第142話 私、万能な奥さんなの♪

 藍大達はスプリガンの解体作業に移ったが、運が良いことに呪い除けのズタ袋は布切れになっても状態異常を半減させる効果が残っていた。


 流石に完全な袋の状態よりは効果が落ちていたが、それでもあるのとないのでは大きな差だ。


 ダンジョンから脱出次第、藍大達の新しい防具の素材として使われることが決まった。


 そんなことよりもスプリガンのズタ袋の中身の方が大事だ。


 藍大達は戦闘中にズタ袋の中身を気にしている余裕はなかった。


 しかし、倒してしまえばこの中身はなんだろうかと気になるのが当然だろう。


 ズタ袋をひっぺがえすと、その中にはブサイクな肉達磨と呼ぶべき怪物が入っていた。


 食べれる物でもなければ素材にもならないので、満場一致で茂の研究用に売り渡すことになった。


 このままではスプリガンとの戦いでの戦利品がズタ袋のみのように思えるかもしれないが、幸いにもスプリガンは戦闘中に欲望の虜を<等価交換エクスチェンジ>で大量の武器に交換してくれた。


 どれも無銘の武器ではあるが、これらを売れば苦労した甲斐は会ったと言えよう。


 さて、スプリガンの魔石はゴルゴンに与える番だったので、ゴルゴンは<装飾化アクセアウト>を解除した。


「ゴルゴン、魔石をおあがり」


「「「「「「シュロッ!」」」」」」


 魔石を飲み込んだ直後、脱皮して抜け殻の中からゴルゴンが出て来た。


『ゴルゴンのアビリティ:<解毒アンチドート>がアビリティ:<治癒キュア>に上書きされました』


 (状態異常全般を治せるようになったか。これは重畳)


 解毒ができるだけでもありがたいが、状態異常全般を治せるようになったことはもっとありがたい。


 藍大はゴルゴンに感謝した。


「状態異常に悩まされた時は頼むぞ、衛生兵」


「「「「「「シュロ♪」」」」」」


 ゴルゴンは任せてほしいと得意気に応じてから<装飾化アクセアウト>でヘアピンの姿に戻った。


 ゴルゴンのパワーアップが終わると、リルが先程まで金貨の山があった地面を掘り出した。


「リル、何かあるのか?」


『あるみたい。僕の鼻に訴えて来るものがあるの』


 そう言ってリルが掘り起こしたのは蛍光色の緑色の液体の入った丸型フラスコだった。


「薬かな? 主、調べてみて」


「わかった」


 藍大はサクラがそれを拾ったのを見てモンスター図鑑でその正体を調べてみた。


「ポーションじゃないか!」


「ポーション!? HPを回復するっていう噂の!?」


 モンスター図鑑には確かに5級ポーションと表示されていたので、藍大は思わず声に出してしまった。


 舞も掲示板で実在していることが確認できていないアイテムとして知っていたらしく、初めて見たポーションに興味津々だった。


 藍大がポーションについて詳しく調べてみると、以下のことが明らかになった。



 ・ポーションには1級~5級の等級があり、数字が小さい程上等なものである

 ・等級が高いとHPの回復だけに留まらず、部位欠損や先天性の症状も治る

 ・各等級のポーションの回復量は各<回復ヒール>系のスキルと同等

  ※5級ポーションは<微回復マイナーヒール>相当の回復量

   4級ポーションは<回復ヒール>相当の回復量

   3級ポーションは<中級回復ミドルヒール>相当の回復量

   2級ポーションは<上級回復ハイヒール>相当の回復量

   1級ポーションは<超級回復エクストラヒール>相当の回復量



 つまり、サクラが<上級回復ハイヒール>を会得している今、サクラのMPさえ尽きなければ藍大達は2級ポーション並みの回復が期待できる訳だ。


 ちなみに、2級ポーションならば部位欠損もリハビリが必要になるが治せるだけの効果があるため、サクラにも同じことができることが発覚した。


 幸か不幸か藍大達は<上級回復ハイヒール>のお世話になっていなかったので、今更<上級回復ハイヒール>のすごさについて気づいたのである。


「サクラはマジで頼りになるぜ」


「私、万能な奥さんなの♪」


「そうだな。これからも困ったら助けてくれよな」


「任せて!」


「むぅ。私だって藍大のこと守ってるのに」


 サクラだけを褒めれば舞がムッとするのは当然だ。


 それゆえ、藍大は舞へのフォローも忘れない。


「勿論だ。舞もいつも守ってくれてありがとな」


「うん!」


 舞の機嫌がすぐに直った。


 舞がチョロいのか藍大の気遣いがこまめなのか判断に困るところである。


 とりあえず、5級ポーションについては発見の報告を茂にしてから奈美に複製できないか相談することで話がまとまった。


 探索を再開すると、欲望の虜がある地点からパールピアスとルーインドが現れるようになった。


 スプリガンと戦った後ならば、両者とも雑魚にしか思えないので舞達はいとも容易く蹴散らしてしまった。


 そして、藍大達は欲望の虜が一際高く積まれた山のいくつもある場所に到着した。


 そこには地下2階で遭遇したプラチナアイよりも豪華なキャプテン装備に身を包んだ黒いスケルトンが待ち構えていた。


 確かにキャプテン装備は豪華だったが、そんなことよりも藍大には気になることがあった。


「フック船長だ! 左手がフックだぞこれ!」


 藍大が言った通り、そのスケルトンの左手は骨ではなくキラキラと輝くフックが装備されていた。


 これには藍大のテンションが上がるのも仕方のないことである。


「藍大、落ち着いて。まずは戦力の把握をしなきゃ」


「・・・すまん。つい興奮しちゃった」


 舞に注意される藍大というのは珍しい。


 自分が悪かったと藍大は素直に謝り、すぐにモンスター図鑑でスケルトンフック船長(仮)について調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:キャプテンカルマ

性別:雄 Lv:40

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HP:650/650

MP:400/400

STR:700

VIT:500

DEX:680

AGI:720

INT:0

LUK:350

-----------------------------------------

称号:地下3階フロアボス

アビリティ:<啄木鳥ウッドペッカー><背後刺突バックスタブ><回転剣舞ソードダンス

      <剣投擲ソードスロー><欲力変換デザイアーイズパワー

装備:成金キャプテンセット

   プラチナフック

   プラチナレイピア

備考:不愉快

-----------------------------------------



 (プラチナアイの上位互換だな)


 藍大がキャプテンカルマの戦力評価を終えると、舞が藍大に話しかけた。


「藍大、このボスは私だけで戦わせて」


「なんで?」


「人型のフロアボスと自分がどれだけ戦えるか確かめたいの。サクラちゃん達が強くなってるけど、私だってちゃんと成長してるってところを見ててほしいな」


 舞が真剣な目で言うものだから、藍大は駄目だとは言えなかった。


「わかった。ただし、危なくなったらすぐにサクラ達に介入させるからな」


「うん。ありがとう」


 人よりもモンスターの成長が早いのは、生物としての構造上仕方のないことだ。


 だが、舞だって藍大に良い装備を与えてもらい、三食満足に食べられるようになって今まで以上に力を発揮できている。


 それを藍大にアピールする良い機会だから、舞は少しだけ我儘を言ったのだ。


 舞は深呼吸して戦闘態勢に入ると、気合を入れるために叫んだ。


「骨なら豚になって出直して来な!」


 (豚骨なら出汁がとれるってことですね、わかります)


 戦闘モードになっても食欲が旺盛なのは舞らしい。


 舞が駆け出すと、キャプテンカルマは距離を詰めながら<啄木鳥ウッドペッカー>を放った。


おせえ!」


 連続して突き出されるレイピアに対し、舞はB2シールドで器用に受け流す。


 舞はキャプテンカルマに隙ができた瞬間を狙い、トールゲイザーを横に振り抜く。


 しかし、キャプテンカルマは<回転剣舞ソードダンス>で回避から攻撃に切り替えてみせる。


「甘いぜオラァ!」


 舞は盾で何度も攻撃を防ぐから、キャプテンカルマはフィニッシュの一撃に<欲力変換デザイアーイズパワー>を発動して盾ごと貫こうとした。


 それに気づいた舞は光を帯びた盾を投げてキャプテンカルマのバランスを崩させる。


 キャプテンカルマが怯んだところにMPを注いで紫電を帯びさせた戦槌ウォーハンマーを振り下ろし、キャプテンカルマが地面に叩きつけられた。


 そうなれば、後は舞による一方的な蹂躙である。


「オラオラオラァ!」


 立ち上がろうとしても舞がそれを許さず、キャプテンカルマは結局立ち上がれずにHPが尽きるまで殴られまくった。


『サクラがLv74になりました』


『リルがLv73になりました』


『ゲンがLv70になりました』


『ゲンがアビリティ:<水牢ウォータージェイル>を会得しました』


『ゴルゴンがLv66になりました』


『メロがLv60になりました』


『メロのアビリティ:<種砲弾シードシェル>がアビリティ:<種狙撃シードスナイプ>に上書きされました』


 システムメッセージが戦闘の終了を告げると、舞が藍大に駆け寄って抱き着いた。


「藍大、勝ったよ! 私、勝った!」


「すごかった。舞が人類最強って言われても納得できる戦いだった」


「エヘヘ♪ 良かった~」


 人類最強という響きが嬉しかったらしく、舞はキャプテンカルマを倒した高揚感と併せてとても嬉しそうに藍大を抱き締めた。


 舞がソロ討伐したので、サクラは舞が藍大に抱き着くところに割り込まなかった。


 悔しいという気持ちはあるが、自分も今度ソロで討伐してたっぷりと藍大に甘えようと決めるぐらいにはサクラは前向きだった。


 その後、戦利品の回収をしてキャプテンカルマの魔石をメロに与えると、メロの身長がほんの少しだけ大きくなった。


『メロのアビリティ:<停止綿ストップコットン>がアビリティ:<停止綿陣ストップフィールド>に上書きされました』


「私、大きくなったです?」


「ちょっとだけ大人になったな」


「わ~いです!」


 数センチしか大きくなっていないが、それを指摘するのは無粋だと思って藍大は黙っていた。


 <停止綿陣ストップフィールド>は<停止綿ストップコットン>を広範囲に自由に展開するアビリティであり、メロのデバフが強化されたのは間違いない。


 ダンジョンでやるべきことを終わらせたので、藍大達は地下3階から脱出した。


 藍大が5級ポーション発見の連絡をすると、茂はパーティーの準備で大忙しだったため嬉しい悲鳴を上げた。


 奈美も5級ポーションを見ると、三段笑いしてすぐに研究に取り掛かったのは言うまでもない。

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