第145話 私にはわかる。今日のパーティー料理のことを考えるんだよね?

 夕方、正装の藍大はリルの背中に乗ってDMU主催のパーティーの会場に移動する間、外出前に確認したモンスター図鑑の内容について思い出していた。



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名前:逢魔サクラ 種族:アスモデウス

性別:雌 Lv:75

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HP:2,000/2,000

MP:2,400/2,400

STR:1,800

VIT:1,800 (+900)

DEX:1,800

AGI:1,900

INT:2,400

LUK:22,500(+22,500)

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称号:藍大の従魔

   勝負師

   守護者

   色欲の女王

二つ名:テイマーさんの一番従魔

アビリティ:<豪運フォーチュン><深淵支配アビスイズマイン><色欲ラスト

      <超級回復エクストラヒール><浄化クリーン

      <幸運打撃ラッキーストライク><不可視手インビジブルハンド

装備:BRドレスアーマー

   シールドアミュレット

   結婚指輪

備考:状態異常無効

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 進化したサクラのステータスを見た時、藍大は自分の目を疑った。


 サクラが強くなっていることは理解していたが、まさかここまでだとは思っていなかったからだ。


 サクラの新しく会得したアビリティだが、どれも実用性の高い効果を有している。


 <色欲ラスト>は知識と実技においてエロスを極めたパッシブアビリティである。


 エロス方面では最強なのは当然のことだが、その付属効果として自分が親愛の情を抱く者の力を強化することもできる。


 例えるならばそう、姫に鼓舞された兵士たちのように力を引き出せるのだ。


 <超級回復エクストラヒール>は5級ポーションを手に入れた時に判明したが、死んでさえいなければどんな傷も癒せる効果がある。


 MPの消耗もその分多くなるが、奇跡とも呼べる効果を実現させるのならそれぐらい安いものだろう。


 <不可視手インビジブルハンド>は目に見えない手を創り出して操作できるアビリティであり、シンプルなだけあって工夫のし甲斐があると言えよう。


 サクラがここまで強くなったということは、他のモンスターも全てとは言わないが一部だけでも同程度まで強くなる可能性を秘めていることだ。


 少なくとも、サクラのように大罪を冠する称号を持つモンスターは存在している可能性がある。


 もしもサクラ並みのモンスターがダンジョンのフロアボスとして現れたとしたら、冒険者は一気にその数を減らしただろうと思える程である。


 スタンピードでダンジョンから出て来てしまったとなれば、人類の危機と言っても過言ではない。


 そう考えれば、サクラが自分の従魔、いや、嫁でいてくれたことに藍大は心底ホッとしている。


 進化したサクラについてはこれぐらいで良いとして、藍大は自分の力について思考を巡らせた。


 サクラが”色欲の女王”を会得したおかげで、藍大の従魔士の職業技能ジョブスキルが三次覚醒を迎えた。


 二次覚醒の時は従魔を融合する力を身に着けたが、今回の三次覚醒では従魔同士あるいは従魔と自分の位置の入れ替えができるようになった。


 まだ覚えたてで自分から半径10m以内までしか入れ替えられないが、熟練度によって入れ替えられる範囲は広がっていくようなので地道に鍛える必要があるだろう。


 (考えることが一気に増えたなぁ)


 そんなことを思っていると、藍大の後ろから抱き着いた状態でリルに騎乗しているサクラが声をかけた。


「主、何考えてるの?」


「私にはわかる。今日のパーティー料理のことを考えるんだよね?」


 サクラの問いに答えたのは藍大の前でリルに騎乗している舞だった。


 藍大達は舞、藍大、サクラの順番でリルの背中の上に乗っているのだ。


 当然、3人で密着しているので藍大は絶賛幸せサンドウィッチ状態である。


「舞じゃないんだから違うでしょ」


「まあ、パーティー料理じゃないかな。サクラの進化やら俺の三次覚醒やらで考えなきゃならんことが増えたって思ってたところだ」


「そっか~。藍大も大変だね~」


「他人事じゃないと思うんだが?」


「私は肉体労働とご飯を食べる担当。藍大が頭脳労働と料理の担当」


「待って。私は?」


 舞が自身の理論を展開すると、サクラが自分について触れてないじゃないかと口を挟む。


「エッチなこと担当?」


「正解」


「違う。いや、違わないけどそれだけじゃないだろ」


 サクラが納得してしまったが、藍大がそこに待ったをかけた。


 流石にスルーしていられないからツッコんだとも言える。


『ご主人達、着いたよ』


「おっ、あっという間だったな。リル、お疲れ様」


『全然へっちゃら~。思いっきり走れて楽しかったよ』


「よしよし」


 目的地ホテルに到着したので、藍大は地面に降りてからリルの頭を撫でて労った。


 リルはシャングリラの敷地外で伸び伸びと走れたからご機嫌だった。


 左右に揺れる尻尾がそれを証明しており、藍大はリルが楽しめたことを喜んだ。


 リルが<収縮シュリンク>で大型犬サイズになると、藍大達の到着を確認したホテルのスタッフが現れた。


「”楽園の守り人”の皆様、お待ちしておりました。本日のパーティー会場へご案内いたします」


 スタッフはそのまま藍大達をパーティー会場へと誘導した。


 パーティー会場の扉をスタッフが開けると、本日のパーティーを運営するプロジェクトチームのメンバーが忙しなく動いていた。


 そんな中、プロジェクトリーダーの茂が藍大達に近寄って声をかけた。


「おっす。ちゃんと正装で来てくれてるな。お前達が一番乗りだぜ」


 藍大はゲンの<中級鎧化ミドルアーマーアウト>とゴルゴンの<装飾化アクセアウト>込みの正装をしており、舞はレンタルしたパーティードレス、サクラはドレスアーマーという見た目である。


 茂は藍大達がかっちり決めて来てくれたことにホッとしていた。


 こんな時に笑いを取りに来ないとは思っていても、なんだかんだでやらかす藍大達のことが心配だったのである。


「そりゃ良かった。新参者が最後に来るとか、青空さんにどんな目を向けられるかわかったもんじゃねえからな」


「あー、確かにそうだな。まあ、健太みたいな振る舞いさえしなければ大丈夫じゃね?」


「あいつと比べたら大半の奴が紳士だろ」


「それな。でも、お前が青空さんと険悪なムードになることはねえと思うぞ?」


「なんで?」


「青空さんにとってお前よりも相性の悪い相手がいるからだ」


 茂の発言を聞いて藍大は少し考えてから自分の推測を口にした。


「誠也さんも真奈さんも相性悪いとまではいかなそうだから、”グリーンバレー”か?」


「正解。”グリーンバレー”のサブマスターと青空さんが犬猿の仲だ。学生時代は小中高とずっと一緒でしょっちゅう競い合ってたらしい」


「フッ、幼稚園から今まで一緒の俺達には負けるな」


「張り合うな馬鹿」


 そうは言いつつも茂も悪くないという口ぶりだった。


 仲が良い幼馴染というのは貴重である。


 そんな藍大と茂を見て舞とサクラがひそひそ話をしていた。


「サクラちゃん、幼馴染が手強いよ。わかり合ってる感が半端ない」


「大丈夫。茂は主の子供を産めない。私達が勝つ」


 一体なんの勝負をしているんだとツッコむべきだろうが、生憎舞とサクラの話を聞いていた者は誰もいない。


『く、来る・・・』


「どうしたんだリル?」


 突然、リルが怯えて自分にピタッとくっついたので、藍大はリルが具合でも悪いのかもしれないと心配して声をかけた。


 その直後、ホテルのスタッフに案内されて”レッドスター”の赤星兄妹が会場にやって来た。


 (なるほど。そういうことか)


 藍大はリルにとって天敵真奈がやって来たから怯えたのだと察した。


「リル君~! 私が会いに来たよ~!」


「TPOを弁えろ、馬鹿者が」


「うごっ」


 誠也に手刀を落とされると、真奈は痛みに頭を抱えた。


 藍大達は赤星邸で見たことのある光景に苦笑いだった。


 痛がる真奈を放置して誠也は藍大に頭を下げた。


「皆さん、愚妹が失礼しました。”楽園の守り人”の皆さん、1ヶ月ぶりですね。調子はどうですか?」


「毎日楽しくやってますよ。誠也さんの方はどうですか?」


「愚妹が何かしでかさなければ概ね順調です」


 (どう反応して良いのかわかんねえ・・・)


 誠也の返事の受け答えに窮していると、会場の外が騒がしくなった。


「クランマスター、抑えて下さい。ここは公共の場です」


「麗華、落ち着いて。他のクランもいるんだよ?」


「わかってますよ理人りひと。突っかかって来たのは向こうです。私から喧嘩なんて売ってません」


「は? 存在自体が喧嘩売ってんじゃないのよ!」


 宥める2人の男性の声と喧嘩する2人の女性の声がすると、手刀の痛みから復活した真奈がやれやれと口を開いた。


「また言い争ってますね、あの2人は」


「本当に相性が悪いんだろうな」


 真奈の言葉に誠也が頷く。


 その直後、ドアが開いて”ブルースカイ”の代表2人と”グリーンバレー”の代表2人が会場に入って来た。


 (おいおい、パーティーの間ずっと喧嘩するとか勘弁してくれよ?)


 藍大が不安な気持ちを抱いたまま、パーティーの開始時刻を迎えることになった。

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