第160話 どこに出しても恥ずかしくない戦車じゃないか

 メロの気が済んで探索を再開すると、藍大達はクフトマトの集団に遭遇した。


「クハハハハ」


「クヒヒ」


「クフフフフ」


「グボォッ」


「最後の奴だけ辛そうに吐き出してなかったか?」


「うん。笑ってなかったね」


『ご主人、奥からライスラインの群れが突っ込んで来るよ』


 藍大と舞がクフトマトの笑い声に注目しているところにリルが敵の増援を知らせた。


「このままだとぶつかるね」


「グハッ!?」


「グフ!?」


「グヘェ!?」


「ウフ♡」


「最後の奴が変な扉開きやがった!?」


 サクラが言ってすぐにクフトマト達は横一列に並んだライスラインの突撃に巻き込まれて吹き飛ばされた。


 最後の1体だけうっとりした表情で吹き飛んだものだから、藍大は顔を引き攣らせながらツッコんだ。


「実験するです」


 メロは先程会得した<怠雲羊波シープウェーブ>を発動した。


 羊を模った雲が大量に出現してライスライン達を迎撃する。


 衝突したばかりの頃は雲がぶつかった途端に上に飛んで行ったものの、衝突する数が増えるにつれてライスライン達の能力値が削られて雲を振り払えなくなった。


「舞、とどめよろしく」


「おう!」


 舞は藍大に任されてすぐ、一番左端のライスラインの横に立ってトールゲイザーをフルスイングした。


 弱体化したライスラインはあっけなく力尽きた。


「メロの新アビリティの実験は成功だな」


「はいです。ばっちりです」


「主、あちこちに散ったクフトマトを倒してくるね」


「任せた」


 実験も終わったとわかったので、今まで手出しせずにいたサクラはまだHPが尽きていないクフトマト達に粛々ととどめを刺して回った。


 雑魚モブの全滅を確認すると、藍大達は戦利品の回収を進めた。


 藍大が最後のクフトマトを収納リュックにしまった時、リルが藍大のことを呼んだ。


『ご主人、ここにアイテム埋まってたよ!』


「今行く!」


 今度は何が出たのだろうと期待に胸を膨らませてリルのいる場所に移動すると、リルが<念力サイコキネシス>で穴から木製のしゃもじを取り出した。


 サクラがそれを受け取って<浄化クリーン>をかけている間に藍大はモンスター図鑑でアイテムの正体を確かめた。


 (ユグドラシルのしゃもじ・・・だと・・・?)


 ミスリル包丁とミスリルフライパン、ユグドラシルのまな板に続いてとんでもない素材でできた調理器具シリーズパート4である。


 やはりこのしゃもじにも料理専用と破壊不能の文字が表示された。


「藍大、このフロアが米を食べろって言ってるんだよ」


「否定できねえな・・・」


 舞が嬉しそうな表情で言った言葉を藍大は全く否定できなかった。


 出現する雑魚モブから米が手に入り、アイテムとして使い減りしないしゃもじが手に入ったとなれば米を炊くしかないと思ったからだ。


「リル君、これを使えばお米がもっと美味しくなるんだよ」


『本当!? やったね!』


 美味しいものが食べられるなら嬉しくないはずがなく、リルの尻尾はブンブンと喜びを表していた。


「むぅ、ユグドラシルはやっぱり先が遠いです」


 (メロさんや、まさか家庭菜園でユグドラシルを育てようとしてないよね?)


 農家プロの目線でユグドラシルのしゃもじを見るメロに対し、藍大はそんな恐ろしいものをシャングリラの庭で育てないでくれと顔を引き攣らせた。


 しゃもじを収納リュックにしまって探索を再開しようとした瞬間、藍大を狙って横からアメフトボール大の米粒が右回転しながら飛んで来た。


「藍大、危ねえ!」


 舞は藍大の危機を察し、雷光を纏わせたトールゲイザーを振り抜いて米粒を全力で打ち返した。


 米粒を射出したモンスターはまさか打ち返されると思っていなかったのか、舞に打ち返された米を頭部に喰らって転倒した。


「主を奇襲するなんて万死に値する」


 サクラが舞の攻撃で後ろに倒れたモンスターに間髪入れずに接近し、深淵の刃を形成してその首を刎ねた。


 アメフト選手のクォーターバックを彷彿とさせる米藁人形のモンスターはあっけなく力尽きた。


 藍大を奇襲しなければもう少し長生きできたはずだったのだが、選択を誤ったとしか言いようがない。


『サクラがLv79になりました』


『リルがLv78になりました』


『ゲンがLv75になりました』


『ゲンが進化条件を満たしました』


『ゴルゴンがLv72になりました』


『メロがLv66になりました』


 (ゲンが進化できるようになったか)


 なんとなくLv75が進化するタイミングだと思っていたため、藍大はゲンが進化できるようになったことにそこまで驚きはしなかった。


「舞、それにサクラもありがとな。助かったよ」


「藍大を守るのは当然だよ。だって奥さんだもん」


「そうだよ主。妻として当然のことをしたまでだよ」


 藍大がお姫様ポジションなのは今更なので、お礼を言う方とお礼を言われる方が逆になっているのは仕方のないことだ。


 攫われていないだけマシである。


 2人に感謝の気持ちを伝えた後、藍大は解体を舞達に任せてモンスター図鑑でフロアボスだったに違いないモンスターについて調べた。


 (ライスキュービー。見たまんまの名前だな)


 アメフトボール大の米をストレートや変化球で投げつけるフロアボスだったが、剛速球を投げただけでフロアボスとしての出番が終わってしまうとは哀れである。


 せめてもの情けとして、ライスキュービーの米はしっかり味わおうと思う藍大だった。


 解体が終わる頃には、<中級鎧化ミドルアーマーアウト>を解除したゲンがじっと藍大を見つめて待機していた。


「ゲン、進化するか?」


「ヒュー」


「わかった。進化させよう」


 ゲンが勿論だと頷くと、藍大は図鑑の進化可能の文字に触れた。


 その瞬間、ゲンの体が光に包まれた。


 前回の進化とは異なり、今度は光の中でゲンのシルエットに変化があった。


 変化があったのはゲンの甲羅だ。


 ゲンの甲羅が縦に大きくなったと思いきや、頭や脚を引っ込める用途以外の穴が開いて大砲の砲身がそこに現れたのだ。


 光が収まると、水色の体に藍色の大砲付きの甲羅を背負ったゲンの姿があった。


『ゲンがシールドタートルからパンツァータートルに進化しました』


『ゲンのアビリティ:<水線操作ジェットコントロール>とアビリティ:<水牢獄ウォータープリズン>がアビリティ:<水支配ウォーターイズマイン>に統合されました』


『ゲンがアビリティ:<魔砲弾マジックシェル>を会得しました』


『ゲンのデータが更新されました』


 システムメッセージが鳴り止むと、藍大はゲンの頭を撫でた。


「これまた頼もしくなったな、ゲン」


「ヒュー♪」


 進化して褒められてご機嫌なゲンは藍大に撫でられるがままとなった。


 ゲンが満足すると、藍大はゲンのステータスがどう変化したか確かめるべくモンスター図鑑でゲンのページを開いた。



-----------------------------------------

名前:ゲン 種族:パンツァータートル

性別:雄 Lv:75

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:1,500/1,500

STR:1,550

VIT:2,000

DEX:1,500

AGI:1,300

INT:1,550

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   希少種

   守護者

アビリティ:<水支配ウォーターイズマイン><自動操縦オートパイロット><眠力変換スリープイズパワー

      <滑走衝撃グライドインパクト><氷鏡反撃アイスカウンター

      <中級鎧化ミドルアーマーアウト><魔砲弾マジックシェル

装備:なし

備考:ご機嫌

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(どこに出しても恥ずかしくない戦車じゃないか)


 種族名に恥じない能力値とアビリティに藍大はそんな感想を抱いた。


 ご機嫌なゲンは昼食を取り終えるまでは<中級鎧化ミドルアーマーアウト>を使わないつもりのようだったので、次はサクラの強化に移った。


 藍大がサクラに魔石を与えると、サクラの翼と尻尾の輝きが増した。


『サクラのアビリティ:<不可視手インビジブルハンド>がアビリティ:<透明多腕クリアアームズ>に上書きされました』


 (透明な腕が増えたのか)


 藍大がそう予想を立てていると、自分の体を両サイドから触られたのを感じた途端にサクラに吸い込まれるように抱きついた。


 いや、正確には抱き着かされたというのが正しい。


「サクラ、早速使ったな?」


「エヘヘ♪」


「アビリティで悪戯するんじゃありません」


「主は私にハグしてくれないの?」


「アビリティに頼らなくたって言ってくれればハグするさ」


 サクラが藍大の意思に反してハグさせたと察すると、舞が抗議して藍大に後ろから抱き着こうと動いた。


「サクラちゃん狡い! 私も!」


「ブロック」


 ところが、サクラが<透明多腕クリアアームズ>で藍大に抱き着けないように透明な腕で舞を拘束するから舞は抱き着けなかった。


「サクラ、アビリティは生活を豊かにしたり敵を倒すために使うものだ。家族に意地悪するために使うものじゃないぞ」


「は~い。舞、ごめんね」


 サクラがアビリティを解除して藍大を自由にすると、藍大は舞に機嫌を直してもらうために自分からハグした。


「許してあげるよ。藍大からハグしてもらえたし」


「むぅ、不覚・・・」


 アビリティを使わなければ藍大自らの意思で抱き締めてくれたかもと思い、サクラは失敗したと思った。


 結局、ダンジョンを脱出した時の藍大は両手に花状態になったのはわかり切ったことである。

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