第196話 ありがとう、主。これで安心して主と子供を作れる

 2階に上がった藍大達を待ち受けていたのは各種スライムの大群だった。


「ぽよぽよがいっぱいいる~」


「可愛い」


「私の方が可愛いんだからねっ」


「クッションに良さそうです」


 舞を筆頭とする女性陣は大漁にいるスライム達を見ても好意的な反応を見せた。


 スタンピードでダンジョンから溢れ出した時も含め、スライムには現在6種類のスライムが見つけられている。


 1種類目はただのスライム。


 丸っこくて透明感があるが雑食でなんでも食べる。


 2種類目はポイズンスライム。


 名前の通り毒を吐き、紫色のビーズクッションみたいな見た目をしている。


 3種類目はアシッドスライム。


 強力な溶解液を吐く黄緑色のビーズクッションみたいな見た目だ。


 4種類目はストーンスライム。


 今までのスライムとは違って石のように硬く、灰色のボディに重さも石と同じである。


 5種類目はビッグスライム。


 スライムと形はそっくりだが、その大きさはスライムの10倍はある。


 6種類目はスライムキング。


 王冠を被ったスライムでビッグスライムの倍の大きさである。


 この6種類だけが地球上に存在するはずだったが、藍大達の前にはそれ以外の色をしたスライムも何種類か紛れ込んでいた。


「赤いスライムが火を吐いてるぜ!」


「青いのは水ね」


「緑色が風なんだからねっ」


「茶色はなんです?」


『うっ、臭いよ~』


 茶色いスライムが創り出した茶色い気体の塊の臭いにやられ、リルは臭さを訴えた。


 その隙に藍大は舞達が見つけた新しいスライム達の鑑定を終えた。


 (ヒートスライムにバブルスライム、ウインドスライム。それにスカベンジャースライム。新種が4種もいるじゃねえか)


 各種スライム達のレベルは11~15でばらけていた。


「どのスライムもLv15以下だ! リル、頼む!」


『うん!』


 藍大が指示を出した瞬間、リルがすぐさま<碧雷嵐サンダーストーム>を発動してスライムの大群を一掃した。


 広範囲への攻撃ならばリルの<碧雷嵐サンダーストーム>のコスパが良い。


 それゆえに藍大はリルに攻撃を任せたのだ。


「よしよし。リル、グッジョブ」


「クゥ~ン♪」


 藍大に顎の下を撫でられてリルは気持ち良さそうに鳴いた。


 スライムの大群の死体を回収すると、藍大達の進路を邪魔する者は消えたので道場ダンジョン2階の探索を始めた。


 2階は1階と同様に内装は道場のままだったが、一本道の通路になっていた。


「主、こっちに騒がしいスライムがいるよ」


「ノイジースライムだな」


「藍大、あっちに宙に浮いてるスライムがいる~」


「それはサイコスライムだ」


 (2階のぽよ率100%じゃん)


 新種のスライムも既存のスライムも入り混じって出現し、それ以外のモンスターは一向に出て来ないので藍大がそう思うのも仕方ない。


 1階はウィードを冠するモンスターしか出て来なかったが、2階は各種スライムしか出現しないのだから各階にテーマが定められていそうだ。


 迫り来るスライムを次々倒していくと、通路の先から悪魔の角と尻尾を生やした半透明の黒いスライムが現れた。


 そろそろ”掃除屋”が現れたのだろうと思い、藍大はモンスター図鑑を視界に展開した。


 (デビルスライムLv25。”掃除屋”なのは予想通りだが・・・)


 鑑定した結果、藍大には気になる項目を見つけたから倒す判断を躊躇った。


「マスター、こいつっても良いです?」


「ちょっと待ってくれ。こいつはテイムする」


「主、このスライムのどこが気に入ったの?」


 パッと見ただけでは悪魔要素がほんの少しあるだけのスライムでしかないから、サクラは藍大がどうしてテイムしたくなったのか気になった。


「このデビルスライムって融合可能なモンスターなんだ。多分、この階のフロアボスと融合できるはず」


「わかった。それなら捕まえる」


 デビルスライム単体ならば弱いと思っても、融合すれば雑魚とは言えない何かを持っている可能性がある。


 サクラはそう判断して<透明多腕クリアアームズ>でデビルスライムを抑え込んだ。


「主、捕まえたよ」


「ありがとな」


 藍大はサクラに礼を言うと、取り押さえられたデビルスライムに触れてテイムを実行した。


『デビルスライムのテイムに成功しました』


『デビルスライムに名前をつけて下さい』


 藍大は事前に決めていた名前を口にした。


「ディーと名付ける」


『デビルスライムの名前をディーとして登録します』


『ディーは名付けられたことで強化されました』


『ディーのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はディーのページで確認して下さい』


『おめでとうございます。逢魔藍大の同時に使役する従魔が10体になりました』


『初回特典として逢魔藍大が”ダンジョンマスター”ブラドとテレパシーで会話できるようになりました』


 (えっ、ちょっと待って。そんなことできるようになったの?)


 ディーとその片割れの融合した姿に興味があっただけにもかかわらず、想定外の特典を手にして藍大は驚いた。


『主君、聞こえるか?』


『聞こえる。ブラドから話しかけられるようになったのか』


『その通りだ。急に主君とパスが繋がったのだ』


『そっか。でも、これならブラドも俺と自由に連絡できて便利だな』


『便利だ。ありがたく使わせてもらおうぞ』


 テレパシーのテストが終わると、サクラがジト目で藍大に迫った。


「主、何か隠し事してる。隠し事良くない」


「藍大、私達に隠し事なんて駄目だよ?」


 サクラに乗っかるようにして舞も隣からジト目を向ける。


「ディーのテイムに成功したことでブラドとテレパシーで話せるようになっただけだ。隠すつもりはないさ」


「テレパシー? 私にできないのにブラドができるなんて・・・」


「サクラちゃん、大丈夫だよ。私達は藍大の子供を産めるけど、ブラドには産めないもん。こっちの方がよっぽどすごいことだよ」


「舞・・・。良いこと言った」


 (その慰め方はどうかと思うけど立ち直るんかい)


 藍大との間に子供が欲しい2人としては、これが何よりも重要らしいので藍大は余計なことは言わなかった。


 その後、2階のボス部屋で仄かに光る輪を頭の上に浮かべ、白い羽を生やしたエンジェルスライムが藍大達を出迎えた。


 こちらもサクラが出合い頭に<透明多腕クリアアームズ>で抑え込み、藍大がそのままテイムした。


『エンジェルスライムのテイムに成功しました』


『エンジェルスライムに名前をつけて下さい』


 藍大はノータイムで名付けした。


「エーだ」


『エンジェルスライムの名前をエーとして登録します』


『エーは名付けられたことで強化されました』


『エーのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はエーのページで確認して下さい』


 システムメッセージが鳴り止んだ瞬間、藍大はすぐに行動に移った。


「【召喚サモン:ディー】【召喚サモン:エー】【融合フュージョン:ディー/エー】」


 藍大が矢継ぎ早に呪文を唱えた直後、ボス部屋を光が包み込んだ。


 光の中でディーとエーのシルエットが重なって一つになる。


 シルエットだけで判断するならば、翼を生やして宙に浮くサッカーボール大のスライムだ。


 しかし、変化は光が収まった時に明らかになった。


 スライムの翼はカラスの濡羽色であり、体はほんのりと紫色に光っていた。


 そして、ディーともエーとも違うのは融合したスライムには顔があったことだろう。


 くりくりとした目と口があるのは今までに見たどのスライムとも異なる。


『ディー、エーの融合に成功してフォールンスライムになりました』


『フォールンスライムに名前をつけて下さい』


「名前はゼルにする」


『フォールンスライムの名前をゼルとして登録します』


『ゼルは名付けられたことで強化されました』


『ゼルのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はゼルのページで確認して下さい』


 ディーを見つけてから気になっていたゼルの正体について、藍大はすぐにモンスター図鑑を展開して確認した。



-----------------------------------------

名前:ゼル 種族:フォールンスライム

性別:なし Lv:25

-----------------------------------------

HP:500/500

MP:750/750

STR:0

VIT:500

DEX:500

AGI:500

INT:750

LUK:500

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   融合モンスター

アビリティ:<回復ヒール><闇矢ダークアロー><物理耐性レジストフィジカル

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (狙い通り。昔のサクラとアビリティが被ってるな)


 藍大は鑑定結果を見て満足した。


 サクラの下位互換ならばディーとエーを融合させる意味がなかったと思うかもしれない。


 ところが、2体のテイムと融合にはしっかりと意味があった。


 サクラが妊娠してパーティーから離脱した時、そのサブメンバーとしてゼルを今から育成する気なのだ。


 先程からゼルのステータスが気になっているだろうメンバー達に鑑定結果を伝えると、サクラは藍大が何を考えてここまでしたか理解して抱き着いた。


「ありがとう、主。これで安心して主と子供を作れる」


「わかってくれたか。よしよし」


「むぅ。藍大、私の控えは?」


「上手く行けばゼルがカバーしてくれる。舞がいつ子供を授かっても良いようにちゃんと育てないとな」


「よろしくね」


 舞もニッコリ笑うと藍大に抱き着いた。


 そこにリルやゴルゴン、メロも駆け寄って気づけば家族の輪ができていたのは言うまでもない。

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