第200話 今日は舞がいつもより賢く見えるわねっ

 5階に上がると、藍大達を岩でできた巨兵が待ち構えていた。


「ストーンゴーレム!? 日本にもいたんだ!」


 真っ先に反応したのは舞だった。


 舞は探索に関わりそうな情報を調べることに余念がないから、既存のモンスターならば外国でしか発見されていないモンスターでもすぐにわかった。


 ストーンゴーレムは舞が大きな声を出した時には両腕を組んで振り下ろし始めていた。


『(ー_ー)!!』


 ゼルは<魔力壁マジックウォール>でストーンゴーレムの攻撃を防いだ。


 すると、る気スイッチの入った舞がゼルに声をかけた。


「ゼル、今から私が倒し方を見せてやる! よく見とけ!」


『('◇')ゞ』


 舞から感じるオーラが荒々しくなった瞬間、ゼルはこの人には逆らっちゃいけないと本能的に察して敬礼する顔文字で応じた。


「喰らえ!」


 舞はアダマントシールドを投げ、ストーンゴーレムの右肩に彫られていたemethのeの文字に命中させた。


 とはいえ、アダマンタイトとただの石では前者の方が硬いのは当然だ。


 その上、舞の腕力で投げられたことでアダマントシールドはeの文字を削り取るどころか右肩ごと破壊してしまい、eの文字が機能しなくなったことでストーンゴーレムの体が自壊した時に既に粉々になっていた。


「わかった? これがストーンゴーレムの倒し方だよ~」


『( ..)φメモメモ』


 (ただのゴリ押しだとメモしてないように祈ってるぞ)


 舞の倒し方がゼルの参考になっているのか怪しかったため、藍大は心の中でどうか正しい倒し方をしっかりと理解していてくれと祈った。


 だが、そんな藍大の心配は杞憂に終わった。


 次に現れたストーンゴーレムに対し、ゼルはしっかりと<闇砲弾ダークシェル>で右肩のeの文字を狙い撃っていた。


 eの文字が消滅した直後、ストーンゴーレムの体も崩壊してただの瓦礫と化した。


「今更ながら道場にストーンゴーレムって違和感あるな」


「それは言わないお約束じゃないかな」


 藍大のコメントに舞は苦笑しながら応じる。


 舞も藍大と同様の意見らしいが、言っても仕方のないことだと割り切っているようだ。


 その後も何度かストーンゴーレムを倒した後、別種のゴーレムが藍大達の前に姿を現した。


「アイアンゴーレムだね」


「今日は舞がいつもより賢く見えるわねっ」


「きっと今日だけです」


「藍大~、ゴルゴンちゃんとメロちゃんが酷いよ~」


「よしよし。俺はいつも舞を頼りにしてるぞ」


 幼女コンビの容赦ない言葉に傷ついた舞に対し、藍大は舞を抱き締めながら励ました。


『ご主人、ゼルがあたふたしてるよ?』


「きっとemethの文字がないからどう倒すのか困ってるのよ」


『(;_;)』


 そうなんですと言わんばかりにゼルが顔文字で弱ったとアピールし、藍大に抱き締められて機嫌が直った舞を見て先生どうやって倒せば良いんですかと目で訴えた。


「ゼル、あれはゴリ押しで倒すんだよ。ストーンゴーレムみたいな弱点はないから」


『ショボ――(´・ω・`)――ン』


 落ち込むゼルを見て藍大は本当にそうなのか気になってモンスター図鑑を視界に展開した。


 (なるほど。鉄でできてるから高温で熔かせば良いのか)


 アイアンゴーレムの弱点がわかると、藍大はゴルゴンの方を向いた。


「ゴルゴン、アイアンゴーレムは高温に弱いってさ」


「私の出番なのねっ」


 ゼルばかり戦っていて飽きていたこともあり、藍大から指名が入ってゴルゴンのテンションが上がった。


 そして、<火炎支配フレイムイズマイン>を発動して蛇を模った炎を創り出し、それがアイアンゴーレムを丸吞みにした。


 高温の炎の中でアイアンゴーレムはドロドロに熔けてしまい、ゴルゴンが<火炎支配フレイムイズマイン>を解除した時には原形を留めていなかった。


 炎が消えたらその中からゴルゴンによく似た姿の像が現れたので、藍大はゴルゴンにツッコまずにはいられなかった。


「ゴルゴン、何やってんの?」


「余裕があったから自分の像に変形させてみたわっ」


「良いな~。私も作って~」


「私も。できれば主と並んでる像が良い」


『僕も欲しい』


「私も作って下さいです」


『(;´・ω・)』


 藍大はゼルが自分には真似できなさそうだと困惑しているのを見て、やらなくて良いんだと言う気持ちを込めてその頭を撫でた。


 それから先、ストーンゴーレムの代わりにアイアンゴーレムばかり現れてしばらくはゴルゴンの独壇場となった。


 ゼルはパーティーメンバーの像が次々に作られるのを見ているしかなかった。


 ちなみに、全員分の像が完成した時にはゼルのレベルが2つ上がっていた。


 そんな時だった。


 ダンジョンの天井から水がぽたりぽたりと垂れ、藍大達の正面に水でできたゴーレムの姿へと変わった。


 (ウォーターゴーレムLv55。硬さはないが柔軟で物理攻撃の効かない”掃除屋”か)


 藍大は既にモンスター図鑑で敵の正体を調べており、その弱点も明らかだったのでリルに声をかけた。


「リル、<碧雷嵐サンダーストーム>よろしく」


『うん!』


 リルが発生させた雷を帯びた嵐に触れた瞬間、ウォーターゴーレムはバチンと音を立てて消し飛んだ。


『ゼルがLv43になりました』


『ゼルがLv44になりました』


『ゼルがLv45になりました』


『ゼルが称号”掃除屋殺し”を会得しました』


 魔石だけ残して跡形もなく消えたため、藍大はウォーターゴーレムの魔石をそのままゼルに与えた。


 それを呑み込んだことでゼルの体が一回り大きくなって人を駄目にするビーズクッションサイズになった。


『ゼルのアビリティ:<物理半減フィジカルディバイン>とアビリティ:<魔法半減マジックディバイン>がアビリティ:<全半減オールディバイン>に統合されました』


『ゼルがアビリティ:<収縮シュリンク>を会得しました』


 システムメッセージが鳴り止んだ直後、ゼルはすぐに<収縮シュリンク>を発動してサッカーボール大のサイズまで体を小さくした。


『▽・ェ・▽ノ』


「ペット枠狙ってるのか?」


『ご主人様のペット枠は僕のものだよ!』


 リルもゼルに負けじと小さくなり、藍大の肩に飛び乗って甘えた。


 仮にもフェンリルがペット枠を欲しがるとはどういうことだろうか。


 いや、リルはそんなことよりも藍大に構ってもらえることを重要視しているから従魔とかペットとかの表現に拘りはないのかもしれない。


 小さいリルに甘えられて可愛いと思ってしまい、藍大はリルのモフモフをしばらく堪能した。


「可愛い~! リル君可愛い~! 藍大、次は私ね!」


 可愛い物好きに火が付いたらしく、舞が藍大に次は自分の番だと言ってソワソワしたのはゼル以外全員が容易に想像できた。


 リルもすっかり舞に怯えなくなっていたので、藍大はリルが嫌がったら離すようにと条件を付けて舞にリルを受け渡した。


『(*´Д`)=3ハァ・・・』


「まあペット枠はさておき、スライムらしくサイズ自在で打たれ強くなれて良かったじゃないか」


 新しいアビリティを会得したのは自分のはずなのに、ちやほやされるのがリルであることにゼルは落ち込んでいた。


 そんなゼルを見てまあまあと藍大は慰めた。


 舞が満足してから探索を再開し、藍大達はボス部屋へと到達した。


 ボス部屋の扉を開けて中に入ると、そこには炎で構成されたゴーレムがいた。


『主さん・・・俺・・・やる・・・』


 5階のフロアボスが自分と相性の良い敵だと判断し、ゲンがやる気を出した。


「許可する」


 藍大もゲンがやる気になったところに水を差したくないから許可を出した。


 モンスター図鑑を視界に展開した結果、敵はフレイムゴーレムLv50だったからゲンが楽して自分の存在感をアピールできると考えて出て来たことも承知済みである。


「どーん」


 やる気のない掛け声と共に<水支配ウォーターイズマイン>で強烈な水鉄砲を発射し、ゲンはあっさりとフレイムゴーレムを鎮火して倒してみせた。


『ゼルがLv46になりました』


 見せ場をゲンに持っていかれたゼルは驚きを隠せなかった。


『ナニ━━(;゚Д゚);゚Д゚);゚Д゚);゚Д゚)━━イィッ!!!』


「ドヤァ」


 ゲンはそれだけ言って<上級鎧化ハイアーマーアウト>で藍大の装備に憑依してしまった。


 本当にマイペースな奴である。


 驚いて固まってしまったゼルに対し、藍大はごめんなと頭を撫でてから魔石を与えた。


 ゼルも自由に振舞うには力が必要だと悟り、藍大から与えられた魔石をパクリと飲み込んだ。


『ゼルのアビリティ:<闇砲弾ダークシェル>がアビリティ:<暗黒砲弾ダークネスシェル>に上書きされました』


 ゼルのパワーアップが済むと、6階に行くには昼までの時間が残り僅かとなっていたから今日の道場ダンジョンの探索はここまでとなった。


 午後はシャングリラの警備をするドライザーがゼルと模擬戦をしており、ゼルが努力家であることが”楽園の守り人”のメンバーに知れ渡った。


 パンドラとリュカがうかうかしていたらヤバいと思ってダンジョン探索に気合を入れ直したから、ゼルが藍大パーティーに加入したことは”楽園の守り人”にとって良い刺激になったのは言うまでもない。

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