第146話 そうです、俺がモンスター学の第一人者です。って違うだろ

 DMU主催のパーティーはビュッフェ形式だった。


 円卓で食事を取ると話す相手が変わってしまうと想定してのことである。


「リル君、欲しいものがあったら言ってね。私が取ってあげるから」


『ご主人に取ってもらうから要らない』


「あう・・・。またフラれてしまった」


 真奈がアピールチャンスだとリルに話しかけるが、リルは真奈を警戒して首を横に振った。


『ご主人、ローストビーフ取って。それとあのパスタも』


「ちょっと待ってろ」


 <念力サイコキネシス>を使えば自分で欲しい料理を皿に盛れるが、ここは藍大に甘えるチャンスだと思ってリルは藍大に頼む。


 藍大はリルのリクエスト通りに盛り付けると、リルに皿を差し出した。


『いただきます』


 空腹でもシャングリラではないことは理解しているので、リルはがっつくことなく上品に食べている。


 その点で言えば、舞もいつもとは違って常識的な量を盛りつけて上品に食べていた。


「リル、美味いか?」


『うん。でも、ご主人のご飯の方が好き』


「そうだよね。私も藍大の料理の方が好き~」


「私も主の料理が好き」


「べ、別にそんなこと言われたって明日張り切っちゃうだけなんだからね!」


「何やってんだよお前ら・・・」


 身内でコントをしている藍大達を見て、茂がツッコミを入れた。


「司会お疲れ。最後まで無事に進行できると良いな」


「そう思うなら他のクランの代表者とも話して来い」


「えっ、真奈さんとも話してるぞ?」


「真奈さんはリル目当てだろうが。俺が言いたいことをわかっててとぼけんじゃねえ」


「へいへい」


 身内や知り合いだけで固まらず、この機会に普段話すことのない実力者とも交流を持てと言外に伝える茂に藍大は渋々頷いた。


 藍大も実力者と顔繫ぎをする必要性は理解しているが、”ブルースカイ”の青空瀬奈と話しても間が持たない気がしてならないから気乗りしなかったのだ。


 ”グリーンバレー”に挨拶をした場合、当然”ブルースカイ”と何も話さないではよろしくないからどうしたものかと困っていたのだ。


 そこに予想外の人物が現れた。


 パーティー開始前に瀬奈と揉めていた麗華と呼ばれた女性である。


 髪型はショートウルフに決めたその女性の顔は、藍大達にとってどこかで見たことのあるものだった。


「逢魔さん、初めまして。”グリーンバレー”のサブマスターを務める轟麗華よ。妹の麗奈がお世話になってるわね」


「麗奈のお姉さんだったんですか。それでなんとなく見覚えがあったんですね。こちらこそ初めまして。”楽園の守り人”のクランマスターを務める逢魔藍大です。よろしくお願いします」


 しれっと”楽園の守り人”が三原色のクラン全てと関係があると発覚した瞬間だった。


「もっと気軽で良いのよ。妹のこともあるし麗華って呼んで」


「では麗華さんと呼ぶことにします。でも、まさか麗奈にお姉さんがいるとは知りませんでした」


「あぁ、あの子は私と比べられるのが嫌いだから、私達が姉妹だってことを言いたがらないのよ」


 轟麗華は麗奈と同じく拳闘士の職業技能ジョブスキルを持つ。


 加えて言うならば、日本で有名な拳闘士は誰かと訊けば、間違いなく麗華の名前が挙がる。


 二つ名は鋼の女であり、麗奈の飲猿と比べても恥ずかしくない響きである。


 いや、女性として硬そうなイメージはどうなのかと思うかもしれないが、冒険者として頼りになりそうな二つ名であることは間違いない。


 麗華は麗奈にとって劣等感コンプレックスを抱かせる存在だった。


 よくある話だが、優秀な姉(兄)を持つと妹(弟)が比べられて辛いということだ。


 麗華は麗奈が自分に抱く感情を理解しているから、今の今まで”楽園の守り人”に積極的に接点を持とうとしなかった。


 しかし、今日は同じパーティーに藍大が出席している。


 そうであるならば、妹が世話になっている相手に挨拶ぐらいしておかなければ姉として不味いと思って藍大に話しかけた訳だ。


「色々あるんでしょうね。深くは訊きません」


「あら、意外ね。てっきり訊いて来ると思ったんだけど」


「クランマスターだから踏み込んで良いって訳ではありません。時にはそっとしておく優しさだって必要なんですよ」


「ふ~ん。気に入ったわ。貴方なら麗奈を任せられそうね。お酒好きで迷惑をかけることも多いでしょうけど、これからも麗奈のことをよろしくね」


「わかりました」


 麗華との話が一区切りついたところに線の細い男性がやって来た。


「麗華、逢魔さんと話ができたようだね」


「ええ。逢魔さんなら麗奈を任せられそうよ。逢魔さん、紹介するわね。彼が”グリーンバレー”のクランマスター、緑谷大輝みどりやだいきよ。ついでに言えば、私の婚約者なの」


「どうも。緑谷大輝です。”グリーンバレー”のクランマスターですが、僕は薬士なんで近接戦闘はからっきしで麗華頼りなんです。逢魔さんも後衛職の職業技能だと知って勝手ながら親近感を抱いてました。よろしくお願いします」


 (同志!)


「その気持ち、とてもよくわかります。”楽園の守り人”のクランマスターの逢魔藍大です。こちらこそよろしくお願いします」


 藍大は大輝に通ずるものを感じて大輝と固く握手した。


「逢魔さんは従魔士ですから、モンスター学の第一人者と呼んでも過言ではありません。C大学での講義、僕も聞いてみたかったです」


 (そうです、俺がモンスター学の第一人者です。って違うだろ)


 いつの間にかモンスター学なるものの第一人者扱いされていたことに藍大は驚いて心の中でノリツッコミした。


「自分が弱者だと認めることです(キリッ)」


「どこから湧いて来たモフラー」


 いきなり話に割り込んで来た真奈に対し、藍大がジト目でツッコむのも仕方のないことである。


「お前は余計なことを言うんじゃない」


「ぐへっ」


「お騒がせしました」


 誠也は真奈に手刀を入れて首根っこを掴んで回収していった。


 パーティーで説教せざるを得ないだなんて常識人の兄は辛い。


 闖入者の乱入で藍大達のテンションがリセットされた時、”レッドスター”の2人と入れ替わるように”ブルースカイ”の2人が藍大達の所にやって来た。


「理人、挨拶なさい」


「えっ、ちょっ、クランマスター、話の途中で入ってくとか無理矢理過ぎません?」


「何言ってるんですか? 喋ってないのだから話は終わってるはずですよ」


「あっ、はい」


 (この理人って人、滅茶苦茶苦労してそう)


 そう思っても藍大は口に出さないだけの分別はあった。


 もしもそんなことを口にすれば、瀬奈に睨まれるのは待ったなしだからだ。


 だが、ちょっと待ってほしい。


 この場にはまだ麗華がいる。


「ちょっと、瀬奈。赤星妹が乱入しただけでまだ私達が話してる途中よ」


「そうは見えませんが?」


「あんたねぇ・・・。ほんっとうに私の癇に障ることしかしないわね」


「毎度絡んで来るのは麗華の方でしょう? 頭弱いんですか?」


「落ち着こう、麗華!」


「クランマスター、落ち着きましょう!」


 (俺も舞とリルみたいに料理だけ食べていたかった)


 自分達に関係ないとわかると、舞とリルは暇だからパーティー料理を食べることに集中していた。


 藍大の料理は好きだが、夕食としてそれを食べられないのはわかっているので食いしん坊ズは気持ちを切り替えて仲良くパーティー料理に舌鼓を打っている。


「主、外交って大変だね」


「それな」


 藍大は隣に付き添っているサクラから声をかけられ、短くとも重みのある返事をした。


 麗華と瀬奈の言い争いが収まると、瀬奈を宥めていた男が改めて藍大にお辞儀した。


「お恥ずかしい所をお見せしてしまいました。私は渡辺理人わたなべりひとと申します。”ブルースカイ”のサブマスターの剣士です。よろしくお願いします」


「逢魔藍大です。よろしくお願いします」


「オークションではスカルネックレスを売りに出していただきありがとうございました。あれのおかげで、クランマスターが雑魚モブモンスターに狙われなくなって助かってます」


「そうですね。あれは本当に良い買い物でした。以前は疑うような物言いをしてしまいすみませんでした」


「いえ、わかっていただけたならそれで結構です」


「では行きますよ、理人。赤星兄に用事がありますので」


「慌ただしくて申し訳ありません。失礼します」


 この場での用件は済んだと言わんばかりに瀬奈が会釈してその場を後にすると、理人も苦笑いしながらお辞儀をしてその後について行った。


「塩でも撒きましょう。あの冷徹KY女が来れないように」


「麗華、お願いだから抑えて」


 瀬奈がいなくなっても戦意の収まらない麗華を宥める大輝はぐったりしていた。


 その後、パーティーは茂の企画したビンゴに移行した。


 サクラが一等としてDMU職人班が作成したバーベキューセットを当てたのは4万超えのLUKがあれば当然である。


 藍大と舞、リルがそれに喜んでくれたからサクラも得意気だった。


 何はともあれ、途中で口論が合ったりしたもののパーティーは無事に終わった。

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