第178話 貝殻ビキニの固定砲台なんざ全く萌えねえ

 クラーケンとついでに戦闘に巻き込まれて力尽きたグサダーツの解体をしていると、サクラが藍大の前に黄色い結晶でできた種を持って来た。


「主、クラーケンの中に魔石とこれがあったよ。浄化したら綺麗になったの」


「どれどれ」


 藍大はモンスター図鑑でサクラの手の中にある物について調べた。


 (スパイスツリーの種? これ1つであらゆる香辛料が育つってどゆこと?)


 黄色い結晶でできた種の正体はスパイスツリーの種だと判明した。


 地球にはそんな植物が存在しないはずなので、これがダンジョンのアイテムであることは間違いない。


 藍大はサクラからスパイスツリーの種を受け取ると、種と聞いて先程からそわそわしているメロを手招きした。


「メロ、こっちおいで」


「はいです!」


 メロは待ってましたと言わんばかりに藍大に駆け寄った。


「これはスパイスツリーの種だ。この種から複数の香辛料が生る木が生えるらしいぞ。メロに任せて良いか?」


「任せるです! マスターの期待に応えてみせるです!」


「よしよし。なくすと困るから、ダンジョンを脱出してから渡すぞ」


「わかったです!」


 新しい植物の種を貰えるとわかり、メロはとてもご機嫌になった。


 今なくしては困るので、藍大はスパイスツリーの種を収納リュックにしまった。


 その時に藍大はふと思った。


 (この島以外に地下4階には陸がないよな。まさか・・・)


 藍大は椰子の木、正確には椰子の木だと思っていた木をよく探して高い位置に生っていた。


「メロ、あそこにある実を回収できるか?」


「あれです? ちょっと待っててほしいです」


 藍大が指差した実を手に入れるため、メロは<多重蔓マルチプルヴァイン>を駆使して1つだけ生っていた実を回収した。


「取れたです」


「メロ、そのまま少し持っててくれ」


「はいです」


 直感に従って藍大がモンスター図鑑でメロの持つ実を確かめると、そこには藍大の予想通りの内容が記されていた。


「ビンゴ! これがスパイスツリーの実だ!」


「やったです! マスター流石です!」


 <農家ファーマー>のアビリティがあるとはいえ、育った後の姿を知っているのと知らないのでは育てる際の苦労が違う。


 メロは島に唯一生えたスパイスツリーの木をじっくりと観察し、この木に対する理解を深めた。


 これで楽にスパイスツリーを育てられる。


 思わぬ発見と収穫の後、ゲンがそろそろ良いだろうと<中級鎧化ミドルアーマーアウト>を解除して藍大に魔石を強請った。


 藍大が魔石をゲンに与えると、ゲンの甲羅から見える砲身がピカピカになった。


『ゲンのアビリティ:<中級鎧化ミドルアーマーアウト>がアビリティ:<上級鎧化ハイアーマーアウト>に上書きされました』


「ヒュー」


 やったぜと喜ぶようにゲンは息を吐き出した。


 ゲンの頭を撫でた後、藍大は<上級鎧化ハイアーマーアウト>の効果を調べた。


 その結果、ゲンを装備している時限定で藍大は<魔攻城砲マジックキャノン>と<自動操縦オートパイロット>を使えるようになった。


 勿論、ゲンのVITも引き継げる効果も受け継がれている。


 <中級鎧化ミドルアーマーアウト>の時は攻撃手段がなかったが、<上級鎧化ハイアーマーアウト>には攻撃手段がある。


 ゴルゴンが<亜人化デミヒューマンアウト>を会得してから幼女の姿でいるようになったため、攻撃手段を失っていた藍大にとっては嬉しい強化だと言えよう。


 その後、クラーケンとグサダーツの回収を済ませたのと同時にリルが異変に気付いた。


『ご主人、あっちに渦があるよ』


「渦だな。まさか、今更”掃除屋”が?」


 いつもはフロアボスよりも先に”掃除屋”が登場するものだから、順番が入違っていることに藍大は違和感を覚えた。


 しかし、そんなの知ったことではないと渦の規模が大きくなっていく。


「ゴルゴン、相性が悪いからヘアピンになっとけ」


「はいなっ」


 ゴルゴンは<中級装飾化ミドルアーマーアウト>で藍大のヘアピンへと変化した。


 ちなみに、ゲンは指示されなくとも<上級鎧化ハイアーマーアウト>を使っていた。


 藍大のことを心配しているのが半分、楽をしたいという気持ちが半分というところだろう。


「藍大、渦の中から何か出て来たよ」


「人? いや、下半身が蛸!?」


 貝殻ビキニの人魚かと思ったら下半身が紫色の蛸だったため、藍大の予想が外れて驚いた。


 今日は藍大の予想がよく外れる日のようだ。


「食~わ~せ~ろ~!」


 品のない”掃除屋”だと思いつつ、藍大はすぐにモンスター図鑑で敵の正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:カリュブディス

性別:雌 Lv:55

-----------------------------------------

HP:1,000/1,000

MP:1,200/1,200

STR:0

VIT:1,000

DEX:700

AGI:100

INT:1,700

LUK:700

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<渦潮ウィールプール><大波タイダルウェーブ><螺旋水槍スパイラルランス

      <吸収構築ビルドアップ><飢餓ハンガー

      <物理耐性レジストフィジカル><魔法耐性レジストマジック

装備:貝殻ビキニ

備考:なし

-----------------------------------------



 (貝殻ビキニの固定砲台なんざ全く萌えねえ)


 カリュブディスのステータスを見て藍大はそんな感想を抱いた。


 <物理耐性レジストフィジカル>と<魔法耐性レジストマジック>があるから、物理攻撃も魔法攻撃も威力が減衰される。


 HPを削ったとしても、食べた物を片っ端からHPとMPに変換する<吸収構築ビルドアップ>を会得しており、<飢餓ハンガー>のせいでその食欲に限界はない。


 食べられる物さえあれば、この2つのパッシブアビリティによっていくらでもHPとMPを回復できる。


 カリュブディスの攻撃は<渦潮ウィールプール>と<大波タイダルウェーブ>、<螺旋水槍スパイラルランス>でいずれも遠距離から攻撃できる。


 その上、海上で戦われたならば普通の冒険者ならば勝つことは絶望的である。


 だが、カリュブディスと対峙しているのが藍大達ならば話は別だ。


「リル、大きくなって俺と舞、メロを乗せて空を走れ。サクラ、空から攻撃するぞ」


「「「『了解!』」」」


 リルが元のサイズに戻ると、舞、メロ、藍大の順番にリルの上に座る。


 リルが<光速瞬身ライトムーブ>で空を駆ければ、サクラもその後を追って飛翔する。


「ド~ン」


 藍大達が何かすると思っていたが、AGIが低いせいで動きが遅くてカリュブディスの<螺旋水槍スパイラルランス>は先程まで藍大達がいた場所を攻撃した。


 空に逃げた藍大達は無事だったが、島に残っていたスパイスツリーに命中して見事にへし折られてしまった。


「メロが狙撃してカリュブディスを防御に意識を向けさせろ。リルは攻撃が当たらないように移動するんだ。舞は万が一の時に光のドームで俺達を守ってくれ。サクラは隙ができたらカリュブディスを仕留めろ」


「主、<幸運光線ラッキーレーザー>は使って良い?」


「それしか一撃で仕留められないようであれば許可する」


「わかった」


 カリュブディスは海水を飲むだけでも<吸収構築ビルドアップ>が発動するから、チクチク攻撃しても倒し切ることは難しい。


 それを理解しているからこそ、サクラは藍大に<幸運光線ラッキーレーザー>の使用許可を求めたのだ。


 作戦が決まると、リルがカリュブディスの周りを疾走する。


 カリュブディスはそれを鬱陶しく思ったらしく、全ての蛸足で海面を叩いて<大波タイダルウェーブ>を発動した。


 クラーケンが起こしたサイズよりも一回り大きな波が完成し、それが低めの位置を疾走するリルを吞み込もうとする。


『僕を捕まえてごらん!』


 しかしながら、リルのAGIで大波に捕まるなんてことはありえない。


 サッと上に逃げて大波は誰もいない所を通過した。


「い~な~い~?」


 カリュブディスは誰もいないことで首を傾げた。


 サクラが確実に仕留められるように、藍大はメロに指示を出す。


「メロ、今だ撃て!」


「はいです!」


 メロが<種狙撃シードスナイプ>を放つと、視界の外からの攻撃に鈍いカリュブディスが反応できるはずがなくて後頭部に種が命中した。


「痛~い」


「効いてないか」


「うぅ、火力不足ですぅ・・・」


「メロは悪くないぞ。カリュブディスの守りが異常なだけだ」


「やったな~」


 カリュブディスは大して痛く感じなかったようだが、やられっぱなしなのは癪だと思ったらしい。


 <螺旋水槍スパイラルランス>を連発して藍大達を撃ち落とそうとした。


『当たらないよ』


 カリュブディスがいかに狙ったとしても、リルにはその攻撃が当たらない。


 カリュブディスがムキになればなる程、サクラの攻撃のチャンスになる。


 それが今だ。


「私の幸運に敗北はない」


 サクラがそれだけ言うと、カリュブディスの頭を後ろから<幸運光線ラッキーレーザー>で消し飛ばした。


 回復能力に長けたカリュブディスもこれには敵わず、そのままバシャリと音を立てて海面に倒れた。


『サクラがLv90になりました』


『リルがLv89になりました』


『ゲンがLv86になりました』


『ゴルゴンがLv83になりました』


『メロがLv75になりました』


『メロが進化条件を満たしました』


 システムメッセージが藍大の勝利を告げると、藍大はふぅと息を吐いた。


 その直後にはサクラが飛んで来て、藍大をリルの背中から抱え上げてから抱き締めた。


「主~! やったよ~!」


「よしよし。流石はサクラだ。すごい威力だったな」


「主の覇道を邪魔する奴はこれで倒しちゃうもん」


「覇道なんて歩まないからな? みんなもお疲れ」


 藍大達はカリュブディスの死体を回収すると、スタート地点の小島へと着陸した。

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