第19章 大家さん、家族が増える

第219話 当たらなければどうということはないよ!

 7月26日の日曜日、シャングリラの正面にDMUが手配した2台の車が停まっていた。


 これは藍大達がDMUの隊員達を対象とした座談会をすることに対し、茂が送迎に手配したものだ。


 1台目には藍大と舞、サクラ、リル、ゲンが乗車し、2台目には司、麗奈が乗り込んだ。


 ゴルゴンとメロ、リュカは庭の家庭菜園の収穫があるので留守番である。


 茂は藍大パーティーの話と元DMUの司と麗奈の話を聞くため、このメンバーがDMU本部に招待された。


 車が発進すると、子犬サイズになって藍大の膝の上に乗っているリルがしょんぼりしていた。


『ご主人達を乗せて走りたかったなぁ』


「そう言ってやるな。茂も座談会の講師に勝手に来て勝手に帰れとは言えないんだよ」


『人間って面倒だね~』


「まあまあ。今晩はトリオレイヴンの唐揚げを作ってあげるから機嫌を直してくれ」


『唐揚げ!? 楽しみ!』


 流石は食いしん坊ズの片割れ。


 夕食が唐揚げと聞けば、リルの機嫌はすぐに良くなった。


「はい!」


「どうしたんだ舞?」


「唐揚げバーガーが良い!」


『それも良いかも!』


 舞のリクエストを聞き、リルの尻尾が唐揚げと聞いた時よりもブンブン振られている。


 この反応を見てNOとは言えまい。


「しょうがないな。今晩は唐揚げバーガーにしよう」


「『やった~!』」


「楽しみ!」


『待ち遠しい』


 食いしん坊ズだけでなく、サクラやレヴィアローブに憑依しているゲンも唐揚げバーガーと聞いてテンションが上がったようだ。


 その後も食事の話で盛り上がっていると、藍大達の乗った車があっという間にDMU本部に到着した。


 車から降りた藍大達を茂が出迎えた。


「よく来てくれたな。今日は頼んだぞ」


「頼まれても俺達の話が役立つかどうかはそっち次第だからな?」


「わかってる。舞さん達も今日はよろしく」


「は~い」


「うん」


「わかりました」


「わかったわ」


 舞、サクラ、司、麗奈の順番に応じた。


 藍大達は茂の案内で大会議室に通された。


 既にDMUの隊員は集まっており、5組のパーティーが円形に並べられた椅子に座っていた。


 藍大達が到着してすぐに座談会は始まる。


 今日の座談会はラウンドテーブル形式で行われるらしく、藍大&リルのグループ、舞のグループ、サクラのグループ、司のグループ、麗奈のグループの5つを10分交代で回していくようだ。


 1グループに1パーティーが座り、隊員が講師に質問したいことをぶつけていく方式である。


 早速、1組目でそのパーティーのリーダーが藍大に質問した。


「逢魔さん、パーティーを指揮する時に何を一番に考えてますか?」


「生き残ることです。一部の特殊性癖の方を除いて痛いのは嫌でしょうから、無傷で生還できればもっと良いですね」


「生き残ることですか。しかし、スタンピードの時には身を盾にしてでも一般人を守らなければならないですよね? そんな時でも生き残ることを一番に考えるんですか?」


「劣勢でも生き残れば逆転できる可能性があります。一般人を守るために自分の身を盾にするのも立派ですが、盾になっても守れる命は限られますよね? だったら、より多くの命を救えるように行動するのが貴方達の仕事ではありませんか?」


「おっしゃる通りですね。ありがとうございました」


 パーティーリーダーは藍大の言い分を聞いて悩みが解消されたのか、穏やかな表情になった。


 次は女性が手を挙げた。


「私は魔術士の職業技能ジョブスキル持ちで後衛なんですが、動く敵に対して攻撃の命中率が高くありません。少しでも攻撃を敵に当てるにはどうすれば良いでしょうか?」


「これは私よりもリルの方が適任ですね。リル、どうすれば良いと思う?」


『敵がいる場所じゃなくて攻撃する時に移動するであろう場所を狙うんだよ』


「リルさんはどうやって狙ってるんですか?」


『敵の体重移動に注目するんだよ。足先だけ見ないで重心を意識するの』


「なるほど。ありがとうございます。次に探索する時に試してみます」


『頑張ってね』


「はい!」


 (リル先生流石っす)


 リルの回答に藍大は感心した。


 リルはパーティーの中で最も素早く器用だ。


 アビリティを使った攻撃の命中率も高く、遠距離からでもバンバン敵モンスターを倒している。


 リルは<賢者ワイズマン>を会得しているだけの賢さがあったと再確認できた瞬間だった。


 藍大は自分の膝の上に乗っているリルを誇らしく思い、その頭を優しく撫でた。


「クゥ~ン♪」


 キリッとしたリルも良いが、甘えるリルも良い。


 女性隊員はリルを撫でたい衝動に駆られたが、立場を弁えてグッと堪えた。


 10分という時間はあっという間に過ぎてしまい、1組目のパーティーの時間が終わって2組目のパーティーが移動して来た。


 今度は全体的に体格ががっしりしたパーティーだった。


「逢魔さん、携帯食料はどんなものが良いと思いますか?」


 (収納リュックに作り立ての状態の料理を詰め込んでるんだけど・・・)


 マッシブな男性隊員の質問に藍大はどう回答すべきか困った。


 ”楽園の守り人”が外部に決して出さない情報の中に物資の運搬がある。


 藍大と司はそれぞれ収納リュックと収納袋を使い、未亜はパンドラの<保管庫ストレージ>で手に持ち切れない物を運んでいる。


 しかも、これらは全て時間経過がないからダンジョン内で作り立ての食事を食べられるのだ。


 もっとも、今のところ藍大がダンジョン内で食事を必要とするぐらい長時間探索をしたことはないのだが。


 その時、藍大は閃いた。


 ”グリーンバレー”のクランハウスを訊ねた時のことを思い出し、それをそのまま口にした。


「私達は長くても3時間ぐらいしか探索しませんが、仮に持ってくならば”グリーンバレー”のUMAKA棒はどうでしょう?」


 しっかりと自分達は携帯食料に頼っていないことを前置きした上で、藍大はUMAKA棒をプッシュした。


「噂には聞いたことがありますが、普段はDMU職人班の調理士が作った携帯食を持ってくので食べたことがないんですよね。美味しいですか?」


「ハンバーグ味は確かにハンバーグでしたよ。な、リル?」


『うん。ワイルドボアのお肉を使ったハンバーグだったよ』


「リルさんが言うなら間違いないですね。後で発注してみます」


 その男性隊員だけでなく、周りにいた隊員達もリルさんが言うならと頷いていた。


 (リルさんや、いつからその道の専門家扱いになったんだい?)


 藍大はドヤ顔のリルを撫でつつ、いつの間にかリルがご意見番になっていたことに驚いていた。


 3組目のパーティーの回になると、リルをロックオンした女性隊員が真っ先に手を挙げた。


「はい! 逢魔さんは従魔の貸し出しをしてると聞きましたが、私達にも貸し出してもらえるんでしょうか!?」


「クランのメンバーにしか貸し出しません」


「そんなぁ・・・」


 藍大にバッサリ言われて質問した女性隊員はしょんぼりした。


 勿論、藍大だって意地悪するつもりで拒否した訳ではない。


「私の従魔は”楽園の守り人”のメンバーの戦力を補うために貸し出してますが、クラン外の冒険者のためにテイムして貸し出すことは考えてません。今いる従魔を貸し出すこともありません。貴女はサービス業者を除いて初対面の相手に家族を預けられますか?」


「わかりました。失礼なことを言って申し訳ございませんでした」


 藍大の言っていることは至極当然だったので、その女性隊員は我ながら無理を言ったと反省して謝った。


 4組目のパーティーではシャングリラ産の素材を使った武器の相談をされた。


「グサダーツのレイピアとダマエッグの殻の剣はどっちの方が二刀流で扱い易いでしょうか?」


 (知らんがな)


 武器を使わない自分にそんなことを聞くなと言いたくなったが、藍大はそのツッコミを心の中に留めた。


 その男性隊員は藍大ならモンスター図鑑でモンスター素材の性質を把握していると予想したのだろう。


 仕方がないので藍大は判断に必要な情報を集めることにした。


「私は武器を使わないので詳しくありませんが、一応今使ってる武器やどんな攻撃を得意としてるか教えて下さい」


「私は剣士の職業技能ジョブスキルを保持してます。STRは他の剣士よりも低めですが、その分AGIは高めです。スピード重視ならばレイピアですが、ダマエッグの殻の剣ならば防御にも使えそうだと思って悩んでます」


『レイピアが良いと思う!』


「リル?」


『当たらなければどうということはないよ!』


「わかりました! ありがとうございます!」


 リルも当たらなければどうということはないを地でやってのけるから、似たようなタイプの隊員がいて口を挟まずにはいられなかったらしい。


 リルとその隊員は視線を交わし、何か通じる者があったようだ。


 藍大は本人が納得しているならそれで良いかと思って補足しなかった。


 5組目のパーティーに移ろうとした時、麗奈の声が大会議室に響いた。


「なんですって!? もう一度言ってみなさい!」


 (おいおい、古巣で騒ぎを起こすなよ・・・)


 麗奈が4組目のパーティーとの最後に何かあったのは明らかだった。

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