第226話 俺は過去とは寝ない男なんだ
藍大達が本栖湖ダンジョンを攻略した日の夕方、未亜と健太、パンドラはDMUが手配したヘリで石川県の金沢城にやって来た。
未亜達がここへやって来たのは茂の要請と健太の私情が一致したからだ。
藍大が茂に言われて掲示板を閲覧していると、茂が藍大に救援を要請した。
掲示板のスタンピード考察スレにもあったように日本国内でスタンピード多発したのである。
それも前回のスタンピードよりも1ヶ所多く、秋田県と石川県、埼玉県、京都府、香川県、佐賀県でスタンピードが起きた。
秋田県と香川県に至っては今まで発見されていなかったダンジョンでスタンピードが発生した。
埼玉県はレッドスター、京都はブルースカイ、佐賀県はグリーンバレーがDMUに協力を申し出て対応していたが、それでも秋田県と石川県、香川県が残る。
DMUの隊員は冒険者の層が薄い香川県へ向かい、秋田県と石川県が残ってしまった。
前回ならば、残る1ヶ所に藍大達が行けば済む話だった。
しかしながら、今回は藍大達が協力して向かっても秋田県か石川県が日本屈指の冒険者クランもしくはDMUの力を借りられなくなってしまう。
そんな時、健太が石川県に行くから藍大達は秋田県へ行けと言った。
健太が積極的に石川県に行こうとしたのは、今日この時石川県には遥が週刊ダンジョンの「Let's eat モンスター!」の取材で滞在していると知っていたからだ。
まだ付き合えてはいないものの、健太にとって遥は命を懸けて助けに行こうと思えるぐらいの存在になっていた。
茂からすればありがたい話だが、クランマスターの藍大とパーティーリーダーの未亜が首を縦に振らなければ健太の申し出は却下される。
茂は息を呑んで2人の決断を待った。
その結果、藍大も未亜も健太の案に賛成した。
理由は2つあり、1つは藍大パーティーだけでどちらか片方のスタンピードは片付くと思ったからだ。
藍大パーティーがいれば、シャングリラダンジョン並みの難易度のダンジョンで起きたスタンピードでもない限り彼等だけで鎮圧できると言える。
もう1つの理由は藍大と未亜が健太の男気を評価したからである。
今までは軽いノリでナンパしていた健太が遥のために危険に立ち向かうと言ったので、それを認めてやりたくなった訳だ。
司パーティーとゼルはまだシャングリラダンジョンから出て来ていないため、シャングリラの留守番は司パーティーとゼル、奈美、ドライザーが任された。
そして、藍大パーティーはリルの背中に乗って秋田県に向かい、未亜パーティーはDMUのヘリで石川県の金沢城までやって来た。
スタンピードが起きたのは金沢城近くにあった元会計事務所の廃屋だった。
元とあるように1月の大地震で持ち主がなくなり、そのまま手入れされることなく放置されていた場所がダンジョン化してそこがスタンピードの中心となった。
「やれやれ、あちこちでモンスターの声が聞こえんで」
「悪いな」
「ああん? いきなりどないした?」
「いや、俺の我儘でこんなとこに来ちまったからよ」
「フン。今更そないなことでくよくよしてどうすんねん。とりあえず、ウチ達はモンスターの数を減らしながら遥さん探す。それでええやろ?」
「恩に着る」
健太が自分に深く頭を下げると、未亜はブルッと体を震わせてパンドラに耳打ちした。
「健太の奴何か悪いもんでも食ったんちゃうやろか?」
「珍しくまともだからってそういうこと言っちゃ駄目」
「お前ら・・・。聞こえてるぞ」
「日頃の行いが悪いせいやろ」
「うん」
「くっ、こんなところで普段の印象が足を引っ張るとは」
未亜とパンドラの言い分に健太自身も否定できないのは無理もないことだろう。
「「「ヌラァァァ!」」」
「近いで」
「行こう!」
近くでモンスターが叫ぶのを耳にして未亜パーティーはその声が聞こえる場所まで移動した。
移動した先には棍棒を持った灰色の巨体達に囲まれた一般人の姿があった。
「トロールか!」
「ウチに任せとき!」
未亜はそう言うと狙いをつけて矢を連続して放った。
それらの矢はトロール達の眉間を貫通し、HPを全損して仰向けに倒れた。
「流石タラスクシューターやな。地下4階の”掃除屋”倒すだけの威力はあるで」
「俺達の武器、外出たらこんなにあっさりモンスターを倒せるんだな」
「せやなぁ」
未亜も健太も藍大が倒したタラスクとデメムートの素材を使い、武器と防具を新調した。
未亜はタラスクシューターとデメムレザーであり、健太はタラスクコッファーとデメムレザーだ。
「未亜、健太、あの人達を保護して安全な所へ連れてくべきじゃない?」
「「すいません!」」
パンドラがジト目を向けて注意すると、未亜も健太も背筋を伸ばして謝って助けた一般人を避難所へ送り届けることにした。
この近くの避難所は移動中のヘリで調査済みだったから、未亜達はすぐに移動した。
近くに中学校に助けた一般人を連れて行ったところ、その中学校の校門付近からトロールの数が増えて来た。
「次は俺の番だ!」
健太がタラスクコッファーを使って周囲のトロールを蹴散らしていく。
「健太の武器も火力が上がっとんなぁ」
「進路クリア! 中に入ろうぜ!」
「せやな」
未亜達が中学校の敷地内に入って校庭に移動したら、現地の冒険者達が大剣を持った4体のトロールと必死に戦っていた。
その冒険者達の後ろには、避難して来た一般人達が不安そうに身を寄せ合っている。
「寝ちゃえ」
それだけ言うと、パンドラは器用に<
「救援か!」
「妄想弓士だ!」
「日出づる国のチャラ男までいるぞ!」
「あの猫すげえ!」
「これで勝つる!」
現場にいた冒険者達は未亜達の登場に元気を取り戻した。
「未亜、健太、やっちゃってOKだよ」
「助かったで!」
「サンクス!」
その後は眠りこけたトロール達を撃つだけの簡単なお仕事だった。
「遥さんいねえな。他の所に行こう」
「ええで」
「もう行っちゃうんですか?」
未亜パーティーがこの場から離れてしまうと察し、中学校で一般人を守っていた冒険者の1人が声をかける。
「すみませんが人を探してるんです。それに、この状況でモンスターのいない場所に長居しても俺達がここに来た意味はないので」
健太がそれだけ言って未亜とパンドラを連れて中学校を去った。
自分達の周囲に人がいなくなると、未亜はやれやれと首を振った。
「シャングリラダンジョンと比べたらぬるま湯どころか水やのに、なんでそんな手こずるんかな」
「ちゃんとしたクランに入ってないとその日暮らしの生活になってるからじゃね?」
そんなことを言い合う2人に対し、パンドラが純粋な疑問をぶつけた。
「2人は”楽園の守り人”に入る前ってどうだったの?」
パンドラが質問した直後、未亜と健太はパンドラと目を合わせられなかった。
ソロの時は貯金もなかなかできず、その日の飲食と武器や防具の修繕費にほとんどが消えていた。
それゆえ、未亜と健太は頭の中でパンドラを納得させられる話法を考えたが、どれもしっくりくるものはなかった。
「過去より今を見た方がええんちゃうか?」
「俺は過去とは寝ない男なんだ」
「だらしないのは昔からだったんだね。健太は何を言ってるのかわかんない」
「「ぐはっ!?」」
未亜と健太は精神的にダメージを受けた。
その後、未亜と健太が自棄気味に遭遇するトロール達を倒していった。
最初に寄った中学校以外にも学校に行ってはトロールを倒し、未亜パーティーが出て行こうとすると引き留められた。
「ここにもいないか」
「次が最後やんな」
「ああ」
未亜パーティーは金沢城周辺地域にある最後の学校へと向かった。
そこには大きい盾を持ったトロールが1体、首切り包丁を背負ったトロールが1体、杖を持ったトロールが1体いた。
「とりあえず死んどけや!」
「駆逐してやる!」
未亜と健太がそれぞれの武器を駆使して攻撃を開始した。
「妄想弓士だ!」
「日出づる国のチャラ男さんだー!」
「尻尾が9本ある猫って何事!?」
未亜と健太が比較的強いトロール達を倒したおかげで、その場を命がけで残っていた冒険者達と逃げ込んだ一般人が生き残れそうだと喜んでいる。
ところが、その喜びは一瞬にして絶望へと戻ってしまった。
何故なら、未亜達がいる学校の敷地内に狼牙棒を手に持った角の生えた単眼巨人がトロールの群れを率いて乱入して来たからだ。
未亜達のスタンピードはまだ終わらない。
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