第17章 大家さん、ダンジョンを発見する

第195話 ゴルゴンが一番ソワソワしてるです

 ニュースで藍大と板垣総理が会談したと報道されてから1週間が経過した。


 藍大パーティーは国民栄誉賞を受賞することが内定してすぐ、野次馬が乗り込んで来ないように抑止力として期待するドライザーのレベル上げを行った。


 シャングリラの警備をする時は魔石を与え、メロとゴルゴンが家庭菜園の世話をしている時にダンジョンに連れていくことでLv70まで一気に引き上げた。


 ドライザーがここまで強くなってしまえば、シャングリラに忍び込もうとするような馬鹿な真似をする者も出て来ないだろう。


 板垣総理は七夕の日に藍大パーティーに国民栄誉賞を授与し、当日は”楽園の守り人”も月見商店街もお祭り騒ぎだった。


 翌日の7月8日、藍大は早起きしたリルにおねだりされて朝駆けをしていた。


 その帰り道にリルがピクッと反応した。


『ご主人、あっちから不思議な感じがする』


「行ってみるか」


 藍大がリルに連れられて到着したのはシャングリラから1km程離れた位置にある道場だった。


 この辺りは1月の大地震でかなりの被害を受けており、立て直したは良いものの門下生不足による経営難で取り潰しとなったのだ。


「ここか」


『ご主人知ってるの?』


「まあな。昔は子供向けに少林寺拳法教室を開いてた道場だったんだが、半年前に道場の経営が成り立たなくなって売りに出されてたはずだ」


『大変だったんだね』


「だろうな。リル、ここから不思議な感じがするのか?」


『うん』


「わかった。ちょっと調べてみよう」


 道場の敷地内に入ると、藍大はなんとなく道場の入口に真っ直ぐ進んだ。


 そして、入口の戸を開いた瞬間に藍大の顔が引き攣った。


「ここ、ダンジョンじゃね?」


『ダンジョンだね』


「こんなところにダンジョンがあったなんて情報はなかったよな?」


『なかったよ。最近出現したんじゃない?』


「その可能性は否定できないか。シャングリラだって4月に入ってから出現した訳だし。とりあえず、この中を調べる前に舞達を連れて来よう。万全を期して潜った方が良い」


『そうだね』


 話はまとまって藍大とリルはシャングリラに戻った。


 藍大達はシャングリラに戻ると、朝食を取りながら近所にダンジョンができたことを舞達に告げた。


 勿論、クラン掲示板でクランメンバーにも発見報告とこの後自分達で潜ってみる旨は伝えてある。


 朝食後に準備を整えてから、藍大はパーティー全員を連れて再び道場ダンジョンへとやって来た。


「へぇ、ここって道場があったんだね~」


「知らなかった」


「新しいダンジョンだからって浮かれちゃ駄目なんだからねっ」


「ゴルゴンが一番ソワソワしてるです」


 メロの指摘した通り、藍大達の中で一番浮かれているのはゴルゴンである。


 すぐにでもダンジョンに突入したいらしく、口にした言葉とは裏腹にチラチラと藍大の方を見て行かないのかと様子を探っていた。


「じゃあ行くか。ゴルゴンが待ちきれないみたいだし」


「マスターがそう言うなら仕方ないわねっ」


「愛い奴め」


 ゴルゴンの頭を撫でてから、藍大達は道場ダンジョンの中に足を踏み入れた。


 ダンジョンの内装は道場のままだったが、違うのは実際の道場とは異なる一本道の通路になっていることだろう。


 板張りの通路を進んでみると、藍大達をモンスターの集団が待ち受けていた。


「ゴブリン?」


「ちょっと違うと思う。体から草が生えてる」


 舞の疑問にサクラが違うと首を横に振った。


 藍大はモンスター図鑑を視界に映し出してそのモンスターの正体を確かめた。


 (ウィードゴブリンLv5。体から生えた草が武器の新種のゴブリンだな)


「ウィードゴブリンだってさ。Lv5だから脅威にはならない」


「草なら私が燃やしちゃうわっ」


 ゴルゴンは嬉々として<火炎支配フレイムイズマイン>で蛇を模った炎を創り出し、その炎でウィードゴブリンを一掃した。


「お掃除ご苦労さん」


「お安い御用よっ」


 藍大に頭を撫でられればゴルゴンの頬が緩んだ。


 通路の先へと進んでいくと、今度は体から草の生えた狼と猿の混成集団が現れた。


「ウィードウルフとウィードエイプ。レベルはいずれも5~7」


「今度は私がやるぜ! オラオラオラァ!」


 舞が1人で敵集団に突撃する。


 ミョルニル=レプリカを一度振るうだけでも何体もの敵を倒してしまうあたり、巨像と蟻の戦いと呼んでも過言ではない。


 舞はあっさりとウィードウルフとウィードエイプを全滅させた。


「食後の運動にもならなかったかな?」


「そうだね~。弱過ぎて全然足りないよ~」


 シャングリラダンジョンで強敵と戦い続けて来たこともあり、藍大達にとって道場ダンジョンは物足りないようだった。


 その後もウィードスネークやウィードワーム、ウィードマンティス等名前にウィードを冠するモンスターばかりが現れては藍大達との戦力差の前に散っていった。


 (道場ダンジョン草生え過ぎじゃね?)


 藍大がそう思っていると、通路の向こうからズルズルと床を這う音が聞こえて来た。


『ご主人、でっぷり太った蛇が来たよ。あれも草生えてる』


「ツチノコ!?」


「食べられるかな~?」


「食べるの!?」


 ツチノコらしき見た目に驚いた藍大だったが、その後に続けて舞が食べようとしたので更に驚いた。


 とりあえず、藍大は体から草を生やしたツチノコについて調べてみた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ウィードツッチー

性別:雌 Lv:15

-----------------------------------------

HP:180/180

MP:280/280

STR:210

VIT:180

DEX:100

AGI:80

INT:200

LUK:50

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<毒噛ポイズンバイト><草矢グラスアロー

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (”掃除屋”か。ツチノコなのに”希少種”じゃないとはいかに)


 そんなことを思いつつ、藍大は舞が気にしている食べられるかどうかを調べた。


 その結果、毒袋を壊さずに解体できれば食べられることがわかった。


「舞、ウィードツッチーは解体さえ気をつければ食べられるってさ」


「それなら私が倒すです。マイが戦ったらウィードツッチーがグチャグチャの肉塊になるです」


「頼んだ」


「はいです」


 メロは藍大からウィードツッチーを倒す役割を任されると、<植物支配プラントイズマイン>で種の弾丸を創り出して発射した。


 弾丸はウィードツッチーの眉間を貫き、ウィードツッチーは何もできずに力尽きた。


 すぐに解体に移り、藍大達は毒袋を慎重に取り除いた。


 そのおかげでウィードツッチーの肉は食べられるようになったため、舞はウィードツッチーがどんな味なのか昼食を楽しみにしているようだ。


 ウィードツッチーの解体と回収を済ませると、藍大達はダンジョンの先へと進んだ。


 雑魚モブモンスターはもういないらしく、道場ダンジョンの入口の戸とそっくりな戸があった。


 この先はボス部屋なのだろう。


 ”掃除屋”がLv15ならばフロアボスも大したことないだろうと予想して先に進んでみたところ、その予想はずばり的中してフロアボスはウィードマネキンLv10だった。


 見た目は体から草を生やしたマネキンであり、木剣と木の盾を装備した初心者にとって良さげな訓練相手である。


「邪魔」


 サクラが深淵の刃でバラバラにしてしまい、フロアボス戦もあっさりと終わった。


 脱出用の魔法陣と次の階に進む階段が現れたため、藍大はパーティーメンバーに質問を投げかけた。


「このまま2階に行ってみる?」


「行く!」


「私も行くのに賛成」


『僕も』


「全然余裕なんだからねっ」


「私もへっちゃらです」


『問題ない』


 舞達がそう答えるのも当然だろう。


 何故なら、道場ダンジョンに入ってから今までで30分も経っていないのだから。


 つい最近までもっとハードなシャングリラダンジョンで探索していたのだから、この程度のぬるま湯と言うのもどうかと思える1階だけでは満足できないのも仕方ない。


 ゲンは自宅警備員藍大の鎧になって待機するだけなので、藍大が先に進むのならばそれに従うだけらしい。


「OK。それなら2階に進もうか」


 全員賛成ならば話が早い。


 藍大達は道場ダンジョンの2階へと続く階段を上がった。

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