【Web版】大家さん、従魔士に覚醒したってよ(書籍タイトル:俺のアパートがダンジョンになったので、最強モンスターを従えて楽々攻略 大家さん、従魔士に覚醒したってよ)
第158話 俺はこの逆境も乗り越えてみせる。3.141592・・・
第158話 俺はこの逆境も乗り越えてみせる。3.141592・・・
水曜日の昼前、シャングリラに帰って来た藍大達がイザークに声をかけてから庭に行くと、そこで黄昏れているメロの姿があった。
既に今日やるべき家庭菜園の世話は終わっているらしく、家庭菜園を見てぼーっとしているのだ。
(メロの髪の毛が枯葉色になってる・・・)
藍大の傍にいた時はいつも新緑と呼べる髪色だったにもかかわらず、今のメロの髪の色は気分を表しているようだった。
メロの姿を見て申し訳なくなったため、藍大はすぐにメロに声をかけた。
「メロ、ただいま」
「マス、ター?」
「おう。ごめんな。寂しい思いをさせちゃって」
「マスターです!」
「メロ!?」
「マスターです! マスターです! マスターですぅぅぅぅぅっ!」
メロは藍大を見つけた途端、残像が見えるぐらい素早く藍大に駆け寄って抱き着いた。
マスターと連呼しながら藍大の体に顔をぐりぐりと擦る姿はなんとも微笑ましい。
だが、ちょっと待ってほしい。
メロの身長は藍大の半分程度なので、藍大の腰部にメロの顔が当たる。
その状態で顔を藍大の体にぐりぐりと擦るとどうなるか。
「メロちゃん、その位置は駄目だよ!」
「マスター、次は置いてかないでほしいですぅぅぅぅぅっ!」
「メロ、恐ろしい子・・・」
舞がメロのポジションだけどうにかしようと引っ張るが、メロは梃子でも動かぬと言わんばかりに藍大に抱き着いたままである。
その執念の凄さにサクラは戦慄していた。
(俺はこの逆境も乗り越えてみせる。3.141592・・・)
女性陣が騒いでいる間、藍大は自分の体が反応しないように円周率を頭の中で数えて気持ちを鎮めた。
そうこうしている間に外の騒がしさから未亜と健太が部屋の外に出て来た。
「「おまわりさんこいつです!」」
「仲良しか! いや、そんなツッコミしてる場合じゃねえ!」
藍大は折角気持ちを落ち着かせたというのに、未亜と健太のせいで反射的にツッコんでしまった。
そのせいでピンチを迎えたが、藍大はどうにか気合で泣いているメロを抱っこすることに成功した。
「よしよし。もう置いてかないからな~。メロが泣き止んでくれるお土産も手に入れて来たぞ~」
「ぐすっ、お土産です?」
藍大に抱き着いて泣いたことで、溜まっていたストレスが発散されたのかメロの髪の毛の色が少しだけ元の色に近づいた。
「そうだ。ちょっと待ってろ。舞、トーテムカンをリュックから出してくれ」
「は~い」
メロに元気を出してもらおうと、藍大は舞に頼んでトーテムカンを収納リュックから出してもらった。
「マスター、これはなんです?」
「トーテムカン。これを使って育てると元気な植物になるんだ」
「マスターは最高のマスターです!」
その瞬間、メロは満面の笑みを浮かべて藍大に抱き着いた。
少し前まで泣いていたのが嘘に思えるぐらい機嫌が良くなった。
ついでに言えば、メロの髪の毛の色がいつも通りの新緑へと戻った。
メロ、完全復活である。
「喜んでくれてホッとした」
「はいです! マスターは私のことちゃんと考えてくれてたです! 良い子でお留守番してて良かったです!」
「そうだな。メロは良い子だ。よしよし」
「エヘヘです~♪」
メロがもう大丈夫だとわかると、藍大はメロを下ろして舞から受け取ったトーテムカンをメロに渡した。
「これを使って美味しい果物や野菜を作ってくれ」
「はいです!」
メロは藍大からトーテムカンを受け取ると、嬉しそうにそれに頬擦りする。
未亜と健太が2階から降りて藍大達と合流すると、2人もホッとした様子だった。
「いやぁ、メロちゃんが元気になって良かったで」
「マジでそれ。俺達もメロちゃんに口止めされてなかったらすぐにでも藍大達を呼び戻したんだが」
「口止め?」
「せやで。マスター達は旅行を楽しんでるから、私が寂しそうだからって急いで帰って来るように催促しないでくれって言うんや。滅茶苦茶健気やん?」
「俺もダディって呼んで良いよって言ったら無視された」
「無視されるのはいつもやろ」
「否定できない!」
未亜と健太のコントが始まっているが、藍大はそれを聞き流してメロの頭を撫でた。
「次は一緒に出掛けような」
「はいです!」
「よしっ! メロのために今日は美味しいおやつを作ってあげよう!」
「『クレープ!』」
藍大の発言でメロよりも先に食いしん坊ズが反応した。
「クレープです?」
「そうだ。レアな蜂蜜を手に入れたんだが、ゴルゴンの卵とメロの作ってくれたフルーツが足りなくて物足りなかったんだ。後で良さそうなフルーツを選んでくれないか?」
「任せるです!」
「だったら今からバーベキューしようぜ! デザートにクレープ祭りを希望する!」
「健太、忘れてるかもしれねえが俺達帰って来たばっかだぞ?」
「酷~い」
「最低。これだから虫は虫なの」
「はい、すみません」
バーベキューに心動かされるも藍大のことを考えてそれはまた今度だと考える舞はまだ控えめだが、サクラは害虫を見る目を健太に向けた。
健太も舞やサクラに折檻されたらひとたまりもないので、これは空気を読めなさ過ぎたとすぐに謝った。
未亜と健太は午後の探索があるからとその準備のためにそれぞれの部屋に戻った。
それと入れ替わりで司と麗奈がダンジョンから脱出して来た。
「あっ、藍大達だ。おかえり」
「もう帰って来れたんだ。やっぱりリルは脚が速いのね」
『ドヤァ』
麗奈に感心されたリルは得意気に胸を張った。
愛らしいリルを撫でてから、藍大は収納リュックから麗奈にある物を取り出して渡した。
「麗奈、これ。麗華さんから預かって来た」
「姉さんから手紙? 珍しい」
藍大が取り出したのは手紙だった。
麗奈は中身が気になってその場で開封して読み始めた。
しばらく麗奈は手紙に書かれた文字を無言で読んでいたが、一気に読み終えると手紙を封筒の中にしまった。
「藍大、運んで来てくれてありがと。おかげで気合が入ったわ」
「そりゃ良かった。でも、無理はすんなよ」
「わかってるわ。これは姉さんと私の勝負よ。私はもっと強くなって姉さんに参りましたって言わせてやるの」
「あんまりわかってねえかも。司、ちゃんと手綱を握ってやってくれ」
「善処するよ」
麗華が麗奈にどんな内容の手紙を送ったかわからないが、麗奈がいつも以上に気合を入れているのは確かだったので藍大は司に麗奈のことを任せた。
司もやれやれと言わんばかりに首を振り、できる範囲で麗奈の面倒を見ることを了承した。
その後、藍大達は司や麗奈達と別れて102号室へと入った。
「我が家だ~」
『やっぱり家が一番だね』
『わかる』
部屋に入った途端、舞とリルは安心した表情でそう言った。
滅多に喋らないゲンもこの時だけは同調してすぐに<
遅れてゴルゴンも<
時刻は気づけば正午を過ぎていた。
藍大は昼食に収納リュックの中に入れておいた作り置きの料理を取り出した。
収納リュックの時間停止機能はこういう時に重宝する。
作ったのが数日前だったとしても、収納リュックにしまった瞬間からそれは時間が経過しなくなる。
つまり、取り出した時はしまったすぐ後なので出来立ての状態の料理を食べられるという訳だ。
これには舞もリルも満足している。
藍大達は昼食が済むと、旅の疲れを癒すように部屋の中でだらだらと過ごした。
それでも、藍大はメロのためにクレープを作ると宣言したから午後3時におやつを食べられるようにクレープづくりを開始した。
テレビでしか見たことのないクレープを藍大が作るから、メロはその様子を幸せそうに見ていた。
メロも雌なので甘い物には目がないらしい。
クレープが完成すると、藍大達は最初にメロに食べてもらうことにした。
「メロ、改めて留守番ありがとう。存分に味わってくれ」
「はいです! いただきますです!」
ハムッと一口食べると、メロは目を輝かせた。
「お口の中が幸せです~!」
「喜んでもらえて良かったよ。俺達も食べるかってもう食べてるし・・・」
藍大が声をかける前に我慢できなくなってサクラ以外全員がクレープを食べていた。
「いただきます」
「サクラは良い子だな」
「主の一番従魔だもん」
やれやれと首を横に振る藍大だが、食材に拘って作ったクレープは昨日のものよりも美味しかったので誘惑に負けて食べてしまうのも仕方ないと思った。
夕食は藍大達が無事に帰って来たことを祝してバーベキューが行われた。
ワイワイとクランのメンバーでやっていると、二泊三日の旅も良いけどやっぱりシャングリラが一番だと思う藍大達だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます