第163話 俺は幼女から逃げられないのだろうか?

 翌日の金曜日、藍大達は今日も今日とて朝からダンジョンに挑んでいる。


 午後3時にマルオが来るので、午前の探索はサクサク終わらせないと自分達の休む時間がないのでダラダラしている暇はない。


「今日の地下4階はカジノか」


「海賊のアジトとは随分雰囲気が変わったね」


「私のためにあるような場所ね」


「「確かに」」


 LUKの値が6万を超えたサクラからすれば、草刈場にしか思えないフィールドである。


 これにはサクラの発言に藍大も舞も同意せざるを得ない。


『ご主人、ルーインドが来たよ』


「足止めするです」


 リルが敵の接近を告げると、メロが<停止綿陣ストップフィールド>で藍大達に群がって来たルーインドの動きを止めた。


「舞、頼んだ」


「ヒャッハァァァッ! 良い骨は倒された骨だけだぜぇぇぇっ!」


 舞は動きの止まったルーインド達を次々にトールゲイザーで殴り倒していった。


 あっさりと初戦を終えて戦利品を回収すると、あちこちから声が聞こえた。


「オワッタ・・・」


「ヤッチマッタ・・・」


「モウダメダァァァッ!」


「なんだこの声?」


「主、あそこ見て。なんか絶望してるモンスターがいる」


 サクラが指差した先には絶望した声の主達が膝から崩れ落ちていた。


 その見た目はギャンブルにドハマりして人生をドブに捨てた冒険者とも呼ぶべきものだった。


 しかし、注目すべきはその冒険者らしき者達の肌が灰色なことだろう。


 藍大がモンスター図鑑で調べてみると、スッカランというグールの派生種だった。


 特徴的なのはどの個体もLUKが全て0だということだ。


 (スッカランだなんてギャンブルをするには不向きじゃね?)


 知り得た情報から藍大がそんな感想を抱くのも無理もない。


 というよりも、フィールド型のダンジョンでカジノが舞台になるなんてシャングリラ以外では存在しないのではないだろうか。


「負け組に慈悲を」


 それだけ言うと、サクラは<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の刃を創り出してそれらの首を刎ねた。


 スッカランはLUKの数値が低いから他の能力値が底上げされているが、サクラの前には訓練用の的と大差ない。


 あっさりと首を刎ねられてHPが0になった。


「藍大、あのモンスターから売れる物ってあるのかな?」


「サクラに<浄化クリーン>を使ってもらえれば、服は売りに出せるんじゃないか?」


『食材がなくて残念だよ』


「そうだね~」


 食いしん坊ズはモンスター食材が得られなくてしょんぼりした。


 だがちょっと待ってほしい。


 シャングリラダンジョンに無価値なモンスターが出現したことがあっただろうか。


 藍大達はスッカランを倒すメリットをすぐに知ることになる。


 それは3度目のスッカラン達との戦闘後のことだった。


『サクラがLv80になりました』


『リルがLv79になりました』


『ゲンがLv76になりました』


『ゴルゴンがLv73になりました』


『メロがLv67になりました』


「レベルが上がった? 雑魚モブなのに?」


 突然聞こえてきたシステムメッセージに藍大は驚いた。


 当たり前のことだが、レベルが上がるにつれて次のレベルに到達するまでに必要な経験値の量は増える。


 それにもかかわらず、日曜日と木曜日の地下4階の雑魚モブモンスターと戦った総数よりも今日の地下4階で戦った数の方が明らかに少ないのにレベルアップした。


 この事態が意味するのは、スッカランがメタルス○イムよろしく大量の経験値を吐き出すモンスターだという事実である。


 そうと決まればやることは決まっている。


「このフロアはボーナスステージだ。じゃんじゃん狩るぞ!」


「「「『了解!』」」」


 その後、藍大達はスッカラン時々ルーインドというペースで雑魚モブモンスターを狩りまくった。


『サクラがLv81になりました』


『サクラがLv82になりました』


『リルがLv80になりました』


『リルがLv81になりました』


『ゲンがLv77になりました』


『ゲンがLv78になりました』


『ゴルゴンがLv74になりました』


『ゴルゴンがLv75になりました』


『ゴルゴンが進化条件を満たしました』


『メロがLv68になりました』


『メロがLv69になりました』


 嬉々として経験値稼ぎをした結果、サクラ達従魔はレベルが2ずつ上がった。


 ゴルゴンなんて進化条件まで満たしている。


 ゴルゴンは進化できると知って<中級装飾化ミドルアーマーアウト>を解除した。


「ゴルゴン、進化するか?」


「「「「「「シュロ!」」」」」」


「よし。進化だ」


 ゴルゴンが当然と言わんばかりに頷くと、藍大は図鑑の進化可能の文字に触れた。


 その瞬間、ゴルゴンの体が光に包まれた。


 光の中でゴルゴンのシルエットに変化が生じ、6つだった首が9つに増えた。


 それに応じて首を支えられるようにゴルゴンの体が大きくなり、そのサイズはワゴン車並みとなった。


 光が収まると、深紅の鱗の隙間から赤い炎を放出して纏うゴルゴンの姿があった。


『ゴルゴンがレッサーパイロヒュドラからパイロヒュドラに進化しました』


『ゴルゴンのアビリティ:<中級治癒ミドルキュア>がアビリティ:<上級治癒ハイキュア>に上書きされました』


『ゴルゴンのアビリティ:<残機レフト>とアビリティ:<自動再生オートリジェネ>がアビリティ:<昇陽魂サンライズソウル>に統合されました』


『ゴルゴンが称号”不死蛇”を会得しました』


『ゴルゴンがアビリティ:<亜人化デミヒューマンアウト>を会得しました』


『ゴルゴンのデータが更新されました』


 (めちゃめちゃ変わってるじゃん)


 システムメッセージが多くてゴルゴンの変化を正確に把握しきれなかったので、藍大はゴルゴンのステータスを確認した。



-----------------------------------------

名前:ゴルゴン 種族:パイロヒュドラ

性別:雌 Lv:75

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:1,600/1,600

STR:1,600

VIT:1,600

DEX:1,700

AGI:1,400

INT:1,700

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   融合モンスター

   守護者

   不死蛇

アビリティ:<昇陽魂サンライズソウル><火炎支配フレイムイズマイン><爆轟眼デトネアイ

      <上級治癒ハイキュア><中級装飾化ミドルアクセアウト><亜人化デミヒューマンアウト

装備:なし

備考:期待

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 (待って、ゴルゴンって不死なの?)


 称号の”不死蛇”からゴルゴンが不死になったとわかると、藍大はゴルゴンを不死にした<昇陽魂サンライズソウル>の効果を調べてみた。


 その結果、完全に消滅させられない限り時間はかかるが完全復活することがわかった。


 しかも、全ての首が同時に別の行動を取れる点も<残機レフト>から引き継いでいる。


 強力なアビリティであることは間違いない。


 他のアビリティについても確認しようとした瞬間、ゴルゴンが光に包まれてそのシルエットが小さくなった。


「え?」


「何が起きたの~?」


「ゴルゴン?」


『小さくなってる?』


「私と同じぐらいです!」


 光の中でゴルゴンのシルエットが9つの首を有する蛇から人間の子供の姿へと変わった。


 光が収まると、髪が全て蛇の神話と同じゴルゴンとなった幼女が現れた。


 髪も目も深紅であり、服装はドイツの民族衣装ディアンドルになっている。


 (俺は幼女から逃げられないのだろうか?)


 今もそうだがメロが進化した時も幼女になり、ゴルゴンも<亜人化デミヒューマンアウト>で幼女になったので藍大はそんなことを思った。


 サクラも今は大人のグラマラスなスタイルになっているが、出会った当初は幼女だった。


 従える雌の従魔が必ずどこかしらで幼女になるのは藍大の宿命なのだろう。


「アタシも人間の姿になれるんだからねっ!」


「可愛い~!」


「マイ!? ちょっと! 何するのよ!? きゃあぁぁぁぁぁっ!」


「ゴルゴン、諦めるです。それが進化した私達の通過儀礼です」


「主、メロが遠い目をしてる」


「大丈夫。舞は嫌だって言ったらやらないからな。怖くないぞ」


 民族衣装姿の幼女になったゴルゴンが可愛くて堪らないらしく、舞はゴルゴンを持ち上げたままその場でグルグルと回り出した。


 いきなり舞の力で振り回されればびっくりするのは当然で、ゴルゴンは止めてくれという余裕もなく悲鳴を上げた。


 経験者のメロがゴルゴンに諦めろと言い、メロを心配した藍大は優しくその頭を撫でた。


 数分後、可愛いゴルゴンを堪能して幸せそうな舞とくたびれた様子のゴルゴンの姿があったのは言うまでもない。

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