第168話 私の幸運がお前を打ち砕く

 翌日土曜日の朝、藍大達はイザークと幼女ペアを入れ替えてダンジョン地下4階に来ていた。


 地下4階のはずなのに、藍大達がいるのは雲が下に見える山頂だった。


「アダマンタイトコーティングされた雑魚モブとかマジか・・・」


「藍大、このモンスターってイザークと同じぐらい硬いの?」


「モンスター図鑑によるとそうだってさ」


「すご~い! 倒せばアダマンタイトを加工してもらえるね!」


 藍大の表情が引き攣り、舞が感心しているのは藍大達の前に現れたアダマントポーンのせいだ。


 アダマントポーンは兵士の見た目をしたゴーレムだが、全身がアダマンタイトでコーティングされている。


 あくまで表面だけなので、コーティングが剥がれればただの鋼鉄の体がむき出しになる。


 とはいえ、今のところ発見された金属の中では世界最を誇るアダマンタイトを殴り続けていては、舞のトールゲイザーも壊れかねない。


 素材であるバイコーンの角が十分にMPブレード、ビリビールの電気袋を使ってできたトールゲイザーは今までの強敵との戦いで舞が惜しみなくMPを流し込んでいたことでアダマンタイト並みの硬さに変質していた。


 それでも、同じ硬さの物同士をぶつけていればいつかは壊れてしまう可能性がある。


 だとすると、アダマントポーンを相手にガンガン殴りつけるのは不安である。


 トールゲイザーで攻撃するのが危険ならば、アダマントシールドで攻撃すれば良い。


 アダマントシールドにMPを注げば注ぐ程硬くなるから、これを投げたりこれで殴ったりすればアダマントポーンと戦ってもアダマントシールドが壊れることはないだろう。


「舞、トールゲイザーは使わずにアダマントシールドだけで戦ってくれ。トールゲイザーを壊したくないだろ?」


「わかった!」


 トールゲイザーを作るのに使った素材のことを思い出し、舞は即座に頷いた。


 バイコーンの角とビリビールの電気袋を手に入れる当てがあったとしても、MPブレードは二度と手に入らない可能性が高い。


 つまり、トールゲイザーはまた作ってもらえると思わない方が正しいのだ。


 舞はトールゲイザーを気に入っているので、藍大の言う通りにするべきだと判断した。


「ここはアタシの出番なのよっ」


「ゴルゴン?」


「私がアダマントポーンを熔かせば良いんだからねっ」


「なるほど。やってみてくれ」


「はいさ!」


 ゴルゴンは<火炎支配フレイムイズマイン>で自分の元の姿を炎で作り上げると、それぞれの頭が押し寄せるアダマントポーンを飲み込んだ。


 炎の温度だって<火炎支配フレイムイズマイン>なら自在に操られるので、ゴルゴンは有言実行でアダマントポーンを熔かした。


 しばらくしてから炎を消すと、アダマンタイトと鋼鉄が熔けて混ざって1つの金属になっていた。


「フッフッフ。熔かしてやったのよ」


「凄まじい火力だったな、ゴルゴン」


「もっと褒めても良いんだからねっ」


「よしよし。偉いぞ」


 藍大は熔けて金属の塊となったアダマントポーン達を調べてみた。


 その結果、アダマントポーンの死体の備考欄にアダムライトという新種の金属の表示が現れた。


 (予想外の金属ができちゃったけど、茂ならきっと使い道を見つけてくれるよな)


 茂に売りつけて処理は任せてしまおうと割り切り、藍大はサクラとリルに手伝ってもらってアダムライトを収納リュックにしまった。


 その後、ゴルゴンがアダマントポーンを倒す担当となり、メロがその足止めとしてそれをサポートした。


 ダマエッグが出た時は舞とサクラ、リルが戦ってMPの消費量を上手いこと調整しながら藍大達は先へと進んだ。


 アダマントポーンとダマエッグをどんどん倒して進むと、当然現れるモンスターがいる。


 そのモンスターはドシン、ドシンと大きな足音を立てて藍大達の前に立ちはだかった。


 マーブル模様の鉱物で形成されたそれは、高さ2mを優に超える大きさのゴーレムだった。


「デカいな」


「大きいね」


「こいつも硬そう」


「調べてみよう」


 藍大は感想を言うのも程々にして目の前に現れた敵をモンスター図鑑で調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:キメライトキーパー

性別:なし Lv:55

-----------------------------------------

HP:1,400/1,400

MP:1,000/1,000

STR:800

VIT:2,000

DEX:500

AGI:200

INT:0

LUK:500

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<両腕槌スレッジハンマー><震撃クエイク><体圧潰ボディプレス

      <輝飛膝蹴シャイニングウィザード><不眠不休スリープレス

      <魔法耐性レジストマジック><物理耐性レジストフィジカル

装備:なし

備考:なし

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 (VIT2,000って硬くね!?)


 VITが2,000を超えているということは、キメライトキーパーにまともにダメージを与えられるのはサクラとリルぐらいだ。


 舞も全力で殴ればダメージは入るかもしれないが、トールゲイザーが壊れるだろう。


 いや、正確にはサクラしかダメージを与えられるものはいないだろう。


 <魔法耐性レジストマジック>と<物理耐性レジストフィジカル>を有する時点でリルの攻撃でもダメージにはなるまい。


 もう少しキメライトキーパーの分析をしたいところだったが、キメライトキーパーが体を広げてジャンプしたから藍大は分析を中断した。


「サクラとリルでキメライトキーパーの体を拘束しろ!」


「うん!」


『わかった!』


 サクラは<透明多腕クリアアームズ>、リルは<念力サイコキネシス>で<体圧潰ボディプレス>を阻止した。


 ジャンプしたキメライトキーパーの体はサクラとリルが協力することで、仰向けに地面に押さえつけられた。


「メロ、蔓でキメライトキーパーの四肢を拘束! それが確認できたらサクラは<透明多腕クリアアームズ>を解除!」


「はいです!」


 藍大の指示に従い、メロが<多重蔓マルチプルヴァイン>を発動してキメライトキーパーの四肢を何重もの蔓で縛り付けた。


 サクラはキメライトキーパーが拘束から抜け出せないのを確認すると、アビリティを解除して藍大の次の指示を待った。


「サクラ、一撃で決めるぞ。奴の頭に<幸運打撃ラッキーストライク>だ」


「良いの? 素材が駄目になっちゃうかもしれないよ?」


「構わないさ。倒す手段がそれしかないんだ。素材に拘って勝てる戦いを捨てたくない」


「わかった」


 藍大が素材獲得に拘らないのならば、サクラがそれを拘る理由もなくなる。


 サクラは頷いて空を飛ぶと、キメライトキーパーを見下ろした。


「私の幸運がお前を打ち砕く」


 それだけ言うと、サクラは急降下しながら<幸運打撃ラッキーストライク>を発動した。


 その瞬間、黄金のオーラを纏ったサクラの拳がキメライトキーパーの頭部を貫いた。


 サクラが拳を引き抜いた途端、キメライトキーパーの全身に罅が入ってバラバラに崩れた。


『サクラがLv85になりました』


『リルがLv84になりました』


『ゲンがLv81になりました』


『ゴルゴンがLv78になりました』


『メロがLv72になりました』


 システムメッセージが鳴り止むと、藍大は魔石を持ち帰って来たサクラを抱き締めた。


「よくやってくれた。体はどこも痛くないか?」


「大丈夫。主からギュッとしてくれたからね」


 サクラがいなければキメライトキーパーとの戦いで勝てなかったので、藍大はサクラにサービスした。


 サクラも藍大に褒めてもらえるならば、全力で戦うだけの価値があったとご満悦である。


 サクラの時間が終わると、リルとメロも頑張ってくれたので藍大は労うのを忘れない。


 その後、藍大はキメライトキーパーの残骸の回収を舞達に任せてゴルゴンに魔石をあげることにした。


 人型で脱皮されるのはホラーなので、ゴルゴンが元の姿に戻ってもらってから魔石を与えた。


 ゴルゴンは魔石を飲み込むと脱皮し、よりつやつやしたボディを藍大に披露した。


『ゴルゴンのアビリティ:<上級治癒ハイキュア>がアビリティ:<超級治癒エクストラキュア>に上書きされました』


「これでどんな状態異常になっても一安心だな」


 藍大がそう言うと、ゴルゴンは<亜人化デミヒューマンアウト>を発動して幼女になってから胸を張った。


「まっかせなさい!」


 シュロロと鳴くよりも言葉で頼れる自分をアピールしたかったのだろう。


「愛い奴め」


「フフン♪」


 ゴルゴンは藍大に頭を撫でられて嬉しそうに鼻を鳴らした。


 戦利品の回収とゴルゴンのパワーアップが終わると、藍大達は探索を再開した。

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