第139話 この世に雑草なんて草はない

 翌日の木曜日、藍大達は昨日と同じメンバーでダンジョンの地下3階にやって来た。


「畑だな。パッと見た感じじゃ地下2階と変わってない」


「そうだね。畑だね」


 地下2階との違いがわからない景観だったため、藍大と舞は今日の舞台が畑なのだろうと認識した。


 そこにサクラが声をかける。


「主、あっちにソードリーキが一列で突き刺さってるよ」


『ご主人、やっちゃって良い? 近づくと臭いがキツいの』


「やっちゃえ」


『うん! それっ!』


 一列に並んだソードリーキを自分の射程圏に入れると、リルは<輝銀狼爪シャイニングネイル>でソードリーキを一掃した。


 その場にいたソードリーキがあっけなく全滅すると、メロが回収を請け負った。


「回収するです」


 <多重蔓マルチプルヴァイン>を巧みに使い、メロはソードリーキをテキパキと回収した。


 藍大が収納リュックにそれらをしまい込んだ直後、藍大達の耳に笑い声が届いた。


「クハハハハ」


「クヒヒ」


「クフフフフ」


「グヘヘ」


「最後の奴だけゲスっぽい笑い声じゃなかったか?」


「うん。そんな感じした」


 藍大達がきょろきょろと周囲を見渡すと、リルが笑い声の主をいち早く見つけた。


『ご主人、あそこ! 大きいトマトだよ!』


「あいつらか」


 リルが見ている方向に目を向ければ、ニヤケ面が側面に張り付いたサッカーボール大のトマトの集団がいた。


 藍大はすぐにモンスター図鑑でトマトっぽいモンスターについて調べた。


 (クフトマトってそのまんまかよ)


 種族名が笑い声が冠についたトマトだったので、藍大は心の中でやんわりとツッコミを入れた。


「藍大、私の新しい武器で殴ったら破裂しちゃうよね」


「間違いないな」


「さっきのソードリーキで試しとけば良かったよ・・・」


 舞は昨日の夕方届けられた雷属性の戦槌ウォーハンマーを早く使いたかった。


 ヘッドからグリップまで金色で、神話的なデザインの戦槌ウォーハンマーはDMU職人班の渾身の作である。


 その名もトールゲイザー。


 ミョルニルは作れなくても、いつかミョルニルに並ぶ武器を作りたいという職人班の願いが込められた名前だ。


 使用者がMPを込めて殴れば、紫電を纏わせた雷属性の攻撃もできる。


 紫電の出力は素材となったMPブレード同様に使用者が込めたMPの量によって変わる。


 舞は状況に応じてトールゲイザーとB2メイスを使い分け、使わない方を藍大が収納リュックに入れて持ち運ぶスタイルを選択した。


「トールゲイザーは”掃除屋”が出て来るまで使わずにいた方が良さそうだ。ここはメロに任せよう」


「わかったです」


 今いる従魔の中で最もレベルが低いのはメロだ。


 メロの攻撃ならば、クフトマトを食べられる状態で倒せると判断して藍大はこの場を任せた。


 メロは<倦怠雲羊アンニュイシープ>でクフトマト達を弱らせた後、<種砲弾シードシェル>でとどめを刺していった。


 戦ってみてわかったことだが、クフトマトの皮は意外と硬かった。


 無論、舞が殴ったら破けるのは間違いないがメロの攻撃でグチャグチャになることはなかった。


 クフトマトを回収して探索を再開すると、ソードリーキとクフトマトに何度も遭遇して藍大達は一方的に倒していった。


 ソードリーキが現れたら、舞がトールゲイザーで片っ端から殴った。


 トールゲイザーの使い心地が確かめられて舞も喜んでいたのだが、戦槌ウォーハンマーを嬉々として振るう舞の姿にメロがひたすら怯えていたと補足しておこう。


 襲って来るモンスターもこちらに気づいていないモンスターも等しく倒しまくった結果、舞が待ちかねていた”掃除屋”が現れた。


「何これ~? 雑草かな?」


「この世に雑草なんて草はない」


「ごめん、そうだよね。食べられるかもしれない草に雑草って言ったら失礼だよね」


「違う、そうじゃない」


 藍大の言いたいことと舞の考えていることにズレが生じていたが、それは一旦置いておこう。


 藍大達の前に現れたのは巨大な蜥蜴だった。


 ただし、体が何種類もの草で覆われているのが特徴的である。


 ”掃除屋”との距離がある内に藍大はモンスター図鑑でその正体を確かめた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ウィードラン

性別:雄 Lv:45

-----------------------------------------

HP:800/800

MP:900/900

STR:0

VIT:900

DEX:500

AGI:350

INT:1,000

LUK:350

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<種乱射シードガトリング><草刃グラスエッジ><螺旋蔓スパイラルヴァイン

      <草壁グラスウォール><草括罠スネア><擬態ミミックリー

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (固定砲台じゃんか)


 藍大がそんなことを考えて言えると、射程圏に入ったらしくウィードランが<種乱射シードガトリング>で攻撃し始めた。


「やっと私のターン!」


 そう叫んだ舞はトールゲイザーで次々に飛んで来る種を打ち返していった。


 AGIがレベルの割に低いので、ウィードランは避けるのではなく<草壁グラスウォール>で防いだ。


「やっと俺のターン!」


 藍大は舞のセリフを真似して<爆轟眼デトネアイ>を発動した。


 ゴルゴンを身に着けている今、藍大が唯一使える攻撃手段を使う時が来たのだ。


 派手な爆発音と共に草が密集してできた壁は跡形もなく消え去り、怯えるウィードランの姿がそこにあった。


「これが強者の気分か」


 ドヤっている藍大に対し、ウィードランは近づかれたくないと言う気持ちから今度は<草刃グラスエッジ>で集中的に攻撃した。


「私の主に何してくれてんの?」


 サクラが<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の刃を創り出し、ウィードランの攻撃を全て撃ち落とす。


『ご主人、僕も行って来るね』


「頼んだ」


 リルが<空歩エアラダー>を使って空から接近すると、<草括罠スネア>で接近されないようにしていたらしくウィードランが唖然としていた。


 その隙にリルが次の攻撃を仕掛ける。


『ドーン!』


 リルが<碧雷嵐サンダーストーム>を使うとウィードランは打つ手がなくなってパニックになった。


 <種乱射シードガトリング>や<草刃グラスエッジ>で必死にリルの攻撃を打ち消そうとするが、INTの実力差でちょっぴり威力を減衰させる程度にしかならない。


 ウィードランの体は雷を帯びた嵐に吸い込まれて空に舞い上がり、そのまま重力に従って地面へと落下する。


「とどめは私が貰うぜ!」


 舞がトールゲイザーにMPを込めて走り出す。


 すると、ウィードランもやられてなるものかと<螺旋蔓スパイラルヴァイン>で落下地点に移動する舞を吹き飛ばそうとした。


「メロ、フォローを頼む」


「はいです」


 藍大の指示に従い、メロが<多重蔓マルチプルヴァイン>でウィードランの<螺旋蔓スパイラルヴァイン>を相殺して舞はそのまま落下地点に到着した。


「ぶっ飛べオラァ!」


 舞が渾身の一撃をお見舞いし、ウィードランの体が感電しながら吹き飛んだ。


 地面に落ちた時にはウィードランのHPは0になっており、ピクリとも動かなかった。


『サクラがLv71になりました』


『リルがLv70になりました』


『リルのアビリティ:<輝銀狼爪シャイニングネイル>がアビリティ:<聖狼爪ホーリーネイル>に上書きされました』


『ゲンがLv67になりました』


『ゴルゴンがLv63になりました』


『メロがLv57になりました』


 ウィードランを倒したことを告げるシステムメッセージが藍大の耳に届いた。


 被弾こそなかったものの、VITが高かったせいでウィードランを倒すのに時間がかかった。


 それに加えて自分も戦闘に混ざれたことで藍大はご機嫌だった。


「みんなグッジョブ!」


「藍大!? 激しいよ!?」


「私にもして!」


『僕も!』


「私もやってです!」


『よろしく・・・』


『アタシもやってほしいんだからねっ』


 テンションが高い藍大が自分から舞に抱きしめたので、サクラ達従魔も自分達だって頑張ったんだから贔屓は良くないとその後ろに並んだ。


 藍大は順番にぎゅっと抱き締め、サクラ達も幸せな気分になった。


 普段は舞やサクラ達から藍大にアプローチするものだから、藍大から抱き締めてくれる貴重な機会を逃さずに済んで嬉しくなったのである。


 勿論、今は装備しているゲンとゴルゴンもこの場でアビリティを一時的に解除して抱き締めてもらった。


 ゴルゴンは意外と甘えん坊であるからわかるが、ゲンもこういうチャンスを逃さずに甘えるのは藍大のことを好きだからに他ならない。


 パーティーの仲が良いことは素晴らしいことである。


 改めてそれに気づかされる瞬間だった。

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