第14章 大家さん、後輩に頼られる

第159話 お前のような悪魔がいるか

 福岡から帰って来た翌日の木曜日、藍大達は朝からダンジョン地下4階に来た。


 今日はメロも藍大と一緒に探索するぞとやる気満々である。


 木曜日のダンジョンは地下2階、地下3階のどちらとも畑だった。


 しかし、地下4階には田園風景が広がっていた。


『ご主人、あっちからごっつい藁人形がたくさん来るよ』


「確かにと集まって来てるね」


「舞、藁とかけたのか。やるじゃん」


「違うよ!?」


 藍大がなるほどと頷いていると、自分はダジャレを言ったつもりはないんだと抗議した。


 それはさておき、藍大達に向かってやって来たのは稲藁でできたマッシブな人形の群れだ。


 もっとも、ただの人形ではなく藁でできたアメフト選手のような防具を身に着けている。


 藍大がモンスター図鑑で調べてみると、ライスラインというモンスターだった。


 同族がいると横一列に並んだまま前進するからラインなのだろう。


 余談だが、ライスラインの稲藁の中には収穫したての米がたんまりと詰まっている。


 体の大きい個体程、中に詰まっている米の量が多い。


「おい、マジかよ。あの藁の中には米が詰まってるんだってよ」


「お米なの!? 気合入って来た!」


『お米!』


 食いしん坊ズはライスラインを倒せば米が手に入ると聞いてモチベーションが上がった。


 シャングリラのモンスター食材は美味しい。


 下の階に行けば行くだけ美味しい食材をゲットできるから、舞とリルが地下4階で手に入る米に多大なる期待を寄せているに違いない。


「藍大、ここは私に任せな! 自分で食う分は自分で収穫する!」


 (倒すじゃなくて収穫って言っちゃったよ)


 そんな感想を抱いた藍大だったが、舞のやる気に水を差すつもりはないのでサムズアップして許可した。


「任せる」


「ヒャッハァァァァァッ! 私に米を寄越せぇぇぇぇぇっ!」


 舞はアダマントシールドに光を付与すると、横一直線に並んだライスライン達の横に回ってそれをフライングディスクのように全力で投げ飛ばした。


 ライスラインは正面からの攻撃には強いようだったが、横からの攻撃への対策は不十分だったようで盾に命中した個体からドミノ倒しに倒れた。


「米米米ぇぇぇぇぇっ!」


 今度は光を付与したトールゲイザーで倒れたライスラインの頭を順番に殴りつけ、残ったHPを刈り取っていく。


 騎士の職業技能ジョブスキルを保持しているにもかかわらず、舞を支えているのは騎士道ではなく食欲なのは火を見るよりも明らかである。


 (この米、佐藤米穀店に卸したら兄ちゃんがどうなるか怖いな)


 ライスラインから回収できるだろう米が、月見商店街の米マニアの佐藤米穀店の店主兄ちゃんの目に触れた時のことを恐れた。


 この米のせいで他の米を体が受け付けなくなり、中毒症状を発症したら怖いと思ったのだ。


 しかし、すぐに藍大は頭を切り替えた。


 自分達がまだ味わってもいないのだから、卸した後のことなんて考えるのはまだ早いと気づいたからだ。


「藍大、一緒におにぎり作ろう!」


「そうだな。折角だから一緒に作るか」


「私も作る」


「私も作るです!」


『僕も!』


「「「「リル(君)も!?」」」」


 リルにあるのは手ではなくて前脚だ。


 それゆえ、藍大達はリルもおにぎりを作ると言い出したことに驚いた。


『ご主人、今の僕には<念力サイコキネシス>があるよ。これで僕も一緒に作れるはず』


「なるほど。アビリティの熟練度を上げるついでに一緒に作るか」


『うん!』


 リルの言い分に納得し、藍大はリルも一緒におにぎりを作ることを承諾した。


 戦利品の回収を済ませて探索を再開すると、藍大達はライスラインやクフトマトに何度か襲撃された。


 今度はサクラ達も舞にだけ戦わせたりしないと言って張り切り、早い者勝ちで見敵必殺サーチ&デストロイ合戦になった。


 この勢いで進めばすぐに”掃除屋”が現れそうだと思った時、藍大達をの視界が急に暗くなった。


「なんだ? 急に暗くなったぞ?」


「私達の周り以外は普通に晴れてるのにね」


「主、上だよ。敵が上にいる」


『真っ白~』


「悪魔です?」


 サクラが指差した方向を見ると、リルとメロが言う通り真っ白な悪魔と呼ぶべきモンスターが藍大達の周囲を日陰にしてしまう位置取りで現れた。


 だが、頭から生えた巻き角だけ緑に色付いていた。


 (ま、まさかな・・・)


 ある予感がした藍大は急いでモンスター図鑑でその予感が事実なのか確かめた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:デーコン

性別:雄 Lv:55

-----------------------------------------

HP:750/750

MP:950/950

STR:950

VIT:600

DEX:750

AGI:900

INT:850

LUK:650

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<催涙雨アージレイン><茨牢ソーンジェイル><降下刺突ダイブスタブ

      <啄木鳥ウッドペッカー><草刃グラスエッジ

      <混乱霧コンフュミスト><怪力投擲パワースロー

装備:デモンズトライデント

備考:なし

-----------------------------------------



 (お前のような悪魔がいるか)


 藍大のツッコミはもっともである。


 体が大根でできた悪魔なんている訳ないだろうと思うのは当然だろう。


 デーコンは前触れもなく周囲を霧で包み始めた。


「サクラ!」


「任せて!」


 サクラは藍大が言いたいことを察知し、<浄化クリーン>で霧を消し飛ばした。


 <混乱霧コンフュミスト>に触れてしまえば、状態異常に耐性のないリルやメロが訳もわからず自分達を攻撃するかもしれない。


 そんなことがあっては堪らないので藍大はデーコンの狙いを阻止した。


 霧程度では消されてしまうとわかると、デーコンはトライデントを持っていない手を前に突き出してグッと握った。


 その直後、藍大達を覆うように茨の牢獄が現れた。


『僕が壊す!』


 今度はリルが<聖狼爪ホーリーネイル>で茨の牢獄を切断し、藍大達の視界が再びクリアになった。


 ところが、その時には既にデーコンが<降下刺突ダイブスタブ>を発動しており、<混乱霧コンフュミスト>を消し飛ばしたサクラに向かってトライデントを突き出していた。


「ぶっ飛べゴラァ!」


 舞はそう叫ぶとサクラとデーコンの間に瞬時に入り、MPの注入と光の付与で雷光を纏ったトールゲイザーでフルスイングした。


 その結果、ガキンという音でトライデントが破壊されると同時に力負けしたデーコンが後ろに吹き飛んだ。


「メロ、着地した瞬間に足止め!」


「はいです!」


 デーコンが背中から地面に落下した瞬間、メロが<停止綿陣ストップフィールド>を発動してデーコンの動きを止めた。


「サクラ、とどめだ」


「うん。大根風情が身の程を知りなさい」


 <深淵支配アビスイズマイン>で深淵の刃を創り出すと、サクラはそれを操ってデーコンをサイコロカットした。


 ここまでされてしまえばデーコンのHPが尽きないはずがなく、藍大の耳にシステムメッセージが届き始めた。


『サクラがLv78になりました』


『リルがLv77になりました』


『ゲンがLv74になりました』


『ゴルゴンがLv71になりました』


『メロがLv65になりました』


「主、大根捌いたよ」


「勿論見てたぞ。器用に斬ったな」


「でしょ~?」


 藍大がドヤ顔のサクラの頭を撫でて褒めると、その後ろにはリルとメロ、舞が並んで順番待ちしていた。


 舞がしれっと従魔と一緒に褒めてもらおうとするのは今更なので、藍大はわざわざツッコんだりしない。


 全員褒め終えた後は戦利品回収の時間である。


 藍大達はバラバラになったデーコンの体を集めて回収した。


 その際、舞が壊したデモンズトライデントも回収するのも忘れない。


 大根悪魔デーコンが使っていた武器と言えば、茂ならば鑑定したがると思ったからである。


 回収作業を終えると、メロがニパッと笑って藍大の前に立った。


「よしよし。今度はメロの番だもんな」


「なのです」


 メロが藍大から魔石を与えられて飲み込んだ結果、メロの身長が1cmだけ伸びた。


『メロのアビリティ:<倦怠雲羊アンニュイシープ>がアビリティ:<怠雲羊波シープウェーブ>に上書きされました』


「<倦怠雲羊アンニュイシープ>を創り出せる量が一気に増えたのか?」


「ですです。もっとマスターの役に立つです」


 モンスター図鑑で藍大が確認したところ、予想した通りで<怠雲羊波シープウェーブ>は<倦怠雲羊アンニュイシープ>の波を創り出して範囲物量デバフを可能にするアビリティだった。


 つまり、メロはデバッファーとしての地位を強めたということである。


 メロはもう、自分だけが守られる存在ではないとわかってグッと拳を握る。


 そんなメロが可愛くて藍大が甘やかしたのは言うまでもない。

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