第167話 物欲センサーが仕事してるんだろ

 午後3時、約束通りにマルオが1人でシャングリラにやって来た。


 成美と晃の同行を認めなかったのは、護衛対象が増えると面倒だからである。


 ただでさえ藍大の護衛が必要だというのに、マルオだけでなく成美と晃まで増えたら守る側のメンバーも手厚くしなければならない。


「今日はよろしくお願いします!」


「おう。ちゃんと動ける服装で来たんだな」


「勿論です! 素早くアンデッド図鑑を被せるイメトレもばっちりしてきました!」


 アンデッド図鑑とは死霊術士のみに与えられた力であり、従魔士藍大のモンスター図鑑のようなものだ。


 モンスター図鑑との違いはアンデッドのことしかわからないことだけであり、それ以外はモンスター図鑑と同じである。


 アンデッドのことしかわからないアンデッド図鑑はモンスター図鑑の下位互換とも言えるが、良く捉えればアンデッド専門なのだろう。


「よろしい。じゃあ早速行くぞ。今から行く場所では俺の許可なく何も触れてはいけない。それが守れるか?」


「守ります!」


 マルオの元気の良い返事に頷いて藍大が101号室のドアを開けると、その中がアパートの一室ではなくダンジョンになっているのでマルオが驚いた。


「うわぁ、すっげぇ! マジでダンジョンだ!」


「この反応が懐かしい」


「私も~」


 藍大と舞も最初の頃はドアを開けたらダンジョンがある事態に驚いていたが、今となってはすっかり慣れてしまったためマルオの反応を懐かしく思った。


 すぐに藍大達はダンジョン地下3階の海賊のアジトへと移動した。


 いきなりマルオを連れて行けるかどうか心配だったが、その心配は杞憂に終わった。


 午後に探索するメンバーは藍大と舞、サクラ、リル、ゲン、イザーク+マルオだが、ゲンは安定して<中級鎧化ミドルアーマーアウト>で藍大を護衛している。


 メロが家庭菜園の面倒を見て、ゴルゴンはその間メロの話し相手兼シャングリラの門番を担っている。


 丁度良い機会だから、藍大はイザークのレベル上げもついでにやってしまおうと連れて来た。


 マルオのテイムは急ぐものでもないので、AGIがそこまで高くないイザークがいても何も問題ないのだ。


『ご主人、パールピアスが来たよ』


「よし。アンデッドじゃないしイザークに活躍してもらおう。イザーク、出陣!」


「ピコン」


 音で藍大の指示に反応すると、イザークは装備していたライフルでパールピアスを撃ち抜いた。


「ヒャア! たまんねえ! ロボの戦闘シーンとか激アツじゃないすか!」


「それな! いやぁ、従魔にして良かったわ~」


 イザークの戦闘シーンにテンションが上がるマルオを見て藍大はこいつわかる奴だと評価を少しだけ上方修正した。


 舞はロボット談義する藍大とマルオを見てサクラとリルに話しかけた。


「サクラちゃんもリル君も今回は落ち着いてるね」


「主は私達を大事な家族って言ってくれたもん」


『イザークはいつも門番だから僕達が我慢するの』


「お姉ちゃんお兄ちゃんしてて偉いよ」


「フフン」


『ドヤァ』


 従魔としては新入りのイザークがちやほやされていたとしても、自分達が亜空間送りになることはないと確信しているのでサクラもリルも余裕のある態度である。


 イザークが何体かパールピアスを倒していくと、ようやくお目当てのルーインドが現れた。


 スッカランをテイムさせることも考えたが、いきなりスッカランでは強過ぎるからルーインドに抑えておくことにしたのだ。


「逢魔さん、あれが俺に紹介してくれるモンスターですか?」


 (紹介してくれる子って女の子紹介するみたいに言うなよ)


 マルオの言い方に藍大は苦笑いした。


「そうだけどそうじゃないとも言える。ルーインドは個体によって持ってる武器が異なる。マルオは最初の従魔にどんな武器を持たせたい?」


「う~ん、盾役タンクが欲しいところですが、俺達のパーティーは火力不足なんで攻撃役アタッカーが良いです。武器の取り換えが楽な方が良いですから、剣が無難ですね」


「マルオ、お前ちゃんと考えられたのか・・・」


「俺ってば馬鹿じゃないですからね!?」


「えっ、違うの?」


「そうだと思ってた」


『健太の同類じゃなかったんだ』


「駄目な方に定評がある!?」


 マルオは自分が馬鹿だと思われていたことに驚いた。


 自分の言動が周囲に馬鹿っぽい印象を与えていると気づいていないのはある意味幸せかもしれない。


「マルオが馬鹿かどうかは置いておくとして、あのルーインドの得物は槍だ。あれは倒すが構わないな?」


「問題ないです。剣を持った奴が出て来るまで倒しちゃって下さい」


「よし。イザーク、剣を持つルーインド以外を蹂躙しろ」


「ピコン」


 音で了解の返事を送ったイザークは喋っている内にわらわらと集まって来たルーインドをライフルで次々に撃ち抜いていった。


 ルーインドがヘイトを稼いだイザークに群がるおかげでイザークの射撃が外れない。


 イザークは槍や斧、弓、戦槌ウォーハンマー、ガントレット、棍棒等あらゆる武器を持ったルーインドの群れを倒してみせた。


『イザークがLv46になりました』


『イザークがLv47になりました』


『イザークがLv48になりました』


「何故だ・・・。何故剣を持ったルーインドが出て来ないんだ・・・」


「物欲センサーが仕事してるんだろ」


 項垂れるマルオに藍大がズバッと言った。


 実際のところ、藍大が剣を持ったルーインドが出るように口に出して望めばすぐに解決する。


 何故なら藍大の願いはサクラの願いであり、サクラの7万を超えるLUKが仕事をすれば剣を持ったルーインドを呼び寄せることなんて容易いからだ。


 そうならない理由として、お目当てのルーインドが出現するまでイザークのレベル上げをすれば良いと藍大が考えていることが大きい。


 お目当てのルーインドが出て来なければイザークのレベル上げを続行できるので、藍大が真剣に早く出て来いと祈っていないことが影響している。


 無論、藍大にマルオを邪魔してやろうなんて気持ちは微塵もない。


 せいぜい出て来ないなぁぐらいにしか思っていない。


「どうして出て来ないんでしょうか? 剣なんてオーソドックスな武器だと思うんですが」


「言われてみればそうだよな。そろそろんだが」


 その時、悪い流れが良い方向へ変わった。


 藍大が剣を持ったルーインドの出現を望んだことでサクラのLUKが仕事をしたのだ。


『ご主人、あのルーインドが剣を持ってる!』


「やっとか。マルオ、目当てのルーインドが来たってよ」


「マジすか!? これで勝つる!」


「何と戦ってんだよ。イザークは待機。サクラ、あのルーインドの動きを封じてくれ」


「は~い」


 藍大はマルオに軽く突っ込んだ後、イザークに間違って倒さないように注意してからサクラにルーインドを捕えろと指示した。


 サクラが<透明多腕クリアアームズ>でルーインドの全身をがっちりと抑え込んだので、後はマルオ次第だ。


「マルオ、捕まえて来い。サクラががっちり拘束してるから攻撃される心配はない」


「了解です!」


 マルオは嬉々としてルーインドに駆け寄り、アンデッド図鑑をルーインドの頭に被せた。


 ルーインドはアンデッド図鑑に吸い込まれていった。


 藍大がテイムしたのであれば、システムメッセージが自分の耳に届いて来るが今回は他人のテイムなので何も聞こえない。


「【召喚サモン:ローラ】」


 マルオがルーインドをローラと名付けてから召喚したため、藍大は他人の従魔がどのように表示されるか気になってモンスター図鑑で調べてみた。



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名前:ローラ 種族:ルーインド

性別:雌 Lv:35

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HP:660/660

MP:660/660

STR:720

VIT:600

DEX:420

AGI:420

INT:0

LUK:360

-----------------------------------------

称号:武臣の従魔

アビリティ:<斬撃スラッシュ><怪力刺突パワースタブ

      <剣舞ソードダンス><鞘打撃シースストライク

装備:アイアンソード

備考:なし

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「武臣って誰?」


「俺ですよ! マルオってあだ名ですからね!?」


「あっ、そうか。マルオインパクトが強くてつい」


「なんですかその競馬場にいそうな馬は!」


 素でマルオの本名を忘れていた藍大にマルオはツッコんだ。


 とりあえず、マルオがローラのテイムを無事に済ませられたので藍大達はダンジョンから脱出することにした。


 藍大が従魔を連れて歩くのは有名だが、マルオは死霊術士としての認知度が低い。


 いや、低いというよりも皆無である。


 下手をすればスタンピードが起きたと誤解される恐れがあるので、藍大はマルオに帰る時は亜空間にローラを隠すようにアドバイスした。


 マルオは理由を訊いて納得し、藍大の言う通りにして帰っていった。


 マルオを見送った後、藍大は茂にマルオがルーインドのテイムを無事に済ませたことを連絡した。


 DMUに話を通しておくことで、ローラが誤って攻撃されないように手を打ったのである。


 ノンアポでやって来た後輩達の面倒をちゃんと見てあげたあたり、なんだかんだ藍大はお人好しなのだろう。

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