第227話 LIKEじゃなくてLOVEです

 未亜パーティーが助けに来てくれて希望が持てたところに強そうなモンスターの群れが来れば、冒険者や一般人達は絶望の淵に叩き落された。


「う、嘘だろ?」


「終わった・・・」


「上げて落とすのは勘弁してくれ」


「ママァァァ!」


 密集している一般人の集団の中で泣き出した子供によって絶望感が更に増していく。


 そんな中、人混みを掻き分けてスーツ姿の女性が前に出ていった。


「あの、すみません。通して下さい。すみません」


 健太はその声をキャッチして後ろに振り返った。


「遥さん! 無事だったんですね!」


「健太さん! やっぱり健太さんです! どうしてここに?」


「そりゃ遥さんが今日は金沢ここで取材があるって聞いたからですよ! スタンピードで怪我してないか心配で来たんです!」


「・・・あ、ありがとうございます」


 まさか健太が自分のためにスタンピードの起きた現場に来てくれたとは予想していなかったので、遥は一瞬だけ何を言って良いかわからずに固まってしまった。


 しかし、すぐに復帰して感謝の気持ちを健太に伝えた。


 そんな2人の様子を見て一部の男性冒険者が嫉妬の炎を燃やした。


「う゛ぉぉぉぉぉい! やってられねえぞ!」


「チャラ男の野郎、スタンピードマジック決める気だ!」


「俺達だって見つけるんだ!」


「トロールなんかよりも独り身のクリスマスの方がよっぽどこええ!」


「やってやる! もっとよこせ!」


 嫉妬の炎で絶望から立ち治った男性冒険者達は取り巻きのトロールに向かって駆け出した。


 中央にいる一つ目の角が生えた巨人のモンスターは倒せないと思っても、その取り巻きを倒して自分達だって活躍したとこの場にいる女性達に向かってアピールするつもりだ。


「あの馬鹿がこんな風に役立つとはなぁ」


「未亜、そんなこと言ってないであの真ん中の倒すべき」


「せやな。健太、イチャイチャすんのは後や! 今はあのサイクロプス倒すのが先やで!」


「おう! 遥さん、また後で!」


「はい。健太さん、必ず生きて戻って来て下さいね」


「命燃やすぜ!」


 遥にエールを送られ、健太は何がなんでも生き残ってやると気合を入れた。


「健太、テンション上げてるのは良いけど浮かれて凡ミスしないようにね」


「わかってる!」


「・・・ちゃんと見ておこう」


 パンドラはシャキッと答える健太を見てなんとなく不安になり、戦闘中も健太が何かやらかさないように注意しようと決めた。


「ほな行くで! せいっ!」


 未亜がサイクロプスと呼んだそれの右手を狙って矢を放った。


 体の中心を狙わなかったのはサイクロプスが狼牙棒を持っていたからだ。


 まずは武器を持てなくさせてやろうという狙いである。


「ゲヒッ!」


 サイクロプスは狼牙棒を盾代わりにして未亜の矢を防ぐ。


 サイクロプスのAGIはお世辞にも高いとは言えないようで、狼牙棒を盾代わりにするのが精一杯なようだ。


 もっとも、サイクロプスとしてはそれで十分満足しているのか未亜の矢を防いでドヤ顔を披露している。


「ゲッヒッヒ」


「あの顔腹立つわぁ」


 とは言ったものの、未亜はそれほど苛立っていなかった。


 何故なら、サイクロプスの注意が自分にだけ向いていて背後に回ったパンドラにサイクロプスが気付いていないからだ。


「止まれ」


 パンドラが背後から<停止ストップ>を発動したことにより、サイクロプスはイラっと来る笑みを浮かべたまま微動だにできなくなった。


「これでも喰らえ!」


 パンドラが動きを止めてすぐに距離を詰めていた健太がタラスクコッファーでサイクロプスを撃ちまくる。


 体に複数の風穴が開いて普通なら立っていられないレベルのダメージを与えたが、<停止ストップ>の効果が切れた途端にサイクロプスが最後の悪足搔きと言わんばかりに狼牙棒を振り回して暴れ始めた。


「ゲヒッヒィィィ!」


「これで倒れへんのかい!?」


「タフだなおい!」


 暴れたサイクロプスは手が滑って健太がいる場所に狼牙棒を飛ばしてしまった。


「油断しない」


「すまん」


 パンドラは健太の前に割り込んで<保管庫ストレージ>で狼牙棒を回収し、健太の感謝の言葉に頷きながら<呪贈物カースプレゼント>を発動する。


 黒い光がパンドラの正面からサイクロプスに向かって飛んで命中すると、サイクロプスがおとなしくなって体をブルッと振るわせた。


「ゲヒ?」


 それからすぐに体を小刻みに振るわせ続け、少ししてからサイクロプスの体がやつれ始めた。


 これが<呪贈物カースプレゼント>が引き起こす呪いの状態異常だ。


 寒気と飢えに襲われて体から力が抜けていく。


 状態異常の中でも呪いはかなり厄介な部類に該当する。


「ほな、さいなら」


 未亜がサイクロプスの首元を狙って矢を放つと、避ける余力のないサイクロプスの首をそれが貫通した。


 サイクロプスは力尽きてドシンと音を立てて仰向けに倒れた。


「サイクロプスを倒したぞぉぉぉっ!」


「すげえけどこっち助けて!」


「やったけどまだこっちれてない!」


「ヘルプミー!」


「締まらないね」


「せやな」


 健太が勝鬨を上げたのだが、健太と遥のやり取りにジェラった男性冒険者達はまだ取り巻きのトロール派生種を倒し切れていなかった。


 見るからに”災厄”っぽいサイクロプスを倒せたことは嬉しくとも、自分達の戦いはまだ終わっていないから喜ぼうにも喜べない。


 もはや助けてほしいと救援を要請する始末である。


 これにはパンドラと未亜も溜息をつきたくなった。


「しょうがねえな!」


 健太は遥の前でアピールできるチャンスだと判断し、タラスクコッファーで残っていたトロール派生種をあっという間に仕留めた。


「よっ、チャラ男! 日本一!」


「サンキューチャラ男!」


「大当たり! チャラ男大当たり!」


「ウェーイ!」


 健太の加勢であっさりと決着がついたので、男性冒険者達は健太を煽てたり感謝した。


 それに対する健太の反応がチャラい。


 まさしく日出づる国のチャラ男である。


「まったく調子ええな」


「遥の前だったからでしょ」


「間違いないわ」


 未亜とパンドラはサイクロプスの死体を回収した後、後続のトロールがいないか警戒しながら喋っていた。


 だが、健太が加勢して倒したトロール派生種以外に敵は現れなかった。


 この学校での戦闘は終わったと言えよう。


 健太も戦闘が終わったと判断したら遥に直接無事を伝えに行った。


 健太が近寄って来ると、遥はホッとした表情をしていた。


「遥さん、無事に終わりました」


「見てました。健太さんって本当に強いんですね」


「その言い方だと俺ってば弱いと思われてました?」


「あっ、いえ、そういう訳じゃないんです。スタンピードをあっさりと終わらせられるぐらい強いんだなって驚いただけなんです」


 健太の気を害してしまったのではと思って遥は焦って自分の言いたいことを補足した。


「そりゃまあウチのクランマスターはあれぐらい瞬殺させる戦力を持ってますけどね」


 遥に気を遣わせてしまったかもと思い、健太はおどけるように藍大を比較対象として提示した。


 ところが、遥はそれで笑ってなあなあにするのを良しとしなかった。


 遥は深呼吸して気持ちを整理してから健太の顔を見て口を開いた。


「私は健太さんの方が好きです。確かに逢魔さんはすごい方かもしれませんが、私は窮地を救ってくれた健太さんの方が良いです」


「そ、それはLOVEではなくLIKEですよね?」


「LIKEじゃなくてLOVEです」


「本当ですか!? もしも付き合って下さいって言ったら付き合っていただけるぐらいですか!?」


「はい。喜んで」


「ありがとうございます!」


「なんで健太さんがお礼を言うんですか。こちらこそ、私のためにここまで来て下さってありがとうございました。これからもどうかよろしくお願いしますね」


 健太が告白を成功させて何を言って良いかわからなくなり、とりあえず全力でお礼を言ったら遥がクスッと笑った。


 遥が健太の告白にOKを出すと、その場にいた男性冒険者達は黙っていられなくなった。


「「・・・「「「リア充爆発しろ!」」・・・」」」


「これがスタンピードマジックか!」


「絶望した! チャラ男に彼女ができて俺にできない人生に絶望した!」


 そんな中、パンドラは未亜の肩に飛び乗ってポンポンと前脚で優しく未亜の肩を叩いた。


「パンドラ、時にはそんな優しさが残酷なんやで」


「そんなこと言われても人間じゃないもの。そこまでの感情の機微はわからないよ」


「せやったなぁ。モフッてもええ?」


「・・・ちょっとだけだからね」


「おおきに」


 未亜は健太に先を越されてやるせない気持ちになったが、パンドラをモフることでその気持ちを解消させた。


 こうして健太にとっては二重の意味で勝負だったスタンピードを未亜パーティーは取りこぼすなく収められたのだった。

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