第169話 やった〜! 金食い虫を卒業できる!

 藍大達がしばらく歩いていると、進行方向に戸の開いた祠があった。


「祠?」


「なんでだろ~?」


「主、触れてみる?」


「よろしく頼む」


 もしかしたらサクラが触れた状態で調べれば、祠の正体がわかるかもしれないと思って藍大はサクラの提案に頷いた。


 サクラがそれに触れたところでモンスター図鑑を開いてみると、驚きの事実が発覚した。


 (えっ、これアイテムなの!?)


 藍大にとって予想外なことに祠はアイテムだった。


 祠の正式名称は武の祠であり、祠の中に武器を奉納すると奉納した武器が経験した戦闘と持ち主の適性を考慮した武器と交換される効果があった。


 冒険者垂涎のアイテムだが、このアイテムは持ち運びができないだけでなく一度使ったら消滅するという制限が付いていた。


 それも当然だろう。


 こんな便利なアイテムが何度も使えたらバランスブレイカーにも程がある。


 ダンジョンはそこまで人間を贔屓しない。


 武の祠だってシャングリラだから現れたのであり、他所のダンジョンで見つかる可能性はずっと低いはずだ。


 見つけられたのは限りない幸運である。


「サクラ、ありがとな。この祠の正体がわかったから手を放して良いぞ」


「は~い」


「藍大、祠に何かすごい力でもあったの?」


「ある。舞、トールゲイザーを祠に奉納してくれ。そうすれば、トールゲイザーよりも舞にぴったりな武器が手に入るってさ」


「ホント!? 置いてみる~!」


 トールゲイザーではこのフロアのモンスターを相手に戦うのが不安だったため、トールゲイザーよりも自分に適した武器が手に入ると聞いて舞は喜んで藍大の指示に従った。


 トールゲイザーへの思い入れはないのかと疑問に思うかもしれないが、舞はこれまでたくさん武器を壊していたので武器を消耗品だと割り切れている。


 武器に思い入れを持つことは物持ちを良くしたり自身に繋がるが、生還することを最優先とする冒険者にとって思い入れが強過ぎるのは足を引っ張ることになりかねない。


 実際、冒険者の中には武器に愛着が湧き過ぎて命の危機に武器を優先して死んだ者もいる。


 そうなる訳にはいかないし、強い武器を手に入れればそれだけ藍大の力になれると思っているので舞はあっさりとトールゲイザーを奉納した。


 舞がトールゲイザーを武の祠に奉納すると、武の祠が神聖な力を感じる光に包み込まれた。


 咄嗟だったとはいえ、藍大達はこういう時の変化に慣れていたので対処が遅れて光に目をやられることはなかった。


 光が収まると、黒銀のボディに紫色の樹形図のような分岐線が入ったヘッドに黒いグリップという見た目の戦槌ウォーハンマーだけがその場に残っていた。


 藍大がすぐに調べられるようにとサクラがそれを持ち上げようとしたが、そうはならなかった。


「何これ。すごく重い」


「サクラ、無理に持ち上げなくて良いぞ。掴むだけで構わない」


「うん」


 サクラがしゃがんで戦槌ウォーハンマーのグリップを握ると、藍大はモンスター図鑑でその名前と特徴を調べた。


 (ミョルニル=レプリカ。レプリカってことは本物が実在するのか?)


 武器の名前がミョルニル=レプリカとなっていたため、藍大はその名前から神器ミョルニルが実在することを推測した。


 ミョルニル=レプリカには3つの特徴があった。


 1つ目はMPを注げば雷を付与させられること。


 2つ目は壊れても時間経過で修復して壊れた時よりも硬くなること。


 3つ目は持ち主である舞しか扱えないこと。


 神話上のミョルニルならば、伸縮自在だとか投げても手元に戻って来るという性能も有しているのだが、レプリカなので性能に制限があるらしい。


 もっとも、3つの特徴だけでもトールゲイザーと比べれば十分過ぎる強化が施されているのだが。


 藍大がミョルニル=レプリカの説明をすると、舞はサクラが持ち上げられなかったそれをひょいと片手で持ち上げた。


「うん、手に馴染むね」


「私が持てなかったのに軽々と持ってる・・・」


「私専用だもんね~」


「良かったじゃないか。壊れても時間経過で直るしもっと硬くなるって舞にピッタリじゃん」


「やった〜! 金食い虫を卒業できる!」


「舞を金食い虫だなんて思ったことは一度もないさ。これからも頼むぞ」


「藍大!」


 舞は嬉しくなって武器を手放し、その勢いのまま藍大を抱き締めた。


 自分が武器を壊しては藍大に新しい武器を作ってもらっていたことを申し訳なく思っていたため、藍大の言葉に気持ちが昂ってしまったようだ。


 ゲンが<中級鎧化ミドルアーマーアウト>を使っているおかげで藍大にダメージはないから、舞の気分が落ち着くまで藍大は舞を抱き締めていた。


 舞が落ち着きを取り戻すと、後はボスを倒すだけだと気合を入れ直して藍大達は探索を続けた。


 雑魚モブモンスターと何度か戦闘した後、藍大達は遂にフロアボスと思しき軽自動車サイズのモンスターと遭遇した。


 そのモンスターは地龍を模ったゴーレムと呼ぶべき姿をしていた。


 アダマントポーンと同じく体全体が黒色であり、目だけが赤く輝いていた。


 藍大がモンスター図鑑で調べようとした瞬間、フロアボスは藍大達に向かって炎のブレスを放った。


「やらせねえ!」


 舞はカバーリングを発動して藍大達の前に立ち、そのまま光のドームを展開してブレスから藍大達を守った。


 舞が守ってくれた隙に藍大はモンスター図鑑でフロアボスについて調べた。


 そして、読み取った情報からある判断を口にした。


「ドラゴイルをテイムする!」


 そのフロアボスの名はドラゴイルだった。


 ドラゴイルをテイムすると聞いてサクラは訊ねた。


「主、あのゴーレムも気に入ったの?」


「気に入ったというよりイザークと融合できるんだ。イザークを強くするためだから仕方ないんだ」


 藍大は一体誰に言い訳をしているのだろうか。


「藍大、テイムするのは構わねえ! 指示を寄越しな!」


 舞の男前な発言で藍大は気を引き締め直し、すぐに指示を出し始めた。


「次の攻撃を討たせないように攪乱する。サクラ以外全員散開! サクラは俺を抱えて飛べ!」


「「「「『了解!』」」」」


 藍大の指示通りに全員が動くと、ドラゴイルはメロに狙いをつけて再びブレスを放とうとした。


 だが、藍大がそんなことはさせなかった。


 藍大の従魔士としての3つ目の力は今この時のためにある。


 メロとゴルゴンの位置が入れ替わり、ドラゴイルは自分のターゲットを見失って首をキョロキョロさせた。


 そして、ドラゴイルがメロを見つけた瞬間に今度はメロとリルの位置を交換した。


「ペースを上げるぞ」


 藍大が従魔達の配置をポンポン入れ替えることで、ドラゴイルはいつの間にか狙いが定まらなくなって混乱した。


 そのせいで二度目の攻撃に移れず、その隙に藍大を抱いて飛ぶサクラがドラゴイルに近づいた。


「リルとメロはドラゴイルを押さえつけろ!」


『うん!』


「はいです!」


 リルの<念力サイコキネシス>とメロの<多重蔓マルチプルヴァイン>でドラゴイルの動きを拘束すると、藍大はサクラに協力してもらってドラゴイルの頭にモンスター図鑑を被せることに成功した。


 ドラゴイルはモンスター図鑑に吸い込まれていき、その直後に藍大の耳にシステムメッセージが聞こえて来た。


『ドラゴイルのテイムに成功しました』


『ドラゴイルに名前をつけて下さい』


 名付けを求められた藍大は迷うことなく名前を口にした。


「ドラコと名付ける」


『ドラゴイルの名前をドラコとして登録します』


『ドラコは名付けられたことで強化されました』


『ドラコのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はドラコのページで確認して下さい』


 藍大はドラコのテイムに成功すると、ご機嫌な様子で全員とハイタッチした。


 リルはどうやったんだと思うかもしれないが、ハイタッチの瞬間だけ二足歩行のような姿勢になったのである。


 一通り喜びを分かち合うと、藍大達は急いでダンジョンを脱出した。


 中庭でドラコを召喚すれば、メロが大切にしている家庭菜園を潰してしまうリスクがある。


 そんな事態になるのは誰にとっても悲しいから、藍大はゴルゴンとメロにイザークと役割を一時的に交代してもらってイザークを連れてダンジョンに戻った。


「【召喚サモン:ドラコ】」


 ダンジョンに入ると、藍大はドラコを召喚した。


「藍大、早速融合させるの?」


「オフコース!」


「主のテンションが高い」


『融合が終わったら僕達も甘えようよ』


「そうしましょう」


 サクラとリルはハイテンションで答える藍大を見てイザークとドラコを羨ましく思い、融合が終わって藍大が落ち着いたらたっぷり甘えようと結託した。


「イザークとドラコ、準備は良いな?」


「ピコン」


「ガコン」


 2体の従魔が了承すると、藍大はすぐに呪文を口にした。


「【融合フュージョン:イザーク/ドラコ】」


 その瞬間、ダンジョン内を眩い光が包み込んだ。

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