第140話 私はまな板のすごさを全然わかってなかった!

 ウィードランの解体を済ませると、ウィードランの体から生えた草には食べられる野草や薬草が混在していることがわかった。


 (野草なんて久し振りに手に入れたぜ。どう料理したものか)


 初めて見る訳ではないが、野草を手に取るのは久し振りだったから藍大もどんな料理に使おうか悩んだ。


 そんな藍大にリルが魔石を咥えてやって来たから、藍大はリルにウィードランの魔石を与えた。


 リルの体がぼんやりした光に包み込まれた。


『リルがアビリティ:<念力サイコキネシス>を会得しました』


 (リルが超能力者になっちゃった)


 まさかそんなアビリティを会得するとは思っていなかったので、藍大は目をパチクリさせた。


『ご主人、見てて~』


 <空歩エアラダー>の時と違って自分の体をプカプカと浮かばせると、リルはそのまま藍大の周りをクルリと回って藍大に跳びついた。


「それが<念力サイコキネシス>か。やるじゃん」


『でしょ?』


 リルは藍大の腕に抱かれたまま頬擦りして甘えた。


 リルが満足するまでそのままにしてあげてから、藍大はモンスター図鑑でリルがレベルアップの時に会得した<聖狼爪ホーリーネイル>について調べた。


 その結果、<聖狼爪ホーリーネイル>は<輝銀狼爪シャイニングネイル>の純粋な上位互換だと明らかになった。


 <輝銀狼爪シャイニングネイル>は神聖力を斬撃に上乗せできたが、それはまだまだ序の口だった。


 <輝銀狼爪シャイニングネイル>の神聖力を1とすれば、<聖狼爪ホーリーネイル>の神聖力は10だ。


 以前のアビリティから威力が向上しただけでなく、アンデッド型モンスターに特によく効くようになった。


 ウィードランの解体と回収、リルのパワーアップが完了してからしばらく探索をしていたら、リルが何かに感づいて立ち止まった。


『ご主人、この下に何か埋まってる』


「それは気になる。リル、それを掘り起こしてくれ。新アビリティの練習も兼ねて<念力サイコキネシス>でやってみてくれ」


『わかったよ。えいっ!』


 リルのその掛け声とともに、地中から存在感のある板が現れた。


「かなりまな板だよコレ!」


 藍大は存在感とかそっちのけでそう叫んだ。


「まな板なの?」


「とりあえず浄化するね。主、持ってみるから調べて」


「よろしく!」


 サクラが<浄化クリーン>で汚れを落としてから手に持ったので、藍大的にはまな板間違いなしだがモンスター図鑑でその正体を確かめた。


 (ユグドラシルのまな板! やっぱまな板じゃん!)


 調べた結果は藍大の予想通りだった。


 いや、正確にはとんでもない素材でできた調理器具シリーズパート3である。


 ミスリル包丁とミスリルフライパンに続き、ユグドラシルのまな板で3つ目の調理器具だ。


 料理専用と破壊不能の文字が表示された時には藍大がガッツポーズした。


 ミスリル包丁はどんな食材でも簡単に切れたが、まな板は普通のものだったからまな板の消耗の問題だけ放置していた。


 それが解消されたのだから藍大が喜ばないはずがない。


 ご機嫌な様子でユグドラシルのまな板を収納リュックにしまう藍大を見て、舞とサクラはやはりまな板だったんだと悟った。


「良かったね、藍大」


「主、おめでとう」


「ありがとな。これでミスリル包丁が真価を発揮できる」


「えっ、もっと藍大の料理が美味しくなるの!?」


「その通り。さては舞、全然まな板のすごさをわかってないな?」


「うん!」


 舞に力強く頷かれてしまったが、言葉で語るよりも実際に料理を食べてわかってもらおうと思って藍大はこの場では何も言葉を続けなかった。


 その後、探索を再開して遭遇したクフトマトやソードリーキを倒すと、リルの耳が何かの音を感じ取った。


「リル、どうした?」


『テンション上がった奈美みたいな笑い声が聞こえたの』


「多分ボスだな。どっちから聞こえた?」


『あっちだよ』


 リルが示す方向を見ると、怪人マスクとシルクハットを身に着けた大きなトマトの姿があった。


「クックック」


「あいつか」


「フハハハハ」


「そうみたい」


「ハーッハッハッハ!」


「フロアボスって三段笑いするんだね」


「変態仮面みたいに叫ぶ奴もいるんだ。悪役っぽい笑い方する奴だっているさ」


「「確かに」」


 藍大の言い分に舞とサクラが納得した。


 とりあえず、藍大は三段笑いする怪人のコスプレをしたトマトについてモンスター図鑑で調べ始めた。



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名前:なし 種族:マスクドトマト

性別:雌 Lv:40

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HP:450/450

MP:700/700

STR:0

VIT:220

DEX:550

AGI:980

INT:700

LUK:400

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称号:地下3階フロアボス

アビリティ:<酢弾ヴィネガーバレット><草刃グラスエッジ><草壁グラスウォール

      <草括罠スネア><逃走エスケープ

装備:怪人の仮面

   怪人のシルクハット

備考:高揚

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 (ヒット&アウェイ頼みの紙装甲か)


 マスクドトマトのステータスを見て言えるのはまさにそれである。


 物理攻撃のアビリティがないからSTRが0なのは良いとして、HPとVITが他の地下3階のフロアボスよりも低いのはAGIとINT頼りだからだろう。


 ウィードランが固定砲台であるのに対し、マスクドトマトは移動砲台だ。


 一撃でも藍大達の攻撃を受ければHP全損待ったなしなので、マスクドトマトは早速そのAGIを活かして移動しながらうっすらと黄色い液体をガンガン射出した。


「舞、ドームを張ってくれ」


「任せな!」


 マスクドトマトがMPを無駄に消費してくれるなら都合が良いと思い、藍大は舞に光のドームを展開させた。


 そのおかげで藍大達は無傷であり、マスクドトマトは光のドームの周囲をグルグルと回りながら<酢弾ヴィネガーバレット>を無駄撃ちしただけに終わった。


「ククッ」


 短く笑ったマスクドトマトは一点集中のつもりで<草刃グラスエッジ>を連発した。


「サクラとメロで追い込め。リルが捕まえてとどめだ」


「は~い」


「はいです!」


『了解!』


 舞が光のドームを解除すると、サクラが深淵を操って全ての草の刃を撃ち落としてマスクドトマトにダメージを与えんと追跡する。


 メロもあちこちに<停止綿ストップコットン>を拡散した。


 触ったらヤバいと感じたのか、マスクドトマトはクネクネと走ってそれを避ける。


 時には<草壁グラスウォール>も使って三角跳びで逃げるあたり、マスクドトマトにとって逃げることはパフォーマンスらしい。


 だが、リルからは逃げられない。


 マスクドトマトが逃げた先に<空歩エアラダー>で先回りし、リルがマスクドトマトの頭を押さえた。


『これで終わり!』


 リルは<聖狼爪ホーリーネイル>でマスクドトマトを真っ二つにした。


『サクラがLv72になりました』


『リルがLv71になりました』


『ゲンがLv68になりました』


『ゴルゴンがLv64になりました』


『メロがLv58になりました』


 戦闘が終わると、藍大はパーティーメンバーを労った。


 それから、これ以上汁が飛び散らないように注意して解体と収納作業を進めた。


 魔石を与えられるのはゲンの番だったので、藍大は<鎧化アーマーアウト>を解除したゲンにマスクドトマトの魔石を食べさせた。


『ゲンのアビリティ:<鎧化アーマーアウト>がアビリティ:<中級鎧化ミドルアーマーアウト>に上書きされました』


 甲羅の輝きが増しただけでなく、新たなアビリティを会得したこともあってゲンはドヤ顔になった。


 藍大がゲンの頭を撫でると、ゲンは満足したのか<中級鎧化ミドルアーマーアウト>を使った。


 それにより、藍大は自分が新たに<自動操縦オートパイロット>を使えることを理解した。


 自分の身を守る上で有用なアビリティなので、舞達もよくやったとゲンを褒めた。


 さて、藍大達はやるべきことが全て片付いたからダンジョンを脱出した。


 時刻はあと少しで正午というところであり、舞とリルが空腹を訴えたから藍大は早速ユグドラシルのまな板を使うことにした。


 ミスリル包丁とユグドラシルのまな板、ミスリルフライパンを使って作ったのはヒッポグリフのメンチカツ丼とサラダだ。


 いただきますと口を揃えて食べ始めると、食いしん坊ズが一口食べただけで叫んだ。


「私はまな板のすごさを全然わかってなかった!」


『まな板すごい!』


 まな板が変わるだけでこんなに違うのかと舞とリルは感動していた。


 実際のところ、使う道具の質が上がったことに加えて藍大の腕も上がっているせいで余計に美味しく感じられたのだ。


 どちらにせよ、美味しければそれで良いことに変わりない。

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