第161話 びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛

 藍大達がダンジョンの外に出ると、シャングリラの入口が騒がしかった。


「す、すげえ。なんだこれ。ロマンをわかってるぜ」


「ちょっとマルオ、止めなさい。どう考えても逢魔さんの従魔でしょうが」


「笛吹、固いこと言うなっての。山上だって気になるだろ?」


「気になる」


「これだから男って奴等は・・・」


 話し声の内訳は男2人と女1人だった。


 3人の内お調子者らしいパーカーの男としっかりものの茶髪の女の2人について、藍大はどこかで見たことがあるような気がした。


「主、何か気になるの?」


「いや、パーカーと茶髪はどこかで見たことがあると思ってな」


 サクラは藍大が彼等を気にしていることを悟り、何が気になるのか訊ねた。


 従魔士として覚醒してから藍大の行動範囲は広がった。


 それゆえ、横浜の客船ダンジョンかC大学、草津、福岡のどこかで見かけただろうがどこで見かけたのかすぐには判断できなかった。


 藍大が首を傾げていると、茶髪の女は藍大が自分達を見ていることに気づいた。


「突然お邪魔してしまいすみません! 私達、C大学に在籍する冒険者です! 先日の逢魔さんの特別講義で質問をさせていただいたのですが、覚えていらっしゃいませんでしょうか?」


 そこまで言われて藍大はようやく気づいた。


「あぁ、俺にシャングリラの探索で心掛けてることを聞いた学生だ」


「覚えてて下さったんですね! ありがとうございます!」


「はいはい! 俺も質問しました! 覚えてないですか?」


 茶髪の女は自分が藍大の印象に残っていたと知って喜んだ。


 それに続いてパーカーの男が自分も質問したと元気良くアピールしたが、藍大は彼についても思い出していた。


「従魔士以外にテイムできる方法がないか質問した学生だな」


「よっしゃ! ありがとうございます!」


 パーカーの男も藍大が自分のことを覚えていてくれたことに安堵した。


「それで、いきなりシャングリラに突撃訪問したのはなんでなんだ? C大学なら北村教授に仲介してもらうとかもっと確実に会える方法があっただろうに」


「「「あ・・・」」」


「C大生しっかり」


「「「すみません」」」


 藍大の指摘はもっともだったため、C大生3人組は素直に謝った。


「藍大が先輩してる~」


「実際先輩だからな。ゼミは違うだろうけど」


「あっ、私達北村ゼミの3年生です」


「マジで後輩じゃねえか。俺と入れ替わりの代じゃん。使えるコネをちゃんと使えよ」


 彼等が自分のゼミの後輩であるとわかると、藍大の顔が引き攣った。


 北村ゼミならば尚更北村教授に仲介を頼んだ方が良かったのにと思ったからである。


「行動力には自信があります!」


「マルオ黙って。お願いだから」


「主、あのマルオって男から微かにゴミ虫に似た雰囲気を感じる」


「ゴミ虫って言ってやるな。俺も似てる気がするけど」


 自分もそんな気はしていたが、サクラがマルオと呼ばれるパーカーの男と健太の類似性について指摘したので藍大は同意した。


「すみません。まだちゃんと自己紹介ができてませんでした。私は北村ゼミ3年でこのパーティーのリーダーを務める笛吹成美うすいなるみと申します。職業技能ジョブスキルは笛戦士です」


「北村ゼミ3年の丸山武臣まるやまたけおみです! マルオって呼んで下さい! 職業技能ジョブスキルは死霊術士です!」


「北村ゼミ3年、山上晃やまがみあきらです。職業技能ジョブスキルは奇術士です」


「全員初めて聞く職業技能ジョブスキルだね~」


「珍しい」


「騒がしい死霊術士ってギャグ?」


「ぐはっ! 逢魔さんが的確に俺と職業技能ジョブスキルのギャップをツッコんできた!?」


 3人組が名乗ると、舞とサクラは初めて聞く職業技能ジョブスキルに感心し、藍大はマルオのギャップにツッコんだ。


 勿論、マルオが特別講義の時に従魔士以外にテイムする方法があるか質問した理由についても納得した。


 マルオは自分以外に従魔士に近い職業技能ジョブスキルを持つ者に心当たりがないか知りたかったのだ。


 もっとも、藍大はその真面目な部分に触れることなくマルオと職業技能ジョブスキルのギャップにツッコんでいるが。


 マルオは藍大にツッコまれて大袈裟なリアクションをした。


「とにかくここで話すのもどうかと思うし、今日だけは部屋に上げよう。ただし、次からはちゃんとアポを取って来い。次があるかは君達次第だが」


「「「ありがとうございます!」」」


 シャングリラの前でずっと立ち話をする訳にもいかないので、藍大は仕方なく成美達を部屋へと招くことにした。


 リビングに成美達を通すと、マルオから空腹のサインが聞こえた。


「君達、昼飯は食べて来たのか?」


「月見商店街で買い食いしました! でも成長期なんでまだいけます!」


 マルオは元気かつ正直に答えた。


 正直に答えれば昼食をご馳走してもらえそうだと察したからだ。


「はぁ・・・。笛吹さんと山上君は?」


「私は大丈夫です」


「僕も小食なので平気です」


「マルオだけか。しゃあない。今から俺達の昼食作るから、君達も適当に摘まめ」


 それだけ言うと、藍大は料理を始めた。


 ライスラインの米と家にある食材で藍大が料理している間、舞とサクラは成美達から質問を受けることとなった。


 その質問コーナーは藍大がオムライスを食卓に運んだことで終わった。


「「「『オムライス!』」」」


 オムライスを見て舞達のテンションが上がった。


 急な来客のせいでおにぎりを一緒に作ることはできなかったが、ライスラインの米で作るオムライスに期待しているからである。


 ゲンとゴルゴンは食事を邪魔されたくないので奥の部屋で食べることにして、それ以外のメンバーは来客達と共に昼食にした。


 成美と晃は初めに遠慮していたものの、美味しそうな匂いに屈して2人で1人前のオムライスを半分に取り分けて食べさせてもらうことになった。


 いただきますと声に出してオムライスを食べ始めると、成美達は藍大メシに衝撃を受けた。


「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛」


「参りました。女子力で完全に負けました・・・」


「美味しいです」


 マルオはネタに走りながらも美味しいとオムライスをガツガツと食べ、成美は藍大に女子力で負けたと凹んだ。


 晃は言葉こそ少ないが、本当に美味しいと思っているらしく黙々と食べることに集中した。


 食事が終わって食休みに入ると、藍大は成美達にシャングリラまでやって来た本題を訊ねることにした。


「笛吹さん達、昼も食べたことだしそろそろ今日はここに何しに来たのか聞かせてくれ」


「そうでした。実は私達を傘下に加えていただきたくて伺いました」


「俺達の傘下に? なんで?」


「自己紹介の際にお伝えしましたが、私達は全員レアな職業技能ジョブスキルを覚醒しました。山上が2月で私が3月、マルオは4月です。私達がパーティーを組むことにしたのは、覚醒が遅くて他の学生冒険者とパーティーを組めなかったからなんです」


「それで?」


「私達はそれぞれにダンジョンに潜らねばならない理由があります。しかし、ちゃんとした準備も経験もないままダンジョンに突撃しても危険なだけだと考えてます。なので、従魔士への覚醒が遅かったにもかかわらず、一気に日本4位のクランに上り詰めた逢魔さん達に教えを乞えればと思って来ました」


 (珍しい職業技能ジョブスキルだし、自分達の先輩だからと俺を頼って来た訳だ)


 藍大は成美の言い分を頭の中で要約した。


 言いたいことはわかったが、これだけでは”楽園の守り人”の傘下に加える理由には足りない。


 そう考えた藍大は判断材料を増やすべく深掘りすることにした。


「それぞれの事情って何?」


「私は実家の食堂にダンジョンで手に入れたモンスター食材を持ち帰るためです。近所の食堂でダンジョン産の食材が取り扱われるようになってから、ウチの食堂のお客さんがそこに取られてしまいました。お客さんを奪い返すためにはモンスター食材を仕入れる必要がありますが、モンスター食材は高いので覚醒した私がダンジョンに取りに行くしかないんです」


 (よくある話だな)


 成美の事情はダンジョンが出現してから耳にするようになった話だった。


 月見商店街も藍大達の傘下に入らなければ、チェーン展開するスーパーに完全に客を奪われて潰れることになっただろう。


 スーパーは大量に仕入れる分、ダンジョン産のモンスター食材も少しは割引してもらうことができる。


 仕入先との関係が安定化すれば、普通の食材しか扱わない店に対するアドバンテージになる。


 その結果、消費者の興味がモンスター食材に向いて客足が減るのだ。


 成美の次はマルオの番だ。


「俺は家が大家族なんで家計を助けるためです。5人兄弟の長男なんで、弟と妹に良いもん食わせてやりたいんですよね」


 (騒がしいだけじゃなくてお兄ちゃんしてるじゃないか)


 藍大の中でマルオへの評価が少し上昇した。


 最後に晃の番である。


「僕は母の医療費を稼ぐためです。大地震で怪我したことで植物状態になったんですが、母の延命と治療にはお金が要ります。父だけじゃそれを賄い切れないので僕もダンジョンに潜ることを決意しました」


 晃の話を聞いた瞬間、藍大はサクラの方を向いた。


「・・・サクラ」


「私は主に従う。主がやれって命じたらやるよ」


「そっか。山上君、君のお母さんにテスターになってもらえるか?」


「はい?」


 晃は藍大がニヤリと笑った意味がわからずに首を傾げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る