第206話 やっと出番か。さあ吾輩の領地となれ

 7月17日の金曜日、道場ダンジョンの騒ぎからドタバタして1週間が経過した。


 これは藍大達が魔王様信者達と直接の関係がないことの説明に加え、道場ダンジョンを管理するDMUも大忙しだったからだ。


 綿貫重太郎が父親の権力を笠に着て成美達や藍大達に絡んだ結果、綿貫メディア事業部長が引責辞任を表明した。


 事が小さければ金を握らせて火消しをすれば済んだかもしれないが、動画のアップされた掲示板のスレッドがあっという間に炎上し、魔王様信者達が拡散したせいでそれも不可能になった。


 DMUに巣食う老害達は我が身可愛さに綿貫メディア事業部長を斬り捨て、DMU本部長の潤はここぞとばかりに老害達の派閥に与していない人材を新たなメディア事業部長に据えた。


 藍大達は動画を投稿した者が魔王様信者だったため、信者と”魔王”本人に繋がりがないか調査されたのだ。


 もしかすると、藍大が指示を出してDMUの要職に就く者を失脚させたのではないかと疑われる前に身の潔白を証明した。


 それはさておき、今日は藍大達が策定した成美達の育成計画の1回目の効果測定日だ。


「逢魔さん、やりました! 無傷で2階を完全に制覇しました!」


「そうだな。デビルスライムもエンジェルスライムもちゃんと倒せてた。これで3階に進んでも問題ない」


 成美の報告を受けると、藍大は成美達に3階に行く許可を出した。


 今日は午前から藍大パーティーが成美達と同行しており、無傷で突破できたなら3階でも余裕をもって探索できると判断して進む許可を出すことになっていた。


 3人がその基準を達成したため、藍大が3階に進む許可を出した訳だ。


 3人の育成方針は無傷でそのフロアを突破できたら次の階に進ませるというものである。


 成美達は無傷で突破できる自信が付いたら藍大達に監督として同行してもらい、自分達の探索する姿をチェックしてもらう。


 被弾してばっかりなのに次の階に行ける階段が出たからといって進めば、成美達が遠くない内に再起不能になる可能性があった。


 そうならないように念入りに準備をする意味で藍大がこの育成方針を決定した。


「やったぜ! 2階卒業!」


「油断禁物。次はコボルド。もっと素早い」


「わーってるって」


 浮かれているマルオに晃が注意し、マルオは気を引き締めた。


 マルオだってスライムとコボルドではAGIが全然違うことを理解している。


 それゆえ、晃に注意されて落ち着きを取り戻した。


 攻撃はローラに任せるとしても、ローラが攻撃している間に自分が襲撃される可能性がない訳ではない。


 マルオが気をつけなければならないと思うのは当然だろう。


 成美達にここでダンジョンを脱出させ、藍大達は道場ダンジョン8階まで移動した。


 8階は夜の道場に見える内装だが早速ボス部屋の扉があった。


 しかし、今までの道場ダンジョンのボス部屋の扉とは扉の材質が違った。


「これって”ダンジョンマスター”の部屋じゃね?」


「そうかも。ブラドのいる部屋となんとなく雰囲気が似てる」


「主、ここの”ダンジョンマスター”もテイムするの?」


「道場ダンジョンを潰す訳にも行かないからテイムするかな」


 藍大がそう言った時、藍大の頭の中にブラドの声が届いた。


『待たれい主君』


「どうしたブラド?」


『吾輩がいればそこのダンジョンを乗っ取ることも可能だ』


「マジ?」


『マジだ。主君にテイムされてテレパシーもできるようになったおかげで、主君の現在地を特定できるようになった。今の吾輩ならば道場ダンジョンの”ダンジョンマスター”が空席になった時に乗っ取れるぞ』


 (合わせ技でそんなことまでできるとは・・・)


 全く意図していなかったが、ブラド曰く道場ダンジョンを乗っ取れると聞いて藍大には”ダンジョンマスター”を倒す選択肢が増えた。


「わかった。テイムする必要がなければ倒すから、ブラドは俺達が”ダンジョンマスター”を倒したら道場ダンジョンを乗っ取ってくれ」


『心得た』


 気づけばダンジョン間の陣取り合戦になっていた。


 これは藍大にとって完全に予想外である。


「藍大、このダンジョンって乗っ取れるの?」


「ブラドが言うには乗っ取れるってさ。ボスを倒しちゃっても構わないらしい」


「ダンジョンにはまだまだわからないことが多いね」


「それな」


 藍大と舞は話を終えると、サクラ達従魔を連れて”ダンジョンマスター”のいる部屋へと足を踏み入れた。


 その部屋の中には三面六臂の仏像だけがあった。


「阿修羅像か」


「人は何故欲を持つか」


「いきなりなんだ?」


 藍大が”ダンジョンマスター”の正体を見て声を発すると、阿修羅像が藍大に問いを投げかけた。


「答えよ。人は何故欲を持つのか」


「人に限った話じゃない。生物全て欲を持ってるだろ」


「生物は何故欲を持つか」


「極端な話、生きてるから欲が生まれる」


「その通り。だから死ね」


 そう言い終わった瞬間、阿修羅像が一瞬で距離を詰めて藍大に殴りかかった。


「てめえが死ね!」


 舞がカバーリングで藍大と阿修羅像の間に割り込み、雷光を纏わせたミョルニル=レプリカで阿修羅像の攻撃よりも先に殴り飛ばした。


「舞、助かったよ」


「おう。私が警戒しとくから鑑定しときな」


「わかった」


 舞に礼を言ってすぐに藍大はモンスター図鑑を視界に展開した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:アシュラ

性別:雄 Lv:80

-----------------------------------------

HP:900/1,500

MP:1,300/1,400

STR:1,600

VIT:1,200

DEX:1,400

AGI:1,400

INT:0

LUK:1,100

-----------------------------------------

称号:ダンジョンマスター(道場)

アビリティ:<多重思考マルチタスク><加速正拳アクセルストレート><硬化脚刃ハードレッグエッジ

      <怒拳乱打アングリーラッシュ><流水投壊フロークラッシュ

      <闘気鎧オーラアーマー><物理耐性レジストフィジカル

装備:なし

備考:驚愕

-----------------------------------------



 (舞の一撃でHPを600も削ったとかすげえ。アシュラまで驚いてんじゃん)


 藍大は舞の強さを再確認して驚いたが、すぐに気を引き締めて指示を出し始めた。


「メロは罠を設置。サクラとリル、ゴルゴンで追い込め。舞はそのまま護衛を頼む。ゼルは待機」


「「「「『了解!』」」」」


『('◇')ゞ』


 指示を出された者達は早速行動を開始した。


 メロは<停止綿陣ストップフィールド>を展開し、サクラとリルがそこにアシュラを追い込んでいく。


 罠があるとわかって避けようとしても、アシュラが安全だと思う場所に逃げようとすればサクラとリルが連携して逃げ道を塞ぐ。


 したがって、アシュラは罠スレスレの所を避ける羽目になる。


「今ねっ」


 ゴルゴンが狙い澄ましたタイミングで<爆轟眼デトネアイ>を発動すると、爆風の衝撃でダメージを受けつつアシュラは罠に触れてしまう。


「サクラ、とどめだ」


「は~い」


 サクラは<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の刃を創り出し、そのままアシュラの腕と脚と頭部をバラバラに斬り分けた。


『やっと出番か。さあ吾輩の領地ダンジョンとなれ』


 藍大の脳内にブラドの声が響く。


 無事にダンジョンの乗っ取りに成功したらしい。


『サクラがLv96になりました』


『リルがLv95になりました』


『ゲンがLv92になりました』


『ゴルゴンがLv90になりました』


『メロがLv84になりました』


『ゼルがLv56になりました』


『ゼルがLv57になりました』


『ゼルがLv58になりました』


『ゼルがLv59になりました』


『ゼルがLv60になりました』


『おめでとうございます。逢魔藍大が世界で初めて”ダンジョンマスター”を倒しました』


『初回特典として逢魔藍大の従魔全ての各能力値が500ずつ上昇します』


『おめでとうございます。ブラドが道場ダンジョンの権限の奪取に成功しました』


『初回特典としてブラドが今までに消費したDPの9割がブラドにポイントバックされます』


 (リザルト長いわ!)


 藍大は心の中でツッコんだ。


 そんなツッコミは置いといて、”ダンジョンマスター”を倒して喜んでいる舞達を藍大は労った。


『感謝するぞ主君。これでシャングリラダンジョンに新しい階層を増やしてリベンジできるぞ』


「改造すんの!?」


『勿論食べられるモンスターを選ぶから期待してくれ』


 藍大がブラドと話しているのだと察したため、舞がどんな話をしているのか気になって藍大に話しかけた。


「藍大、どうしたの?」


「ブラドがさっき手に入れたDP使ってダンジョンに新しい階層増やすってさ。食べられるモンスターだから期待してくれとも言ってる」


「もうしょうがないなぁブラドったら」


『本当にしょうがないね~』


 食いしん坊ズの顔は新しい食材への期待に満ち溢れていた。


「マスターの新しい料理が食べれそうねっ」


「それは楽しみです」


 幼女コンビも倒した後の料理を楽しみにしているようだ。


 やれやれと藍大が思っていると、サクラがポンポンと優しく肩を叩いた。


「大丈夫。主は私達が守るから」


「そうだな。頼りにしてる」


 サクラもそう言いつつ興味があるようなので、藍大は仕方ないとブラドのシャングリラダンジョン改造を認めた。


 ついでにアシュラを倒した魔石はブラドに与えることになった。


 同じ”ダンジョンマスター”同士ならば魔石を与えることでブラドが強くなるかもしれないからである。


 その後、藍大達はダンジョンから脱出してシャングリラに帰った。


 昼食後に藍大から今日の戦果を受け、茂が胃薬と友達になったことは言うまでもない。

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