第141話 臓物をブチ撒けろ!

 翌日の金曜日、藍大達は昨日と同じメンバーでダンジョン地下3階にやって来た。


 メロもここ最近では苦手な火曜日を除いて探索に参加する頻度を上げている。


 これは家庭菜園に手がかからなくなってきたからだ。


 午前は探索して午後に世話をするだけでも十分になったので、最近では他の従魔にレベルで置いてけぼりにされないようにしている。


 いざという時にメロだけ戦えませんでしたでは不味いから、藍大もメロの意思を尊重しているのだ。


「目がチカチカするな」


「これって本物~?」


 藍大と舞がこう言っているのは今日の地下3階が金貨や財宝の山がある洞窟の開けたスペースだったからだ。


「私が拾ってみるから主が調べて」


「そうだな。サクラ、頼んだ」


 状態異常を引き起こすようなトラップの可能性を考慮し、状態異常が効かないサクラが足元にある金貨を1枚拾ってみた。


 それを藍大がモンスター図鑑で調べれば、比較的安全に罠の有無を確認できる。


 (これはヤバいわ)


「サクラ、それを捨てるんだ」


「は~い」


 ポイッと捨てた後、サクラは<浄化クリーン>で手を清めた。


 藍大が真剣な表情で言うものだから、きっと碌なものでなはいと判断しての措置である。


「藍大、この金貨はなんだったの?」


「欲望の虜って罠だった。金貨も財宝も拾えば拾うだけ白骨化が進む。白骨化が30%を超える前に全て手放せば時間の経過で元通りになるが、30%を超えたらその時点で白骨化は時間経過じゃ治らないらしい」


「危ないね。絶対拾わないよ」


「そうだな。こんな物拾わなくたってオークションの稼ぎだけで十分だ。それに毎日ダンジョンを探索してるから、その戦果でもちゃんと稼げてるしな」


『僕も拾わない。白骨化したらご飯食べられないもん』


「それは大変だよ!」


「大変です!」


「大変だね」


 リルの言葉に舞、メロ、サクラの順番で反応した。


 リルと舞はともかく、メロとサクラが反応するのは藍大の作る食事を気に入っているからに違いない。


「あっ、パールピアスだ」


「金貨たくさん拾ってるね」


「見て。白骨化し始めたわ」


『骨が見えてるね』


「あわわです・・・」


 強欲なパールピアスが藍大達の代わりに実験台になった瞬間だった。


 5秒とかからずにパールピアスの体半分が白骨化していた。


 右半分が白骨化して左だけはサファギンの肉体が残ったパールピアスの見た目は普通にホラーである。


「気持ち悪い」


 サクラが深淵の刃を作り、スパッとパールピアスの首を刎ねた。


「こりゃアイテム探しも気をつけないとな。リル、頼りにしてるぞ」


『任せて。僕にかかれば安心安全だよ』


「よしよし」


 頼りになるリルの頭を撫でてから、藍大達は本格的に開始した。


 藍大達が先に進むにつれ、モンスターと遭遇するのだがそれぞれ白骨化の症状がバラバラのパールピアスばかりだった。


 (地下3階で出て来るはずの新しい雑魚モブはどこだ?)


 舞達がパールピアス達と戦っている間、藍大はきょろきょろと周囲を見渡して新顔がいないか探した。


 そして、金貨の小山の影に隠れてこちらの様子を窺っている黒いスケルトンを見つけた。


 (ルーインド。破滅した奴ってことか。わかりやすい)


 素早くモンスター図鑑で調べた結果、ルーインドはスケルトンの派生種であることがわかった。


 普通のスケルトンと違うのは、個体によって得意な武器が違うところだろう。


 山のように積んである金貨や財宝は持ち帰れないが、ルーインドが装備している武器は持ち帰れるものだ。


 しかも、シャングリラダンジョンの地下3階で手に入る武器ともなれば、大して有名ではない冒険者用の装備を売る店の物よりも質が良さそうである。


「新しい敵だ! ヒャッハァァァッ!」


 パールピアスを倒した舞がルーインドに気づき、嬉々としてトールゲイザーで殴りに行く。


 藍大が見つけたルーインドは両手剣を得物としているようだが、舞の振り下ろしを受けて力負けして両手剣を落とし、そのまま頭蓋骨を砕かれて倒れた。


「ふぅ~。人の形なのはインキュバス以来だね~」


 舞は相変わらず戦闘モードと普段のギャップがすごい。


「くたばりなさい」


『えいっ!』


「やっつけるです」


 サクラとリル、メロも他の山に隠れていたルーインドを倒していた。


 それからはルーインドも隙を伺っている余裕がないと判断したのか、パールピアス並みにわらわらとやって来て物量で攻めて来た。


「じゃんじゃん来い! オラオラオラァ!」


 舞無双である。


 ルーインドに食べられる部位はないから、加減せずにガンガン撃破している。


「むぅ。舞には負けない」


『僕もやる!』


「やるです!」


 舞に巻けていられないとサクラ達もルーインドを次々に倒し、気が付けば周囲から金貨や財宝を踏む音が聞こえなくなった。


 だが、雑魚モブモンスターを倒せば”掃除屋”が出て来るのはお約束だ。


 巨大なズタ袋に手足が生えたような見た目のそれが、いつの間にか藍大達を見下ろしていた。


 ”掃除屋”の戦力を把握するべく、藍大はすぐにモンスター図鑑を開いてその正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:スプリガン

性別:雌 Lv:45

-----------------------------------------

HP:900/900

MP:600/600

STR:1,000

VIT:1,000

DEX:200

AGI:230

INT:0

LUK:870

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<怪力投擲パワースロー><両腕槌スレッジハンマー><巨大踏潰ジャイアントスタンプ

      <等価交換エクスチェンジ><戦叫ウォークライ><擬態ミミックリー

装備:呪い避けのズタ袋

備考:状態異常激減/激昂

-----------------------------------------



 (脳筋要塞ですね、わかります)


 スプリガンのステータスを見て藍大がそう思ったのは無理もない。


 DEXとAGIが低めだから精密で機敏な動きはできないだろうが、HPとVITが高いからなかなか倒すのに時間がかかる。


 しかも、攻撃はSTRが1,000で藍大達を見下ろせる巨体から繰り出せるのだから厄介と言えよう。


 スプリガンは右手で金貨の山を一掴みすると、そのまま<怪力投擲パワースロー>を繰り出した。


「舞!」


「任せな!」


 舞が光のドームを展開し、間一髪無数の金貨の雨を防ぐことができた。


 最後の1枚がぶつかった時には光のドームが破壊され、STRの高さと物量が組み合わさる恐ろしさを藍大達に思い知らせた。


 (地形の利は敵にあるか)


 状態異常激減効果のある呪い除けのズタ袋のおかげで、金貨や宝の山を攻撃に使えるならばスプリガンにとってこの場はホームのようなものだ。


 <怪力投擲パワースロー>では攻撃が通じないと判断すると、スプリガンが今度は<両腕槌スレッジハンマー>を発動する。


「サクラは腕を振り下ろさせるな! リルとメロはスプリガンを転ばせろ!」


「じっとしてなさい」


『転んじゃえ!』


「です!」


 サクラは空を飛んで<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の鎖を創り出し、スプリガンの両腕を縛って後ろに仰け反らせるようにした。


 それと同時にリルは<念力サイコキネシス>でスプリガンの足元にある金貨をずらす。


 メロもスプリガンの脚を狙って<種砲弾シードシェル>を連射し、バランスを崩したスプリガンは仰向けに転倒した。


「メロはデバフ! 舞はいけるか!?」


「弱らせるです!」


「勿論だ! 攻撃は任せろ!」


 メロが転んだスプリガンに<倦怠雲羊アンニュイシープ>を命中させると、光を付与してMPも注ぎ込んだトールゲイザーを握り締めた舞が大きく跳躍する。


臓物はらわたをブチ撒けろ!」


「ゴペッ!?」


 舞の全力の振り下ろしが命中すると、スプリガンの口から変な音が漏れた。


 舞の渾身の一撃を受け、スプリガンは自らのピンチを悟った。


 スプリガンは咄嗟に<等価交換エクスチェンジ>で周囲の欲望の虜を山単位で捧げ、その代わりに天井からありとあらゆる刃物を降り注がせた。


 舞とサクラが藍大から離れていたが、リルとメロが傍にいるから問題ない。


『僕がご主人を守るよ!』


「私も守るです!」


 リルが<念力サイコキネシス>で降り注ぐ刃物の動きを止めると、メロが<多重蔓マルチプルヴァイン>でそれを藍大に当たらない場所へと叩き落とす。


「よくも主を攻撃したわね。死になさい」


 サクラが冷静にキレており、いくつもの深淵の刃を創り出してスプリガンに向かって一斉に発射した。


 体のあちこちに穴が開き、HPも尽きたスプリガンは動かなくなった。


『サクラがLv73になりました』


『リルがLv72になりました』


『ゲンがLv69になりました』


『ゴルゴンがLv65になりました』


『メロがLv59になりました』


 システムメッセージが耳に届いた時、藍大は戦闘が終わったことに安心して大きく息を吐いた。

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