第185話 フラグ回収が早過ぎるっての!

 藍大は受け取った魔石をメロに与えた。


『メロのアビリティ:<元気矢エナジーアロー>がアビリティ:<元気槍エナジーランス>に上書きされました』


「純粋な上位互換のアビリティみたいだな」


「はいです!」


 元気に答えるメロを見て藍大はその頭を撫でた。


 メロが満足するまで撫でた後、藍大はシステムメッセージが告げたプレゼントのことを思い出して収納リュックの中を調べた。


 すると、藍大に見覚えのない物があったのでそのまま取り出した。


 藍大の手に掴まれたそれは、胸の部分がハートの形でフリルのついた可愛らしい白エプロンだった。


「エプロン?」


「主、私が持つから調べて」


「わかった」


 藍大はサクラにエプロンを手渡してからモンスター図鑑でその正体を確かめた。


 (愛のフリルエプロン? 俺にプレゼントしてどうすんだよ!)


 藍大は男だ。


 司が持っていたら一部の層からは需要があるだろうが、藍大が持っていても仕方のないものだろう。


 だが、その効果は侮れないものだった。


 愛のフリルエプロンを身に着けることでDEXと料理の腕に大幅な補正がかかるのだ。


 ただし、身に着けられるのは結婚した女性のみという制限もある。


 どの道藍大には使えない代物なのは間違いない。


 藍大が愛のフリルエプロンの効果を説明すると、舞が目を見開いた。


「はい! 私が使う! 私に使わせて! 私が使うべきだよ!」


 舞がこのエプロンを欲しがる理由はDEXが上がるからである。


 料理の腕が上がることは嬉しいが、力加減が上手くできなくて藍大と一緒に料理をすることがほとんどできない舞にとってはDEXが上がるエプロンは垂涎ものだろう。


 これさえあれば、食材や調理器具、食器を駄目にすることなく藍大と料理を一緒に作れるのだから欲しがる気持ちは強い。


「舞が使って良いよ」


 サクラも愛のフリルエプロンを使って裸エプロンとかやってみたいと思っていたが、舞がこのエプロンを持って初めてまともに藍大の料理を手伝えるとわかったから舞に譲った。


「わかった。それじゃこのエプロンは舞にあげよう」


「ありがとう! これで藍大と一緒に料理を作れるね!」


 愛のフリルエプロンを貰えて余程嬉しかったらしく、舞は満面の笑みを浮かべた。


 なくなったり破れたりしたら困るから、舞はエプロンを藍大に収納リュックにしまってもらった。


 今後は舞もおにぎりを作るや適当な炒め物以外にも作れるようになるだろう。


 その後、藍大達は闘技場の反対側の通路に移動してそこから先へと進んだ。


 通路は狭くてモンスターも現れないことから、モンスターが出て来るのは闘技場だけらしいことがわかった。


 3番目の闘技場の入口が見えた時、リルがピクッと反応した。


「リル、どうしたんだ?」


『この先にスチュパリデスぐらい強い奴がいる』


「そんなことまでわかるのか。すごいじゃないか」


『ワフン。僕の鼻はすごいんだよ』


 リルが得意気に言う姿を見て、愛い奴だと藍大はその頭を撫でた。


 気を引き締めてから闘技場へと進んでいくと、藍大達の前に現れたのは宙に浮かぶ雲に上下スウェット姿でだらだらする傾国の美人と呼ぶべき存在だった。


 しかし、その美人がただの美人ではないのは明らかだった。


 何故なら、その美人にはサクラにそっくりな角と翼、尻尾が生えていたからだ。


 藍大はすぐにモンスター図鑑を開いて目の前の敵の正体を確かめた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ベルフェゴール

性別:雌 Lv:65

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HP:1,500/1,500

MP:2,500/2,500

STR:0

VIT:1,750

DEX:1,750

AGI:1,000

INT:2,000

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:地下5階フロアボス

   大罪を奪われし者

アビリティ:<自動反撃オートカウンター><減速眼スローアイ><大波タイダルウェーブ

      <暗黒雨ダークネスレイン><紫雷光線サンダーレーザー

      <混乱霧コンフュミスト><眠魔変換スリープイズマジック

装備:アブソーブスウェット

   クラウドクッション

備考:魔法攻撃激減

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 (フラグ回収が早過ぎるっての!)


 ステータスを見て藍大が抱いた感想はそれだった。


 ゲンが”怠惰の王”になった次の戦闘でベルフェゴールが待ち受けているなんて驚異のフラグ回収速度である。


「私に似た匂いがする」


 それだけ言うと、ベルフェゴールはゆったりと藍大を指差して<紫雷光線サンダーレーザー>を放つ。


「やらせない」


 サクラが舞のカバーリングよりも先に深淵のレーザーを放ち、ベルフェゴールの攻撃を押し返した。


 ところが、アブソーブスウェットのおかげでベルフェゴールへのダメージは大したものにはならなかった。


「厄介ね」


 ベルフェゴールはサクラの存在が厄介だと感じたらしく、サクラに<減速眼スローアイ>を使用した。


 このアビリティが効けばサクラの動きが鈍くなるはずだったが、全くそんな気配がしなくてベルフェゴールは首を傾げた。


「何故?」


「無駄よ。私に状態異常は効かない」


「ゴルゴン! 正面を爆破!」


「はいさっ」


 サクラが時間稼ぎをしている間に藍大がゴルゴンに指示を出す。


 ゴルゴンはすぐにその指示に反応し、<爆轟眼デトネアイ>でベルフェゴールの正面を爆破する。


 爆炎でベルフェゴールの視界を遮ると、藍大の作戦は次のステップに進む。


「リルはベルフェゴールの居場所をナビ! サクラはその位置に<幸運光線ラッキーレーザー>」


『うん! 10時の方向!』


「わかったわ」


 リルのナビゲーションに従い、サクラがその方角に<幸運光線ラッキーレーザー>を放った。


「やったですか!?」


 (メロ、それは倒してないフラグだぞ)


 メロがフラグを立てただけでなく、システムメッセージが聞こえてこないことから藍大はまだ戦いは終わっていないと判断した。


 実際、爆炎が消えた時にベルフェゴールはクラウドクッションの上に寝そべっていた。


 もっとも、サクラのとっておきを受けて無傷でいられるはずがなく、アブソーブスウェットはボロボロになっていて機能しなくなっていたが。


「お気に入りだったのに」


 ムッとした表情になったベルフェゴールは<暗黒雨ダークネスレイン>で反撃した。


「舞!」


「任せとけ!」


 舞は光のドームを素早く展開してベルフェゴールの攻撃から自分達を守った。


 それは予想通りだったらしく、ベルフェゴールはアビリティを<大波タイダルウェーブ>に切り替えた。


 INTが2,000の<暗黒雨ダークネスレイン>を受けてしまえば、舞の光のドームはベルフェゴールのアビリティが切り替わった瞬間に崩れてしまう。


「リルとメロで大波を撃ち破れ! サクラは回り込め!」


『うん!』


「はいです!」


「了解」


 リルが<聖狼爪ホーリーネイル>を連発して大波をいくつかに斬り分けて勢いを殺した。


 メロはその後すぐに<植物支配プラントイズマイン>で巨大な葉を創り出し、その葉を団扇のように扇いで強風を起こして大波をベルフェゴールの方に跳ね返した。


「うわぁ」


 濡れたくないと思ったベルフェゴールがクラウドクッションを操作して上空に逃げるが、そこにはサクラが回り込んでいた。


「ここが貴女の終着点よ」


 サクラは無数の深淵の刃を創り出し、それらでベルフェゴールを斬り刻んだ。


 アブソーブスウェットがない今、ベルフェゴールはあっけなくバラバラに細断されてしまった。


『サクラがLv92になりました』


『おめでとうございます。従魔の能力値が初めて10万を突破しました』


『初回特典として逢魔藍大が三次覚醒で会得した力の効果範囲を大幅に拡大します』


『リルがLv91になりました』


『ゲンがLv88になりました』


『ゴルゴンがLv85になりました』


『メロがLv78になりました』


『メロがLv79になりました』


 システムメッセージが藍大にベルフェゴールとの戦いの終わりを告げた。


「お疲れ様! 今日の昼食は期待しててくれ!」


 スチュパリデスとベルフェゴールという強敵との連戦だったため、藍大はせめてこれぐらいはしなければと舞達に声をかけた。


「『期待する!』」


「楽しみにしてるね」


「やったわねっ」


「お腹空いてきたです」


『楽しみ』


 藍大の言葉に食いしん坊ズを筆頭にパーティー全員のテンションが上がった。


 連戦の疲労が吹き飛ぶ勢いである。


 ベルフェゴールとクラウドクッションの回収を終えると、藍大はベルフェゴールの魔石をサクラに与えた。


 その瞬間、サクラの見た目に変化はなかったもののサクラから強いオーラが放出され、それがゆっくりとサクラに吸収されていった。


『サクラがアビリティ:<魔法耐性レジストマジック>を会得しました』


「サクラは本当に強くなったな」


「主とずっとに一緒にいるためならどこまでも強くなるの」


「ありがとな」


「エヘヘ♪」


 藍大に抱き締められたサクラは嬉しそうに微笑み、その後ろには気づけば舞達がちゃっかり並んでいた。


 舞達のこともきちんと労ってから、藍大達はダンジョンを脱出した。


 102号室に戻ると、藍大は宣言通りに豪華な昼食を作って舞達の期待に応えてみせた。


 バーベキュー並みに疲れたが、その疲れに達成感を感じる藍大だった。

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