第198話 君のような勘の良い幼馴染は嫌いだよ

 藍大が電話をかけてすぐに茂が出た。


『これはこれは国民栄誉賞の藍大君じゃないか』


「これはこれは俺達をサプライズとか言って板垣総理と会わせた茂君じゃないか」


『・・・このやり取りは不毛だな。よし、本題に入ってくれ。何をやらかした?』


「おいこらちょっと待て。やらかした前提の本題ってなんだよ?」


『今から藍大が俺に話す内容のことだが違うのか?』


「君のような勘の良い幼馴染は嫌いだよ」


『はいはい。で、どうした?』


 藍大が何かやらかしたと察する勘の良さは流石幼馴染と言える。


「新しいダンジョン見つけた。シャングリラから1kmぐらい離れた所にある少林寺拳法の道場だった場所だ。西尾道場ってとこだがわかるか?」


『ちょっと検索する。・・・ここか。大地震で経営難になって潰れた道場じゃんか。どうやって見つけたんだ?』


「リルと朝駆けに出た帰りにリルが見つけた」


『リルさんの嗅覚マジパねえっす』


 思わず茂が三下口調になるぐらいリルの嗅覚はすごいようだ。


「そのダンジョンを3階ぐらい探索してみたんだが、新種のモンスターが10体ぐらい見つかった」


『おいおいおいおい。冗談じゃないぞ。そのダンジョンに出て来るモンスターってレアモンスターなのか?』


「さあな。でも、モンスター図鑑じゃ今まで見つかってなかっただけでシャングリラダンジョン程レアじゃなさそうだった。あっ、1階のボスはツチノコだったけど」


『それは十分レアじゃね? お前ツチノコさんだぞ?』


「茂ってUMAとか好きだっけか?」


『別に取り立てて好きじゃねえけどツチノコ発見はすごいだろ。ロマンがあるじゃん』


 食べられるかどうかの心配をしていた舞との茂の差を考慮すると、後者と同意見の者の方が多いのではなかろうか。


「それもそうか。まあ、簡単に説明すると1階がウィードを冠するモンスターで草を体から生やしたモンスターが出て来る。2階は各種スライムで3階は各種コボルドが現れた」


『新種のスライムと新種のコボルドもいた訳だ』


「当然。ちなみに2階の”掃除屋”とフロアボスをテイムして融合した。後でデータは送る」


『お前、今日も少しも自重してねえな。今度はどんな勲章をお望み? データはありがたい』


 茂は新しいダンジョンの発見というスクープを得て喜んでいるものの、報告資料の作成をしなければならないので頭を抱えた。


 無論、他の冒険者だともっと情報が雑でまとまっていないから藍大からまとまった情報を貰えるだけ感謝しているのだが。


「ここまでは報告だった。後は俺からの提案だが聞く気はあるか?」


『聞かせてくれ』


「この道場ダンジョン、クランに所属してない冒険者向けにしたらどうだ?」


『と言うと?』


「俺も他所のダンジョンを数多く回った訳じゃないから詳しくないが、1階で雑魚モブのレベルが5でフロアボスがLv10って良心的じゃね?」


『そうだな。場所によっちゃ1階から雑魚モブがLv20とかLv30なんてダンジョンもある』


「だろ? しかも、ここは見つかったばかりだ。今は大抵どこのダンジョンもどこかしらのクランの縄張りになっちゃってるし、クランに入ってない冒険者ってまともに探索経験積めてないんじゃね?」


 藍大の意見は今の日本、いや世界の冒険者の現状をズバッと指摘していた。


 大地震によってダンジョンが発生してから半年、冒険者達の勢力争いもかなり落ち着いている。


 大きく分けて大手クラン、中堅中小クラン、無所属の括りである。


 大手クランは縄張りとするダンジョンの探索で着々と力をつけており、三つ巴ないし四つ巴の競い合いになっている。


 四つ巴と表現したのは”楽園の守り人”は構成人数だけで言えば中堅中小クランだが、実力は三原色のクランと同じく大手クランなのでひとまず大手クランの扱いにしたからだ。


 そうは言っても、成長性と実力では”楽園の守り人”が三原色クランを華麗に抜き去ってしまっているが今はそれを置いておこう。


 中堅中小クランは大手一歩手前の規模のクランならば縄張りのダンジョンを持っており、それ未満だと同規模のクランと提携して共同でダンジョンを縄張りとしている。


 では、無所属の冒険者達であればどうだろうか。


 縄張りのダンジョンなんてあるはずがない。


 勿論、無所属でも柳美海戦う料理人みたいに名の知られた冒険者ならば、縄張りがなくたって自分で活動拠点を決めて時には支援を受けながら探索している。


 しかしながら、無所属無名の冒険者では大した支援も得られず満足にダンジョンを探索することもできない。


 そこで藍大の提案が魅力的に聞こえるということだ。


 まともに探索ができずに燻っている無所属の冒険者達への救済手段として、道場ダンジョンを使ってはどうかと考えたのである。


『大変興味深いな。藍大はDMUにダンジョンの管理を任せてくれるのか? ”楽園の守り人”の縄張りにする選択肢もあるんだぞ? お前達の実力ならスタンピードが起こる心配もないし託しても構わないと思うが』


「俺達が管理するには人員が足りないから、DMUに買い取ってもらって4階より上の調査とか考慮して俺達と俺が推薦するパーティーが探索する権利を貰いたい」


『なるほど。その辺が妥当か。わかった。俺から本部長に話を通しとく』


「いつも悪いな。解析班の領分を超えてるってのに。いや、今月からは良いんだっけ?」


『問題ない。俺は本部長直轄の”楽園の守り人”係の係長に異動したから。鑑定に職人班への繋ぎ、各種報告までなんでも受け付けるようになった。権限も各班の班長程度まで引き上げられた異例の出世だぜ』


 茂の出世を一般企業レベルで例えるならば、新卒1年目が課長になったというところだ。


 父親のコネだけの七光りだったとしたら、その人事に文句が出るかもしれない。


 だが、茂は解析班で他の班員の2倍は仕事をしている上、”楽園の守り人”とDMUの繋ぎもしていたとあれば納得できる。


 一部茂を妬んでいる者達は文句を言っているが、自分の実力や勤務態度を棚上げしているのでそれはノーカウントとする。


「給料どんぐらいUPしたんだ?」


『お前の稼ぎには負けるから言いたくねえ。ただ、2,3年働けば千春さんと余裕で結婚できるぐらいの蓄えはできそうだ』


「ほう、千春さんと結婚する覚悟を決めたのか」


『不誠実な付き合いなんざしねえよ。付き合うんなら結婚が前提だっての。つーか、千春さんの方が結婚に意欲的だぞ。来月が千春さんの誕生日らしいが、事あるごとに婚約指輪を強請られてる』


「ようこそこちら側へ」


『誰目線だよ』


「妻帯者目線だ」


『なるほど』


 同い年でも藍大は結婚について茂よりも先輩なのだ。


 そう考えれば藍大の言い分に茂も納得できた。


「それはさておき、すぐに人を派遣してくれないか? 俺達がシャングリラに帰る前に見張りがいた方が良いだろ?」


『そうだな。この電話が終わったらすぐに人を寄越すから少しだけ待っててくれ』


「なる早で頼む。もうすぐ昼時で食いしん坊ズがお腹を空かせて待ってる」


『了解。それじゃな』


 通話が終わった。


「藍大~、お腹空いた~」


『ご主人~、お腹減ったよ~』


 既に食いしん坊ズはお腹がペコペコのようだ。


「仕方ない。まだおにぎりのストックがあったはずだ」


 藍大はそう言って収納リュックから全員に行き渡るように大きなおにぎりを取り出して渡した。


「手洗いうがいの代わりはこれで良いよね」


 サクラが<浄化クリーン>を発動した直後、舞とリルは即座におにぎりを食べ始めた。


「いただきま~す」


『いただきます!』


 ワンテンポ遅れて藍大達もおにぎりを食べ始めた。


 おにぎりの具材は地下6階で大量に手に入ったダマトリスの唐揚げである。


「『おかわり!』」


「食べるの早っ!?」


「私達がこれだけで足りると思ったら大間違いだよ」


『ご主人は僕達の食欲をわかってるよね?』


「わかってるけどこれ以上は駄目」


「な、なんで~?」


『ご主人~』


「ここでがっつり食べたら昼にウィードツッチーを食べられなくなるぞ?」


「『我慢する』」


「よろしい」


 お腹は空いているがウィードツッチーの味が気になるらしく、舞もリルも我慢することを選んだ。


 その30分後、DMUから派遣された者達がやって来て道場ダンジョンの見張りを引き継いだ。


 食いしん坊ズを空腹のまま待たせていた分、今日の昼食は気持ち多めに作ろうと思う藍大はやはり家族に甘いのかもしれない。

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