第170話 なんでもはできないさ。できることだけだ

 光の中でイザークとドラコのシルエットが重なって一つになる。


 融合した姿のベースはイザークらしく、人間大のサイズはそのままキープされた。


 融合による変化は頭部と両腕に生じた。


 頭部には角のように斜め後ろ向きにアンテナが生えた。


 右腕はドラコの頭部を模った大砲へと変わり、左腕にはカイトシールドが装備された。


 光が収まると、全身黒色でモノアイだけが赤く輝くイザークとドラコの新たな姿が藍大達の前に現れた。


『イザーク、ドラコの融合に成功してドラームドになりました』


『ドラームドに名前をつけて下さい』


「名前はドライザーにする」


『ドラームドの名前をドライザーとして登録します』


『ドライザーは名付けられたことで強化されました』


『ドライザーのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はドライザーのページで確認して下さい』


 無機型、それもゴーレム系統が合体したとなれば藍大もドライザーのステータスを見るのが楽しみで仕方ない。


 それゆえ、藍大はすぐにモンスター図鑑を開いた。



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名前:ドライザー 種族:ドラームド

性別:なし Lv:50

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HP:900/900

MP:700/700

STR:900

VIT:900

DEX:800

AGI:600

INT:900

LUK:700

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称号:藍大の従魔

   融合モンスター

アビリティ:<武器精通ウエポンマスタリー><魔砲弾マジックシェル><盾突撃シールドブリッツ

      <不眠不休スリープレス><全耐性レジストオール><自動修復オートリペア

装備:ドラコキャノン

   ドラコシールド

備考:なし

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 (変形機能はないけど耐久力がすごいな)


 ドライザーのステータスを見て注目すべきはその耐久性である。


 <不眠不休スリープレス>はイザークから引き継いでいるが、耐性アビリティが統合されて<全耐性レジストオール>になっている。


 これだけでドライザー能力値以上の耐久力を有しているのは間違いない。


 24時間動けて耐性もあるだけでなく、それらに加えて<自動修復オートリペア>による回復までできる。


 これは時間経過で体を修復するパッシブアビリティであり、VITが高い敵がこれを持っていると戦っている相手は絶望感を味わうことになる。


 耐久性が高いことはさておき、ドライザーの両腕がドラコの面影の残る大砲とカイトシールドへと変わっており、それらを活かしたアビリティもある。


 ドライザーの脚部はキャタピラのままだから、海や空では戦えないが対空戦闘もこなせる陸型ゴーレムである。


「こんな立派なゴーレムがいたらシャングリラに侵入しようなんて誰も思わねえな」


『イェス、ボス』


「合成音声・・・だと・・・」


「藍大、震えてるけど大丈夫?」


「全く問題ない! どう考えてもロボットですありがとうございます!」


「リル、主のテンションがさっきよりも高いわ」


『大変だよ。これは由々しき事態だよ』


 藍大のテンションがドラコをテイムした時よりも高くなってるので、サクラとリルがひそひそと相談していた。


 これは自分達もいよいようかうかしていられないと思ったのだろう。


 サクラとリルは頷き合うと、両サイドから藍大に駆け寄った。


「主、私を見て! エッチな従魔だよ!」


『ご主人、僕だってモフモフだよ!』


 サクラとリルはそれで良いのだろうか。


 確かにサクラとリルのアピールに間違いはないが、それだけを従魔に求めていたら藍大が変態のように聞こえてしまう。


 (しまった。妬かせちゃったか)


 藍大もサクラとリルが自己主張した理由をすぐに理解できたので、ドライザーを見てテンションが上がるのをどうにか抑え込んだ。


「よしよし。サクラもリルもごめんな。俺も男の子なんでついはしゃいじゃったんだ。俺はサクラとリルのことが大好きだぞ」


「良かった」


「クゥ~ン♪」


 藍大に順番にハグされると、サクラとリルは心底ホッとした。


 その後、藍大達はダンジョンを脱出して昼食を取ることにした。


 昼食を取り終えて休んでいたところに藍大の電話が鳴った。


 電話の相手はC大学の北村教授だった。


「はい、逢魔です」


『もしもし、逢魔君か。今は大丈夫かな?』


「ええ、大丈夫です。北村教授から電話とは珍しいですね。どうされましたか?」


『いやいや、ゼミ生がアポなしで訪問したことのお詫びだよ。それと彼等を助けてくれたお礼もね』


 北村の用件は成美達がノンアポでシャングリラを訪ねたことに対する謝罪と成美達への助力の感謝だった。


「ああ、笛吹さん達のことでしたか」


『そうそう。私も笛吹君達の行動力には驚かされたよ。事後報告で君に世話になったと聞いた時はびっくりした』


「北村教授に相談せずに来たと聞いた時は私も驚きました。行動力は評価しますが、気難しいクランマスターもいますから気をつけるべきでしょう」


『その点は私から良く言い聞かせといたよ。私が聞いた限りでは、”ブルースカイ”のクランマスターはそういうことに厳しそうだからね。間違ってもノンアポでは突撃させられないよ』


「おっしゃる通りですね。彼女は丸山と相性が悪いと思います。彼は健太に似てますので」


『・・・そうだろうね。突撃した先が君達だったのは不幸中の幸いだったよ』


 北村も青空瀬奈の評判は知っていたらしく、藍大の意見を肯定した。


「笛吹さん達からはどこまでお聞きになりました?」


『サクラさんが山上君のお母様を治療したこと、君が笛吹君を月見商店街のお店に紹介してくれたこと、丸山君がルーインドのテイムをする手助けをしてくれたことだね』


「全部じゃないですか。北村教授、申し訳ないんですが」


『みなまで言わなくて良いよ。これは私の胸に留めておく。私がこれを吹聴すれば、君達に迷惑をかけるだけでなく笛吹君達も余計な詮索を受けてしまう』


 北村は”楽園の守り人”に理解があるだけでなく、成美達の今後のこともしっかりと見据えて行動できる立派な大人だった。


「そうしていただけると助かります。最悪、こちらに余計な手出しをして来る者達は私達だけで対処できますが、笛吹さん達の方まで守り切れる自信はありませんから。せめて助けになるようにと丸山君にはルーインドをテイムさせましたけど、それがどこまで抑止力になるかわかりませんし」


『それは当然だろう。とりあえず、当面は笛吹君達に積極的に目立つような真似はさせないよ。芹江君の協力もあって、山上君のお母様の退院も穏便に済まされてるようだからね』


「ええ。茂の協力がなかったら、強硬手段に出るしかありませんでした。退院したばかりの山上君のお母様が目立ってストレスで倒れられても困るので、くれぐれも注意するよう言ってやって下さい」


『わかった。ところで、笛吹君達がこれから君に電話したいと言ってるんだがまだ時間は平気かい?』


「大丈夫です」


『そうか。では、笛吹君達からかけさせよう。今回の件はすまなかった。そして、ありがとう。君のような教え子がいてくれて私は誇らしいよ』


「いえいえ。また何かあれば言って下さい。それでは」


 藍大は北村との電話を終えた。


 その直後にマルオから藍大に着信があった。


「もしもし」


『逢魔さん、こんにちは! マルオです!』


「知ってる」


『えっ、ちょっと冷たくないすか?』


「元気良過ぎ。落ち着け」


 藍大と自分のテンションの違いにマルオが疑問を抱いていたから藍大はストレートに落ち着くように言った。


 注意されたマルオは落ち着いてから本題に入った。


『はい。失礼しました。逢魔さん、ルーインドをテイムさせていただきありがとうございました』


「おう。大切にしてやってくれ。主は従魔を選べても従魔は主を選べないんだ。主として恥ずかしくないように振舞え」


『わかりました』


「よろしい」


 マルオとの話が終わると、マルオは晃に電話を渡した。


『こんにちは、逢魔さん。先日は母を救って下さって本当にありがとうございました。僕もいずれは逢魔さん達のようになんでもできる冒険者になりたいです』


「なんでもはできないさ。できることだけだ」


『わかりました。できることを増やして逢魔さん達みたいな立派な冒険者になります』


 (そんな立派じゃないから持ち上げないで!?)


 心の中ではそう思っていたとしても、晃が悪意なく自分達を慕ってくれていることは理解しているので藍大もその気持ちを否定はできない。


「そうか。パーティーで力を合わせて頑張れ」


『はい。頑張ります。最後に成美に代わります』


 マルオ、晃と来て最後は成美の番である。


『もしもし、お電話代わりました』


「笛吹さん、月見商店街とは無事に話ができたか?」


『はい。逢魔さんの後輩だって言ったら皆さんとても良くしてくれました。手に入れた食材でどうにか食堂を再建できそうです』


「それは良かった。3人それぞれに目的はあるのは知ってるが、くれぐれも無理はするなよ」


『わかってます。私達はまだです。ダンジョンに行って無茶な真似なんてできませんよ』


 成美の言葉は藍大が特別講義で口にした言葉だった。


 自分が弱者であることを認めるのは力を持った超人には難しい。


 それでも、無事にダンジョンから生還するためには油断は禁物である。


 そんな思いから藍大が口にした言葉である。


 藍大は自分の言葉がしっかりと成美に伝わっていたことに頬を緩ませた。


「ならば良し。なんでもかんでもは助けられないが、本当にどうしようもなくなったら連絡してこい。北村ゼミの先輩として助けてやる」


『ありがとうございます!』


 成美との会話を終えて藍大は後輩3人組との通話を終了した。


 (やれやれ。またいつか助けてくれって言われるんだろうな)


 面倒臭そうに思っていても、藍大は後輩に頼られて悪い気はしなかった。

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