第182話 お母さんおかわり!

 料理するための1時間が過ぎると、すぐさま実食タイムになった。


 審査員は3人いるがそのラインナップは以下の通りだ。


 1人目はスポンサー枠で週刊ダンジョン編集長の代理の副編集長の女性だ。


 編集長は番組収録前にとのことで病院に搬送されたため、急遽編集長の補佐でテレビ局に来ていた副編集長が代役となった。


 幸いなことに、副編集長は「Let's eat モンスター!」の統括をしているのでモンスター食材に明るい。


 それゆえ、審査員としては編集長よりもむしろ副編集長の方が正確な判断を下せるだろう。


 2人目は日本を代表するホテルのコック長を務める男性である。


 コック長は自分が働くホテルでもモンスター食材を導入しており、超人ではない料理人の中では最もモンスター食材に精通しているのでテレビでも映ることもある。


 3人目はDMU本部長の芹江潤、つまりは茂の父親だった。


 潤が審査員として参加する理由とは、モンスター食材をテレビを通してより多くの人に知ってもらうことでダンジョンからモンスター食材を調達する冒険者の存在意義を伝えるためだ。


 藍大達が料理をしている間、司会の女優が時々審査員の3人にも話を振っていたおかげでスタジオ内の観客は冒険者に好意的な雰囲気になっていた。


「では、ここからは実食タイムです! 試食の順番は公平性の観点から籤引きで決めさせていただきます!」


 司会の女優がそう言って3本の棒の入った箱を取り出した。


 この3本の棒にはそれぞれ1~3の番号が記されており、それが試食の順番になるという訳だ。


 籤引きの結果、試食の順番は美海、秀、藍大の料理と決まった。


 (最後になっちゃったか。まあ最初だと基準にされそうだし良しとしよう)


 藍大は籤引きの結果を前向きに捉えることにした。


 ここでネガティブになっては勝負に勝てないと思って自らを奮い立たせているのだ。


 (大丈夫・・・。主さん・・・飯・・・美味い・・・)


 (マスターが一番美味しいに決まってるんだから大丈夫なんだからねっ)


 そんな藍大を心配してゲンとゴルゴンが藍大に語り掛けた。


 (ゲンもゴルゴンもありがとな)


 この場でゲンとゴルゴンに礼を言えば、誰に喋っているのかと変人扱いされかねないので藍大は心の中で礼を言った。


 仲の良い主従関係はさておき、審査員3人と司会の女優は美海のキッチンに向かった。


 ちなみに、司会の女優は審査に関係ないが藍大達の料理を食べることができる。


 これは司会の女優が美味しそうに食べることで撮れ高がばっちりになるという番組プロデューサーの意向によるものだ。


「まずは柳さんの料理からですね。柳さん、改めて料理名を教えて下さい」


「おう! アタシが作ったのは忙しい大人やよく食べる子供に人気のカツ丼だ!」


「とても良い匂いがしますね」


「チェーン店のカツ丼とは段違いですな」


「これは堪りませんね」


 美海が料理名を告げると、審査員3人がそれぞれコメントしていく。


 そのまま審査員3人と司会の女優が試食を始め、一口食べた瞬間に目を見開いた。


「美味しい! これ、美味しいですよ!」


「オークの肉の使い方をよくわかってらっしゃる」


「味付けも絶妙ですな。何一つ邪魔するものがない」


「このカツ丼をダンジョンの前で販売したら皆食べますね」


 司会の女優の食レポが残念なのは置いておくとして、審査員3人はやはりしっかりとしたコメントを残している。


 観客席からはどうして自分達に食べる分がないんだと嘆く声がちらほら聞こえた。


 試食が終わると、そのまま点数の発表へと移る。


 藍大の料理を食べるまで待つと、最初の方に食べた料理への点数がグラつく恐れがあるからだ。


「先に食材レアリティの点数発表です! 審査員の皆さん、お願いします!」


 司会の女優が審査員達に振った直後、審査員達は手元のボタンを押すことで点数が決まる。


 その結果、副編集長が3点とコック長が4点、潤が2点の合計9点になった。


 食材のレアリティは自分が知っているかだけでなく、世間への流通度合いも考慮されて決まる。


 モンスター食材について詳しい順に点数が厳しいのは仕方のないことだろう。


「続いて味の点数発表です! よろしくお願いします!」


 今度は副編集長が3点とコック長が4点、潤が5点の合計12点となった。


「ということで、柳さんのカツ丼は21点です! これは最初から高得点ですね! ここで審査員の皆さんからコメントを頂きましょう!」


 基準となる最初の料理が21点なのは後に控える秀と藍大にプレッシャーを与えることになる。


 中央値の15を超える得点が基準となるのだから当然だ。


「トップバッターということがなければあと1点ずつ上げたかったです」


「1人目からレベルが高くて驚きました。真面目に修行したらウチのホテルで働けますよ」


「レアリティについてはクライオニオンが少し珍しいぐらいでしたが、味の方は文句なしに美味しかったです」


「ありがとうございました。次に速水さんの料理の試食に移りましょう」


 審査員達からのコメントが終わると、司会の女優は秀のキッチンへと移動して審査員達もその後に続く。


「速水さん、改めて料理名を教えて下さい」


「わかりました。僕の料理は複数のダンジョン食材で作ったダンジョンコラボ炒飯です!」


「1つの炒飯で複数のダンジョンを味わえるのは良いですね」


「盛り付けはホテルでも通用しそうですな」


「大手クランならではの料理ですね」


 秀が料理名を告げた直後に審査員3人がそれぞれコメントしていく。


 そのまま審査員3人と司会の女優が試食を始め、しっかりと味わってからコメントを口にした。


「う~ん、美味しい! しかもパラパラですよ!」


「ダンジョンをはしごした気分になりますね」


「それぞれの食材の味をしっかりと感じられますな」


「普通の食材じゃ満足できなくなりそうです」


 炒飯の試食が終わると、そのまま点数の発表へと移った。


「初めに食材レアリティの点数発表です! 審査員の皆さん、お願いします!」


 司会の女優が審査員達に振った直後、審査員達は手元のボタンを押すことで点数を決めた。


 その結果、副編集長が4点とコック長が4点、潤が3点の合計11点になった。


「食材レアリティでは柳さんに勝ってますね。続けて味の点数発表です!」


 味については副編集長が3点とコック長が3点、潤が4点の合計10点となった。


「並びました! 速水さんの炒飯も21点です! アツい展開になってきました! 審査員の皆さんからコメントを頂きましょう!」


「レアリティでは柳さんよりも上でしたが、味の方は甲乙つけ難かったです」


「食材については柳さんの使った物と同様偶に手に入るかどうかという感じでした。味については食材の主張が少し反発してるように感じましたな」


「ハイドシュリンプは珍しくて柳さんよりも点を多くしましたが、味の方はカツ丼の方が好きでした」


「ありがとうございました。最後に逢魔さんの料理の試食に移りましょう」


 司会の女優は審査員達からのコメントが終わると、藍大のキッチンへと審査員を引き連れて移動した。


「お待たせしました。逢魔さん、改めて料理名を教えて下さい」


「はい。私の料理はシャングリラ産の食材たっぷり我が家のカレーライスです!」


「『Let's eat モンスター!』で取り上げた時から私も逢魔さんの料理を食べてみたかったんですよね」


「食材も調理器具も始めて見るものばかりでワクワクしましたな」


「これは観客の皆さんがかわいそうなぐらい食欲をそそられますね」


 藍大が料理名を告げた直後に審査員3人がそれぞれコメントしていく。


 そのまま審査員3人と司会の女優が試食を始め、食べてコメントするのかと思いきや完食するまで無我夢中でカレーを食べ続けた。


 そして、真っ先に完食した司会の女優が皿を掲げて一言。


「お母さんおかわり!」


「お母さんじゃありません!」


 (あっ、しまった)


 咄嗟に司会の女優の言葉にツッコんでしまったため、藍大は言ってからそれに気づいた。


「なんでしょう。レアな食材がたっぷりなはずのにホッとする味ですね」


「ホテルのレストランとは全く違う路線ですが、これはもう独自の道を究めてますな。帰巣本能が刺激されます」


「流石我が家のカレーですね。2日目の味もとても気になります」


 審査員達のコメントのおかげで藍大のツッコミは都合が良いことに流された。


 藍大のカレーライスの試食が終わると、そのまま点数の発表へと移った。


「食材レアリティの点数発表から参りましょう! 審査員の皆さん、よろしくお願いします!」


 司会の女優が審査員達に振った直後、審査員達は手元のボタンを押すことで点数を決めた。


 その結果、全員が5点ずつの合計15点になった。


 この大会初めての満点である。


 現時点でトップタイとの差が6点だから、これはかなり藍大の流れが来ているのではなかろうか。


「食材レアリティで満点の評価となりました! 続けて味の点数発表です!」


 味についても全員が満点を出して合計15点となった。


「味も15点満点で合計30点の満点です! 優勝は逢魔お母さんのカレーライスです! おめでとうございます!」


「よしっ!」


 満点で優勝が決まった瞬間、紙吹雪が飛ぶのと同時に藍大はガッツポーズをした。


 (当然)


 (当然の結果なんだからねっ)


 (ありがとう!)


 ゲンとゴルゴンが誇らしそうに言うものだから、この場では心の中で礼を言って後で帰ったらたっぷり甘やかそうと決める藍大だった。


「逢魔さん、こちらが初代料理大会チャンピオンにお渡しするトロフィーです! おめでとうございます!」


「ありがとうございます!」


 藍大は司会の女優から料理大会の優勝を称えるトロフィーを受け取った。


「では、ここで審査員の皆さんからコメントをいただきます!」


「とても珍しい食材ばかりでしたが、それがちゃんと1つの料理に昇華されてました。素晴らしかったです」


「食材のレアリティ頼りにならないしっかりとした調理がこのカレーライスの秘訣なんでしょうな。感服しました」


「今度2日目のカレーを食べさせて下さい。とても美味しかったです」


「ありがとうございました! お時間が来ましたので、これにて『Let's cook ダンジョン! 第1回料理大会』はおしまいです! 次回もまた楽しみにしてて下さい! バイバ~イ!」


 番組が終わって藍大が楽屋に戻ると、舞達がすぐに突撃してカレー食べたいと言い出したのは言うまでもない。


 急な出演依頼だったが、藍大は無事に結果を残してみせたのだった。

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