第143話 24時間働けるとか警備員にピッタリだ

 パーティー当日の土曜日の朝、藍大達は今日も今日とてダンジョン地下3階にいた。


 今日の地下3階を踏破すれば、1週間全ての地下3階を踏破したことになるから今日もダンジョンに来たのだ。


 土曜日の地下3階は曇天の岩山だった。


「地下3階なのに上を目指す必要があるって不思議だよな」


「そんなこと言ったら月曜日の地下3階もそうだよ?」


「それもそうか」


 舞の指摘に納得し、藍大達は切通しの坂と呼ぶべき一本道を進み始めた。


「主、壁からバトロックアームが生えてるよ」


『両側から生えてるね』


 サクラとリルが言う通り、バトロックアームが両側の壁から生えていた。


「邪魔です。マスター、やっつけるです?」


「そうだな。行く手を阻む者は全て倒そう」


「はい! 私がやりたいです!」


「わかった。メロに任せる」


 メロがやる気満々なので、藍大はメロに任せてみることにした。


 メロは真剣な表情になってバトロックアームとの距離を測り、攻撃の準備を整えた。


「狙い撃つです」


 そう口にした瞬間、メロが<種狙撃シードスナイプ>で右側の壁のバトロックアームを次々に狙撃して沈黙させた。


 右側が片付くと、左側の壁に生えたバトロックアームも休みなく狙撃してみせた。


 生産がメインとはいえ、Lv60のメロのINTにはバトロックアームも敵わずあっさりと倒されてしまった。


「全弾命中です!」


 (メロ、恐ろしい子・・・)


 そんなことを心の中では思っていたが、藍大は無邪気に喜ぶメロを見て優しくその頭を撫でた。


「よしよし。メロは凄腕のスナイパーだな」


「です♪」


 障害バトロックアームを排除した藍大達が道を進んでいくと、上の方からバランスボール大の模様が入った鋼の卵が3つほど転がって来た。


『僕が止める!』


 リルが<念力サイコキネシス>を使って転がる卵全てを止めると、藍大は卵がモンスターだろうと判断してモンスター図鑑で調べた。


 (ダマエッグ。殻がダマスカス鋼とかマジ?)


 転がって来る卵がダマエッグというモンスターだと判明したことはさておき、卵の殻がダマスカス鋼であることに衝撃を受けた。


「舞、あの卵をB2メイスで全力で殴ってみてくれ」


「良いよ~」


 トールゲイザーとB2メイスを交換すると、舞はリルが動きを止めたダマエッグの1つの正面に立つ。


 盾を地面に置いてB2メイスに光を付与し、舞は深呼吸してから両手で握ったメイスを振り下ろした。


「割れろぉぉぉっ!」


 メイスが卵の殻に触れた瞬間、金属同士がぶつかったにしては重厚な音が周囲に鳴り響いた。


 そして、時間差で卵の殻全体に罅が入ったと思ったらパリンと音を立てて割れた。


 卵の中には灰色のヒヨコが入っていたが、舞が全力で殴った衝撃で既に息絶えていた。


「藍大、大きいヒヨコだよ! 食べられるかな!?」


 舞の興味は食べられるかどうかが優先らしい。


「食べられるぞ。エッグランナーと一緒で珍味らしい」


「本当!? いっぱい倒す! 壊れろオラァ!」


 ダマエッグの中身が食べられると藍大からお墨付きをもらうと、舞は戦闘モードに切り替えて残り2つの卵も割った。


「舞が怖いです」


『メロ、弱肉強食なんだよ』


 豹変する舞に怯えたメロに対し、リルは優しくこの世の真理を説明した。


 (ついこの間までビビってたのにリルも慣れたのか)


 少し前までは舞の戦闘モードを見て尻尾が股下に巻かれていたにもかかわらず、今のリルは舞の日常モードと戦闘モードの両方を受け入れていた。


 いや、リルもダマエッグの中身が食べられると知ってそちらに気を取られているから平気なだけかもしれない。


 ダマエッグの中身ヒヨコは食べられるが、殻は防具の素材に使えそうである。


 スプリガンのズタ袋やゴルゴンの抜け殻等と一緒に防具にすれば、B2シリーズよりも良い防具になりそうだった。


 DMUの職人班の腕に期待することにして、藍大達は舞と合流してからダマエッグを解体して収納リュックにしまい込んだ。


 土曜日だというのに食べられるモンスターが見つかったからか、舞とリルのやる気が上がっている。


 バトロックアームはメロがやっつけてしまい、ダマエッグは食いしん坊ズがやっつけるからサクラが手持ち無沙汰になった。


「主、”掃除屋”は私だけでやりたい」


「サクラだけじゃ危ない。せめてソロで戦うならフロアボスにしないか?」


「は~い」


 藍大が自分を心配して言ってくれているのがわかったので、サクラはフロアボスをソロ討伐するという約束をした。


 (今のサクラならワンチャン倒せると思ったけど、無茶してほしくないからなぁ)


 自分が戦えないことは置いておくとして、サクラに無茶なことはしないでほしいと思うのは当然である。


 藍大の気持ちを嬉しく思っているからこそ、サクラも藍大の言う通りにしたのだ。


 藍大は言うことを聞いてくれたサクラの頭を撫で、道を切り拓く舞達の後に続いて先へと進んだ。


 しばらく続いた切通しが終わると、藍大達は広場のような場所に辿り着いた。


 ここに到着するまでに倒した雑魚モブの数は数えていなかったが、”掃除屋”が出現してもおかしくない数だったことは間違いない。


 現に藍大達の前には、ダマエッグでもバトロックアームでもない新手のモンスターが姿を現した。


「ザ○タンクじゃねえか! キタコレ! 絶対テイムする!」


 黒光りしていて人間サイズだが、ピンクのモノアイとキャタピラー部分がザ○タンクを彷彿とさせて藍大のテンションが上がった。


『主さん・・・俺・・・いる・・・』


「こいつはシャングリラの警備員にする!」


『それなら・・・良い・・・』


「賛成です!」


 壁役ならば自分がいるとゲンは主張したが、藍大は壁役としてテイムせずにシャングリラの門番と家庭菜園の見張りのためにテイムすると言うと納得した。


 メロも家庭菜園の見張りをずっとできる訳ではないので、見張りを用意してくれるなら大賛成だと喜んだ。


 とりあえず、見た目は琴線に触れたが実力が伴っていなければ仕方がないから藍大はモンスター図鑑でザ○タンクもどきのステータスを調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:アダマントタンク

性別:なし Lv:45

-----------------------------------------

HP:800/800

MP:500/500

STR:900

VIT:1,000

DEX:700

AGI:400

INT:0

LUK:500

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<武器精通ウエポンマスタリー><両腕槌スレッジハンマー><硬化突撃ハードブリッツ

      <不眠不休スリープレス><物理攻撃耐性レジストフィジカル><弱化耐性レジストデバフ

装備:ライフル

備考:なし

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 (24時間働けるとか警備員にピッタリだ)


 <不眠不休スリープレス>の表示を目にした藍大はますますテイムしなくてはと思った。


 <物理攻撃耐性レジストフィジカル>があるから物理攻撃に強く、<弱化耐性レジストデバフ>もあるのでデバフ系統のアビリティも効きにくいので耐久力は文句なしだ。


 <武器精通ウエポンマスタリー>を会得しているので、与えた武器を使いこなせるというのもポイントが高い。


 スプリガン戦で手に入れた武器は一部キープしておいたが、ここで役に立つとは思わなかったため藍大は昨日の自分を褒めてやりたくなった。


「リルとメロでアダマントタンクの動きを止めろ!」


『うん!』


「はいです!」


 リルは<念力サイコキネシス>でアダマントタンクの全身を動けなくさせ、メロが<多重蔓マルチプルヴァイン>で念入りに拘束した。


「サクラ、俺を抱えて飛んでくれ!」


「は~い」


 アダマントタンクは人間大だから、頭部にモンスター図鑑を被せるにはサクラの力を借りるのが効率的である。


 サクラも藍大をハグできる大義名分を得られるから喜んで指示に従う。


 サクラに抱得られて飛んでいる藍大は、アダマントタンクに近づいてモンスター図鑑を上から被せた。


 アダマントタンクはモンスター図鑑に吸い込まれていき、その直後に藍大の耳にシステムメッセージが聞こえて来た。


『アダマントタンクのテイムに成功しました』


『アダマントタンクに名前をつけて下さい』


 名付けの時間になると、藍大はノータイムで名前を口にした。


「名前はイザークに決定!」


『アダマントタンクの名前をイザークとして登録します』


『イザークは名付けられたことで強化されました』


『イザークのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はイザークのページで確認して下さい』


 こうして、イザークはシャングリラの警備員としてテイムされた。

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