第184話 俺は・・・怠惰だ・・・

 自分達に向かって降り注ぐ無数の尖った羽根を見て、舞はすぐに光のドームを展開した。


「やらせねえよ!」


「サンキュー、舞! 助かった!」


 藍大は咄嗟に攻撃から守ってくれた舞に礼を言いつつ、反撃のチャンスを狙って策を練る。


「プジャァ・・・」


 スチュパリデスは自身の攻撃が舞のドームを破れずにムッとした。


 そして、攻撃を広範囲に向けて放つから貫けないのだと判断して攻撃を<竜巻吐息トルネードブレス>に切り替えた。


「舞、ドーム解除! リル、スチュパリデスに本物を見せてやれ!」


「おう!」


『うん!』


 藍大が指示を出した直後、舞がドームを解除してリルが<碧雷嵐サンダーストーム>を発動した。


 リルの<碧雷嵐サンダーストーム>は<竜巻吐息トルネードブレス>を消し飛ばし、そのままスチュパリデスへと向かってグイグイと進んだ。


「プジャッ!?」


 自分の攻撃を破られるとは思っていなかったらしく、スチュパリデスは慌てて逃げるがもう遅い。


 雷を纏った嵐に吸い込まれてダメージを負った。


 しかし、<魔法耐性レジストマジック>を会得しているおかげでスチュパリデスのダメージは思いの外少なかったようだ。


 ただし、スチュパリデスは自分の体を傷つけられてプライドが傷ついたらしい。


「プジャッ!」


 力強く鳴いたスチュパリデスの体を竜巻が覆う。


 藍大達が自分にダメージを与えられるだけの攻撃ができると学習したので、防御も怠ってはいけないと<竜巻鎧トルネードアーマー>を使ったのだ。


 その直後、スチュパリデスは体をきりもみ回転させて嘴から急降下を始めた。


 降下するにつれて回転の速度が上がっていき、<螺旋刺突スパイラルスタブ>の威力が高まっていく。


「よし、わざわざ近づいて来たか! ゴルゴン、奴の正面を爆破して時間を稼げ! メロはその間に奴の動きを止めるんだ!」


「ドカンするわっ」


 ゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>でスチュパリデスの正面を爆破することで、スチュパリデスの<螺旋刺突スパイラルスタブ>の勢いが減衰した。


「止まるです!」


 そこにメロが<停止綿陣ストップフィールド>を発動し終え、綿に突入してしまったスチュパリデスは綿を吹き飛ばした状態で止まってしまった。


「サクラは竜巻を排除!」


「は~い」


 <深淵支配アビスイズマイン>で大きな深淵の刃を形成すると、サクラは竜巻の鎧を斬り飛ばした。


「リルは舞を連れて空へ! 舞、地面に叩き落せ!」


『うん!』


「任せな!」


 舞がリルに飛び乗ると、リルは舞を乗せたまま<光速瞬身ライトムーブ>でスチュパリデスの真上に移動する。


 あと少しでスチュパリデスが再び動き出すというその時、舞は雷光を纏わせたミョルニル=レプリカを体を捻ってスチュパリデスに叩き込む。


「堕ちろオラァ!」


 スチュパリデスの時間が動き出すと同時にその体に強烈な衝撃が走る。


 舞が全力で殴りつけたため、スチュパリデスは地面にすごい勢いで墜落した。


 ところが、地面に激突する直前にスチュパリデスの体が光ってそれが地面に向かって放たれた。


 地面に放った光がクッションになり、スチュパリデスは落下ダメージを軽減した訳である。


「グワァァァァァッ!」


 残りのHPが心許ないらしく、スチュパリデスは今日一番の迫力で鳴きながら<竜巻鎧トルネードアーマー>を発動した。


 スチュパリデスはそのまま地面に水平に飛び、羽を1枚残らず硬く鋼のように変えて突撃する。


 それだけではまだ足りないと言わんばかりにスチュパリデスの体が光り出し、それが竜巻の鎧を呑み込んでスチュパリデスよりも一回り大きな光の怪鳥を形成する。


『主さん・・・任せて・・・』


「任せる!」


 スチュパリデスがこの一撃に懸けたのだと悟ると、ゲンが自分からこの場は任せろと言い出した。


 藍大はゲンのVITならばスチュパリデスの攻撃も凌げると判断し、ゲンの申し出に許可を出した。


 ゲンは<上級鎧化ハイアーマーアウト>を解除して藍大の前に現れると、<自動操縦オートパイロット>によって体を甲羅の中にしまい込んだ。


 それだけではなく、スチュパリデスを迎え撃つように地面を滑って<滑走衝撃グライドインパクト>を発動しながらスチュパリデスと正面からぶつかった。


「グボッ!?」


 スチュパリデスはゲンに当たり負けて後方に吹き飛んだ。


 闘技場の反対側まで吹き飛ばされた後、スチュパリデスはピクリとも動かなくなった。


『サクラがLv91になりました』


『リルがLv90になりました』


『ゲンがLv87になりました』


『ゴルゴンがLv84になりました』


『メロがLv76になりました』


『メロがLv77になりました』


 システムメッセージがスチュパリデスとの戦いが終わったことを告げた。


 メロが一気にレベルを2つも上げる程の経験値を手に入れたが、スチュパリデスの強さを考えれば十分に頷ける。


「お疲れ様。みんなグッジョブ!」


 藍大は舞と従魔達を労った。


 順番に頭を撫でていると、ゲンの番で珍しいことが起きた。


 藍大がゲンから手を放そうとすると、ゲンがもっと撫でろと目で訴えて頭を藍大の手に押し当てたのだ。


「ゲン、今日はいつもよりも甘えて来るじゃんか」


「疲れたから・・・」


「そうか。ん? ちょっと待て。ゲンが今喋ってなかったか?」


「私にも聞こえたよ」


「私も」


『僕も』


「アタシもっ」


「私もです」


 <上級鎧化ハイアーマーアウト>を発動している時、ゲンの声が藍大だけに聞こえるのはこのパーティー内では周知の事実だ。


 だが、元の姿の状態ではゲンが言葉を喋ったことは一度もなかった。


 それにもかかわらず、藍大だけでなくそれ以外の者もゲンの声を聞いたのでゲンにジト目を向けた。


 藍大がジト目代表としてゲンに訊ねる。


「ゲンさんや。もしかしてパンツァータートルに進化した時から喋れたんじゃないかね?」


「・・・喋れた」


「なんで喋らなかったんだよ。会話した方が意思疎通が楽にできるだろ?」


「主さん・・・俺の意思・・・わかってくれる・・・。黙ってても・・・問題ない・・・」


「怠惰にも限度があるだろ!」


『ゲンのアビリティ:<自動操縦オートパイロット>とアビリティ:<眠力変換スリープイズパワー>がアビリティ:<怠惰スロウス>に統合されました』


『ゲンが称号”怠惰の王”を会得しました』


『おめでとうございます。従魔が初めて魔石に頼らず大罪に関する称号を会得しました』


『初回特典として逢魔藍大の収納リュックにプレゼントが配られました』


『大罪を冠する称号を奪われた者が称号を奪い返そうと逢魔藍大のパーティーを狙っています』


『ゲンがアビリティ:<重力眼グラビティアイ>を会得しました』


「いやいやちょっと待て! そんなんありかよ!?」


「藍大、どうしたの?」


 藍大の様子が変だと思った舞が訊ねると、藍大が顔を引き攣らせながら答えた。


「ゲンが魔石を吸収せずにスキルの統合をやってのけた。しかも、”怠惰の王”なんて称号まで会得したんだ」


「えぇ~!?」


「本当に?」


『ゲンすご~い』


「べ、別に羨ましくなんてないんだからねっ」


「やる時はやるですね」


 藍大の説明を聞いて皆の視線がゲンに集まった。


 視線を集めたゲンはと言えば、あくまでマイペースに口を開いた。


「俺は・・・怠惰だ・・・」


「「「「「『知ってる』」」」」」


 何を今更になって当たり前なことを言っているのかと全員がツッコんだ。


 スチュパリデスの解体をサクラ達に任せ、藍大はゲンが新たに得たアビリティについて確認した。


 まず、<怠惰スロウス>は普段だらけている分に蓄えた力を一撃に集中させられるだけでなく、その場に適した行動を体が勝手に動き出して取る効果があった。


 それに加えて副次的な効果として、味方のストレスを和らげることができた。


 マイペースなゲンがいるおかげで藍大達のストレスが和らぐとは不思議な特性である。


 次に、<重力眼グラビティアイ>は視界に捉えた対象にかかる重力を操作できるスキルだった。


 ところで、ゲンの<上級鎧化ハイアーマーアウト>はゲンのVITを藍大に引き継ぎ、<魔攻城砲マジックキャノン>と<自動操縦オートパイロット>を藍大が使えるようになるアビリティだったが、<自動操縦オートパイロット>が消失したことで変化した。


 藍大はゲンが憑依している間、<自動操縦オートパイロット>の代わりに<重力眼グラビティアイ>を使えるようになったのだ。


 藍大も戦闘中にアシストできるようになった訳なので、この変化には喜ばないはずがなかった。


 ゲンは一通り藍大に変化を確認してもらい、普段よりも疲れた分だけ甘えると満足して<上級鎧化ハイアーマーアウト>を発動した。


 その頃にはスチュパリデスの解体もすっかり完了しており、メロが藍大の前に魔石を持ってニコニコしながら待機していた。


 今まではゲンのペースに飲み込まれてしまったが、藍大は気持ちを切り替えてメロの期待に応えることにした。

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