第16章 大家さん、偉業を成し遂げる

第183話 大きい鳥だね! 何食分かな!?

 料理大会から1週間と1日が経った6月28日の日曜日、藍大達はやっと落ち着いてダンジョン探索ができるようになった。


 藍大が料理大会で優勝したことで、各種メディアからの取材依頼の連絡とシャングリラのモンスター素材をもっと市場に流してほしいという連絡が殺到したからだ。


 前者はテレビと新聞、ラジオで1社ずつだけ取材を受けると言ったことでより良い条件を提示した会社の取材を受けるだけで済んだ。


 後者についてはきっぱりと月見商店街に卸す分以外は自分達で食べるからと言って断った。


 欲しければ月見商店街で買うようにと藍大が言ったことにより、月見商店街が更に盛況になったのは言うまでもない。


 また、取材や問合せ以外にも藍大達がダンジョン探索に行けない理由はまだあった。


 それは週刊ダンジョンの編集長に対する内部告発の件である。


 健太がテレビ局で決定的証拠編集長のやらかしたやり取りを手に入れたため、健太が週刊ダンジョンに呼び出された。


 そこで健太が余計なことを言わないか心配だし、録音の内容には自分が含まれていることから藍大も週刊ダンジョンに同行したのだ。


 結局、週刊ダンジョンを発売する会社は会社の評判を守るために編集長を解雇として副編集長を編集長に昇進させた。


 それに加え、元々仕事ができて作成する記事にも定評のある遥が副編集長に昇進した。


 会社側も事態をこれ以上大事にされては困るので、社長自ら編集長の処分が決まってからシャングリラにお詫びの品を持参して頭を下げに来た。


 藍大達も直接的な被害が出ていないことからその謝罪を受け入れ、この件についてはこれで和解することが決まった。


 これは余談だが、遥はピンチを健太に助けてもらってから健太と連絡を取り合う仲になったらしい。


 健太にとっては逃せないチャンスが来たと言えよう。


 さて、貸出中のパンドラとリュカ、警備員のドライザーを除いた従魔と舞を連れて藍大はダンジョンの地下5階にやって来た。


 地下4階から地下5階に下りる階段は装飾が豪華であり、下りた先にあったのは草原ではなく石でできた通路だった。


「なんだここ? 遺跡か?」


「草原じゃないね」


「一本道みたい」


『ご主人、向こうにたくさんモンスターがいる』


 藍大と舞、サクラがここがどこか悩んでいると、リルがその嗅覚で通路の先にモンスターがいることを告げた。


「行ってみるか」


「出て来る敵は倒すよ~」


「主の覇道を邪魔させない」


『お肉いっぱいだと良いな~』


「上手に焼くんだからねっ」


「一狩り行くです」


 藍大が声をかけると、パーティーメンバー全員のやる気は十分のようである。


 通路を抜けて視界が開けたらそこは闘技場だった。


「マグマイマイにプラチナアイ、ガチャゴーレム!?」


「藍大、グランドブルだよ! アリゲリオンもいる!」


「モスマン死すべし慈悲はない」


『ウエポンリーキの臭いが強いよ・・・』


 驚くべきことに、闘技場の中には各曜日の地下2階のフロアボスが勢揃いだった。


 新な雑魚モブモンスターが現れるのかと思えば、まさかの地下2階フロアボスオールスターズがいるので藍大達が驚くのも無理もない。


 しかも、レベルは地下2階で戦った時よりも強くなっており、どのモンスターもLv55で固定されていた。


 先手を取ったのはウエポンリーキだった。


 ウエポンリーキは<麻痺弾パラライズバレット>を連射して藍大達を攻撃した。


「効かねえな!」


 舞がカバーリングで藍大達の前に立つと、光を纏わせたミョルニル=レプリカで全て打ち返してみせた。


 その内の3つがアリゲリオンとグランドブル、ガチャゴーレムに命中し、3体は体が痺れて動けなくなった。


「ドカンなんだからねっ」


「狙い撃つです!」


 アリゲリオンはゴルゴンが手加減して爆破し、グランドブルはメロが種の弾をヘッドショットで決めて倒した。


 残るは後5体だ。


 いや、それは訂正すべきだろう。


「モスマンも倒した」


『ウエポンリーキも倒したよ』


 いつの間にかサクラがモスマンを深淵の刃で一刀両断し、リルも<聖狼爪ホーリーネイル>でウエポンリーキを倒していたから、残りはマグマイマイとプラチナアイ、ガチャゴーレムだけだ。


「そらよっ!」


 舞がアダマントシールドを全力で投げると、それが麻痺して動けないガチャゴーレムに命中してHPを刈り取った。


 残るはマグマイマイとプラチナアイだけとなった。


 マグマイマイは勝てる気がしないと思ったのか殻に籠って現実逃避しており、プラチナアイはそんなマグマイマイを盾にして隠れている。


「舞さん、サクラさん、やってしまいなさい」


「おう!」


「うん!」


 サクラが<透明多腕クリアアームズ>でマグマイマイを空中に放り投げると、舞がプラチナアイをミョルニル=レプリカでぶん殴った。


 プラチナアイのHPが尽きた直後、マグマイマイも落下ダメージでHPが尽きて動かなくなった。


 闘技場に来ていきなり地下2階のフロアボスオールスターズが待ち伏せていた時は驚いたが、藍大達は苦労せずに戦闘を終えることができた。


 倒したモンスターの回収を行っていると、どのモンスターからも魔石が手に入った。


「フロアボスクラスのモンスターだもんな。魔石だって手に入るか」


「う~ん。でも、それじゃ私達も欲しいとは思わないよ」


 藍大が魔石を手に入れたことでなるほどと感心していたところにサクラが口を挟んだ。


「マジで?」


「うん。みんなもそうだよね?」


『うん』


「いらないわっ」


「惹かれないです」


『いらない』


 この場にいる従魔全員が要らないと言えば、藍大は魔石の処理に困った。


 いつも魔石は順番にサクラ達従魔に与えていたので、魔石が消費されない事態に戸惑ったのである。


「今のサクラ達を満足させられるのは”掃除屋”と”フロアボス”の魔石だけってことか」


 先程倒したモスマン達は地下5階において何も称号を持たない雑魚モブモンスター扱いだった。


 サクラ達のレベルがもっと低ければ欲したのかもしれないが、強くなったサクラ達には雑魚モブモンスターの魔石は与えても強くなれないようだ。


 そこに舞が助け舟を出した。


「ドライザーにあげれば良いんじゃない?」


「ゴーレムって魔石を吸収するんだろうか?」


「パンドラも同じ無機型モンスターだけど吸収するって聞いたよ」


「それならドライザーに与えてみよう」


 7つの魔石使い道が決まったところで、藍大達は闘技場の反対側の通路に移動してそのまま先へと進んだ。


 通路にはモンスターが一切出て来なかった。


 通路を抜けたら再び闘技場だったが、先程の闘技場と違うことがあった。


 藍大達が通路を通り切った直後に通路の天井から鉄格子が地面に向かって現れ、藍大達は後戻りできなくなったのだ。


 いや、それだけではない。


 反対側の通路にも鉄格子が現れていることから、何か条件を満たさなければ後にも先にも移動できないことが確定した。


「プジョォォォォォ!」


 突然、闘技場内に何かが鳴く声が響き渡った。


『ご主人、上だよ! 上にいる!』


「大きい鳥だね! 何食分かな!?」


 リルと舞の言葉に反応して上を見上げると、藍大は嘴と翼の先端に光沢がある白く巨大な朱鷺ときの姿を視界に捉えた。


 そして、そのまますぐにモンスター図鑑を開く。



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名前:なし 種族:スチュパリデス

性別:雌 Lv:65

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HP:1,200/1,200

MP:1,400/1,400

STR:1,500

VIT:1,400

DEX:900

AGI:900

INT:1,300

LUK:1,000

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称号:掃除屋

アビリティ:<尖羽根雨フェザーレイン><螺旋刺突スパイラルスタブ><鋼化翼スチールウィング

      <竜巻吐息トルネードブレス><竜巻鎧トルネードアーマー

      <闘気鳥オーラバード><魔法耐性レジストマジック

装備:なし

備考:高揚

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 (たった7体倒しただけで”掃除屋”が出た?)


 藍大がスチュパリデスのステータスを確認し終えた時に最初に気になったのは、スチュパリデスが”掃除屋”の称号と共に現れたことだ。


 今までのシャングリラダンジョンでは7体のモンスターを倒しただけでは”掃除屋”が出て来なかった。


 それが今日は出て来たのだから、元々普通ではないシャングリラダンジョンの中でも異常である。


「プジャァァァァァッ!」


 スチュパリデスは藍大達を空高くから見下ろしつつ、叫んですぐに無数の尖った羽根を藍大達目掛けて飛ばし始めた。

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