第189話 俺は第三の選択をする

 ヘカトンケイルの回収を済ませると、藍大はリルにその魔石を与えた。


『リルのアビリティ:<収縮シュリンク>とアビリティ:<念力サイコキネシス>がアビリティ:<仙術ウィザードリィ>に統合されました』


『リルがアビリティ:<翠嵐砲テンペストキャノン>を会得しました』


 (なんかすごいの会得したぞ?)


 名前からしてすごそうなアビリティだったので、藍大はすぐにモンスター図鑑でリルが会得したアビリティについて確認した。


 <仙術ウィザードリィ>は体のサイズと念動力を自由自在に操れるだけでなく、動かずに瞑想することでHPとMPを少しずつ回復させられる効果があった。


 <翠嵐砲テンペストキャノン>は翠に輝く嵐を圧縮して砲弾のように放つアビリティであり、<碧雷嵐サンダーストーム>よりも攻撃範囲は狭いが一点集中の破壊力が期待できる。


 アビリティの効果の確認が終わると、藍大はわしゃわしゃとリルの頭を撫でた。


「リル、一気に強くなったな。頼りにしてるぞ」


『うん! 頑張る!』


「愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 リルをモフり終えて先に繋がる通路に足を踏み入れ、藍大達はその通路を構成する石材の質が変わったことに気づいた。


「これって大理石じゃね?」


「なんだか豪華な感じがするね~」


「ヘカトンケイル以上の何かがこの先にいるのかも」


「油断せずに進もう」


 警戒度合いを一段階上げて慎重に進んでいくと、藍大達の視界に明らかにボス部屋がありますと自己主張する一際荘厳な扉が映った。


「遂にボス部屋まで来たか」


『ご主人止まって!』


「どうしたんだ?」


 リルが何か察したことに気づいて藍大は足を止めた。


 他の者達も藍大と同じくピタリと脚を止めた。


『そこ、落とし穴だよ』


「マジか」


 リルに言われて藍大は収納リュックから崩壊した闘技場で拾った石ころを取り出し、それを目の前の床に転がしてみた。


 すると、扉の前の床だけパカッと開いて棘がむき出しの床が現れた。


 石ころは落とし穴の中に落ちていっただけで済んだが、罠に気づかずにいれば藍大達が落とし穴に落ちていたかもしれない。


「ボス部屋に近づいたところを一網打尽とはエグいことするじゃんか」


「リル君がいなかったら落ちてたね」


「でも、どうやって中に入るのかしら?」


 サクラがいうことはもっともである。


 足場がないのにどうやって扉をあければ良いのか。

 

 普通の冒険者パーティーならば落とし穴に落ちるか途方に暮れてしまうかのどちらかだろう。


 だが、ここには目に見えない力を使える者がいるから問題ない。


「サクラはフリーな状態で相手の対処を頼む。リルは悪いけど俺と舞、ゴルゴンとメロを乗せた状態で扉を開けてくれ」


「任せて」


『良いよ~』


 リルは空を駆けられるから、舞、メロ、藍大、ゴルゴンの順番にリルの背中に乗ると、リルが<仙術ウィザードリィ>でボス部屋の扉を押し開けた。


 扉が開かれた瞬間、扉の中の眩しさに藍大達の目がチカチカした。


 そうなってしまうのも無理がない。


 何故なら、ボス部屋は全て黄金で装飾された終点の間と呼ぶべき場所だったからだ。


 ただし、金曜日の地下3階の海賊のアジトとは違って上品な雰囲気であることは補足しておこう。


 罠がないことを確認したら、藍大達はボス部屋の中に侵入した。


 ボス部屋で待ち構えていたのは赤い目をした黒竜だった。


「よくぞここまで来た。死ね」


 黒竜は労いの言葉をかけてすぐに藍大達を狙って紫色の吐息ブレスを放った。


「やらせねえ!」


 舞は光のドームを三重に展開して藍大達を守った。


 ヘカトンケイルよりも強い攻撃だと直感的に察したらしく、舞は三重に光のドームを展開したようだがそれは正解だった。


 1つ目のドームはあっという間に割れ、2つ目のドームはしばらく経ってから割れた。


 3つ目のドームがなかったら藍大達は序盤から大ダメージを受けていただろう。


 藍大は舞が守ってくれている間にモンスター図鑑で黒竜の正体を確かめた。



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名前:なし 種族:ファフニール

性別:雄 Lv:75

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HP:2,200/2,200

MP:2,400/2,500

STR:2,400

VIT:2,400

DEX:1,200

AGI:1,000

INT:2,500

LUK:1,800

-----------------------------------------

称号:ダンジョンマスター(シャングリラ)

アビリティ:<猛毒吐息ヴェノムブレス><火炎吐息フレイムブレス><猛毒噛ヴェノムバイト

      <火炎爪フレイムネイル><剛力尾鞭メガトンテイル

      <等価交換エクスチェンジ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:不愉快

-----------------------------------------



 (”ダンジョンマスター”・・・だと・・・)


 間違いなくシャングリラダンジョン最強のモンスターを前にして藍大は戦慄した。


 地下6階はやけに気合が入っていると思ったが、”ダンジョンマスター”がこの階にいれば納得できる。


 ”ダンジョンマスター”とは文字通りダンジョンを支配する存在だ。


 ダンジョンで最も重要な存在であり、”ダンジョンマスター”を倒すと倒した者は2つの選択肢を与えられる。


 1つ目の選択肢はダンジョンを崩壊させるというもの。


 スタンピードが起こらなくなるという点ではこれがベストだが、それと同時に貴重なダンジョン資源を失うことを意味する。


 2つ目の選択肢は”ダンジョンマスター”を引き継ぐというもの。


 こちらを選べばダンジョンは滅びず、ダンジョンを支配することができる。


 ところが、この選択肢には見過ごせない制約が課せられる。


 その制約とは”ダンジョンマスター”がダンジョンの外に出られないということだ。


 ”ダンジョンマスター”はダンジョンの中にいてこそ真価を発揮する。


 外に出てしまえばダンジョンが不安定になって崩壊してしまうから外には出られないのである。


 この真実を知っているのは地球に藍大だけだろう。


 藍大のモンスター図鑑がなければこの事実は当分先まで明らかにされなかったに違いない。


 実力のある冒険者の観点からすれば、”ダンジョンマスター”を討伐して2つのどちらを選ぶかという考えかたになるはずだ。


 しかし、藍大ならば第三の選択肢を生み出す。


「俺は第三の選択をする。ファフニールをテイムするぞ」


「「「「『『え?』』」」」」


「あいつをテイムしないと、シャングリラが崩壊するか俺がこのダンジョンから出られなくなるかのどっちかだ。それでも良いか?」


「「「「『『駄目!』』」」」」


 舞と従魔達の心が一つになった。


 普段は傍観するだけのゲンも拒否するあたり、本気で藍大と離れたくないのだろう。


 そうと決まればファフニールのテイムである。


「俺はリルに乗って接近する。みんなはフォローを頼む」


「「「「『了解!』」」」」


 舞とゴルゴン、メロはリルから降りたら藍大達は早速行動を開始した。


 舞が光のドームを解除してすぐ、リルが藍大を乗せてファフニールと距離を詰める。


「寄るな!」


 ファフニールは藍大とリルを狙って<火炎吐息フレイムブレス>を放つ。


 だが、リルのAGIならばファフニールの攻撃なんて容易く避けてみせる。


 リルは<火炎吐息フレイムブレス>の射線上に舞達はいないようにポジション取りしていたから、避けることに躊躇いがない。


『僕に当てられるものなら当ててごらん』


「な、何!?」


 リルがファフニールを挑発するが、リルに注意を向け過ぎた結果サクラの<透明多腕クリアアームズ>とメロの<停止綿陣ストップフィールド>が決まってファフニールは動けなくなった。


 <全半減オールディバイン>の効果で動けないのは2.5秒しかないが、リルの<光速瞬身ライトムーブ>は文字通り光の速さで動く。


 一瞬にしてファフニールの頭上に到着し、藍大はファフニールの頭にモンスター図鑑を被せた。


 ファフニールはモンスター図鑑に吸い込まれていき、その直後に藍大の耳にシステムメッセージが聞こえて来た。


『ファフニールのテイムに成功しました』


『ファフニールに名前をつけて下さい』


 名付けを求められた藍大は少し考えてから名前を口にした。


「ブラドと名付ける」


『ファフニールの名前をブラドとして登録します』


『ブラドは名付けられたことで強化されました』


『ブラドのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はブラドのページで確認して下さい』


『おめでとうございます。逢魔藍大が”ダンジョンマスター”を従魔にしたことでシャングリラダンジョンを支配しました』


『初回特典として逢魔藍大の収納リュックにプレゼントが配られました』


『おめでとうございます。逢魔藍大が大罪を冠する称号を持つモンスターと聖獣を冠する称号を持つモンスター、”ダンジョンマスター”の全てを従魔にしました』


『逢魔藍大に”魔王”の称号が与えられます』


『モンスター図鑑の機能がバージョンアップされて逢魔藍大に吸収されます』


 その瞬間、ボス部屋を光が包み込んだ。

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