第144話 心の中のリトルサクラがやれって言ったの

 イザークのテイムに成功してホクホク顔の藍大を見て、サクラとリル、メロが集合していた。


「イザークの扱いに要注意。主がテンション高かった」


『ご主人、僕達よりもイザークの方がお気に入りなの?』


「違うと思いたいです。訊いてみるです」


 サクラ達は頷き合ってすぐに藍大に群がった。


「主!」


『ご主人!』


「マスター!」


「どうしたどうした? 何か良いことでもあったのか?」


 いきなりサクラ達に一斉に集まって来られれば、藍大も何かあったのではないかと気になって声をかける。


「イザークが好きでも私達のことは変わらずに可愛がって!」


『ご主人、僕達良い子にするからお願い!』


「亜空間で放置は嫌です!」


「ん? なんでそうなった?」


 藍大がサクラ達の言い分を聞いて首を傾げると、舞がサクラ達の言いたいことを捕捉した。


「サクラちゃん達は藍大がイザークのテイムにノリノリだったから、自分達が要らない子扱いされないか心配になったんだよ」


「要らない子な訳ないだろ? サクラもリルもメロも俺の大事な家族だ」


「主!」


『ご主人!』


「マスター!」


 ホッとしたら甘えたくなったので、サクラ達は改めて藍大に構ってくれと抱き着いたり頬擦りしたりした。


『安心』


『私も家族なんだからねっ』


「当然だ。ゲンもゴルゴンも大事な家族さ」


『良かった』


『ア、アタシは最初からわかってたんだからねっ』


 従魔の中で一番大人な対応をしたのはゲンだった。


 それでも、なんとなく喜んでいるのが伝わって来るあたり、ゲンも藍大に大事な家族と言われて嬉しかったに違いない。


「ねえねえ、サクラちゃん達が誤解するぐらい藍大はテンション高かったよね。どうして?」


「男は何歳いくつになってもロボットとかゴーレムとか好きなんだ」


「そうなんだ。私がお肉好きなのと一緒なの?」


「う~ん、大体合ってる」


 厳密に言えば違うのだが、説明が難しいので藍大はこの話を切り上げることにした。


 イザークが立っていた地面だが、気分の落ち着いたリルが何かを感じ取ったようで掘り始めた。


 30秒程待つと、リルが何かを掘り当てた。


『ご主人、何か見つけたよ~』


「今度はなんだろうか」


「ラウンドシールド?」


「私が持ってみる」


 サクラがアダマントタンクと同じ色で渦巻模様の彫られたラウンドシールドを拾うと、藍大はモンスター図鑑でそれを調べた。


 (アダマントシールドってマジ? カッチカチやぞ?)


 モンスター図鑑に表示された盾の名前を見て藍大は目を丸くした。


 アダマントシールドは硬さが有名な架空金属のアダマンタイトでできたラウンドシールドだ。


 効果はシンプルなもので、MPを注げば注ぐ程硬質化するというものである。


 舞が使えば光を付与させることもできるので、舞にぴったりの盾だろう。


「舞、このアダマントシールドは舞が使ってくれ」


「良いの?」


「この盾は舞にこそ相応しい。これを使って俺を助けてくれ」


「わかった! ありがたく貰うね!」


 ライフブレスレットを渡してもらった時と同じぐらい嬉しそうに笑みを浮かべるあたり、舞が残念美人であることは否定できまい。


 舞がB2シールドとアダマントシールドを交換すると、藍大達は上を目指して探索を再開した。


 広場の先も一本道の切通しであり、バトロックアームとダマエッグが同時に出現したり別々に現れたりした。


 しかし、バトロックアームはメロが狙撃し、ダマエッグは舞とリルのコンビネーションであっさりと片付けられた。


「フロアボスは私のもの。フロアボスは私のもの」


 サクラはその約束だけを頼りに我慢していたので、藍大はサクラの頭を撫でて少しでもストレスを緩和することに努めた。


 山頂というには高度が低い気もするが、再び広場に到着するとこの先に道は存在しなかったからここがそうなのだろう。


 山頂に到着した藍大を待ち受けていたのは木目模様のコカトリスだった。


 尻尾だけが蛇の鶏として知られるコカトリスは、国内外のダンジョンで既に発見されているため冒険者にも知られている。


 模様だけがダマエッグの殻とそっくりだなんて藍大が思っていると、サクラが見惚れそうな笑みを浮かべた。


「死んでくれる?」


 その瞬間、深淵がレーザービームのような威力で発射されて木目模様のコカトリスの心臓部を撃ち抜いた。


 確実に一撃で仕留められるように、サクラは<愛力変換ラブイズパワー>も使って威力を底上げしてから<深淵支配アビスイズマイン>で攻撃した。


 狙い通り事が進み、木目模様のコカトリスはHPを全損してドサリと音を立ててその場に倒れた。


『サクラがLv75になりました』


『サクラが進化条件を満たしました』


『リルがLv74になりました』


『ゲンがLv71になりました』


『ゴルゴンがLv67になりました』


『メロがLv61になりました』


 藍大がモンスター図鑑を開いた時にはシステムメッセージが戦闘の終わりを告げていた。


「主、倒したよ。褒めて褒めて♪」


「今までよく我慢したな。流石は俺の一番従魔だ」


「うん! 主だ~い好き!」


 実にあっけない終わりだったが、ここに来るまでサクラがずっと我慢していたのを知っている藍大はサクラが望む言葉をかけた。


 サクラは嬉しさのあまり藍大に抱き着き、リル達が解体を終えるまでずっとそのままでいた。


 サクラが藍大を独占して満足すると、藍大は今になってサクラに瞬殺されたフロアボスについて調べた。


 フロアボスの名前はダマトリスであり、羽毛と尻尾の蛇の鱗がダマスカス鋼でコーティングされたコカトリスの変異種だったことがわかった。


 他所で出現すればダンジョンの悪夢と言われたかもしれないが、サクラからすれば瞬殺できる雑魚モブでしかなかった。


 舞から解体の際に取り出された魔石を受け取ると、藍大はサクラに訊ねた。


「サクラ、進化させても良いか?」


「勿論だよ!」


「よろしい。いざ進化だ」


 サクラが力強く頷くと、藍大は図鑑の進化可能の文字に触れた。


 その瞬間、サクラの体が光に包まれた。


 光の中でサクラのシルエットがより一層グラマラスなものへと変わり、ボンテージから別物へと変わった。


 光が収まると、胸元にシールドアミュレットを輝かせて防具は黒がベースで黒薔薇のデザインが施されたドレスアーマー姿のサクラの姿があった。


 ピンク色の髪型はポニーテールになっており、うなじがとても煽情的だった。


『サクラがサキュバスからアスモデウスに進化しました』


『サクラのアビリティ:<導気カリスマ>とアビリティ:<愛力変換ラブイズパワー>がアビリティ:<色欲ラスト>に統合されました』


『サクラが称号”色欲の女王”を会得しました』


『おめでとうございます。従魔が初めて大罪を冠する称号を会得しました』


『初回特典として逢魔藍大の従魔士の職業技能ジョブスキルが三次覚醒します』


『サクラがアビリティ:<不可視手インビジブルハンド>を会得しました』


『サクラのデータが更新されました』


 システムメッセージが止むと、藍大は続けてダマトリスの魔石をサクラに与えた。


「サクラ、あ~ん」


「あ~ん。んん~♪」


 サクラの口から進化前よりもさらに色っぽい声が聞こえ、サクラの存在感が増した。


『サクラのアビリティ:<上級回復ハイヒール>がアビリティ:<超級回復エクストラヒール>に上書きされました』


「主、ありがとね」


「んん!?」


 サクラに抱き着かれて情熱的なキスをされてしまい、藍大は困惑した。


 進化前よりもテクニックが上がっており、ここが自室のベッドだったら即座にこのまま行為に及ぶ程度に藍大の頭の中がピンクに染まりかけた。


「ちょっと待った!」


 舞がこのままでは不味いと判断して割り込み、サクラのキスを強制終了させたら藍大が立っていられなくなって膝から崩れ落ちた。


「サクラ、恐ろしい子・・・」


 追い詰められてなおボケられる藍大の精神力には感服せざるを得ない。


 それはさておき、舞が藍大の前に立ってサクラを真剣な表情で注意した。


「サクラちゃん、外でそんなことしちゃ駄目でしょ?」


「心の中のリトルサクラがやれって言ったの」


「私もそういう時があるけど、その気持ちは我慢して夜にぶつけるの。サクラちゃんならできるよね?」


「・・・わかった。夜にいっぱいする」


「よろしい」


 (よろしくない。色々とツッコミどころがあるけど頭に酸素が回ってなくてツッコミきれねえ)


 藍大の息はまだ整っておらず、十全にツッコめる程回復していなかった。


 サクラがサッカー選手のネタを使っていたこと、舞にも日中ムラムラする時があること、今日の夜はパーティーがあること等ツッコむ必要があったがそんな余力が藍大には残ってなかった。


 ちなみに、リルは今の一部始終をご主人がモテモテだなと思ってぼんやりと見ていたし、メロは両手で目を隠しているように見せかけて隙間を作ってがっつり見ていた。


 藍大の息が整って立ち上がると、頬をピシャリと叩いて煩悩を外に追いやった。


「よし、サクラも無事に進化したことだし帰ろう」


「帰ろ! お腹空いちゃったよ!」


「うん!」


『ご主人、僕もお腹空いた!』


「帰るです!」


 色々と確認事項はあったが、今サクラについて考えると先程のキスを思い出して前屈みになりそうだから時間をおいて確認することにした。


 余談だが、藍大達がダンジョンから脱出した際、進化したサクラを見た健太が女神かと思ったと口にしてスルーされたのは仕方のないことである。

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