第208話 もう陸戦だけの時代じゃないってことか

 地下7階は地下水路と呼ぶべき場所だった。


 中央に幅広く水が流れていてその両脇だけ歩いて進める道がある。


「水棲のモンスターでも出て来るんだろうか」


「水棲の美味しいモンスターって魚かな?」


『ロケットゥーナよりも美味しいかな?』


「主が作ればご馳走になるのは間違いない」


「マスターの料理は美味しいわよねっ」


「私達の元気の源です」


 藍大の疑問に引っ張られたのか、舞とリルを筆頭に各々がこれから現れるであろうモンスターとそれを使った料理に期待していた。


 その時、バシャバシャと水音がリルの耳に届いた。


『ご主人、何か近付いて来るよ。それも団体さんで』


「総員、迎撃態勢」


 リルに指摘されてすぐに藍大はパーティー全員の気を引き締めさせた。


 その直後、藍大達の進行方向からダイヤモンドのようにキラキラした甲殻を持つ軽自動車サイズの蟹の集団がやって来た。


 (ダイヤカルキノスLv70。甲殻がダイヤモンドで身はぎっしり詰まってるのか)


 舞達に引っ張られている気がしないでもないが、藍大はモンスター図鑑で調べた結果を喜んでいる。


「蟹だ~!」


『蟹パーティーだよ!』


「甲殻も有効活用できそう」


「キラキラしてるわねっ」


「余すところなくいただくです!」


『蟹・・・良いね・・・』


 ドライザー以外が捕食者の目に変わっており、合言葉は残さず食べましょうと言っても過言ではないだろう。


「メロは足止め! その後各個撃破!」


「「「「『了解!』」」」」


 メロが<停止綿陣ストップフィールド>でダイヤカルキノス達の正面に罠を仕掛け、急に止まれないそれらはあっさりとその罠に足を踏み入れて止まった。


「『ヒャッハァァァ!』」


「リルがヒャッハーしてる!?」


 蟹への期待値が大きかったせいなのか、リルが舞と仲良くヒャッハーしているのを見て藍大は戦慄した。


 もっとも、サクラやゴルゴン、メロ、ドライザーもヒャッハーと口にしていないだけで意欲的にダイヤカルキノス達を仕留めているのだが。


『ドライザーがLv74になりました』


 5分もかからずにダイヤカルキノスの第一陣は全滅し、藍大達はホクホク顔になった。


 雑魚モブモンスターの集団を倒しただけにもかかわらず、ドライザーがレベルアップしたのは地下7階のモンスターが強いことを示している。


 それでも圧倒的な実力差で勝ちを手に入れられたのは、道場ダンジョンを踏破したことで藍大の従魔達の全能力値が上昇したこともその要因と言えよう。


 解体と回収を済ませると、藍大達は地下水路の先へと進んだ。


 道中では偶にダイヤカルキノスが現れたりしたが、蟹ウマウマと言わんばかりの舞達があっさりと狩っていく。


 ダイヤカルキノスは螺旋スロープに差し掛かると現れなくなり、その代わりに別のモンスターが水中から藍大達の前に姿を現した。


 白い大蛇と呼ぶべきそれが現れて目が光った瞬間、藍大はとっさにゲンの<重力眼グラビティアイ>を発動した。


 重力によって大蛇の視線が藍大達からずれてその手前の通路に向かうと、その場所が急に氷によって覆われた。


「主になんてもの向けてくれてるの? 死んでちょうだい」


 サクラは深淵の刃を創り出して大蛇を輪切りにしてみせた。


「助かったよサクラ」


「主、どこも凍ってないか確かめてあげるね」


 サクラは藍大を抱き締めてどこか異常はないか確かめた。


 いや、そういう名目で藍大に抱き着いていると表現した方が正しい。


「サクラちゃんだけじゃ時間かかるよね。私も調べる」


「え?」


 舞もサクラの意図に気づき、後ろ側から藍大に抱き着いてどこも凍っていないか確認し始めた。


『温かさと言えばモフモフ。モフモフと言えば僕だよ』


「待ちなさいっ。暖を取るならアタシが一番よっ」


「大地の温かさだって負けないです!」


 リルと幼女コンビも藍大達にくっついて離れない。


『主君達は一体何をしておるのだ?』


 藍大達の探索する様子を監視しているらしく、ブラドは呆れた様子である。


 (このまま固まったままってのは的にしかならないか。後でたっぷり甘やかそう)


 そう判断すると、藍大はサクラ達に声をかけた。


「みんなストップ。俺は大丈夫だから触れ合いタイムはまた後でな」


 藍大がそう言うとサクラ達が藍大から離れた。


 そうしている間に先程の白い大蛇が3体藍大達に接近していた。


 藍大もこの時点では既にその正体を調べ終えていたため、きびきびと指示を出し始めた。


「ホワイトバジリスクのLv70が3体。ゴルゴン、<氷結眼フリーズアイ>を使われないように先手を打つんだ」


「はいなっ」


 ゴルゴンは<爆轟眼デトネアイ>でホワイトバジリスクを攻撃する。


 突然体が爆発すれば、ホワイトバジリスクだろうがそうでなかろうが驚かないはずがない。


 怯んだ隙にリルの<聖狼爪ホーリーネイル>やメロの<元気槍エナジーランス>、ドライザーの<魔砲弾マジックシェル>が命中してホワイトバジリスク達は次々に倒れていった。


『ドライザーがLv75になりました』


『ドライザーが進化条件を満たしました』


 (予想通りだ。これを待ってた)


 藍大は待ち侘びていたシステムメッセージが自分の耳に届いてニヤリと笑った。


 戦闘を終えてパーティーメンバーを労うと、藍大は戦利品回収を素早く指揮して済ませた。


「ドライザー、進化させるぞ」


『OK、ボス』


 ドライザーが頷いた直後、藍大は視界に映るモンスター図鑑の進化可能の文字に触れる。


 それによってドライザーの体が光に包まれ、その中でドライザーのシルエットに変化が生じた。


 キャタピラが変形して立派な脚へと変わり、人で言えば尾骶骨の部分から尻尾が生えた。


 ドラコキャノンはドラコをモチーフにした銃剣へと変化し、ドラコシールドは左腕に吸い込まれていった。


 全体的にスリムになっており、背中からは翼も生えている。


 光が収まると、黒い竜人型機動甲冑と呼ぶべき存在が藍大達の前に姿を現した。


 頭部はドラゴンの頭を模ったヘルムに変わり、モノアイだったところが2つの目に変わっていた。


『ドライザーがドラームドからドラキオンに進化しました』


『ドライザーがアビリティ:<硬化尾鞭ハードテイル>を会得しました』


『ドライザーのアビリティ:<盾突撃シールドブリッツ>がアビリティ:<闘気鎧オーラアーマー>に上書きされました』


『ドライザーのデータが更新されました』


 システムメッセージが鳴り止んですぐに藍大はドライザーのステータスを確かめた。



-----------------------------------------

名前:ドライザー 種族:ドラキオン

性別:なし Lv:75

-----------------------------------------

HP:2,150/2,150

MP:2,150/2,150

STR:2,150

VIT:2,150

DEX:2,050

AGI:1,950

INT:2,050

LUK:1,850

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   掃除屋殺し

   融合モンスター

二つ名:魔王様の警備兵

アビリティ:<武器精通ウエポンマスタリー><魔砲弾マジックシェル><闘気鎧オーラアーマー

      <不撓不屈ネバーギブアップ><全半減オールディバイン

      <魔石吸収コアドレイン><硬化尾鞭ハードテイル

装備:ドラコバヨネット

備考:なし

-----------------------------------------



 (もう陸戦だけの時代じゃないってことか)


 進化前はキャタピラがあったせいで能力値に比べて鈍重そうだったが、キャタピラがなくなったことで黒い竜人型軌道甲冑になればそう思うのも当然だろう。


 背中から生えた翼で空を飛べるようになり、尻尾はアビリティにも使えるようになった。


 これはドライザーの行動制限が解除されたと言うべきである。


「やったなドライザー! めっちゃ強そうじゃん!」


『お褒めいただき恐縮です』


「流暢に喋れるようになったのか!?」


『イェス、ボス』


「そこは変わらないんだな」


『ボスもこういうのはお好きでしょう?』


「お好きでござる」


 このやり取りを見てサクラが自分の胸に藍大の頭を押し当てた。


「主はエッチな従魔の方が好きじゃなかったの!?」


「んん!?」


「主にエッチな従魔の良さを思い出させてみせる!」


『大変だよ! 僕もモフモフの良さを思い出せなきゃ!』


「ア、アタシだって抱き心地良いんだからねっ」


「私だってぴったりフィットです!」


 ドライザーの進化でテンションの上がった藍大を見て、サクラ達は自分達にも構ってほしいと藍大に迫った。


「そこまで~。藍大が窒息しちゃうよ」


 その騒動を納めたのは舞だった。


 サクラ達から藍大を回収した手際はとても洗練されていた。


 救出された藍大は自分がドライザーの進化に気を取られ過ぎたことを反省した。


「舞、助かった。悪かったな。ちょっとはしゃいじゃった」


「私こそごめんなさい」


『ごめんね』


「やり過ぎたの」


「ごめんなさいです」


 稀にではあるが、舞がしっかりしていることもあるらしい。

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