第165話 ご主人のご飯をモリモリ食べて元気に育ったよ

 デモンズディーラーの解体と回収を終えると、リルがお座りして藍大の前に待機した。


 自分が魔石を貰う番だとアピールしているらしい。


「今度はリルの番か」


『うん!』


「おあがり」


『わ~い』


 藍大の手からリルが魔石を飲み込むと、リルの目が翡翠色へと変わった。


『リルのアビリティ:<空歩エアラダー>がアビリティ:<音速瞬身ソニックムーブ>に上書きされました』


『リルが称号”風聖獣ふうせいじゅう”を会得しました』


『おめでとうございます。従魔が初めて聖獣を冠する称号を会得しました』


『初回特典として逢魔藍大が三次覚醒で会得した力の効果範囲を大幅に拡大します』


 (”風聖獣”って何?)


 初めて耳にする言葉だったため、藍大はすぐにモンスター図鑑でその意味を調べた。


 その結果、火水風土の四大元素のそれぞれに聖獣が認定されるモンスターが同じ時代に1体のみ存在してリルが”風聖獣”に選ばれたことがわかった。


 ”風聖獣”の称号を会得する条件は4つあった。


 1つ目は能力値平均が2,000以上であること。


 2つ目は言葉を話せること。


 3つ目は強力な風属性のアビリティを2つ以上会得すること。


 4つ目は聖なる力を帯びたアビリティを1つ以上会得すること。


 リルの場合は<音速瞬身ソニックムーブ>を会得したことで、<碧雷嵐サンダーストーム>と併せて3つ目の条件が満たされた。


 <音速瞬身ソニックムーブ>は天地問わず音速で移動できるアビリティだ。


 <空歩エアラダー>では足りなかったアビリティの格が<音速瞬身ソニックムーブ>によって満たされた。


 <碧雷嵐サンダーストーム>は雷属性のアビリティのようにも思えるが、雷を纏ったで攻撃するので風属性扱いということらしい。


 ”風聖獣”を会得したことで、リルの目は翡翠色へと変化したが宝石のように綺麗である。


 眼の色が変わっただけにもかかわらず、リルの雰囲気が神々しく感じられるようになったと思って藍大がリルを見ていると、リルが首を傾げた。


『ご主人? どうしたの?』


「いや、リルが立派に育ってくれて良かったと思ってな」


『ご主人のご飯をモリモリ食べて元気に育ったよ』


「そうだな。よく食べてよく動いてよく寝てってリルは健康優良児だまったく」


「クゥ~ン♪」


 藍大に頭を撫でてもらってリルは嬉しそうに鳴いた。


 リルが満足した後、藍大は従魔同士あるいは従魔と自分の位置の入れ替え範囲が自身を中心とした半径10kmに拡大していることを知った。


 コツコツと熟練度を上げていた時とは比べ物にならないぐらい効果範囲が広がったため、自分がやって来た努力の効果がショボく感じてしまったのは仕方のないことだろう。


 それはさておき、リルがデモンズディーラーを地面に叩きつけて倒したことでカジノのカーペットが剝がれていたのだが、運が良いことに床下収納らしきものを発見した。


 その床下収納には小さな宝箱が隠されており、藍大達はそれを回収した。


 宝箱の中身を確かめようとした瞬間、藍大達に向かって叫ぶ者がいた。


「ヨノナカカネダ! カネナンダ! カネガセカイヲマワシテル!」


「なんだぁ?」


 声のする方向を見ると、藍大はスキンヘッドでガチムチな人型モンスターの姿を視界に捉えた。


 服装は支配人に相応しい上等なものだが、スッカラン同様肌の色は灰色だった。


 藍大は早速モンスター図鑑で敵の正体を確かめた。



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名前:なし 種族:デザイアスレイヴ

性別:雄 Lv:50

-----------------------------------------

HP:900/900

MP:700/700

STR:1,050

VIT:1,050

DEX:600

AGI:600

INT:0

LUK:700

-----------------------------------------

称号:地下4階フロアボス

アビリティ:<肉体言語フィジカルランゲージ><札束平手ワッドビンタ><硬貨投擲コインスロー

      <等価交換エクスチェンジ><強奪スナッチ><戦叫ウォークライ

装備:マネージャーコスチューム

備考:興奮

-----------------------------------------



 (なんという俗物!)


 デザイアスレイヴがツッコミどころの多いアビリティ構成だから、藍大がそう思うのも無理もない。


「カネダカネダヨキンキラキンノキン!」


 一息にそれだけ言うと、デザイアスレイヴはジャケットのポケットの中に入っていたコインを藍大達目掛けて全力で投げつけた。


「うっせえわ!」


 舞は光のドームを展開してデザイアスレイヴの攻撃を防いだ。


「マスター、あれは燃やして良いわよね? ガンガン燃やす?」


「落ち着くですゴルゴン。数撃てば当たるなんて美学に反するです」


「美学?」


「私が足止めするです。そこでゴルゴンが狙い撃つです。一撃で仕留めてこそ大人のレディーです」


「なるほど。一理あるわねっ」


 (ゴルゴンとメロが大人のレディーを語るとはいかに)


 そんなことを思いつつ、藍大はそれが微笑ましかったので無粋なツッコミは入れなかった。


「よし、じゃあここはゴルゴンとメロに任せる。最高にクールに決めてくれ」


「任せなさいっ」


「はいです!」


 藍大はデザイアスレイヴの相手を幼女ペアに任せることにした。


 屈強な見た目のモンスターに幼女達を立ち向かわせると表現すると鬼畜な感じになるが、実際のところレベル差や能力値だけで考えればゴルゴンとメロが負けるはずがないと考えてのことである。


「まずは私が追い込むです」


 そう言うと、メロが<種狙撃シードスナイプ>を発動してデザイアスレイヴを壁際へと追い詰めていく。


「ルーレットチャーンス!」


 デザイアスレイヴは壁に向かう途中にあった台からルーレットを手に取ると、それを盾扱いしてメロに向かって突撃を開始した。


 メロが<種狙撃シードスナイプ>から別の攻撃に切り替えようとした途端、デザイアスレイヴが<等価交換エクスチェンジ>でルーレットを換金して硬貨にする。


 そして、そのまま<硬貨投擲コインスロー>に移行しようとしたところでメロの攻撃が間に合った。


「甘いです!」


「ヌオッ!?」


 デザイアスレイヴは間抜けな声を上げて俯せに倒れた。


 メロの<多重蔓マルチプルヴァイン>で足を引っかけられて転んだのだ。


「ゴルゴン、今です!」


「ドカンとやるのよっ」


 ゴルゴンが叫んだ瞬間、<爆轟眼デトネアイ>によって転んだデザイアスレイヴをドガァンという音と共に爆炎が包み込んだ。


 爆炎が収まると、黒焦げになった何かとしか呼べないデザイアスレイヴの成れの果てがそこに残っていた。


『サクラがLv84になりました』


『リルがLv83になりました』


『ゲンがLv80になりました』


『ゴルゴンがLv77になりました』


『メロがLv71になりました』


 システムメッセージが藍大に戦闘の終わりを告げた。


「やったです! これぞ大人のレディーです!」


「そうね! 大技一撃で倒してやったわ!」


 チラチラッとメロとゴルゴンが藍大に褒めてほしそうな視線を送るから、藍大はちゃんとその希望に応えてあげた。


「よしよし。メロもゴルゴンもよくやったな。大したもんだ」


「わ~いです~」


「もっと褒めても良いんだからねっ」


 メロとゴルゴンの喜び方が子供なのだが、そこは誰も触れたりしない。


 藍大は主として期待に応えるためにはスルーが吉であり、舞は何この可愛い生き物という気持ちを抑え込むのに必死でツッコむ余裕がないからだ。


 その後、藍大はデザイアスレイヴから魔石を摘出してゲンに与えた。


 すると、ゲンの甲羅から突き出た砲身が少しだけ大きくなった。


『ゲンのアビリティ:<魔砲弾マジックシェル>がアビリティ:<魔攻城砲マジックキャノン>に上書きされました』


「純粋な火力強化だな」


「ヒュー♪」


 確かにそうだが、それが良いんだと言わんばかりにゲンはご機嫌な様子で<中級鎧化ミドルアーマーアウト>を発動した。


 火力が上がろうがそうでなかろうが、ゲンは少しでも楽をしたいという気持ちが全くブレないようだ。


 デザイアスレイヴの死体の回収が済むと、藍大はサクラに小さな宝箱を手渡した。


 開けようとしたところでデザイアスレイヴが現れたので、開けるのが後回しになっていたのだ。


「サクラ先生、今日もお願いします」


「”運に愛されし者”にお任せあれ」


 それだけ言って宝箱を開けると、サクラはそこから蛍光色の青い液体の入った丸底フラスコを取り出した。


 藍大がモンスター図鑑で調べると、それは4級ポーションだった。


「2週連続ポーションを引き当てるとか流石はサクラ先生だ」


「エヘヘ♪」


 この場に”グリーンバレー”の緑谷大輝クランマスターがいたら泣いていたに違いない。


 そんな簡単にポーションを手に入れられるのかと藍大達の運を羨ましく思うのは当然だ。


 とりあえず、地下4階でやるべきことを全て終えた藍大達はダンジョンを脱出した。

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