第186話 ヤバイラ吹っ飛ばしてヤバイガ

 昼食後にゆっくりと休んで気づけば夕方になり、藍大は外に出て警備中のドライザーの所に向かった。


「ドライザー、ちょっと良いか?」


『イェス、ボス』


「お前のために魔石を持って帰って来たんだが、取り込むことはできるのか?」


『可能デス。口ハ開閉自由デス』


 そう言い終わった直後、ドライザーの口の部分がパカッと開いた。


 藍大はそこに今日手に入れた雑魚モブの魔石全てを流し込んだ。


『ドライザーのアビリティ:<全耐性レジストオール>がアビリティ:<全半減オールディバイン>に上書きされました』


『ドライザーのアビリティ:<不眠不休スリープレス>とアビリティ:<自動修復オートリペア>がアビリティ:<不撓不屈ネバーギブアップ>に統合されました』


『ドライザーがアビリティ:<魔石吸収コアドレイン>を会得しました』


『ドライザーがLv51になりました』


『ドライザーがLv52になりました』


『ドライザーがLv53になりました』


『ドライザーがLv54になりました』


『ドライザーがLv55になりました』


 (レベルアップした? どゆこと?)


 藍大の従魔達はモンスターを倒さなければレベルが上がらなかった。


 それにもかかわらず、ドライザーは魔石を取り込んだだけでアビリティの会得だけでなくレベルアップまでして見せたから藍大が首を傾げるのも当然だろう。


 どうしてこうなったか確かめるべく、藍大はすぐにモンスター図鑑を開いた。


 その結果、魔石を取り込んでレベルアップしたのは<魔石吸収コアドレイン>が原因であることがわかった。


 <魔石吸収コアドレイン>は魔石を体内に取り込んだ時、魔石を経験値に変換できるアビリティだった。


 経験値への変換に関して言うと、レベルの高いモンスターの魔石なら少量でもレベルが上がり、レベルが低いモンスターの魔石ならば数がないとレベルアップできない。


 とりあえず、ドライザーは警備員の役割に従事してダンジョン探索に参加しなくとも、藍大に魔石を貰えれば経験値を得てレベルアップできるという訳だ。


 ただし、<魔石吸収コアドレイン>には注意点も存在する。


 魔石がレベルアップのために使われてしまうと、ドライザーはその魔石で新たなアビリティを会得できないということだ。


 つまり、1つの魔石を与えてレベルアップと新たなアビリティの獲得が同時に起こることはない。


 そうだとしても、ドライザーが強くなってくれるのならば藍大にとって嬉しい変化に違いない。


 ちなみに、新たに会得した<全半減オールディバイン>と<不撓不屈ネバーギブアップ>についても触れておこう。


 <全半減オールディバイン>は自分に対する物理攻撃と魔法攻撃、状態異常による効果全てを半減するパッシブアビリティだ。


 純粋に<全耐性レジストオール>の軽減率が全体の1/4だとすれば、今回の上書きは上位互換と言えよう。


 続いて<不撓不屈ネバーギブアップ> だが、寝ることも休むこともなく稼働し続けられるだけでなく、壊れてもすぐに再生して元通りになる驚異のパッシブアビリティである。


 モンスター図鑑によれば、無機型モンスターだけがこのアビリティを会得できるらしい。


 生物要素のあるモンスターが不眠不休で動き続けるのはまず不可能だから、その制限は納得のいくものだろう。


「一気に強くなったな、ドライザー」


『イェス、ボス。鼠1匹タリトモ侵入サセマセン』


「やる気満々だな。これからも頼むぞ」


『ラジャー』


 敬礼するドライザーを見て藍大が感動していると、そこに声をかける者がいた。


「何突っ立ってるんだよ藍大?」


「お邪魔します」


「茂? それに千春さんも? なんでここに?」


「なんでってお前、今日は夕方にバーベキューやるんだろ? さっき健太から連絡があったんだ」


「えっ、そうなの?」


「健太から何も聞いてないのか?」


「聞いてない」


「あの野郎・・・」


 キョトンとする藍大が嘘をついているようには見えず、茂は今日のバーベキューに急激に不安を感じ始めた。


 そのタイミングで今日のバーベキューの仕掛人こと健太がシャングリラの2階から降りて来た。


「ヘイヘイ諸君。今日も良い日だなっていだだだだっ」


 何食わぬ顔で近寄って来た健太の頬を茂が思いっきり抓ったため、健太が痛くてギブアップのサインを出した。


「健太よぉ、俺は藍大がバーベキュー祭りやるから来ないかって誘われた訳だが、藍大は知らないって言ってるんだ。どうしてだろうな?」


「・・・あれ、俺ってば藍大に言ってなかったっけ?」


「「おい」」


 どうやら健太は藍大にバーベキュー祭りの話をしたつもりだったらしい。


 凡ミスである。


 お祭りで健太が凡ミスをした理由はすぐにわかった。


「こんばんは。青島さんはいらっしゃいますか?」


「あっ、遥さん! こんばんは!」


 料理大会がきっかけで週刊ダンジョンの副編集長に昇進した鈴木遥が来ると、健太が軽やかな足取りで遥を迎えに行った。


 それを見て藍大と茂は健太が凡ミスした理由を理解した。


「鈴木さんを呼ぶことに成功して浮かれてたのか」


「らしくねえミスだと思ったらそーいうことかよ。つーか、マジで遥狙いか」


 藍大はやれやれと首を振り、茂は自分の従姉を狙っている健太に複雑な心境になった。


 それから、徐々に”楽園の守り人”のメンバーが徐々に中庭に集まって来た。


 舞とリルがとても嬉しそうに藍大に駆け寄った。


「藍大、バーベキューやるんだってね!」


『ご主人、バーベキューだよ!』


「もしかして、クランの掲示板に連絡あった?」


「ついさっきあったよ! 未亜ちゃんが教えてくれたの!」


 そんな話をここでしていれば、少し離れた所で健太が未亜にハリセンでしばかれていた。


「こんのドアホ! クランマスターに話通しとけって言うたやろが!」


「ぐへっ!?」


 未亜が健太をしばいたところで狼の姿に化けたパンドラが藍大の前にやって来て頭を下げた。


「健太がごめんなさい」


「気にするな。パンドラのせいじゃないぞ。100%浮かれてたあいつが悪いんだ」


 レンタルしている従魔パンドラに謝らせる健太が悪いのは間違いない。


 それゆえ、藍大はパンドラの頭を撫でて怒っていないことをアピールした。


 その後、気持ちを切り替えて着々とバーベキューの準備に加わった。


 藍大だって客が来ているのにクランマスターがいつまでもぼーっとしている訳にはいかないのだ。


 幸いなことに、”楽園の守り人”で使うバーベキューセットは先日の大手クランと”楽園の守り人“が参加したパーティーのビンゴの景品であり、千春がDMU職人班に所属していてそれの使い勝手を理解していたから準備はサクサクと進んだ。


 準備が整った頃には参加者全員が揃っていたので、藍大が乾杯の挨拶をしてバーベキューが始まった。


「プハァァァ! 今日もお酒が美味しい!」


「遥さん、これもどうぞ!」


「ありがとうございます」


 麗奈は早速エンジン全開であり、健太も遥が要るおかげで序盤から絶好調のようだ。


「奈美、言うてみいや。司とはどこまでいったん?」


「ど、どこまでって、何がですか!?」


「わざわざ言わせるなんてやるやないの」


「奈美に絡まないであげて」


「ヒュー。司君カッコええやん」


「茶化すな」


 未亜は奈美と司に絡んでいる。


「千春さん、こっちできました」


「逢魔さん、わたしもできました」


「「「「『いただきます』」」」」


 食いしん坊ズとゲン、ゴルゴン、メロが藍大と千春の焼いた肉に群がる。


「主の分はこっちに避けといたよ」


「千春さんの分もこっちにあります」


「サンキュー」


「ありがとう」


 そんな2人を労うのはサクラと茂の役割だった。


 それでも今日のバーベキューは比較的おとなしかった。


 健太は遥がいるから暴走しないし、麗奈はリュカに酔拳を教えているだけで暴れ出したりしなかったのだ。


 未亜もやり過ぎだと判断したらパンドラが眠らせるから問題ない。


 腹を満たした頃合いで藍大は茂に今日のダンジョンについて話すことにした。


「茂、今日のダンジョンの雑魚モブが各曜日の地下2階のフロアボスだった」


「・・・マジ?」


「マジ。しかも全部Lv55になってた。7体同時に出て来た」


「控えめに言って絶望じゃね? お前達ぐらいじゃなきゃ生き残れんだろそれ」


「シャングリラの殺意が上がってんだよなぁ。地下5階は”掃除屋”も強かったが、フロアボスの方がもっと強かった」


「なんで? シャングリラってフロアボスの方が弱かったんじゃないの?」


「理由はわからん。だが、フロアボスはベルフェゴールだった」


「まさか怠惰のベルフェゴールか?」


「そ。でも、戦う前にゲンが”怠惰の王”を会得したから称号を奪われて弱体化してたっぽいけどな」


「・・・まあ、ゲンに”怠惰”はピッタリか」


 食べ終わって満足したらすぐ寝てしまったゲンを一瞥すると、茂は藍大の説明に納得した。


「笑えるぐらいぴったりだ。ベルフェゴールよりも怠惰だからな、あいつは」


「甲羅だけじゃなくて怠惰の大罪も背負うとは大した奴だ」


「それな。一旦ゲンが”怠惰の王”になったことは置いとくとして、ベルフェゴールが能力値平均1,500って聞いてどう思う?」


「何その化け物?」


「シャングリラ以外で大罪のモンスターがいたらヤバいと思わね?」


「ヤバイラ吹っ飛ばしてヤバイガ」


「ヤバイジャまではいかねえのな」


「言ってる場合か」


 藍大は軽いノリで言うけれど、茂はかなり危機感を抱いていた。


 藍大には舞やサクラ達従魔という頼れる仲間がいるが、それ以外の冒険者にはそんな強力な仲間がいない。


 ベルフェゴールクラスのモンスターと遭遇したら全滅必至だし、もしもそれがスタンピードを起こしたとなったら日本が滅ぶとさえ思った。


「DMUなら全国のダンジョンの状況を把握できるだろ? 多分、ダンジョンの攻略が進まないと大罪を背負ったモンスターは出て来ないはずだけど注意してくれ」


「わかった。本部長にも伝えておく」


 藍大と茂は胃が痛くなる話はそこまでにして、後は舞達や千春を交えてモンスター食材の話をした。


 そんなバーベキューも近所のことを考慮して午後8時には終わり、後片付けを終えて解散となった。

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