第213話 おい、年長者しっかりしろよ

 翌日の月曜日、シャングリラダンジョンの改装中ということでダンジョン探索を休むことにした藍大達はおにぎりパーティーを開催することにした。


 おにぎりパーティーの開催を希望したのはリュカだ。


 昨日の午後のダンジョン探索で<獣人切替ビーストマンチェンジ>を会得したから、本当は昨日の夕食にでも開催してほしいと思っていた。


 しかし、クラン掲示板で昨日の藍大達の夕食がレヴィアタンとデメムートを使った豪華なメニューになるとわかっていたので今日の開催を希望した。


 リルが楽しみにしているであろう夕食を邪魔し、自分の都合だけでおにぎりパーティーをやってほしいと頼めばリルに嫌われると判断して今日開くよう頼んだのはリュカの英断と言えよう。


 リュカがおにぎりパーティーに参加するから司と麗奈も参加し、集合写真の一件から藍大と触れ合う機会が不足していると思ったパンドラも積極的に参加を表明した。


 その結果、あれよあれよと参加者が増えて気が付けばシャングリラの中庭で行う”楽園の守り人”総出のパーティーとなっていたのだ。


 藍大が昼前からおにぎりパーティーの準備をしていると、2人の未亜が中庭にやって来た。


 勿論、未亜が2人いるのではなく片方が未亜に化けたパンドラである。


「「どっちがウチやと思う?」」


 未亜とパンドラは横に並んだまま藍大に同時に質問した。


「こっちがパンドラ」


 藍大はノータイムで左側の未亜の肩を叩いた。


 その直後、選ばれた未亜の姿が普段化けている狼の姿に変わった。


「当たり」


「はぁ。モンスター図鑑使つこうて調べたら一発やったな」


「いや、使ってないぞ?」


「えっ、そんならどうしてわかったん?」


「パンドラが俺の影を踏まないように近付いて来たから。未亜は全く気にせずに来たけどパンドラは違った。そうだろ?」


「うん」


 藍大に言われてパンドラはニッコリしながら頷いた。


 自分の気遣いをちゃんと見ていてくれたことが嬉しかったようだ。


「流石は魔王様やな。従魔のことをよく見とるで」


「まあね。どれ、パンドラがどれだけ成長したか見せてもらうぞ」


「たんと見たってや。ウチと健太の探索を支えるパンドラのスペックに驚くで」


「なんで未亜が偉そうなんだよって、パンドラ、進化できるじゃん。進化するか?」


「したい」


 藍大がパンドラのステータスを調べたところ、パンドラはLv75になっていて備考欄には進化可能の文字があった。


 パンドラが進化したいと言えば藍大がそれに応えないはずがなく、藍大はパンドラを進化させた。


 その瞬間、パンドラの体が光に包み込まれた。


 光の中でパンドラのシルエットが狼から猫の姿へと変わる。


 しかし、その猫はただの猫ではなく尻尾が9本あった。


 光が収まると真っ白な体毛に金色の目を持つ九尾の猫の姿が藍大達の前に現れた。


『パンドラがシェイプシフターからニャインテイルに進化しました』


『パンドラのアビリティ:<麻痺嵐パラライズストーム>がアビリティ:<呪贈物カースプレゼント>に上書きされました』


『パンドラのデータが更新されました』


 藍大はパンドラの進化先の種族名を聞き間違えたのではないかと思ってすぐにモンスター図鑑で調べ始めた。



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名前:パンドラ 種族:ニャインテイル

性別:なし Lv:75

-----------------------------------------

HP:2,060/2,060

MP:2,260/2,260

STR:1,660

VIT:1,760

DEX:2,160

AGI:1,760

INT:1,660

LUK:1,960

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   セバスチャン

   ダンジョンの天敵

アビリティ:<呪贈物カースプレゼント><悪夢空間ナイトメアスペース><保管庫ストレージ

      <睡眠吐息スリープブレス><形状変化シェイプシフト

      <停止ストップ><魔力盾マジックシールド

装備:なし

備考:ご機嫌

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 (クソッ、進化後の名前にツッコむのと”セバスチャン”にツッコむのとどっちが先だ!?)


 ニャインテイルが聞き間違いではなく正しかったと知り、藍大はそれにツッコもうとした。


 ところが、パンドラの称号にあった”世話焼き”が”セバスチャン”になっていたことにも気づいてどっちからツッコめば良いのかわからなくなってしまった。


 ”セバスチャン”の称号があるということは、未亜と健太がパンドラに面倒を見られっぱなしということだ。


 ツッコむ順番に悩む藍大を見て、パンドラが藍大に近寄って首を傾げながらその顔を見上げる。


「どうしたの?」


「パンドラ、いつも苦労をかけてるな」


「おかしなこと言うとるな。進化したパンドラに最初にかける言葉とちゃうやろ」


 藍大が慈愛に満ちた目でパンドラを撫でていると、未亜がそうじゃないだろうとツッコミを入れる。


 だが、ツッコむのは自分の方だと藍大は未亜の方を向き直った。


「おい、年長者しっかりしろよ」


「な、何がや?」


「パンドラ称号に”セバスチャン”ってのがあった。”世話焼き”よりもレベルアップしてるってどゆこと?」


「ウチは悪くねえ! ウチは悪くねえ!!」


 藍大からジト目を向けられれば未亜が言い訳になっていない自己弁護を行った。


 そこにタイミングが良いのか悪いのか健太がやって来た。


「何やってんの? おにぎりパーティーの準備は?」


「来たな原因2号」


「原因2号? 何が?」


「パンドラの称号”世話焼き”が”セバスチャン”になった原因2号が健太だって話」


「俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ!!」


「健太、お前もか・・・」


 咎められているにもかかわらずネタに走り、そのネタが被るのは未亜と健太がなんだかんだ言って仲が良いからではないかと藍大は呆れた。


 とりあえず、これ以上未亜と健太に言っても意味がない気がしたので藍大はパンドラがニャインテイルに進化したことを2人に告げた。


「ニャインテイルって可愛らしいなぁ」


「九尾なのに狐じゃないってところにパンドラの個性を感じるぜ」


「飼い主ぶったり偉そうなこと言う前に一人前になってほしい」


「「ごめんなさい!」」


 ボソッと本音を口にしたパンドラに未亜と健太は頭を直角に下げた。


 藍大に指摘されるだけでも耳が痛いというのに、パンドラにもボソッと言われたことで2人の罪悪感が爆発したようだ。


 未亜と健太がパンドラに頭を下げていると、その他のメンバー達が集まって来た。


「未亜ちゃん達何やらかしたの?」


「パンドラに迷惑かけ過ぎたに1票」


「同じく」


「だらしないですね」


 順番に舞、司、麗奈、奈美のコメントである。


「ちょ待てや! ウチらに石投げてええのはクランマスターを除いて従魔に面倒見てもらってないモンだけやで!」


 未亜が抗議した途端、麗奈が未亜から視線を逸らした。


 心当たりがあったらしい。


 やれやれと藍大が心の中で溜息をついている一方で、藍大達がいる場所から少し離れていたところでエプロンを装備した狼獣人幼女リュカがリルに話しかけていた。


「リ、リル、今日は良い天気ね」


『うん。絶好のおにぎりパーティー日和だよ』


「あのね、私、この姿ならおにぎりに毛が入ったりしないと思うの。だから、私の作ったおにぎりも食べてもらえない?」


『良いよ。僕が作ったらそれと交換しよっか』


「うん! そうしよ!」


 リュカはとても嬉しそうに頷いていた。


 リルに自分のおにぎりを食べてもらえるだけでなく、リルが作ったおにぎりと交換できると聞いてリュカのテンションが上がらないはずないのである。


 それに対してリルはリュカ程盛り上がっている訳ではない。


 リュカが自分で食べる分をリルに作ってくれるならば、リルも自分が作った物をリュカにあげないとリュカの食べる分が減ってしまうと気にしていただけだ。


 リルもリュカも狼系統のモンスターであり、過去にリュカはリルと戦って命乞いをして藍大の従魔になったことからリルの中でリュカと自分の順位付けが済んでしまっている。


 それゆえ、強い自分が目下のリュカから食べ物を貰って何もしないのは上に立つものとしてどうかと考えて答えただけなのだ。


「リュカのアプローチがリルに響いてないね」


「リルがニブチンなんだわっ」


「サクラもゴルゴンもおとなしく見てるですよ」


 サクラとゴルゴン、メロはリルにアプローチするリュカを見てひそひそと言い合っていた。


 (リクエストしたリュカを待たせるのは悪いな)


 ここでこれ以上グダグダしたらリュカがかわいそうなので、藍大はおにぎりパーティーを始めることにした。


「全員注目! みんな揃ったからおにぎりパーティーを始めるぞ!」


 藍大がおにぎりパーティー開始を宣言すると、その場にいた全員が気持ちを切り替えておにぎりを作り始めた。

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