第204話 主の一番は渡さない

 スケルトンジェネラルの戦利品を回収し終えた後、ゼルがプルプルと震えて藍大の前で自分の存在をアピールした。


「進化したいのか?」


『(*´・∀・*)ヨロシクオネガイシマス』


 進化したいようだ。


「わかった。進化だ」


 藍大が視界に映るモンスター図鑑の進化可能の文字に触れた直後、ゼルの体が光に包まれてその中でゼルのシルエットに変化が生じた。


 今までは翼が生えている以外まんまるなクッションのようなフォルムだったが、その形が人型のちびキャラのようになった。


 ただし、背中から翼が生えている以上ただの人であるはずがない。


 光が収まると、藍大達の前に半透明な紫色のちびキャラ堕天使が現れた。


 顔にはフォールンスライムと同じでくりくりとした目と口があるが、スライムらしさは形のせいで減っている。


『ゼルがフォールンスライムからネフィリムに進化しました』


『ゼルがアビリティ:<闇刃ダークエッジ>を会得しました』


『ゼルのデータが更新されました』


 藍大はゼルの進化が完了した後、続けてスケルトンダブルとスケルトンジェネラルの魔石をゼルに与えた。


『ゼルのアビリティ:<闇刃ダークエッジ>がアビリティ:<暗黒刃ダークネスエッジ>に上書きされました』


『ゼルのアビリティ:<魔力壁マジックウォール>がアビリティ:<魔力半球マジックドーム>に上書きされました』


「サクラだけじゃなくて舞の役割もカバーできそうだな」


『☆ミ(>ω∂)テヘ』


 システムメッセージが告げたゼルの新しいアビリティを知り、藍大はよしよしとゼルの頭を撫でた。


 ゼルは照れ臭そうに応じてみせた。


「ゼルってば良い子だよ!」


『((((;゜Д゜)))ガクブル』


 ゼルが自分の妊娠した時に備えてその穴を埋められるようになったとわかると、舞はゼルをギュッと抱き締めた。


 舞の非常識な力を目の当たりにしていたため、ゼルは舞に抱き締められたことに怯えている。


 <全半減オールディバイン>さえあれば舞が抱き着いても問題ないだろうと判断し、藍大は進化したゼルのステータスを確認し始めた。



-----------------------------------------

名前:ゼル 種族:ネフィリム

性別:なし Lv:50

-----------------------------------------

HP:1,250/1,250

MP:1,500/1,500

STR:0

VIT:1,250

DEX:1,250

AGI:1,250

INT:1,500

LUK:1,250

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   掃除屋殺し

   融合モンスター

アビリティ:<中級回復ミドルヒール><暗黒砲弾ダークネスシェル><全半減オールディバイン

      <魔力半球マジックドーム><収縮シュリンク><暗黒刃ダークネスエッジ

装備:なし

備考:焦り

-----------------------------------------



 (舞に抱きしめられてダメージが入るかもって焦ったのか・・・)


 備考欄にある焦りの文字を見て、藍大はゼルの心境をすぐに察することができた。


 舞も最近では多少なりとも力加減ができるようになった。


 そうでもなければ、夜に藍大を力一杯抱き締めて大変なことになってしまっただろう。


 もっとも、もしも藍大がダメージを負えばすぐにサクラが<超級回復エクストラヒール>をかけてどうにかするのだが。


 藍大がネフィリムになったゼルのステータスチェックを終えると、ゼルは脱出を諦めておとなしく舞に抱き締められていた。


 舞のハグでダメージを受けないとわかったから精神的に余裕が生まれたようだ。


「さて、6階は思ったより早く攻略できたから7階に行ってみる?」


「行こう!」


「私も行くのに賛成」


『僕も行ってみたい』


「アタシも行きたいわねっ」


「このまま行くです」


『(^_^)v』


 ゲンは黙秘による肯定なので満場一致で藍大達はこのまま7階に移動した。


 7階も内装は道場だったのだが、6階までと異なって夜の道場と呼ぶべき暗さだった。


「暗いね~」


「ゴルゴン、明かりを出してくれないか?」


「任せなさいっ」


 ゴルゴンは藍大に頼まれて<火炎支配フレイムイズマイン>で火の玉をいくつも作り、等間隔に通路の両脇の松明のように配置した。


 それによって藍大達の視界が確保できた訳だが、その灯りのおかげで仮面を被った黒い毛むくじゃらのモンスターが奇襲に失敗したと判断して慌てて攻撃に移った。


 そのモンスターは四足歩行でゴリラのように見えなくもない。


 ところが、ゴリラにはない顔の仮面は真っ白でニタァっと笑っているものであり、そのモンスターの頭からは短い角が2本生えていたことからゴリラではないだろう。


 リルは自分達に駆け寄って来るモンスターの臭いが嫌いなのか、これ以上近付いてほしくないと態度で示した。


「アォォォォォン!」


 リルが<聖咆哮ホーリーロア>を発動した途端、そのモンスターは後ろに吹き飛ぶどころかナメクジに塩をかけた時のように体が縮んだ。


 藍大はその隙にモンスター図鑑を視界に展開して目の前の敵の正体を調べ終えた。


 (レッサーデーモンLv61。悪魔だからリルの聖なる力が苦手ってことか)


 リルはレッサーデーモンが弱っているのを見て追撃を仕掛けた。


『臭いから消えちゃえ!』


 今度は<聖狼爪ホーリーネイル>を放つと、レッサーデーモンにその攻撃が直撃した。


 レッサーデーモンの体は聖なる力を受け付けないようで、魔石だけを残して跡形もなく消えてしまった。


『不浄な存在は赦さないよ』


「流石は神狼。頼りになるじゃん」


「クゥ~ン♪」


 藍大に顎の下を撫でられてリルは嬉しそうに鳴いた。


 道場ダンジョンではゼルを優先していたこともあり、リルは藍大に構ってもらえて喜んでいる。


 そして、7階ではこの後リルが大活躍することになる。


 7階も一本道なので藍大達は通路を真っ直ぐと進む訳だが、リルの<聖咆哮ホーリーロア>の影響でレッサーデーモンが全然藍大達に近づけないのだ。


 逃げ出せば<聖狼爪ホーリーネイル>の餌食になり、戦おうとしても実力差があり過ぎて瞬殺されてしまう。


 レッサーデーモンは襲撃と逃走のどちらを選択しても一方的に倒され続ける運命なのだろう。


 そんな時、レッサーデーモンと同じ白い仮面を装備している人型のモンスターが現れた。


 そのモンスターは毛むくじゃらではなく闇を纏っており、背中からは蝙蝠の翼が生えていた。


 (今度はデーモンLv65。レッサーが取れたら人型になるとはね)


 デーモンの姿が見えた瞬間、藍大はすぐにモンスター図鑑でデーモンについて調べていた。


 仮面でその表情は見えないものの、藍大はデーモンの備考欄に畏怖の文字があるのを見逃さなかった。


 デーモンはレッサーデーモン程ではないがリルを恐れているのだ。


「リルさん、やっておしまい」


『うん!』


 藍大の指示に頷いた直後に<光速瞬身ライトムーブ>で背後を取ると、リルはデーモンの背後から<聖狼爪ホーリーネイル>を放って命中させた。


 デーモンはリルの動きを目で追えなかったため、あっさりとその攻撃を喰らって切断面から融けるようにして魔石だけ残して消えた。


「どうしよう、完全に私達の出番がないよ~」


「主へのアピールチャンスがないのは残念」


「ア、アタシは灯り役があるからアピールしてるわっ」


「私は何もできてないです」


『(;´・ω・)』


 舞とリル以外の従魔達は出番がないことに焦りを感じていた。


 7階はリル向きなだけで舞達が戦えない訳ではない。


 藍大はその焦りに気づいてパーティー全員に提案した。


「よし、わかった。ここから先は早い者勝ちにする。道場ダンジョンを消滅させない限りなんでもありでどうだろう? 一番多く倒した者が昼飯のメニューのリクエスト権をゲットってことで」


「絶対に負けられない戦いがそこにある」


『僕がリクエストするんだ!』


「主の一番は渡さない」


「アタシを忘れちゃ困るんだからねっ」


「私も狙撃しまくるです」


『ヾ(・ω・`;)ノぁゎゎ』


 食いしん坊ズを中心に気合が入ったらしく、その熱気に新入りのゼルがどうしたものかと慌てていた。


 ネフィリムに進化したとしても、ゼルのレベルは50でしかないからだ。


「準備は良いか? よーいドン!」


 その瞬間、一筋の光線がサクラから放たれて時々何かにぶつかった音が遅れて藍大達の耳に届いた。


『サクラがLv95になりました』


『リルがLv94になりました』


『ゲンがLv91になりました』


『ゴルゴンがLv89になりました』


『メロがLv83になりました』


『ゼルがLv51になりました』


『ゼルがLv52になりました』


『ゼルがLv53になりました』


『ゼルがLv54になりました』


『ゼルがLv55になりました』


 (サクラ、幸運光線ラッキーレーザーを使ったのか・・・)


 今いる場所から7階の端まで届いた一筋の光線はサクラの<幸運光線ラッキーレーザー>だった。


 レベルアップのシステムメッセージが藍大の耳に届いたということは、射線上にいた全てのモンスターを倒したということになる。


 その中には”掃除屋”やフロアボスもいただろう。


 そうじゃなければサクラ達がレベルアップするなんて考えにくい。


「主、私が一番だよね?」


「うん、文句なしでサクラが1位だ。おめでとう!」


 ここまで圧倒的な差を見せつけられれば、接戦で判定勝ちなんてことはまずあり得ない。


 藍大はサクラの腕を掴んで上げ、サクラが勝ったことを認めた。


 これには他のメンバーも抗議できない。


 実際、藍大達が魔石を回収しながら進んでいくと”掃除屋”とフロアボスのものらしき死体が転がっていた。


 ボス部屋に至っては円形に扉が貫かれていたのが衝撃的だった。


 LUK11万超えのサクラの<幸運光線ラッキーレーザー>は貫通力に長けた一撃必殺だと改めて証明された。


 余談だが、魔石の主は”掃除屋”がデーモンノーブルでフロアボスがアークデーモンだった。


 リルの攻撃とは別の意味で魔石以外何も残らなかったのは最低限の縛りで早い者勝ちのレースを企画した藍大が悪い。


 手に入った魔石はゼルが進化してひと段落したので、ドライザーに与えることが決まった。


 8階に繋がる階段はあったが、そろそろ昼が近いので藍大達は道場ダンジョンを脱出した。

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