第187話 俺はゲンの家じゃないぞ?
翌日月曜日の朝、藍大達はダンジョン地下6階にやって来た。
地下5階ではなく地下6階である。
地下5階をスキップして地下6階に来た訳ではなく、地下5階から先は曜日ごとに毎日変わらずに共通のフロアだったことが発覚した。
それにより、地下5階では一週間の地下3階のフロアボスが集結していた謎が解けた。
共通フロアだから曜日問わず集まれたのだ。
とりあえず、藍大達は昨日地下5階を踏破したことによって地下6階に足を踏み入れる権利を得た。
地下6階は地下5階と同様に石造りの通路から始まった。
しかし、地下5階とは違って通路は真っ直ぐではなく曲線だった。
「「「・・・「「ブルッヒィィィィィン!」」・・・」」」
「この鳴き声はまさか?」
『ご主人、この通路の先からコクオーがいっぱい来る!』
「世紀末覇者量産計画かよ・・・」
リルがコクオーの群れの接近を知らせると、藍大がうんざりした表情でツッコんだ。
「ヒャッハァァァッ! 馬肉だぜぇぇぇっ!」
『メンチカツだ~!』
食いしん坊ズは嬉々としてコクオーの群れを迎え撃った。
舞はリルの背中に乗ってミョルニル=レプリカに雷光を纏わせて振り回し、リルは反撃しようとするコクオー達の攻撃をするりと躱していく。
「舞が騎士っぽい」
「サクラ、ぽいじゃなくて騎士だぞ?」
「そうだった」
実際のところ、藍大もサクラと同じ感想を抱いていたがサクラを注意した。
馬でなくリルに騎乗し、剣でなく
騎士ったら騎士だ。
断じて蛮族でも世紀末のチンピラでもない。
一度倒した相手であり、舞もリルもその時よりも強くなったおかげでコクオーがLv60に到達していてもあっさりと群れを倒していた。
「藍大、倒したよ~」
『ご主人、馬肉大漁ゲットだよ~』
早くこっちで回収しようと言外に催促する食いしん坊ズに苦笑し、藍大達はコクオーの群れを解体して回収した。
コクオーのいる通路を抜けたら闘技場に出たが、藍大達を待ち構えていたのはロケットゥーナの群れの突撃だった。
この闘技場は中央の足場とそこから伸びる通路以外全て水が張り巡らされており、ロケットゥーナがやっとやって来た獲物目掛けて飛び出したのである。
「メロ、出番だ」
「私のターンです!」
メロがロケットゥーナ達の進行方向に<
動きを止められたことにより、ロケットゥーナは<
「大漁です!」
「お寿司食べ放題だ~」
『カマトロもたくさんあるよ!』
この結果には知的に仕留めたメロだけでなく食いしん坊ズも大喜びだった。
(なんか簡単に事が運んでる気がするけど油断は禁物だよな)
藍大はコクオーとロケットゥーナ達との戦いがスムーズだったため、油断しないように気を引き締めた。
地下6階の
気をつけて藍大達が闘技場の中央に移動したその時、ガコンと闘技場内に大きな音が響き始めた。
その直後、水が引いたと思いきや排水した穴から溶岩が湧き出した。
変化はそれだけでは終わらず、闘技場の天井から溶岩に向かって何体ものビリビールが投入された。
「危ねえ!」
ビリビールが溶岩に落ちた瞬間に飛び跳ねたその飛沫も広範囲に広がっており、舞が光のドームでそれを防ぐ。
「何この仕掛け?」
「昨日よりも殺意が高いね」
「アタシにかかればへっちゃらよっ」
「私も頑張るです」
藍大とサクラが話していると、ゴルゴンとメロが拳をグッと握ってファイティングポーズになった。
「そうだな。ごねても結果は変わらない。ビリビールの群れもサクっと倒そう」
『俺・・・やる・・・』
「任せる。みんな、ゲンがやるってよ」
このフィールドならばゲンが効率良く倒せると理解しているので、舞達に異論はなかった。
溶岩の飛沫はとっくに治まっていたので、舞が光のドームを解除すると同時にゲンが<
ゲンは元の姿に戻ったら、<
その結果、溶岩が冷え固まってビリビール達が慌てて溶岩から飛び出そうとした。
ところが、溶岩が固まるスピードが思いの外速かったらしく、固まった溶岩に体を固定されて足掻くビリビールが量産された。
「後・・・任せて良い?・・・」
「ここまでやったんならとどめも刺しちゃえよ」
「わかった」
ゲンはビリビール達を拘束したことで一仕事した気分になったため、<
藍大は後はとどめを刺すだけなんだからやってから引っ込めと指示し、ゲンはですよねと水をレーザー張りの出力で撃ち出してビリビール達にとどめを刺した。
「お疲れ。戻っても良いぞ」
「家・・・帰る・・・」
「俺はゲンの家じゃないぞ?」
そのツッコミをゲンは聞かずに<
ゲンにとっては藍大の体も家みたいな認識のようだ。
むしろ、家は動いてくれないが藍大が動けば自分も動くことになるからゲンの中で家<藍大の評価になっているかもしれない。
ビリビールの解体と回収を済ませると、藍大達は向こう側の通路へと進んだ。
通路に入った途端、藍大達の耳にいくつもの奇声が届いた。
「「「・・・「「フォォォォォ!」」・・・」」」
それだけではなかったらしく、ワンテンポ遅れて笑い声まで聞こえて来た。
「「「・・・「「ハーッハッハッハ!」」・・・」」」
(今度はザントマンとマスクドトマトの混成集団か)
「鬱陶しいわねっ。爆破したいわっ」
「駄目です。ザントマンはどうでも良いですがトマトはしっかり収穫すべきです」
「わかったわっ」
ザントマン達の奇声とマスクドトマトの笑い声にゴルゴンはイラついたようだが、そこはメロが落ち着かせてくれた。
農家たるもの収穫物は無駄にできないのだろう。
ゴルゴンとメロがそんなやり取りをしていると、通路の先から砂が風に乗って飛んで来た。
「メロ、昨日みたいに巨大な葉で風を起こせるか?」
「任せるです!」
メロは<
ザントマン達の<
「ザントマンはアタシがやるわっ」
「マスクドトマトは私が収穫するです!」
幼女コンビが寝ている
藍大達が作業が終わって通路をさっさと進むと、またしても闘技場に到着した。
地下6階で2度目の闘技場に水は張られていなかったが、藍大にとって予想外の事態が起きていた。
「弱肉強食ってことか?」
「ダマトリスがキャプテンカルマを石化させてるね~」
「あっ、あそこの個体が踏み潰された」
『遊んでるのかも』
おそらくリルの推測が正しいのだろう。
何故なら、ダマトリスが石化させたキャプテンカルマを踏みつけてその場で楽しそうに何度も跳ねていたからである。
「石化が厄介だ。ゴルゴン、お待ちかねの爆発タイムだぞ」
「待ってたわっ」
ゴルゴンが<
普段は藍大もそんな許可は出さないのだが、ダマスカスコーティングされたダマトリスはとにかく硬い。
ゴルゴンが本気でやってHPを削り切れるかどうかぐらいなので、遠慮する必要がないのだ。
爆炎が晴れると、闘技場の奥にいた1体だけ辛うじてHPが残っている個体がいた。
「私に任せろ! 喰らえやオラァ!」
舞が投げたアダマントシールドが直撃したことにより、最後の1体もHPが0になった。
『ゴルゴンがLv86になりました』
『メロがLv80になりました』
(幼女コンビだけレベルが上がったか)
この戦闘で藍大のパーティーで戦う従魔達が全てLv80を突破した。
幼女コンビは藍大のパーティー内の従魔の中ではレベルが低い方だから、他と比べてレベルアップに必要な経験値の量が少なくて済む。
それゆえ、
ダマトリスとキャプテンカルマの装備の回収を済ませたところで、リルが異変に気付いて闘技場の天井を見上げた。
『ご主人、上から何か落ちて来る!』
「後ろに退くぞ!」
サクラとリルが協力して藍大と舞、幼女コンビを連れて後退する。
ほんの少し前まで藍大達のいた場所には派手な墜落音と砂埃を起こして何かが降って来た。
藍大達がこの闘技場を通過するのはまだ先のようだ。
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