第156話 蜂蜜でデザートを作ってくれるかな~?

 周囲がモンスター達の死体だらけになったことから、藍大達は手分けをして戦利品の回収をすることで動ける空間を整えていた。


 その途中、しーんとしていたハニービーの巣からブブブと羽音が聞こえ、スイカサイズのハニービーが現れた。


 通常の個体と明らかに違うのは首に黄色と黒の縞のファーがあり、額には赤い宝玉があることだろう。


 藍大は目の前に現れた個体がこの巣の主だと判断し、モンスター図鑑でその正体を調べ始めた。


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名前:なし 種族:スイートビークイーン

性別:雌 Lv:30

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HP:240/240

MP:300/300

STR:300

VIT:200

DEX:300

AGI:470

INT:150

LUK:230

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称号:希少種

アビリティ:<甘蝋霧スイートミスト><猛毒刺突ヴェノムスタブ>   

      <蜂蜜創造ハニークリエイト><物理耐性アンチレジスト

装備:なし

備考:激怒

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 (1階からLv30出るとかどゆこと?)


 事前情報では1階はMAXでLv15という話だったにもかかわらず、その倍のレベルに達したスイートビークイーンが現れたことに藍大は驚いた。


 しかし、スイートビークイーンのページを読み進めていくと、栄養を過剰に溜め込んだハニービークイーンが進化するとスイートビークイーンになるという記述があった。


 つまり、藍大達の目の前にいるスイートビークイーンは今の今まで討伐されることなく、栄養を蓄えたハニービークイーンがいたことを意味する。


「舞、気をつけろ。スイートビークイーンはLv30の”希少種”だ。甘い匂いの霧が発生したら口と鼻を塞げ。それが体内に入ると入った量に応じて体が蝋になる。毒針も持ってるから注意すること」


「OK。全力でぶっ潰してやる」


「サクラとリルは指示があるまで待機だ」


「うん」


『わかった』


 作戦が決まると、舞がスイートビークイーンに向かって駆け出した。


「先手必勝!」


「ブッ!?」


 舞のスピードが予想以上に速かったらしく、スイートビークイーンはびっくりして空中に逃げた。


「逃がさねえぞゴラァ!」


 舞が光を付与したアダマントシールドを手裏剣並みの勢いで投げると、人間としてはトップクラスの身体能力から繰り出されたそれがスイートビークイーンの胴体に命中した。


 シャングリラダンジョンでLv55の”掃除屋”ともやり合える舞の攻撃から逃げ切れず、スイートビークイーンのHPはあっさりと尽きてそのまま地面に墜落した。


 倍以上のレベル差によって得られた経験値が少なかったらしく、藍大の耳にはサクラ達がレベルアップしたことを告げるシステムメッセージは聞こえなかった。


 しかし、間違いなくスイートビークイーンは舞の手によって倒された。


「藍大~、勝ったよ~」


「うん、見事な投擲だった」


「蜂蜜でデザートを作ってくれるかな~?」


「いいとも! はっ、乗せられた!?」


「わ~い。リル君、藍大が甘いデザート作ってくれるって」


『やった~!』


 舞だけでなく、リルも楽しみにしているとなれば作らないとは言えない。


 というよりも、そもそも藍大がここでNOと言うはずがないのだが。


 スイートビークイーンから魔石が発見されたので、今度はゴルゴンにそれを与える番だ。


 ゴルゴンが<装飾化アクセアウト>を解除すると、藍大はゴルゴンにスイートビークイーンの魔石を与えた。


 その直後、ゴルゴンが脱皮して魔石を飲み込む前よりも鱗がツヤツヤになった。


『ゴルゴンのアビリティ:<装飾化アクセアウト>がアビリティ:<中級装飾化ミドルアクセアウト>に上書きされました』


「ゲンと同じで俺が装備してる時に新しく別のアビリティを使えるのか?」


「「「「「「シュロッ」」」」」」


 藍大が訊ねてみると、ゴルゴンはその通りだと頷いてみせた。


 モンスター図鑑で調べてみても、ゴルゴンが頷いた通りで<爆轟眼デトネアイ>以外のゴルゴンのアビリティを藍大が使えるようになっていた。


 新たに藍大が使えるようになったのは<中級治癒ミドルキュア>だった。


 ゴルゴンを装備していても<中級治癒ミドルキュア>が封じられないことは、藍大達にとって間違いなくプラスである。


 誰かが状態異常にかかった時、藍大が即座に対応できればパーティーとして安定感が増すというものだ。


「でかしたぞゴルゴン」


「「「「「「シュロン♪」」」」」」


 頭を撫でてもらってゴルゴンは嬉しそうに返事をした。


 他の冒険者にゴルゴンのことを見られても面倒なので、ゴルゴンは<中級装飾化ミドルアクセアウト>で再び藍大のヘアピンになった。


 さて、ゴルゴンの強化が終われば次はいよいよハニービーの巣の解体である。


 巣の中にある蜂蜜を回収しなければ、舞とリルの希望する甘いおやつを作れない。


 サクラとリルが協力して巣を解体すると、ハニービーの卵と蜂蜜が手に入った。


 卵は巣の穴に入り込んでいるので巣の破片とくっついた状態であり、大輝の次なる研究対象として丁度良いと思って透明なゴミ袋の中に入れて持ち帰ることにした。


 蜂蜜は藍大が収納リュックに入れていた5ℓ入る空き瓶に移し替え、サクラの<浄化クリーン>で不純物を取り除いていつでも使えるように準備した。


 (あれ、待てよ。スイートビークイーンの蜜ってハニービークイーンの蜜よりも上質だよな?)


 疑問を解決するべく、藍大はサクラに蜂蜜の入った瓶を持たせてモンスター図鑑で調べてみた。


 その結果、藍大の予想通りにスイートビークイーンの蜜は栄養価が高くて甘い蜂蜜だった。


 しかも、4級ポーションの素材になることまで発覚した。


 存在するスイートビークイーンの数が少ないからその蜂蜜はとても貴重だし、藍大達がスイートビークイーンと遭遇しなければ4級ポーションの素材が見つかるまでもっと時間がかかっただろう。


「リルの嗅覚とサクラのLUKが仕事した訳だ」


『僕?』


「私?」


「スイートビークイーンの蜜って希少な食材らしいぞ。これは隠し部屋やダンジョンに眠るアイテムと同等の価値があるんだ。リルとサクラは本当に良い仕事をするぜ」


『ワッフ~ン』


「主が喜んでくれて嬉しい」


「愛い奴等め」


 藍大はわしゃわしゃと頼れる従魔達の頭を撫でた。


 ところで、先程まではハニービーの巣のせいで気づかなかったが、その陰に隠れて樹洞じゅどうがあった。


 樹洞があった以上、その中に何かあるかもしれないと期待してしまうのは当然である。


「サクラ、あの中を調べて来てくれ」


「は~い」


 サクラは藍大に頼まれて空を飛び、樹洞のある高さまで移動した。


「何かあったか?」


「小さな宝箱があるよ。今そっちに持ってくね」


 サクラはそう言って両手に小さな宝箱を持って地上に降りた。


「宝箱か。サクラ先生の出番ですな」


「くるしゅうない」


 このやり取りはお決まりになったようだ。


 LUK5万超えのサクラにかかれば、レアアイテムが手に入る可能性は極めて高い。


 レアアイテムではない物が出たとしたら、それはそのダンジョンにとって最高レベルのアイテムがしょぼかったということでダンジョンに問題があるだろう。


 サクラが宝箱の蓋を開けると、その中には子供が持つのに丁度良いサイズの如雨露じょうろが入っていた。


 ただし、この如雨露は普通の如雨露ではなかった。


 木製なのは置いておくとして、トーテムポールのような形状なのだ。


 藍大はモンスター図鑑でサクラの手の中にある小さいトーテムポール型の如雨露について調べた。


 (トーテムカン。これを使って育てると元気な植物になるのか)


 トーテムカンの効果は誰もが欲しがる物ではなかった。


 だが、藍大にとっては喜ぶべきアイテムだった。


 何故なら、藍大はメロから家庭菜園に与える水もランクアップさせたいとおねだりされていたからだ。


 家庭菜園の土壌はメロがいくつかの植物を植えたことで改善したが、与える水まではメロが調整できない。


 メロとしては水にも拘りたかったため、藍大もどうにかしてあげたいと思っていたがダンジョンで手に入るアイテムは運次第だ。


 メロの望むアイテムがすぐに出る保障はなかった。


 それが旅行先で手に入ったのだから、メロへの良いお土産となった。


 藍大達はこのダンジョンの踏破を目指している訳ではないため、貴重なアイテムを2つも手に入れたから探索を切り上げて”グリーンバレー”のクランハウスへと帰った。

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