第164話 もしかしてビリビリですかーッ!?

 舞から解放されたゴルゴンは藍大に抱き着いた。


「マ、マスター、酷い目に遭ったんだからねっ。どうしてアタシを助けてくれないのよ?」


「メロがゴルゴンと同じ目に遭った時のことを思い出して気分が沈んでだから慰めてた」


「そこは被害を受けてる真っ最中のアタシを助けるべきよっ。終わったことよりも今なんだからねっ」


「終わったこととはなんです! あれは進化した時の通過儀礼です! ゴルゴンも同じ目に遭うべきです! ゴルゴンが私の立場だったら絶対に助けてくれなかったです! 違うですか!?」


 既に終わったことよりも被害を受けていた自分を助けるべきだと訴えるゴルゴンに対し、メロがそれは聞き捨てならないと猛抗議した。


 メロの言い分を聞いて否定できないと思ったゴルゴンは頭を下げた。


「アタシが悪かったわ」


「わかってくれれば良いんです」


「良かった~。喧嘩を始めたら両方メッしなきゃいけなかったもんね~」


 舞の説教ではメッどころでは済まないのだが、今はそれを置いておこう。


「元はと言えばマイのせいなんだからねっ」


「マイが悪いです!」


「藍大~、メロちゃんとゴルゴンちゃんが私を悪者扱いする~」


「舞はもう少し加減を知ろうな」


「うぅ、頑張るよ」


 この件については藍大もゴルゴンとメロの味方だとわかり、舞は唸りつつ次は気をつけると返事をした。


 そんな時、リルがピクッと反応した。


『ご主人、何か来る』


「全員、迎撃態勢に移行」


「「「「『了解』」」」」


 リルが察知した以上、敵対するモンスターが現れるのは必至である。


 それゆえ、舞達は藍大の指示に従っていつでも戦える姿勢を取った。


 藍大とメロを中心に舞が正面、左右をサクラとリル、後ろをゴルゴンが守る。


 ゴルゴンも人型になれるようになったので、<中級装飾化ミドルアクセアウト>は使わず自分で戦うつもりのようだ。


 藍大達が警戒していると、いきなり藍大達の耳に物音が届いた。


 それと同時に別の場所にパッと目元を蝶の仮面で覆った女型のモンスターが現れた。


 女型だがアンデッド型とは違ってサクラと同じような翼と尻尾が生えており、服装はまさしくカジノのディーラーのものだった。


 敵の姿を察知した藍大はすぐにモンスター図鑑を開いた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:デモンズディーラー

性別:雌 Lv:55

-----------------------------------------

HP:600/600

MP:1,100/1,100

STR:800

VIT:700

DEX:1,200

AGI:700

INT:0

LUK:1,300

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称号:掃除屋

アビリティ:<賽子爆弾ダイスボム><札刃カードエッジ><電貨狙撃コインスナイプ

      <不幸招来バッドラック><幸運打撃ラッキーストライク

      <生贄山羊スケープゴート><視線誘導ミスディレクション

装備:バタフライマスク(紫)

   ディーラーコスチューム

備考:なし

-----------------------------------------



 (もしかしてビリビリですかーッ!?)


 Yes! Yes! ​Yes! ​Oh my god!


 未亜がいたらこんな感じで応えてくれたに違いない。


 冗談はさておき、デモンズディーラーは決して油断できない相手である。


 サクラが会得している<幸運打撃ラッキーストライク>に加え、以前使っていた<不幸招来バッドラック>まで使えるのだから要注意だ。


「カードを配りましょう」


 それだけ言うと、デモンズディーラーは何もない所からトランプのカードを創り出して藍大達に向かって高速で連射した。


「いらねえよ!」


 舞が光のドームを展開して<札刃カードエッジ>を防ぐ。


 ドームに触れたカードから消えていき、デモンズディーラーの攻撃は失敗に終わった。


「サクラとリルは左右から挟撃。ゴルゴンとメロはデモンズディーラーを追い込め」


 舞が光のドームを解除すると同時に、サクラ達従魔は藍大の指示通りの行動に移った。


「爆発しなさい!」


 ゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>を発動してデモンズディーラーを爆破しようとしたが、デモンズディーラーは斜めに飛んで躱す。


「狙い撃つです」


 今度はメロが<種狙撃シードスナイプ>でデモンズディーラーが移動した先を狙って攻撃した。


「コインを差し上げます」


 ところが、デモンズディーラーは<電貨狙撃コインスナイプ>を使って指で帯電したコインを高速で弾き飛ばしてメロの攻撃を相殺した。


「死んでくれる?」


『いっくよ~!』


 サクラは右側から深淵の刃を放ち、リルは左側から<聖狼爪ホーリーネイル>を発動して挟み撃ちを狙った。


 しかし、ここで予想外なことが起きた。


「賽子に賭けましょう」


 デモンズディーラーが<賽子爆弾ダイスボム>で自爆したのだ。


 正確には、自分の正面で賽子を爆破させてデモンズディーラーの姿が爆炎に包み込まれたと表現するのが正しい。


 サクラとリルの攻撃は爆炎を通過して向こう側へと飛んで行った。


 大半の冒険者ならば、デモンズディーラーは自爆してそのまま力尽きたのだろうと油断したに違いない。


 それでも、藍大は決して油断しない。


 勝利に伴うレベルアップのシステムメッセージが聞こえないということは、まだデモンズディーラーとの戦いが終わっていないことを意味するからだ。


 その時、ゲンが<中級鎧化ミドルアーマーアウト>を発動していても機能する<自動操縦オートパイロット>が真価を発揮した。


 藍大の体は自身の死角から飛んで来たいくつものトランプのカードをひらりひらりと躱してみせた。


 それにより、デモンズディーラーの位置を把握した舞が光を付与した盾を全力で投擲した。


 デモンズディーラーは真っ先に敵パーティーの心臓部かつ弱点の藍大を仕留めようと判断し、死角からの奇襲でしくじっても殴り倒そうとして藍大に接近していた。


 それが裏目に出て回避が遅れてしまい、舞の投げた盾がデモンズディーラーの鳩尾にクリーンヒットした。


 折角<賽子爆弾ダイスボム>で自爆したと見せかけると同時に<視線誘導ミスディレクション>で隙を突いたにもかかわらず、藍大の用心深さを読み切れずにデモンズディーラーはその場にうずくまる羽目になった。


「手間かけさせないで」


 サクラは深淵を圧縮したレーザーでデモンズディーラーにとどめを刺した。


 そう思った瞬間に体に穴の開いたデモンズディーラーの体がデッサン人形へと姿を変えた。


 デモンズディーラーは<生贄山羊スケープゴート>を使って窮地を脱出したのだ。


 そうだとしても、忘れてはいないだろうか。


 藍大のパーティーにはかくれんぼ最強のリルがいることを。


『僕は欺けないよ』


 リルは<念力サイコキネシス>でデモンズディーラーの体の制御を奪うと、そのまま勢いをつけて地面に衝突させた。


 騙してやったとデモンズディーラーが油断した隙を突いたことにより、デモンズディーラーは対処が遅れて落下ダメージをまともに受けた。


 ドサリと音を立ててデモンズディーラーの体が地面に落ちると、藍大の耳にシステムメッセージが届いた。


『サクラがLv83になりました』


『リルがLv82になりました』


『ゲンがLv79になりました』


『ゴルゴンがLv76になりました』


『メロがLv70になりました』


『メロがアビリティ:<回復ヒール>を会得しました』


 (ふぅ、やっと倒せたか。ヒヤヒヤしたぜ)


 今までの戦闘において、藍大がゲンの<自動操縦オートパイロット>の世話になったことはなかった。


 だから、藍大は<自動操縦オートパイロット>を使えたことに感謝するとともに今まで以上にこれからは気持ちを引き締めなければならないと思った。


 油断していたつもりは毛頭ないが、これから先ではデモンズディーラーのようにトリッキーなアビリティを多く持つモンスターと対峙する可能性は高い。


 ゲンのおかげで被弾=死ではないものの注意しておくに越したことはないのだ。


 ゲンのVITを上回るSTRないしダメージを受けたら藍大はピンチなので、”備えあれば憂いなし”や”いのちだいじに”を合言葉に探索を進めるべきだろう。


『ご主人、倒したよ! 僕が倒したの!』


 褒めてくれと駆け付けるリルを見ると、藍大はそのリクエストに応じた。


「愛い奴め。よしよし。ここがええのか」


「クゥ~ン♪」


 とどめを刺したご褒美に藍大はリルを甘やかした。


 勿論、デモンズディーラーとの戦いは総力戦だったのでリルの後ろに並ぶ者達全員を労うのを忘れない。


 藍大は幼女の姿なったゴルゴンの頭を撫でた時、蛇の髪がシュロロと鳴いたのを見て驚いたことを記しておこう。

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