アビリティ:<暴食グラトニー><飢餓眼ハングリーアイ><刃竜巻エッジトルネード

      <暗黒乱射ダークネスガトリング><紫雷光線サンダーレーザー

      <剛力振撃メガトンスイング><狂戦士化バーサークアウト

装備:フライアイ

   ツッパリシリーズ

   ドレインストロー

備考:物理攻撃激減/不幸

-----------------------------------------



 (遂に大罪アビリティの主が他所で現れたか)


 藍大は鑑定結果を見て懸念事項が現実になったと知り溜息をついた。


 <怠惰スロウス>を奪われたベルフェゴールも含め、今までに遭遇した大罪アビリティの主はいずれもシャングリラで遭遇した。


 ブラドが構築中のシャングリラダンジョン地下9階に出て来るだろうと思っていたが、こんな所で大罪アビリティの主と遭遇したので藍大の心中は穏やかではなかった。


 残る<傲慢プライド>と<憤怒ラース>も今回の同時多発スタンピードで現れていたらと心配になるのも当然だろう。


「いただきます!」


 それだけ言うと、ベルゼブブは藍大に照準を合わせてドレインストローを構えて吸い込み始める。


「やらせねえ!」


 舞がカバーリングで移動してアダマントシールドをぶん投げる。


 その結果、アダマントシールドがドレインストローの先端に命中してそれがベルゼブブの顔面へと押し出した。


「ぶごっ!?」


 ベルゼブブが怯んだ瞬間を藍大達が見逃すはずがない。


「俺が動きを封じる!」


 藍大はゲンの力を借りて<重力眼グラビティアイ>を今放てる最大出力で発動した。


「ド畜生がぁぁぁぁぁっ!」


 後先考えなければ、藍大だって一度ぐらいベルゼブブの身動きを封じられる。


 体が鉛のように重たくなったため、ベルゼブブは仕方なく<狂戦士化バーサークアウト>を使った。


 それにより、ベルゼブブのHPとMPを除く能力値が一時的に1.5倍になる。


「死ね死ね死ねぇぇぇっ!」


 ベルゼブブは力技で藍大の<重力眼グラビティアイ>の拘束から逃れ、そのまま<暗黒乱射ダークネスガトリング>を発動する。


「早撃ちなら負けないです!」


 ベルゼブブよりも後出しだったにもかかわらず、メロが<植物支配プラントイズマイン>で硬い種を連射してベルゼブブの攻撃を全て撃ち落とす。


「ぶっ飛びなさいっ」


「ごぱっ!?」


 メロに撃ち負けないように<暗黒乱射ダークネスガトリング>を使っていたせいで、ベルゼブブはゴルゴンの<爆轟眼デトネアイ>を察知するのに遅れて直撃した。


 ベルゼブブの体が後ろに仰け反ったところにリルが追撃する。


『それっ』


 リルの<翠嵐砲テンペストキャノン>が無防備なベルゼブブに命中し、ベルゼブブは完全に後ろに倒れた。


「死んでくれる?」


 サクラはベルゼブブに立ち上がらせることなく深淵の刃でベルゼブブの首を刎ねた。


『おめでとうございます。逢魔藍大のパーティーが”災厄”と化した大罪の王を倒しました』


『初回特典として”ダンジョンマスター”ブラドに分体を創る権限が付与されました』


『ゲンがLv98になりました』


『ゴルゴンがLv96になりました』


『メロがLv92になりました』


 (待って待って。どゆこと?)


 ベルゼブブを倒したことで手に入れた権限が強烈なものだったので、藍大は耳に届いたシステムメッセージに困惑した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る