第177話 藍大、ゲソが大量だよ!

 翌日水曜日の朝、藍大達はメロがパーティーに加わってダンジョンの地下4階にやって来た。


 藍大達は周囲を見渡し、自分達がどこにいるのか理解した。


「ここは島か。真ん中に椰子の木1本しか生えてねえじゃねえか」


「移動しなくて済むね~」


「逃げられないとも言えるけど」


 地下3階のフィールドが漁船だったことから、藍大達は地下4階ではもっと危険な場所なのではないかと危惧していた。


 しかし、沈没するリスクのない小島がフィールドと知って少しだけホッとした訳である。


 そのタイミングを狙って海中からグサダーツの群れが飛び出した。


「甘いんだよ!」


 舞がカバーリングで藍大の前に移動し、そのまま光のドームで藍大達全員を守った。


 光のドームに攻撃を阻まれて砂浜に落ちれば、グサダーツは再びジャンプして攻撃するのも難しい状況に陥ってしまった。


「悪い子は縛っておくです」


 そこに駄目押しの形でメロが<多重蔓マルチプルヴァイン>を発動し、完全にジャンプできないように拘束したものだから後は至近距離からの的当てみたいなものだ。


 あっさりとグサダーツの奇襲を返り討ちにすると、藍大達はサクサク回収を済ませた。


『グサダーツ・・・大漁・・・』


 ゲンは魚が好きなのでグサダーツが探索序盤から大漁でご機嫌なようだ。


「この階で新しく出て来るのはどんなモンスターだろ? 十中八九海から来るだろうけど」


『噂をすれば団体さんが来たみたいだよ』


 海を警戒していたリルが敵の接近に気づき、藍大達に注意を促した。


 そのモンスター達はグサダーツ程のAGIはなく、プカッと音を立てて海面に姿を現した。


「南瓜? いや、蛸なのか?」


「ニュルニュルは危険」


「近づいたら焼いちゃうんだからねっ」


「狙い撃つです」


 海面に浮上したモンスターは南瓜の下の部分から蛸足が生えている外見だった。


 藍大が南瓜なのか蛸なのか悩むのも仕方のないことだろう。


 サクラとゴルゴンが警戒度を一段階高めている間、メロは見敵必殺サーチ&デストロイだと言わんばかりに<種狙撃シードスナイプ>で手前にいた個体を狙撃していた。


「蛸なら食べられるね!」


『美味しいの?』


「食感を楽しめる食べ物だよ」


『バリバリ倒そう!』


 食いしん坊ズはやはり食欲に忠実である。


 舞達が完全に包囲される前に迎撃している間、藍大はモンスター図鑑で敵の正体を確かめた。


 (オクパンってマジで南瓜と蛸のハイブリッドかよ・・・)


 藍大が調べた結果、胴体部分は南瓜で足は蛸であることが発覚した。


 珍しいことは間違いない。


 オクパンには蛸特有の墨を発射する口は見受けられなかったが、触手の先端から墨を発射していたので足も普通の蛸とは違うらしい。


「気をつけろ。あの墨に触れると麻痺するぞ」


「当たらなければ問題ないわっ」


 ゴルゴンがそう言った瞬間、オクパン達はムッとしたのかゴルゴンを集中的に狙って墨を飛ばした。


「無駄なんだからねっ」


 火は水に対して相性が悪いが、威力で上回っていれば<爆轟眼デトネアイ>で自衛することは容易い。


 自分の正面のスペースを爆破することで、ゴルゴンに届く墨は一滴もなかった。


「ニョロ即斬」


 (サクラさんや。それは虫にも言ってなかったかい?)


 サクラが深淵の刃を創り出してオクパンを切り刻むのを見て、藍大がそう思ったのはおかしなことでもなんでもない。


 福岡のダンジョンでハニービーを見つけた時も、サクラは虫即斬と言ってガンガン斬り捨てていた。


 フィールドが小島で藍大達がそこにいる以上、どうしても雑魚モブに囲まれるのは仕方のないことだ。


 だが、今日はいつもよりも足場が狭いことでシャングリラダンジョンは精神的に藍大達を追い詰めるつもりかもしれない。


「鬱陶しい!」


 舞が海面に向かって雷光を纏ったミョルニル=レプリカを振り下ろすと、海水を伝って残りのオクパン達が感電死した。


 舞はちゃんと自分も感電しないように海水に体が触れないように気をつけていたから、自分を犠牲にすることなくオクパンだけを一網打尽にできた。


「お疲れ様。サクラとメロで回収して、リルは解体だ。舞とゴルゴンは周辺の警戒を頼む」


 かなりの数の雑魚モブモンスターを倒したから、そろそろ”掃除屋”が現れてもおかしくない。


 そう判断して藍大は指示を出した。


「マスター、あっちの方から何か来るわっ」


 ゴルゴンが見張っていた方の海中から、大きなモンスターが現れた。


「やっぱクラーケンか。イカ料理は何作ろう?」


 藍大は現れたクラーケンを既に食材として見ていたものの、すぐにモンスター図鑑でそのステータスを確認し始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:クラーケン

性別:雄 Lv:50

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:700/700

STR:850

VIT:700

DEX:750

AGI:500

INT:0

LUK:600

-----------------------------------------

称号:地下4階フロアボス

アビリティ:<混乱墨コンフュインク><触手鞭テンタクルウィップ><大波タイダルウェーブ

      <触手乱打テンタクルラッシュ><物理耐性レジストフィジカル><自動再生オートリジェネ

装備:なし

備考:不快

-----------------------------------------



 (えっ、待って。”掃除屋”はどこ行った?)


 クラーケンが”掃除屋”だという藍大の予想は外れてしまった。


 そうだとしても、藍大達がやることは変わらない。


 立ちはだかる敵は倒すだけである。


 クラーケンは藍大達をめがけて墨をぶっ放した。


「リル! あれをかき集めてくれ!」


「うん!」


 普段ならば舞に光のドームで対処させるが、クラーケンの墨は食材として扱える。


 それゆえ、リルの<念力サイコキネシス>で墨を集めて藍大は空のペットボトルに注ぎ込んでもらった。


 まさか自分の攻撃を回収されるとは思っていなかったようで、クラーケンは激怒した。


 海面を全ての足で叩きつけて波を作り出し、気づけば島を飲み込む程の大波となって藍大達を襲った。


「舞!」


「任せな!」


 今度こそ舞が足場を守るように光のドームを展開した。


「魚がいるわっ」


「グサダーツです!」


 大波に巻き込まれていたらしく、数体のグサダーツが大波から光のドーム目掛けて飛び出した。


 フロアボス戦に雑魚モブモンスターが参戦することは、他所のフィールド型ダンジョンでは報告されているがシャングリラダンジョンではガチャゴーレム戦以来である。


 しかも、ガチャゴーレムの時とは違って雑魚モブの参戦を阻止できないとなれば、クラーケンだけを警戒していることもできない。


 大波が島を通過していくと、クラーケンは藍大達が光のドームに守られていたことに苛立った。


 島に接近して射程圏内に入ると、クラーケンは全ての足を使って光のドームを壊そうとした。


「舞は光のドームを解除して護衛に移れ! サクラは足を切断! 足が再生したらゴルゴンが爆破! リルが動きを止めたらメロが眉間を狙撃!」


「「「「『了解!』」」」」


 藍大が早口で指示を出すと、最初に舞が光のドームを解除する。


「無駄よ」


 サクラがそう言って<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の刃を創り出し、クラーケンの全ての足によるラッシュを見切って切断した。


 クラーケンは足を切断された痛みに一瞬動きを止めるが、すぐに<自動再生オートリジェネ>で足を再生して再び<触手乱打テンタクルラッシュ>を放とうとする。


「アタシの出番なんだからねっ」


 自分の番が回って来たとゴルゴンが嬉々として<爆轟眼デトネアイ>を使い、再生したばかりのクラーケンの全ての足を爆散させる。


 クラーケンはいくつものアビリティを立て続けに使用してMPを一気に消耗し、疲労感で動きを止めた。


『捕まえた!』


 リルがその隙を見逃すはずがなく、<念力サイコキネシス>で再び動き出すことのないように拘束する。


「狙い撃つです」


 後はメロが動かないクラーケンの眉間を<種狙撃シードスナイプ>で撃ち抜き、クラーケンは派手な音を立てて海面に倒れた。


『サクラがLv89になりました』


『リルがLv88になりました』


『ゲンがLv85になりました』


『ゴルゴンがLv82になりました』


『メロがLv74になりました』


 システムメッセージが鳴り止んだところで、舞が興奮しながら藍大に話しかけた。


「藍大、ゲソが大量だよ!」


『ご主人、色々作れるね!』


 食いしん坊ズにとっては食材の質も大事だが量も大事らしい。


 藍大が改めてそれを感じさせられる瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る