第210話 俺に選択肢なんてなかった!?

 ゴルゴンが<理想化アイディールアウト>を使った結果、ディアンドルを着た幼女ではなくディアンドルを着た大人の女性へと姿が変わった。


「これがアタシの理想の姿だわっ」


 ドヤ顔でポーズを取るゴルゴンを見て、メロがわなわなと震え出した。


「酷い裏切りです! あんまりです!」


「フフン。アタシのナイスバディに平伏すのよっ」


 勝ち誇ったように言った瞬間、ゴルゴンの体が縮んで元の幼女の姿に戻ってしまった。


 メロは数回瞬きをした後、とても良い笑みを浮かべてゴルゴンの肩をポンポンと叩いた。


「ゴルゴン、とてもナイスバディです」


「くぁwせdrftgyふじこlp」


 ゴルゴンは自分に起きた変化を理解して声にならない悲鳴を上げた。


 どうしてこうなったか気になり、藍大はモンスター図鑑で<理想化アイディールアウト>の効果を確認した。


 (なるほど。理想と現実のギャップが大きい程早く現実的な体になるのか)


 <理想化アイディールアウト>は使用者がその時に理想に思った姿に変身できるアビリティだ。


 しかし、現実あるいは現状とかけ離れた姿になると強制的に変身可能な姿に戻されてしまうらしい。


 今のゴルゴンで説明するならば、ナイスバディな大人の女性を理想として発動した結果、人間の姿では幼女が安定していたため不安定な大人の姿から幼女に戻されてしまったのだ。


 つまり、ゴルゴンにナイスバディはまだ早いということである。


「抜け駆けは駄目ってことです」


「ぐぬぬ。アタシだってマイやサクラみたいな体になりたかったのに・・・」


「発育に近道はないです。植物とは違うです」


 メロがゴルゴンに優しく諭すように言っている横からサクラが口を挟んだ。


「そうなの? 私は進化したり魔石を食べたりして大きくなったけど」


「夢も希望もなかったです!」


「妬ましいわっ」


 サクラに残酷な現実を突き付けられてメロとゴルゴンが涙目になった。


 それを不憫に思って藍大がしゃがんで幼女コンビをそっと抱き寄せる。


「「マスター!」」


「よしよし。大丈夫。2人ともそのままでも可愛いぞ」


「可愛いだけじゃ駄目なのよっ」


「そうです! もっと大人の武器が欲しいです!」


 (俺が何を言っても駄目かもしれん)


 下手なことを言えばゴルゴンとメロを傷つけることになりかねないと思い、藍大は2人が溜め込んだ感情を受け止めることに徹した。


 5分程経つと、幼女コンビも落ち着いて来た。


「落ち着いたか?」


「わ、悪かったわっ」


「ごめんなさいです」


「良いんだ。溜め込み続けるのは体に良くない。偶には発散しないとな」


「「マスター!」」


 ゴルゴンとメロは自分達の情けない姿を見せても受け入れてくれる藍大に感謝して改めて抱き着いた。


 幼女コンビが気持ちを切り替えると、藍大達はダンジョン地下7階の探索を再開した。


 闘技場から先の通路には1体もモンスターが現れず、ボス部屋と思われる扉の前に辿り着いた。


 藍大はこのまま戦えるか確認し、パーティーメンバー全員から問題ないとわかるとサクラに扉を開けてもらった。


 藍大達がボス部屋の中に足を踏み入れると、その中は中心部の足場とそこに続く道以外水場となった巨大な闘技場だった。


 中心部には誰もおらず、手分けをして空と水中にフロアボスの姿がないか探しているとリルが水の底から浮上する存在を感知した。


『ご主人、水の中から来るよ!』


「総員、迎撃態勢!」


 藍大の指示に従って舞達はいつでも戦える体勢になった。


 その直後に水中から蒼い巨大な海龍とも呼ぶべき存在が姿を現した。


 藍大はすぐにモンスター図鑑を視界に展開した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:レヴィアタン

性別:雌 Lv:80

-----------------------------------------

HP:2,000/2,000

MP:3,000/3,000

STR:2,000

VIT:2,000

DEX:1,500

AGI:1,500

INT:3,000

LUK:1,000

-----------------------------------------

称号:地下7階フロアボス

   嫉妬の女王

アビリティ:<嫉妬エンヴィー><水支配ウォーターイズマイン><氷結吐息フリーズブレス

      <氷結棘フリーズソーン><格闘術マーシャルアーツ><魅了眼チャームアイ

      <怨恨解放グラッジリリース><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:苛立ち

-----------------------------------------



 (同じ大罪なのにベルフェゴールよりも強いじゃん)


 藍大はレヴィアタンを以前戦ったベルフェゴールと比較してそう思った。


 もっとも、ベルフェゴールの場合はゲンに”怠惰の王”を奪われていたので弱体化していたから正確なところはわからないのだが。


「不敬にも妾と同じ力を感じる」


 レヴィアタンは藍大とサクラの方を見てそう言った。


 サクラは色欲で藍大は怠惰のゲンがローブに憑依していることから注目されているのだろう。


「”魔王”の主に逆らうそっちの方が不敬」


「言われてみれば、その雄から何やら好ましい気配がする」


 それだけ言うとレヴィアタンの姿が光に包まれ、藍大達の正面まで移動してから光の中でレヴィアタンのシルエットに変化が生じた。


 光が収まった時、藍大達の前に蒼いサクラと呼ぶべき姿の悪魔が姿を現した。


 <嫉妬エンヴィー>の効果で嫉妬をバネに自分の思い描く姿に変身したようだ。


「妾は其方を欲す。妾以外につがいは不要ぞ。さあ妾の手を取るが良い」


「ざっけんなゴラァ!」


 レヴィアタンが<魅了眼チャームアイ>を発動して藍大に話しかけてすぐ、舞が全力でアダマントシールドを投げつけた。


「へぶっ!?」


 舞が投げたアダマントシールドが顔面に命中し、情けない声を出したレヴィアタンはこの姿だから舐めた態度を取られたのだと思って元の姿に戻った。


 だがちょっと待ってほしい。


 怒っているのは舞だけではない。


「素材だけ残して死ね」


 今までで一番冷徹な眼差しでサクラが<幸運光線ラッキーレーザー>を撃った。


 鉄パイプぐらいまで圧縮されたレーザーがレヴィアタンの眉間を撃ち抜いた。


 LUK12万超えの一撃を喰らえば、レヴィアタンのHPが0にならないはずがない。


 前門の舞後門のサクラと呼ぶべきコンビネーションによってレヴィアタンは物言わぬ死体になった。


『サクラがLv99になりました』


『リルがLv98になりました』


『ゲンがLv95になりました』


『ゴルゴンがLv93になりました』


『ゴルゴンのアビリティ:<理想化アイディールアウト>がアビリティ:<嫉妬エンヴィー>に上書きされました』


『ゴルゴンが称号”嫉妬の女王”を会得しました』


『メロがLv87になりました』


『ドライザーがLv78になりました』


『ドライザーがLv79になりました』


 システムメッセージが鳴り止んだ途端に藍大は首を傾げた。


「ゴルゴンが”嫉妬の女王”になった?」


「ア、アタシは何もしてないのよっ」


 舞とサクラだけがレヴィアタンと戦っていたため、ゴルゴンはどうしてこうなったと言わんばかりに慌てていた。


「ゴルゴンばっかり羨ましいです!」


「アタシも訳わからないのよっ」


 幼女コンビが騒がしくなったが、舞とサクラが藍大を抱き締めたのでそれどころではなくなった。


「藍大、大丈夫!? 頭がぼーっとするとかない!?」


「主は私達のものなの!」


「よしよし、大丈夫だ。俺は舞とサクラのことが大好きだぞ」


「良かった〜」


「もしもあの雌のせいでおかしくなってたら今夜は寝かせなかったよ」


 サクラが艶やかな表情でそう言うものだから、藍大は参考までに訊ねてみた。


「無事だった場合は?」


「やっぱり寝かせない。ね、舞?」


「うん。今夜は寝かせないよ」


「俺に選択肢なんてなかった!?」


「「当然」」


 (心配かけちゃったもんな。・・・頑張ろ)


 今夜起こるであろう激戦のことを考えて藍大は気合を入れた。


 その後、レヴィアタンの解体と回収を済ませるとメロが期待した目で藍大を見上げた。


「メロ、いつになく期待してるじゃん」


「はいです! 元”嫉妬の女王”の魔石なら私のことをぐーんとパワーアップできるはずです!」


 ゴルゴンに差をつけられたことが悔しいらしく、メロは少しでも差を詰めたいとレヴィアタンの魔石に期待しているらしい。


「そうかそうか。メロ、あ〜んして」


「あ〜んです」


 メロが藍大から魔石を与えられて飲み込むと、メロの胸が背丈に合わないサイズに大きくなった。


 所謂ロリ巨乳である。


『メロのアビリティ:<大地祝福ガイアブレッシング>とアビリティ:<農家ファーマー>がアビリティ:<我儘農家セルフィッシュファーマー>に統合されました』


『メロがアビリティ:<火炎耐性レジストフレイム>を会得しました』


 (確かに一部我儘になったな)


 システムメッセージを聞いて藍大はそう思ってしまった。


 こればっかりは男子ならば仕方のないことだろう。


 藍大のことはさておき、メロの変化に衝撃を受けた者がいた。


 ゴルゴンである。


「アタシだけ置き去りなんて狡いわっ」


「狡くないです! 私は称号を持ってないです! ゴルゴンの方が狡いです!」


 これぞ正にないものねだりである。


 そんな時、ブラドの声が藍大の頭に直接届いた。


『むぅ。まさかこうもあっさり地下7階をクリアされるとは・・・』


「ブラド、まだこの先があるのか?」


『今のところ次の階は我輩の部屋だからこの階までだ。だが、主君達が派手に戦ってくれたおかげでもう1階増やせそうだ。1日だけ時間をもらいたい』


「わかった。楽しみにしてる」


 地下7階でやるべきことは全てやり終えたので、藍大達はダンジョンを脱出した。

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