第179話 耳を触って良いのはマスターだけです!

 藍大達が小島に着陸したら、ゴルゴンがすぐに<中級装飾化ミドルアクセアウト>を解除した。


「私ももっと強くなりたいわっ。マスター、魔石ちょうだい!」


 カリュブディスとの戦闘で手伝えなかったことが悔しかったようで、ゴルゴンは藍大の服を揺すって急かした。


「わかったから落ち着け。それと元の姿に戻っとけ」


「はいなっ」


 藍大に言われた通り、ゴルゴンは元の多頭蛇の姿に戻った。


 人型の状態で脱皮されたとしたら、人の姿の皮が残るかもしれない。


 それはホラーでしかないので藍大の指示は妥当である。


 ゴルゴンが藍大から魔石を貰って呑み込むと、ゴルゴンが脱皮して古くなった皮の中から深紅の美しい鱗に覆われた姿で現れた。


『ゴルゴンがアビリティ:<水耐性レジストウォーター>を会得しました』


 新たなアビリティを会得すると、ゴルゴンはすぐに<亜人化デミヒューマンアウト>を発動して幼女の姿に変身した。


「やったわっ。水に強くなったのよっ」


「良かったな。これで水を扱う敵が現れてもゴルゴンも戦える」


「今度は守られる側じゃなくて守る側になるんだからねっ」


「そうだな。頼りにしてるぞ」


「フフン」


 胸を張って鼻を鳴らすあたり、藍大に頼られて嬉しいのだろう。


 それはさておき、ゴルゴンのパワーアップが終われば次はメロの番である。


「メロ、進化できるってよ。進化するか?」


「勿論です!」


「わかった。進化させるぞ」


 メロが元気に首を縦に振ると、藍大は図鑑の進化可能の文字に触れた。


 その瞬間にメロの体が光に包まれ、光の中でメロのシルエットに変化が生じた。


 身長はほんの少し伸びただけだが、メロが被っていたベレー帽がなくなって耳が妖精のように尖ったものへと変わった。


 服装もオーバーオールから変わったようだが、シルエットのままではよくわからない。


 光が収まると、新緑の髪をハーフアップにした小麦色の肌のメロの姿があった。


 耳は本当に妖精の尖った耳になっており、服装はブーナッドと呼ばれるノルウェーの民族衣装になっていた。


『メロがドリアードからアースエルフに進化しました』


『メロのアビリティ:<多重蔓マルチプルヴァイン>とアビリティ:<種狙撃シードスナイプ>がアビリティ:<植物支配プラントイズマイン>に統合されました』


『メロが称号”植物に愛されし者”を会得しました』


『メロがアビリティ:<元気矢エナジーアロー>を会得しました』


『メロのデータが更新されました』


 (アースエルフって何!? エルフと違うのか!?)


 ファンタジー世界の人種の名前を聞き、藍大は急いでモンスター図鑑でメロの変化について確かめ始めた。



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名前:メロ 種族:アースエルフ

性別:雌 Lv:75

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HP:1,600/1,600

MP:1,800/1,800

STR:1,500

VIT:1,500

DEX:1,800

AGI:1,600

INT:1,800

LUK:1,600

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称号:藍大の従魔

   ダンジョンの天敵

   植物に愛されし者

アビリティ:<大地祝福ガイアブレッシング><怠雲羊波シープウェーブ><農家ファーマー

      <植物支配プラントイズマイン><停止綿陣ストップフィールド

      <脈動回復パルスヒール><元気矢エナジーアロー

装備:ブーナッド

備考:なし

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 (アースエルフ。森を出て大地と共に生きるエルフ。狩人から農家へ転向したエルフってことか)


 藍大はモンスター図鑑に記された説明を読んだ結果、メロらしい進化を遂げてアースエルフになったのだと理解した。


 <植物支配プラントイズマイン>は攻撃にも農業にもいかせるアビリティであり、新たに会得した<元気矢エナジーアロー>は大地のエネルギーを分けてもらってエネルギー体の矢を放つアビリティだった。


 大地と共に生きるエルフという説明に間違いはなかった。


「メロがアタシよりも大きくなってるわっ」


「フッフッフ。私の方がおねーさんです」


 (どちらも幼女に変わりはないぞ)


 そう思った藍大だったが、それを言わないだけの優しさがあったので黙っていた。


「うわぁ、エルフ耳だ~!」


「ま、待つです!」


 アースエルフに進化したメロが可愛くて堪らない様子の舞を見て、メロはシュタッと藍大の後ろに隠れた。


 ドリアードに進化した時のようにぐるぐると振り回されたくないからである。


「私は怖くないよ~。ホントだよ~」


「ホントです?」


「勿論だよ~。あっ、その耳触っても良い?」


「耳を触って良いのはマスターだけです!」


「えっ、そうなの?」


 藍大はいきなり話に巻き込まれて反射的に訊ねた。


「・・・今のは聞かなかったことにしてほしいです」


 顔を真っ赤にしたメロはそれだけ言うと、藍大に抱き着いて誰にも顔を見せないようにした。


 メロが落ち着くと、藍大は地下5階に続く豪華な階段に目を向けた。


 (この先はもっと強いモンスターが出て来るんだろうか? だとしたら料理大会が終わるまで行かない方が良いかもな)


 大事なイベントを前に今まで以上に危険な場所に挑むのはリスクが大き過ぎるので、藍大はそんなことを考えた。


 とりあえず、藍大達はスパイスツリーも回収してやるべきことを全てやり終えたから脱出した。


 ダンジョンから脱出した藍大達の前にはつい先程ダンジョンから出て来た様子の未亜のパーティーがいた。


「お疲れ」


「おっす藍大」


「クランマスターお疲れー」


「今ダンジョンから脱出したところ?」


「おう。いやぁグサダーツマジヤベえぞ。俺達に回避の修行をさせるためにいるんじゃね?」


「レモラの顔拝むどころか、グサダーツを躱して数体倒すので精一杯やったわ」


「地下4階はもっとえげつねえからしっかり鍛えた方が良いぞ」


「うげぇ。勘弁してくれよ。で、メロちゃんに何があった?」


「せやで。見た目変わったやろ。進化したんか?」


 今日の報告を適当なところで切り上げると、健太と未亜がメロのことを質問した。


 2人は藍大達を視界に入れた瞬間からずっと訊きたかったのだろう。


 藍大は自分から言っても良かったが、ここはメロから報告させてみるかと思ってメロに促した。


「私はアースエルフに進化したです。ドリアードの時よりもおねーさんになったです」


「エルフキターーーーーー!」


「エルフってモンスター枠やったんか!」


「俺の従魔なんだから普通のモンスターとは一味違うぜ。な?」


「勿論です! 農業も戦闘も頑張るです!」


「今更だけど農業するモンスターって言われると違和感あるよな」


「せやねん。もう人としてカウントした方がええんちゃうか?」


「人かモンスターかはさておき、家族だから大事な存在なのは間違いない」


 藍大がそう言った瞬間、サクラとリル、ゴルゴン、メロが嬉しそうに藍大に体を寄せた。


「これはリア充。絶対リア充。リア充爆・・・。何?」


 健太がリア充爆発しろと叫ぼうとした瞬間、自分の服を引っ張る存在に気づいてそちらの方を向いた。


 すると、そこにはメロと瓜二つの姿に変身したパンドラの姿があった。


「パンドラ、お前・・・」


「これで我慢」


「パンドラ! お前って奴は本当に良い奴だ!」


 藍大に迷惑をかけさせまいと、パンドラがメロの姿になって抱っこをせがむポーズをした。


 パンドラを抱っこすることで、健太のリア充爆発しろと叫びたくなる気持ちは和らいだ。


「あぁ、もう。パンドラに気を遣われるとか情けないでホンマ」


「なんだとぉ!? 未亜だって日頃からパンドラに世話されっぱなしじゃねえか!」


「アンタよりマシや!」


「俺の方がマシだろ!」


 マジで殴り合いする5秒前みたいな状態になると、サクラが<透明多腕クリアアームズ>で2人を宙吊りにした。


「頭を冷やして」


「「はい・・・」」


「サクラ、グッジョブ」


「どういたしまして」


 藍大は仲裁するには自分が非力だとわかっていたから、サクラが代わりに力づくで2人の言い争いを止めてくれたことに感謝した。


「健太も未亜も近所迷惑になるから静かにな」


「だけどよ」


「せやかて」


「健太、いい加減にしないと今週の土曜日に留守番させるぞ?」


「すみませんでした。それだけは勘弁して下さい」


「未亜、パンドラに頼りっぱなしの生活はどうかと思うぞ。このままだとパンドラのレンタル止めるぞ?」


「すまん。それだけは堪忍して」


 藍大の言葉が効いたらしく、健太も未亜も反省した態度を見せた。


 健太は藍大の料理大会を応援の名目で同行して可愛い子を探しに行くつもりだった。


 その同行が禁止されるどころかシャングリラに閉じ込められれば、健太に出会いのチャンスがなくなってしまう。


 それゆえ、健太は必死になって謝った。


 未亜も自分がパンドラの気遣いを受けてだらしなくなっている自覚はあったが、パンドラがいない生活は考えられなくなっているのでどうか取り上げないでほしいと謝った。


「仲良くしろとまでは言わないが、お互いに喧嘩しない程度には歩み寄れ。大人なんだから」


「「面目ねえ」」


 藍大を怒らせると自分達の生活に支障が出ると悟り、健太と未亜は素直に謝って反省した。


 地面に降ろされると、健太と未亜はお互いに謝ってこの場はお開きとなった。


 102号室に入ったところで藍大は溜息をついた。


「まったく、どうしてあの2人はああなるかな」


「2人に恋人ができたらおとなしくなると思う」


「難しそうだな」


「難しそうだね~」


「私もそう思う」


 サクラの提案を聞いて藍大と舞の意見が一致したが、言い出したサクラも同じ考えだったらしい。


 健太と未亜のリア充への道のりはまだまだ遠そうである。

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