第197話 ウチの従魔達って上下関係しっかりしてるよな

 舞達の気が済むまで家族の輪を続けた後、藍大はゼルにウィードツッチーとウィードマネキンの魔石を与え忘れていたことに気づいた。


「ゼル」


 ポヨンと体を傾けて何か用事かとゼルが振り返る。


「魔石の時間だ」


 ゼルは嬉しそうにポヨポヨと体を揺らしながら藍大の傍にやって来た。


 魔石を呑み込んだ直後、ゼルの体がほんの少しだけ大きくなった。


『ゼルのアビリティ:<闇矢ダークアロー>がアビリティ:<闇槍ダークランス>に上書きされました』


『ゼルのアビリティ:<回復ヒール>がアビリティ:<中級回復ミドルヒール>に上書きされました』


「アビリティが上位互換されたみたいだな」


『('◇')ゞ』


「顔文字!? まさか今の魔石で顔文字を使えるようになったのか?」


『(^_^)v』


「その方向性で成長するとは思ってなかった」


 藍大は衝撃を受けた。


 舞達も驚き過ぎて声すら出ていない。


 ゼルの顔の表示が切り替わって顔文字が表記されたら驚かないはずがない。


 とりあえず、ゼルの感情は顔面に表示される顔文字で判断することが決まった。


 時間はまだ午前10時を回ったところだったので、藍大達はダンジョン3階にも足を運んだ。


 3階も1階や2階と同じ内装のままで、そこに現れたのはコボルドだった。


 モンスター図鑑によれば、コボルドが出没するのは日本で関東だけらしい。


 ゴブリンならば東日本のどこにでも現れるようだが、コボルドの出没する地域はゴブリンと比べると狭い。


 コボルドは現在4種類だけ発見されている。


 まずは通常のコボルド。


 一番数が多く見つかっている二足歩行の犬と鬼が混ざったような存在であり、片手剣を持つのがデフォルトとされている。


 次にコボルドアーチャー。


 弓を持ったコボルドである。


 続いてコボルドエリート。


 コボルドよりもすらっとしており、ライカンスロープにかなり近い見た目をしている。


 最後にコボルドキング。


 キングになると体がムキムキになり、大剣を得物として力で敵を捻じ伏せるようになる。


 そんな各種コボルドの弱点だが、それは臭いの強い物である。


 しかし、味方にも嗅覚に優れたリルがいるのでそれは使えない。


 コボルドが鼻を塞ぎたくなるような臭いがする物を使えば、間違いなくリルにも不快な思いをさせてしまう。


 そんな事態は避けねばなるまい。


「よし、ゼルをどんどん鍛えるぞ。ゼル、コボルドを見つけたらガンガン攻撃だ」


『( ..)φメモメモ』


 メモする腕も筆記用具もないというのにゼルはどうするつもりなのだろうか。


 それはさておき、ゼルはコボルドを見つけては<闇槍ダークランス>で眉間を貫いていった。


『ゼルがLv26になりました』


『ゼルがLv27になりました』


『ゼルがLv28になりました』


『ゼルがLv29になりました』


『ゼルがLv30になりました』


『ゼルがアビリティ:<魔力盾マジックシールド>を会得しました』


「レベルが低いと成長が早いな」


『( ̄▽ ̄)』


 ゼルがそうですよねと言わんばかりの顔文字で応じるが、本当にわかっているのかは怪しい。


 複数回の戦闘を終え、藍大達は既存のコボルド以外にも複数種類の派生種を確認した。


 まずはコボルドシーフ。


 気配を消して敵の死角から短剣で攻撃するのを好み、黒っぽい皮鎧を身に着けている。


 それからコボルドバーバリアン。


 二足歩行と四足歩行のどちらでも自由に動き、己の爪や牙を武器とする野性味溢れるコボルドだ。


 いずれもLv21~25のレベル帯であり、必ず複数体でやって来るからゼルの経験値稼ぎが捗っている。


『ご主人、向こうから何か来る』


「”掃除屋”かな」


『多分ね』


 リルが断定できない何かが来たことに加え、各種コボルドを倒した数からそろそろ”掃除屋”が現れるだろうと藍大は経験則から読んでいた。


 通路の反対側から杖を持ち三角帽子を身に着けたコボルドが現れた。


 (コボルドメイジLv35。ステータス的にはゼルだけでも十分倒せそうだ)


 藍大はモンスター図鑑を視界に展開して鑑定した結果、そのように判断するに至った。


「アォン!」


 コボルドメイジは出会い頭に<火球ファイアーボール>を放ってみせた。


『(-_-)/~~~ピシー!ピシー!』


 ゼルはワンテンポ遅れたものの<闇槍ダークアロー>で迎撃した。


 INTが互角ならば相殺による衝撃を受けたかもしれないが、ゼルの方がINTの数値は上だった。


 それゆえ、ゼルが放った闇の槍があっさりと火の球を消したままコボルドメイジに命中した。


「アォン!?」


 自分の攻撃が威力負けしてダメージを負い、コボルドメイジは初めて自身が不利であると悟った。


『(ー_ー)!!』


 もう遅いと言わんばかりにゼルが<闇槍ダークランス>を連射し、怖気づいたコボルドメイジに命中した。


 一撃で倒せなくとも数撃てばHPは削り切れてコボルドメイジは床の上に倒れた。


『ゼルがLv31になりました』


『ゼルがLv32になりました』


 戦闘が終わると、ゼルは戦闘終了しましたと言わんばかりに藍大の前でペコリと頭を下げた。


「お疲れ様。レベルだけなら格上の相手も倒せて良かった」


『<m(__)m>』


 藍大の労いに感謝した後、ゼルはサクラ達先輩従魔の意見を伺うべくポヨポヨしながら近づいた。


「まだまだ無駄が多い」


『スピードが速い相手は行動を予測すると良いよ』


「繊細なコントロールが求められるわっ」


「ゼル、もっと集中です」


『('◇')ゞ』


 (ウチの従魔達って上下関係しっかりしてるよな)


 その様子を見て藍大はそんな感想を抱いた。


 コボルドメイジから魔石を取り出すと、藍大はそれをゼルに与えた。


 その直後、ゼルの体の光が僅かばかり輝きを増した。


『ゼルのアビリティ:<物理耐性レジストフィジカル>がアビリティ:<物理半減フィジカルディバイン>に上書きされました』


 ゼルのパワーアップが終わると、リルが藍大に話しかけた。


『ご主人、あっちの壁の向こうに何かあるよ』


「ということは私の出番だよね?」


 リルの言葉を聞き、舞はミョルニル=レプリカを持ってとても良い笑顔で会話に加わった。


 どうやらずっとゼルの戦いを見ているだけで退屈していたらしい。


「じゃあ舞先生の実力を新入りに見せてやって下さい」


「おう! 任せとけ!」


『|д゚)』


 急に舞の口調が変わるものだから、ゼルはその異変に何かヤバいことが起ころうとしていると本能的に悟ったようだ。


 舞はそんなゼルを放置したままミョルニル=レプリカに雷光を纏わせる。


「ぶっ壊す! YEAH!」


 リルが示した方角にある壁に向かい、舞の渾身の一撃が放たれた。


 強烈な破壊音と共に壁があった場所には隠し通路が現れた。


『(;゚Д゚)』


 ゼルはダンジョンの壁って壊せるんですかそうですかと衝撃を受けている。


 (俺も昔はそっち側だったよ。もう慣れたけどな)


 ゼルの反応に懐かしい気持ちを抱いたが、それはそれとして藍大は舞を労った。


「お疲れ様。スッキリした?」


「うん! 良い運動になったよ!」


『( ..)φメモメモ』


 ゼルの中で舞に対する評価が書き換えられているに違いない。


 隠し通路を進んで宝箱の所まで移動すると、今度はサクラの番である。


「サクラ先生、今日もお願いします」


「くるしゅうない」


 LUK10万超えのサクラが掴み取ったのは紫色の液体の入った丸底フラスコだった。


 サクラが持ったままの状態で藍大がモンスター図鑑を視界に展開すると、その液体が3級ポーションであることが発覚した。


「サクラ、3級ポーションだったよ。流石だな」


「エヘヘ♪」


 藍大に褒められて頬を赤らめるサクラを見て、ゼルは驚き過ぎて顔文字すら出せなかった。


 自分はとんでもない人達のパーティーに加わったのだと改めて自覚したのだろう。


 その後、ボス部屋にいたコボルドディフェンダーに対してゼルは自分だってやれるんだと力の限り<闇槍ダークランス>を放って倒した。


 決まり手はゴリ押しである。


『ゼルがLv33になりました』


 藍大から本日3個目の魔石を貰うと、ゼルの翼が少しだけ立派になった。


『ゼルのアビリティ:<闇槍ダークランス>がアビリティ:<闇砲弾ダークシェル>に上書きされました』


「4階から先は明日以降にしよう。道場ダンジョンの発見報告もしなきゃいけないし、今から帰って昼食の準備をしなくちゃいかん」


「『帰ろう!』」


 昼食と聞いて黙っていないのは食いしん坊ズだ。


 今日も今日とて食いしん坊ズは食欲に忠実である。


 サクラ達も反対する理由はなかったので、今日の道場ダンジョンの探索はここまでとなった。


 道場ダンジョンを脱出すると、藍大は茂に新しいダンジョンを発見したと報告するべく電話をかけた。

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